ゴロフキンvs村田 | 香椎攻防記

香椎攻防記

轟丸英士、アラフォー。
底辺窓際サラリーマン。
主に通勤時間中の時間潰しの駄文、ならびにダイエット記録です。

 私がボクシングジムに入門した25年前は今以上にボクシング=喧嘩の延長でアウトローのやるもの、というイメージがあった。私の両親もその一般的なイメージに囚われていたし、入門したいと言った時は随分と心配された。許可をもらうまではだいぶ時間がかかった。

 実際、ジムに行ってみると、現在のボクシングジムのようにフィットネスで女性もエクササイズをしているような爽やかな雰囲気ではなかった。やはり不良上がりの男どもばかりで、当時、進学校に通っていた私としては、ジムに行くたびにビクビクとしていた。今はキッズボクシングなども盛んでジムには子供もたくさんいるが、当時、プロのジムに通う中学生など殆ど居なかった。 

 しかし、すぐに慣れたし、すぐに居心地のいい場所となった。本物のアウトローならば、ルールのもと自分を制御して殴り合うなんてことはできないだろうし、日々の練習は続かない、ということに気づいたからだ。一見コワモテのボクサーたちはみんな優しく、元不良でもみんな規律を持った人たちばかりであった。そして、私自身が身に染みたのは、見た目のイカツさや、表面的なコワソーな態度は、必ずしも実際の強さとはまったく比例しないということだ。真面目そうで気弱そうな顔しててもめちゃくちゃ強かったり、その逆だったり。結局のところ、虚勢を張ってイキッても意味がない、ということだ。

 私のアマチュアの試合のデビュー戦の相手は、金髪オールバックの、ヤンキー丸出し、恐ろしい顔面の持ち主だった。対戦相手が決まる前の計量の時点で、やたらとエラソーな態度で周りを威嚇しており、私もアイツとは当たりたくないなぁと思っていた。対戦相手がそいつだと判明したときは、死ぬほどビビったが、何とか3ラウンド目にレフリーストップで勝つことができた。あの時は怖かったなぁ…。

 

 一昨日のボクシングの試合は久々に感動的な、ボクシングを好きであること、ボクサーであったことを誇りに思えるような、そんな試合だった。 

 ゲンナジー・ゴロフキンvs村田諒太。

 この両者の名前が対戦相手同士として並んでいるだけでボクシングファンにはたまらない思いだった筈だ。ゴロフキンは本場アメリカでも評価されて人気も高い、それこそ一試合で何十億円も稼ぐようなスーパースターである。日本人にはピンときてないようだが、マイク・タイソン以来のビッグネームの来日である。しかも、その相手が日本人。日本人には無理、と言われたミドル級で金メダルを取ったこと自体が奇跡的な偉業だが、それがさらに世界的なスーパースターを引っ張り出したいうのは、試合が成立しただけで驚異的なことであった。


 試合は地上波では放映されず、Amazonプライムでの有料放送だった。アメリカでも今は有料でのペイパービューが主流だというが、日本でもこれからはそういう時代になってゆくのだろうか。まぁそれゆえビッグマネーを生む、というのなら仕方ないが。とはいえ、地上波で放映されないと、普段ボクシングを見ないライト層に届かないので残念だなぁとは思ったが。

 試合は一進一退、村田が勝機を掴んだか、とも思えるような瞬間もあった。しかし、最終的には歴戦の猛者であるゴロフキンが徐々に村田を削ってゆき、最終的には一瞬ぐらりとダウンを拒否した後にゆっくりと村田が倒れて行った。同時に村田コーナーからタオルが投入された。久々に手に汗握る、感情移入してしまうそんな試合だった。


 村田とゴロフキンは終始お互いのことをリスペクトしており、試合前の計量、記者会見、そして試合中、勝負が決したあと、常に和やかな空気が流れていた。二人のボクサーには王者の余裕が漂っており、いらぬ挑発や虚勢はまったく無かった。インテリジェンスすら二人からは漂っていた。試合後、リング上で、民族衣装の刺繍をあしらったガウンをゴロフキンは村田に着せてプレゼントしていた。対戦相手への最上級の敬意だろう。昨今流行りのMMA、総合格闘技やキックボクシングで見られる、試合前の挑発や乱闘、SNSを通じた罵り合いなんてものは一切ない高貴な闘いだった。


 大学時代、私が留年したということもあり、村田とは学生時代が少々被っている。それゆえ、面識は無いが、当時からアマチュアボクサーの中では有名人だった彼の姿は、試合会場でよく見かけることがあった。不良の匂いをまだ残した当時の彼が、ここまで偉大な男になったということが、僭越ながら感慨深いものがある。

 誰もが手に汗を握った激闘、そして二人のボクサーの高貴なる振る舞い。近頃、他のプロ格闘技の人気に後陣を拝しているボクシングであるが、久しぶりにボクサーであったことを誇りに思わせてもらえるような、そんな超一流の闘いであった。