今日もまたファイターズのチーム全体を貫く
徹底され円熟の域にある“スモール・ボール”戦略に
感嘆させられるゲームとなりました。
スモール・ボールとは本来
犠牲バント、進塁打、盗塁、そして犠牲フライといった
個々の戦術を指すものではなく
要は得点を挙げるというゴールに対し
生産的なアウト( productive outs )を多く積み重ねていき
効率よく何度も何度も得点圏にランナーを進め
多くの挑戦を繰り返す中で1点ずつを積み重ねていき
そうやって奪った得点でのリードを
高い投手力と守備力によって維持していき
チームの勝ちに結び付けていこうというもの。
ファイターズは長年にわたりそういったスモール・ボールを掲げ
それはチームの各選手たちに深く浸透すると共に
そこからファイターズなりの様々な得点を挙げる方法、
そしてファイターズなりの勝利をもぎ取る方法を
首脳陣、そして選手たちが編み出し深く理解し
徹底してその道筋を歩んでいこうとしているようですね。
以前も仮説を提起しましたが簡単に、象徴的にファイターズの
(特にライオンズ相手のゲームにおける)勝利戦略をあらわすと
① イニングの先頭打者は2ストライクと追い込まれるのを
怖がらずにまずは確実に打てる球を待ち、
追い込まれれば四球を奪うこともじゅうぶん視野に入れ
ファウルなどで粘り相手投手の投球数を増やすこと
② ランナーが一塁に出れば最も避けるべきは
ランナーがその塁に釘付けになって進めないことですから
当然徹底した犠牲バント戦術を使用する、もしくは
エアボールではなく叩きつけた高いホップの
グラウンドボールを徹底して打つことで進塁させる
③ そうやってランナーを得点圏に進めた後は
ランナーを一打で効率よく本塁へ還すために
右方向へのエアボール、もしくは左方向であれば
遊撃手、ナカジさんの周辺へグラウンドボールを打つ
④ 大黒柱、ダルビッシュ投手をのぞき
投手起用については先発投手に人材を集中させるのではなく
トレードなどもうまく利用しつつリリーフ陣を集中的に整備し
その素晴らしいリリーフ陣たちの力でリードを保つ
こうやって勝利をうまくつかんできているように思います。
今日のゲームでもファイターズ攻撃陣は
ライオンズ投手陣に対し45度の勝負の場を作ってきましたが
エアボール・グラウンドボール比率で見てみると
奪三振5、与四死球4、犠牲バント1、
そして犠牲バント失敗1を除く計34度の勝負において
グラウンドアウト12、グラウンドボールエラー2、
グラウンドシングル3の計17個、ちょうど50%を占めるのに対し
外野へ到達したエアボールは
内野へのフライアウト2(うちファウル領域1)を除く
フライアウト5、犠牲フライ1、フライシングル3、
ライナーシングル2、フライ二塁打4の計15個、約44%。
アウトカウントは順調にグラウンドボールで奪っていく中で
それでも大量9点を奪われるというところに
まだまだ安定して素晴らしいとは言い難い
ライオンズ守備陣のいない場所、"hole" 周辺を狙い
グラウンドボールを“転がす”という
ファイターズの徹底した戦術が見て取れますね。
4回、陽選手の放った2打点付きライナーシングルは
本来三遊間をグラウンドボールで、が狙いのところが
少し崩されてナカジさんのちょうど上を通ったと判断できますし
5回、小谷野選手の放った2打点付きフライ二塁打は
右方向へ打球を飛ばしまずは2塁ランナーを本塁へという意識、
そしてその後の糸井選手のグラウンドシングルは
これも二塁ランナーを本塁へ迎え入れるため
三遊間をグラウンドボールで狙ったものといえますね。
さてさて、こんな高い戦略完成度を誇るファイターズに対し
今のライオンズの現実は、まだまだ若く青く荒削りなまま。
その得点を挙げるパターンを見ていると
おそらく目指すところの理想はビッグ・ボールなのでしょうが
それがうまく好循環で回転していくためには
今のところ非常に苦しい状況であることは確か。
ビッグ・ボールとはHRバッターを集めてきて
ずらっと並べる戦術では決してなく、
得点を挙げるというゴールに対し
いかにしてアウトを相手に与えずに
より遠くの塁へと到達していくかを重視し
そのために出塁率や長打率、そしてその中から生まれた
OPSを最優先にしたラインアップを構成することで
こちらは多くの挑戦を繰り返す中で
その1つを活かし1イニングにある程度の複数得点を奪い
そうやって奪った得点でのリードを
高い投手力によって維持していき
チームの勝ちに結び付けていこうというもの。
つまりはビッグであろうがスモールであろうが
あるイニングにどんとある程度複数の得点か、それとも
イニングごとにこつこつ1点ずつか、という違いはあれど
9イニングという1ゲームを通してみれば
その得点能力の差は決して大きなものではなく
むしろビッグ・ボールのほうが
いつ攻撃陣がその“ある程度多くの”得点を挙げるかが
スモール・ボールのこつこつ戦略より計算が困難なこと、
またそんな中で少し不安の残る守備陣を背にしていることで
投手たちはしばらくは我慢の投球を、という厳しい試練を
なんとかうまく越える必要があるということでもあります。
ビッグ・ボールの1つ象徴である剛也さんが不在のもと
“長打率”をベースにした得点力が落ちると共に
その厳しい試練を背負うことのできる
チームの軸となる先発投手陣も一久さんや岸さんの離脱などで
今大量失点を喫することも多くなってきている。
さあ、こんな中でそれでも
ライオンズの各選手たちはこれまで基礎にしていた
ビッグ・ボールをそれでも貫き、そして自分たちなりに
うまく発展させていくことができるだろうか。
ひとつ着目すべき点はやはり出塁率で、
特に長打率の高い打者の前にランナーを貯めること。
そしてラインアップの下位に名を連ねる打者たちは
打席で自分は何をすべきなのかをハッキリ表現できるか。
注意しなくてはならないのは
“長打力”がある、当たれば飛ぶという打者であっても
それが高い“長打率”を伴わないのであれば
それはビッグ・ボールにとって
得点を挙げていく上でまず意味をなさないということ、
早々に長打を放つことよりも出塁することを
打席における目的と変更すべきだということ。
ビッグ・ボールは本来
“個人”の我慢強さ、勝負強さなどの
非常に強いメンタルを必要とするもの。
勝負どころでの1球、1振り、そして1つの守備を
状況によって左右され、動揺やオーヴァーヒート、そして
不安や気落ちによる集中力欠如などをもたらすことなく
最適な、最高の集中力で迎え、挑みこなすことが必要な
非常に困難な、まさに茨の道といっていいでしょう。
さて、そんな茨の道ですが
そんな道を進むからこそ“魅せる”ことのできる
素晴らしいプレイの数々を糧に、そして目標に
ライオンズの各選手たちは貫き、歩み続ける覚悟が
今、この“正念場”で問われているのではないでしょうか。
ファイターズは1つの完成形に近づきつつある
非常に洗練された“スモール・ボール”チームです。
それに対し荒削りな“ビッグ・ボール”チームたる
ライオンズがどこまで勝利をもぎ取りつつ成長していけるか。
そのためには今チームの屋台骨を支える
軸となる選手たちを中心に
なお一層の“個人”の集中力が求められます。
選手たちにとって今はまたとない
個人として“独り立ち”の強さを身につける機会。
まずはあと2戦、今日の反省を活かし
各選手たちがどう行動し、“魅せて”くれるだろうか。
楽しみですね。