僕にはこの7年程通い続けている散髪屋がある。
会社の近くだ。
以前僕はあまり散髪が好きでなかったし、行く店も特に決めていなかった。大衆理容もよく利用した。
どうしてその店に通うようになったかというと、7年前、少し大きな腕の怪我をして、
これから入院というその日にその店で散髪してもらってからだ。
事情を言うと、その店の兄ちゃんは「じゃあなるべく短く見えて、でも手入れしやすいように
よく見るとそこそこ長いカットにしましょう」と言ってくれた。
出来上がりを見ると一見スポーツ刈り、でもうまく長さも保っている。
これなら長期入院であまり髪を洗えなくても気にならないし、寝癖もつきにくい。
髪形うんぬんより、その心遣いが嬉しかった。
それでもしばらくは2・3ヵ月に一度くらいだったけど、彼の人柄とセットの仕方を教えてくれたりするのが新鮮で、
いつしか毎月通うようになった。
いつか、組合の研修会があって休みの日に無給で参加するという話を聞いて、
大変やね、でも床屋さんも勉強してるんだ、と感心したことがある。
散髪技術のコンテストもあるんでしょ、って言うと、
「ええ。でもそれで勝ったからどないやねん、という部分もある」と言う。
つまり伝統的な技術と今の時代のニーズは必ずしも一致していないらしい。
4月半ばに行った時、その彼が「僕、今月限りなんですよ」と言う。
聞けば、(ふたり目の)子どもができて、その子が双子だったので、育児のことを考え、奥さんの実家(和歌山・白浜)近くに引っ越すという。
残念やねえという話をした後、彼が欲しがったカミソリがあったので、それをプレゼントする約束をした。
しかし、よく考えてみると彼の名前をしらないし、向こうも僕の名前を知らない。
理容店というのは美容店と違って顧客管理をしないからなあ。
試しにネットで店の名前と理容業で検索してみたら、何件かヒットして、その中にTさんと
いう名前が出てきた。
きっとこれが彼の名前だ!と思って、更に読んでいくと、
以前の関西理容組合のコンテストの優勝者に同じ名前があった。
そして、先週末、約束の品を届けに行った際に聞いた。
「ところでお兄さん、なんて名前?」
彼は、僕がネットで見つけたその名前を語った。
やっぱり!凄いね!
あのコンテストの話をした時、彼は既に受賞経験があったはず。
でも、自分からはひと言もそのことは言わず、「勝ったからどないやねん」。
なかなか言えないね。
謙虚でクールなナイスガイ。








