順々に名前を呼ばれていくのを見ながらもう駄目だと思って目をつぶった瞬間

「Lin Yanagi 」

耳を疑った。
「え?ウソ… 」
 次の瞬間立ち上がって、舞台に足が向かっていた。恐る恐る前へ。他の子達と列を作って前を向いた時には目の前に広がる客席の視線を強く感じながら、今までやってきたことの全てが報われた気がした。緊張で足が震えている。
 信じられなかったし、これから何が起こるのか、想像もできなかった。
 全ての表彰式が終わり、凜は先生を探した。もうすでにママからは恐ろしい量のLineが入っていたけれど、とにかく先生に会いたかった。
 込み合うロビー内でやっと会えた時の先生は予想通り、目を真っ赤に腫らしていて、凜を見るなり強く抱きしめて、そしてまた、泣き出した。
「凜ちゃん… 、本当に… 、お、め、で、と!」
 半分以上聞き取れなかったけれど、十分だった。そこから、興奮冷めない先生とスカラーシップの話を聞きに隣のホテルに向かって歩き出した。
「スカラーシップ!」
 凜は天にも昇るような気持だった。夏の公演に出演した中で、海外に行ったことがないのは凜一人だ
った。だから、出来ることなら早い年齢で、行きたかったのを今回サマースカラーだったけれど、もらえたのは凜にとって大きな収穫だった。それに、ニューヨークも行けるかもしれないと言う希望もまだ残されていた。
 いろいろなことが頭の中でごちゃごちゃに入り乱れて、どう整理してよいか分からなかったけれど、ホテルについてサマースカラーを出してくれたドイツのバレエ学校の校長マーサ先生が優しく凜を抱きしめ、
「congratulation !(おめでとう!)貴女にはパッションがあったわ。心から踊りたいという気持ちと人を惹きつける力がある素晴らしい踊りだった!そこに貴女の可能性を見出したのよ。」
と言ってくれた時にはもうすでに前に向かって歩き出せる準備が出来ているような気がした。
 話が一通り終わって、自分たちのホテルへ戻る帰り道、
「Top 3はさすがに無理だったね。」
 ナナ先生は唐突にそう言うといたずらっぽい表情でニコッとしてから深呼吸してまた無言で歩き出した。落ち着きをだいぶ取り戻していたように見える先生だったけど、いつもなら、
「コーヒー買うからコンビニ行こう!」
と早目に言うのに、ホテルに着いてから、
「あ!忘れてた!コーヒー!ちょっと、買ってくるから先に部屋戻ってて!」
と言う調子だった。
「はい!」
と凜が答えるや否や、ホテルのロビーに凜を残してまた夜の街の中へ歩き出していた。
「先生、やっぱり気が動転しているなぁ。」
そう思うと、凜は自分の方が落ち着いているように思えた。
 静まり返ったホテルの部屋からママに電話すると、案の定声にならなかった。改めて電話することを約束して切ってから、ベッドの上に賞状を広げて見てみた。
 凜の名前が入ったYAGP 日本予選の賞状。それにスカラーシップの賞状。今までの日々がいくつも思い浮かび上がってきた。
「ここからがまたスタート。だから、今日の喜びは今日でおしまい。また明日からはプロのダンサーになるまでの道を今まで通り歩くだけ。明日は今日の自分を超える。ただそれだけ。」
 
 自分に強く、そう言い聞かせた凜の目から初めて涙がこぼれ落ちた。