【まずはじめに】
この導入部は私のスタンスを明確にするために必要なものですが
決して読んでいて単純におもしろいと感じるものではないと思います。
ですので、初めてここにいらっしゃった方については
まずはこの導入部はばっさりと飛ばしていただいて次章の牧田さんのデータからご覧いただき
その後、私のものの見方に興味をお持ちになったら
こちらに帰ってきていただければと思います。
さて、私はどのバッターをラインアップのどこで起用するかとか
どのピッチャーをどの局面で起用するかといったことについては
基本的に首脳陣の判断を尊重しておりますし、
これからもその立場を貫きたいと思っております。
まず第一に、
現場の細かい“戦術”面での運用については
私たち外部の人間にとっては何といっても情報が少ないということ。
各選手のその日の体調面、(マイナーな)ケガの具合、
そしてそれぞれの選手が今何を課題として取り組みその到達度はどの程度か。
そういった情報が圧倒的に不足している中
外部の人間がそういった細かな戦術面での首脳陣の判断を
成功すれば神の業かのように天高く持ち上げ、逆に失敗すればこれでもかと地の底まで執拗に徹底的にこきおろすのは
まさに " Who do you think you are ? " 、
非常に意味のない、バカバカしいことだということ。
第二に、チームの勝利にとって重要なのは戦術ではなく戦略だということ。
細かな戦術面での首脳陣の起用などの奥に
はたしてどんな長期的視点に立った戦略プランがあって
それを様々な局面に直面した時に変わらずに、どっしりと落ち着いて頑固なまでに貫けているか、
そしてその意図がじゅうぶんに選手たちにまで浸透しているかということこそ
チームという組織の成功、勝利にとっては重要なことであって
つまりは戦略なき戦術は“場当たり的”であってそれがたまたま数回うまくはまったとしても
それを継続していけば必ず失敗が多くなり、うまく結果を残せないのに対し
戦略に基づいた戦術はそれがたまたま数回失敗という結果になったとしても
それを継続していく中で必ず成功が多くなり、うまく結果を残していくものだということ。
※このあたり、詳しくは以前のエントリー 短期決戦と勝負強さ② にて詳しく述べておりますので
興味ある方はぜひ併せてご覧ください。
愛するチームの成功を願いつつ常にそのチームを貫く、長期的視点に立った戦略に着目し
選手たちがその大きな戦略をどの程度自分の言語に置き換え深く肌レベルで理解し、
そして勝負の一瞬一瞬でどんなアプローチを自分なりに開拓しどれだけ実践できているかを
あくまでもデータとして残った客観的結果をもとにつぶさに観察し、分析しつづけるという姿勢を
今後も変わらずに貫いていきたいと思っております。
【牧田投手のデータから見るその特長と課題】
さて、それでは牧田さんが今シーズンここまで残してきた成績を見てみましょう。
投球回79イニングはチーム2位のワクさん(68 1/3 回)、
そして3位の帆足さん(54 2/3 回)を大きく引き離す1位の成績ですね。
続いて、各指標においてチーム内で投手別に比較をしてみましょう。
※今シーズンここまで、ある程度成績の良い投手をピックアップしております。
牧田さんより上は先発投手、下は救援投手。
なお、ミンチェさんについては救援登板での成績のみを取り出しております。
※なお、各指標の算出方法及びその意味するところについては
前回のエントリー データで見るライオンズ・リリーフ陣 の文末に記しておりますのでご確認ください。
改めてこう見ると、やはり際立つのは牧田さんの成績の素晴らしさ。
先発陣の中でもエースと目されるワクさん、そして帆足さんと比較しても
被打率の優秀さは一目瞭然、また与四死球率(W/9)も1番よくそれによってWHIPが低くなっており
更に言うと被本塁打率(HR/9)も1番よい。
対右打者被打率.189に対し対左打者被打率.235という差もデータとして残っていますが
左打者の被打率に関しても特に問題なく優秀な部類といっていいでしょう。
まだまだルーキーで数年にわたって実績を積んでいるわけではなく
シーズンを通して大きな怪我なく安定してこの活躍を維持できるか、
また活躍した次の年にも相手チームの研究にめげずに安定してこの活躍を維持できるか、
このあたりがまだまだわかりませんので確定したことは言えませんが
少なくとも今シーズンここまでに限定するならば確実にエースの活躍といっていいでしょう。
つまり、牧田さんをクローザーに抜擢するということは
今シーズンここまで1番の投球を魅せてくれている先発投手を据えるということに他なりません。
ではここからはリリーフ投手として、特にクローザーとして
牧田さんは適性があるのだろうか、そしてこれから留意すべきことは何かを見ていきましょう。
クローザーは一般的に、僅差のリードでの終盤に登板し
そのリードを保ったまま1イニングを投げ切り、最後のアウトを取って
自チームの勝利を確定させその日のゲームを終了させる投手、
つまり自分が登板した後は
●打者がそれ以降の援護点をとってくれることは基本的にない
●守備陣のエラーや不運な打球等があったとしても関係なく、とにかくリードを保ち続け
チームの勝利をもたらすという結果が求められる
という先発投手よりもはるかにシビアに“結果”を求められるポジションです。
だからこそ、FIPが優秀=つまり奪三振が多く与四死球や被本塁打が少ない投手が
他のどの投手のポジションよりも求められます。
その点で見れば残念ながら篤志さんは奪三振率、被本塁打率は素晴らしいものがあるものの
与四死球率が非常に高いために多くのセーヴ失敗を繰り返し、
クローザーの任を解かれるに至ったといえますね。
逆にミンチェさんは奪三振率は少ない部類に入るものの
与四死球率が非常に優秀で、また被BABIPが.172と断トツの素晴らしさを誇ります。
弱い当たりのグラウンドボールを軽快に内野手が捌いてアウトを重ねていく姿が
目の前に再現されるかのようなデータですね。
そして牧田さんはミンチェさんに若干奪三振を多くし被本塁打を抑えた投球を展開している、
こんな姿がデータから見て取れますね。
さて、ここからは牧田さんの今後の課題について。
優秀な成績を残している牧田さんですが、1つだけ気がかりなのが
被本塁打をのぞく被二塁打および被三塁打が多いということ。
僅差のリードを守りきるクローザーとしてはこれも非常に気をつけなくてはならない、
一気に失点が近くなる長打を浴びないということですが
純粋に投手がどの程度長打を浴びているかを示す指標として被IsoP(Isolated Power)があり
その算出方法は被長打率-被打率でカンタンに暗算でぱぱっと出るものですが
その点でもう一度上記のデータを見直すと
一番優秀なのは松永さんで1本も長打を許していないという結果、
逆に牧田さん、そしてミンチェさんは被IsoPが約0.10を越えており
被本塁打率が優秀なのにもかかわらず被IsoPが高くなっているというデータからは
彼らの被二塁打、被三塁打の多さが読み取れます。
実は、今シーズンここまでライオンズ投手陣が浴びた被三塁打7本のうち
なんと半数以上の4本が牧田さんの浴びたものなのです。
(ちなみにミンチェさんは1本)
このデータを見ると
①すべて左打者に浴びている
②得点圏にランナーを置いての前進守備でなくても浴びている
③牧田さんの投球に慣れてきた終盤にだけではなく、中盤にも浴びている
この3点が特徴として挙げられますね。
これは、クローザーとして素晴らしい成績を残すためには
非常に障害となるデータといっていいでしょう。
考えられるとすれば、確率は小さいものの左打者が下手投げの牧田さんの投球を確実に捉えたとき
そのライン・ドライヴ系の打球が上手投げや横手投げの投手のそれより鋭く伸びるために
まだまだライオンズ外野守備陣が対応しきれていないのではないか、ということですね。
ということで、牧田さんをクローザーに抜擢するならば
首脳陣と外野守備陣に早急に対策をお願いしたいのは
牧田さんの被長打-それも被二塁打と被三塁打-の打球の方向、質等をきっちり分析し
守備位置を、そして打球に対する反応を改善してあげてほしいということ。
特にクローザーであれば守備固めの選手の起用も頻繁に可能ですから
被三塁打を極力無くしていくとともに、被二塁打をも減らすことに取り組んでほしいですね。
また、それと並行して牧田さん自身に課題として認識してもらい、改善してほしいのは
いかにして、特に左打者に二塁打・三塁打を浴びないような投球をしていくかということ。
■今シーズンここまでの被二塁打■
■今シーズンここまでの被本塁打■
さすがに被本塁打2本のみは優秀で素晴らしい成績ですが
気をつけてほしいのは被二塁打16本、それも
①左打者に75%を占める12本を浴びていること
②糸井選手・佐伯選手のように短期間に同じ選手に複数浴びており
牧田さんがシーズンを戦っていく中で苦手な左打者を作ってしまう危険性があること
③打順1巡目の初対戦でも左打者に二塁打を浴びる危険性があること
④僅差のリード、ランナーなしの場面で浴びる二塁打も4度あり、
これはクローザーにとっては非常に危険な二塁打であること
以上4点になります。
【まとめ】
牧田さんがクローザーに抜擢されたのはデータ上当然のことで
今シーズンここまで最も優秀な投球を展開してきた先発投手だから。
もちろん、数年にわたりシーズンを通してこの優秀な成績を継続したという
そんな実績があれば当然先発ローテーションから外すことはまずなかったでしょうが
まだまだルーキーで、更には今シーズンここまでを見ても
不運にも勝ち星に恵まれなかった、という要素もじゅうぶんにあるでしょう。
そして、逆に今後クローザーとして安定して結果を残すための課題を挙げるならば
●左打者に浴びる長打(本塁打を除く)を減らすこと
これに尽きるだろうと思います。
もちろん首脳陣、外野守備陣もその課題を共有し
強力に牧田さんをバックアップすることも非常に重要なことですが
牧田さん自身も先発としての登板の時のように
相手にあまり考えさせずにどんどんと投球していくことは難しいでしょう。
1本の安打が、1本の長打が先発投手とは比べ物にならないほどに重要になってくるのが
クローザーというポジションなのですから
ここまでのようにあまり深く考えすぎずシンプルに
内に速球を、外にスライダーを、という基本的な組み立てだけではなく
これまで以上にたっぷり時間をかけて
これまで以上にストライク・ゾーンを三次元的に広く深く使いこなした
ヴァリエーション豊かな投球がますます必要になることでしょう。
牧田さんのクローザー挑戦は彼自身にとって
将来再度先発投手に戻るにしても、またこのままクローザーとして投げ続けるにしても
おそらく非常に有意義な経験となることと思います。
基本的にまず打たれる確率の小さい投手ですし、
また四死球で首を締めることも考えづらい。
だとすれば、平均して素晴らしい結果が伴ってくるでしょうし
その中で失敗したら失敗したなりに反省し、対策を立てて次の登板に活かせばいい。
これ以上ない緊迫した場面で、集中力の高い素晴らしい打者たちと勝負を繰り返す。
おそらく、牧田さんの課題もこれまで以上に浮き彫りになり
それと並行して彼の成長もこれまでに比べグンと速まるでしょう。
楽しみに観戦したいものですね。