凜は目の前のお好み焼きを見ながらこの時の先生の話を思い出して、クスッと笑った。一枚のお好み焼きから国立西洋美術館のル・コルビジェの建築物を思い出すなんて言う事が自分でも可笑しかった。それに、お好み焼きは人間が創り出したもの一つで、きれいな円で出来ているという点も凜の心にグッと来るものがあった。

 ふっかふかのお好み焼きを食べて、凜は心もお腹も満たされて幸せ気分だった。コンクール会場に戻る電車の中、外の景色を見ながら凜は見えない、でも自分の前に確実に広がっているであろう世界を思い描いた。

No Where とNow Here 。

「どこでもないところ」と「今、ここ」。


コンクール会場に戻り、シニアの決勝を少しだけ見ることができた。洗練された動き一つ一つ日本人のレベルの高さをうかがい知ることができた。見ながら凜は物思いに耽っていた。

「私も2 年後はこの部門になっちゃう。でもその前に… 飛び立ちたい!そして、もっと自由な表現力があるはず!私はそれを感じたいの!日本で通用する日本人的な表現力ではなくて、そう、なんか、魂から踊っている感じ。世界が見たい!もっとすごい人たちがいる世界へ飛び出していきたい!」

目の前のダンサーたちの踊りを観れば見るほど、そう思わずにはいられなかった。日本人独特の正確性に圧倒されたけれど、世界にはそれだけじゃなくてもっと表現力を身につけたダンサーたちがいる。その中で自分の力を試したいと思わずにはいられなかった。突然沸き起こった凜の心の炎のようなものが自分を導いてくれているように感じた。

 自分が感じるままに表現して踊る喜びを大舞台で!ふと、脳裏にだいぶ前に見たあの夢のように、自分が大舞台で大衆を目の前に踊っている姿が浮かび上がった。

 目の前ではコンクールが粛々と続いているけれど、凜の目の前に描き出されている映像は踊っている自分の姿だった。

「いろんな人種の人たちがいる舞台で踊っている私… 、踊っている仲間も人種が違うの。日本人だけじゃない。世界のダンサーたちと踊っているんだ!」

 根拠のない自信や希望が、凜の心の中でふつふつと湧き上がってきた。