○風立ちぬ、いざゲホッ、ブホッ!
◇読売新聞 2024.7.27(土)朝刊
1面コラム「編集手帳」より
◆風立ちぬ、いざ生きめやも・・・堀辰雄の小説「風立ちぬ」は、ポール・ヴァレリーの詩「海辺の墓地」からとった一節が冒頭に引かれている。
◆「めやも」という文語では、「生きていこう」の逆の意味になる。この誤訳説は有名だが、「海辺の墓地」がどんな詩かを知る人は多くはないだろう。作家の小沢章友さんに、長編の一部を抜き出した平易な訳がある。
◆〈空よ/真実の空よ/うつろなぼくを見るがいい/飲むのだ/ぼくの胸よ/いま生まれてきたばかりの/風を/ああ、風が立つ!/生きなければ/もっと強く/生きなければ!〉
◇参考図書(たぶん)
『読まずに死ねない世界の名詩50編』小沢章友(訳編)/マツオヒロミ(画) じっぴコンパクト新書(実業之日本社)2017年
◇ amazarashi『下を向いて歩こう』
〈深呼吸したら動悸がなった
始まりも惨いデターミニズム〉
ふだん呼吸が浅くなってる人が、思い立って急に深呼吸しようとすると噎(む)せる。そりゃあ、のど・肺も不意を突かれたらビックリしちゃうだろう。無理もない。
せっかく生きようと決意した直後に! 嗚呼、なんてつれない私の身体・・・。
深呼吸したいんなら、普段から心肺機能を維持する努力が必要ですね。上半身の脱力、下半身の安定、姿勢筋の調節、呼吸筋の強化。そして古来より伝わる、こんな秘訣が・・ッ!
◇『はしっこアンサンブル』⑦
木尾士目 講談社アフタヌーン KC 2021年
▼とある声楽家の言:
「衆人は喉(ノド)で、
哲人は背骨で、
真人(しんじん)は踵(カカト)で呼吸する!!
足裏から大地のパワーを感じるんだ! 大地の下のマグマを!
肚(ハラ)の底に溜まりに溜まった煮え滾(たぎ)る感情を・・・
お尻、背骨、喉、おでこ、そしててっぺンから、噴火させるんだ
周りに合わせようなんて考えるな、自分をぶつけるんだ。自分なんだ!! 」
むぅ、奥が深いぜ呼吸道・・ッ!
ちなみに上記の前半は『荘子』(内篇:大宗師)にある「古えの真人は・・其の息は深深たり。真人の息は踵を以てし、衆人の息は喉を以てす。」が出典かと。
つつがなく深呼吸するための練習をするなら、古武道の鍛練や現代のメンタルトレーニングにも導入されている呼吸法の要訣を押さえておくと良いかもしれません。
そうそう、奥が深いといえば「言語学」もそうですね。
令和に入った頃からかなりマニアックな言語学の知が一般書として刊行され、しかもランキング上位を占めることが多くなったように感じる。それまではそんなメジャーな分野でもなかったのに、この変化は急なものである。
◇『言語学バーリ・トゥード』
川添愛 東京大学出版会 2021年
◇『言葉の展望台』三木那由他 講談社 2022年
◇『言語の本質』今井むつみ/秋田喜美 中公新書 2023年
もしかして、日常の中で様々な「言葉が通じない」場面が増えてきて、さかのぼって「言葉が通じる」とはどういうことなのか、「言語を獲得する」とはどういうことなのか、などに関心が集まっているのかもしれない。折しも対話型AIの普及前夜。
それは単に使う言語の違いで済ませず、バックボーンの違い、思想信条の違い、はたまた個々人の環世界の違い、人間とAIの思考形式の違いにまで分け入って考察する営みである。
◇『つれづれ語学日記』
こまきときこ KADOKAWAメディアファクトリー 2024年
▽「エスペラント語①」より
ドイツ語の少しあとくらいに “人工言語” である「エスペラント語」を学び始めました。
エスペラント語は19世紀後半にポーランドのザメンホフさんがつくった言語。
▼ザメンホフ(1859-1917)、眼科医さん
「言葉の壁をなくして世界平和を目指す! 誰もが容易に習得できるようなシンプルな言語にしたよ。」
*以下、「エスペラント語①・②・③」にて語法、文法、エスペラント語検定などの学習の様子を紹介。
◇こまきときこ「X」より
▼エスペラント語・・
国際補助語(国際的なコミュニケーションを可能にする言語)を目指して作られた言語で世界中に話者がいる。文法がシンプルで例外がほぼなく、“学ぶのが簡単” とされる。
◇ amazarashi『クレプトマニア』
〈国境破りエスペラント〉
「エスペラント」は紹介の通り、近代に開発された人工言語。19世紀後半にポーランドの医師・ザメンホフが国際共用語として発明・提唱し、徐々に理解が広がって世界に広まっていった。
日本でも1906年に二葉亭四迷が邦人向け学習書『世界語(エスペラント)』を刊行、思想運動家の大杉栄や文学者の宮沢賢治などがエスペラント語に関心を寄せていたようだ。
大杉栄は語学マニアで投獄のたびに牢屋で1言語を習得したというし、アナキストとしても国際的な活動を目指したからエスペラント語に興味を持ったのだろう。
(「多言語学習者」なら誰しも一度は興味を示す人工言語だそうで、そういやコミックエッセイ『ダーリンは外国人』シリーズに出てくるトニー・ラズロさんも話題に上げてたな。)
一方の賢治は、欧米の先端科学や詩人・小説家の作品を摂取する一環としてエスペラントに触れたのだろう。自分の文学作品がもし海外に出るなら翻訳はエスペラントで、と考え独習していたか。
あるいは「世界平和」の実現には世界共通言語の設定が有効だと、倫理思想の面からも捉えていたかも。
◇企画展「宮沢賢治とエスペラント展」 宮沢賢治イーハトーブ館にて開催(2022年、会期終了)
かくして創案者ザメンホフが作り上げたエスペラント語を、後に続く者達が世界の「共通言語」に据えようと努力した。その試みは一時は広く隆盛したものの、英語など他の国際共用語ほどには浸透しなかった。しかし現在でも世界中に一定数の学習者がいる。
ちなみに「エスペラント」はエスペラント語で「希望する人」の意味。人類の相互理解と友愛による世界平和を希求したザメンホフの理念を象徴する言葉でもある。
◇「日本エスペラント協会」HP
むぅ、奥が深いぜ語学道・・ッ!
さて、「言葉」と格闘してきた amazarashi 秋田ひろむ。時に言葉で苦い過去をねじ伏せたり、また時には言葉に救われたり。それは全身全霊を懸けて打ち込んできたものであるでしょう。
その孤高の歩みは他者を寄せ付けず、独り言葉と旋律と向き合い峻厳な道を進んできた amazarashi 。馴れ合いを拒むかのような姿は痛々しいまでに高潔で・・・。
○『NieR:Automata』とズブズブ
持ちつ持たれつ、二人三脚の蜜月関係・・ズブズブやないかいッ!
・・と指弾した所で、これはもう周知というか両作品ファン公認の既成事実ではございますが。
スクエア・エニックスのゲームタイトル『NieR:Automata(ニ-アオ-トマタ)』と amazarashi の抜き差しならぬ泥沼の関係(?)が、ついに最後まで行き着いてしまったこの夏。
物語が佳境を迎えるアニメ『NieR:Automata Ver1.1a』、原作の要素を急ピッチで消化しつつラストに向かいひた走っております。
そのアニメを彩るOP曲『ブラックボックス』を LiSAさんに楽曲提供したamazarashi 秋田ひろむ、とうとうシリーズを通して完走しちゃいましたーー!
◇ゲームタイアップ曲
『命にふさわしい』
◇アニメ第1期ED
amazarashi『アンチノミー』
◇第2期OP『ブラックボックス』
第1期EDと第2期OPの映像、それぞれの構成を主人公2人の視点から対称形にシンクロさせるというこだわりよう。
凄いな、ゲーム→アニメ化と複数回あるチャンスに特定のアーティストが全部絡んでくるケースって、ありそうでなかなか無いもんですよ。たいていは「○→✕→○」とかバランスをとって、偏りがないように配慮するもんなのに。
そこでバランスを捨てて偏重にオールインするのが『NieR:Automata』スタッフ、さすがの狂気・・・ッ!(ゴクリ)
いや勿論、AimerさんとかLiSAさん、GEMS COMPANYも起用してるから十分過ぎるほど豪華多彩さは確保しておりますが。
しかしその中でも amazarashi とのズブズブの、もとい、確固たる信頼関係は特筆すべきものでしょう。
一蓮托生、死なばもろとも、毒食わば皿まで、これは呪いかそれとも罰か・・!!?
どうせなら、最終話ラストシーンで『命にふさわしい』フルでかけてくれないかなぁ・・?
○小学館「スピリッツ」とズブズブ
ズブズブやないかいッ!
・・いや、これには少し説明が要るか。
◇『スーパースターを唄って。』第3集 薄場圭 ビッグコミックスピリッツ 2024年
『スーパースターを唄って。』は現在「ビッグコミックスピリッツ」誌で連載中のマンガ。7月末にコミックス第3巻が発売されたところで、その帯文に本作品のファンだという amazarashi 秋田ひろむがコメントを寄せている。
他にも第1集には芸人の千原ジュニアさん、第2集では『僕のヒーローアカデミア』の堀越耕平先生が賛辞・応援の言を寄せ、各界に反響を呼んでいるという。
( ちなみに、amazarashi 視点で見ると千原ジュニアさんの私小説『14歳』は同名曲の源泉に、また『僕のヒーローアカデミア』主題歌として『空に歌えば』が生まれている。偶然ながら妙な縁である。)
◇(12年前のとある邂逅)
スペースシャワーTV 内の千原ジュニアさんが司会をつとめた音楽番組「音楽ヒミツ情報機関 MI6」にて、2012年に amazarashi を特集。
◇『14歳』千原ジュニア
講談社(単行本) 2007年
幻冬舎よしもと文庫 2009年
◇『空に歌えば』
その『スーパースターを唄って。』は元々「月刊!スピリッツ」連載だったのが「週刊スピリッツ」に移ってきたもので、まぁ同じ小学館の青年漫画誌「ビッグコミック」系のしかも「スピリッツ」内での移籍なんですが。
そして「週刊スピリッツ」は、恐らくは秋田ひろむの愛読誌であると考えられる。
前に『映像研には手を出すな!』(「月刊!スピリッツ」連載)も気になるって言ってたし、「スピリッツ」同士で告知とかもかぶるから「月!スピ」もたまに読んでるかも。もしかしたらアニメ版を観たのかも知れないけれど。
じゃあ「ビッグコミック」本誌と「スペリオール」「オリジナル」は・・? とか考え出すとキリがないから止めときますが。
そこで以前にも、こんなコラボを実現させていました。
◇『月曜日の友達』阿部共実
上下巻完結 スピリッツKC
◇『月曜日』
◇『月曜日の友達』✕ amazarashi 特設サイト
よって、2017年頃からスピリッツ編集部と amazarashi のズブズブの関係は始まっていたものと思われる・・・。とまぁ冗談はさておき、少なくともスピリッツ編集部内と amazarashi スタッフの間に知己とか顔馴染みの感覚があるのだろう。
その繋がりを通して何だかんだでやり取りが生まれ、コラボ楽曲制作とかコメント寄稿なんかにも結び付いてきたのだ。
そしてもう一つ、同じように「スピリッツ」繋がりで amazarashi とズブズブになりつつあるマンガ作品が・・・。
○『チ。』とズブズブ・・・?
◇『チ。~地球の運動について~』
NHKで10月からアニメスタート決定!(土曜夜23:45~予定)
うおうっ、アニメ化は前々から予告されていたとはいえ、いよいよ具体的な日程とキービジュアルが発表された!
放送時間帯は土曜深夜。NHK(地上波1ch)で土日の深夜といえば『進撃の巨人』『キングダム』『不滅のあなたへ』『ヴィンランド・サガ』など、割とハードというかシリアスな面がある骨太な作品を届けてきた放送枠である。しかし、ほぼ深夜とはいえ週末だし天下のNHKだから、相当に視聴率も良くて興味関心が集まる準黄金枠でもある。『チ。』に対する期待の高さがうかがえるなぁ。
◇NHK BS『コズミック フロント』
2022年10月27日 初回放送
「地動説 ~謎を追い続け、近代科学を生んだ人々の物語~」
NHK BSで2年前に放送されたこちらの科学情報番組で、一足早く NHK ✕『チ。』のコラボレーションを果たしていた。ちなみに『チ。』のアニメ化も試みられ、ここではクレイアニメのような手法で原作漫画の場面を再現。見事にNHKの教養番組に昇華していた。
そして今回のアニメ化に際し、声優・津田健次郎は大方の予想通りのキャスティング。しかし意外だったのは、第一部主人公のラファウ役が坂本真綾さんだったこと。超有名なベテラン声優だが、少女役は数多いも少年役はあんまり見たことがない。これは良いサプライズになったと思う。そしてレジェンド、速水奨さんの登壇。渋くて艶っぽいイケボを揃えやがったな、マッドハウス・・・。
これから随時、キャストやスタッフの追加情報も上がってくるだろう。そこで問題は、主題歌担当ですよ! どのタイミングで明かされるか・・ッ!
そして先日、オープニング主題歌担当がサカナクションに決定、との報が! “ NHK ✕ サカナクション” といえば特撮巨編『岡本太郎式特撮活劇 タローマン』主題歌『爆発だッ! タローマン』をサカナクション山口一郎がゲスト歌唱したことで有名ですが(?)、キャリアとしてもアニメ主題歌は初となるとのこと。どんな曲になるのか?
いやOP主題歌ももちろん気になりますが、何より問題は残る一枠、エンディング主題歌。我らが amazarashi がどこまで行けるかって事、いつまで戦い続けるかという事・・ッ!
やはりここまで2連投で来ている amazara ✕『チ。』のずぶず・・リスペクトフルな応答関係、今また登板を重ねて成るか3連チャン、はたまた志半ばで野望も潰えるのか・・ッ!
◇ amazarashi ✕『チ。』往復書簡プロジェクト「共通言語」
第1弾MV『1.0』
もう既にズブズブやないかいッ!
・・・いったん落ち着こう。
知的探求心に富んだ『チ。』は各界に熱烈なファンが多く、内容の深遠さから科学・西欧史・哲学など、おカタいジャンルの専門誌でもたびたび取り上げられてきた。
◇青土社『ユリイカ』2023年1月号
「特集:コペルニクス」にて『チ。』と連動
その流れの延長線上にもある公式トリビュートブックがアニメ放映とタイミングを合わせて発売予定、単なるファンブックに留まらないマニアックな内容となる予報。
◇公式トリビュートブック
『チ。~地球の運動について~ 第Q集』小学館 2024年9月末頃 発売予定
作品完結とアニメ放送開始を記念したこちらのトリビュート単行本にも、様々なジャンルの著名人・専門家がメッセージや考察を寄せている。
錚々たる面子が名を連ねる中、果たして『刃牙』の板垣恵介はナニを描くのか・・・まさか地球を動かすほどの筋肉(マッスル)と打撃(インパクト)を・・・?
・谷川嘉浩(たにがわよしひろ、哲学者・作家)
◇『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』ちくまプリマー新書 2024年 (↑『チ。』をかなりのウェイトで引用)
そして・・・
秋田ひろむ(amazarashi)エッセイ寄稿・・・。
ズブズブやないかいッ!
ここまで来て、もしも、もしも悲願の達成が成らなかったら!? その時、我々はこう叫ぶだろう。総ツッコミの勢いで、
「そこはズブズブでいいんじゃないかいッ!?」
たぶん発表はもうすぐ。もはや絆かしがらみか、必然か惰性かも見分けがつかないズブズブの関係に信を置いて、静かにその時を待ちたいと思う・・・。
(以上、ただひたすら「ズブズブ」って言いたかっただけの記事でした。)
◇ amazarashi『カシオピア係留所』
〈逃れられない君の影の
常に逆に 進むべき光
生まれながらに記されてた
足元にある宇宙の影絵 〉
◇ amazarashi『夜の歌』
〈雨が降り始めて
僕はふと歩みを緩めた
雨雲に滲(にじ)む月明かり
あれが僕の目指す光
見えない物だから
見失っても当たり前
今日も僕は僕の心に
確かめて歩く夜明け前 〉
◇ ザメンホフの詩「道 (La vojo)」
〈まっ暗な闇を通して
輝いている目標めざし
私たちは勇ましく歩んで行く。
夜空に光る星のように
目標は進むべき方角を語る。〉
*『ザメンホフ 世界共通語(エスペラント)を創ったユダヤ人医師の物語』小林司 原書房 2005年
(p.267)より引用