惨劇は何の合図もなく始まる | 高校日本史テーマ別人物伝 時々amayadori

高校日本史テーマ別人物伝 時々amayadori

高校日本史レベルの人物を少し詳しく紹介する。なるべく入試にメインで出なさそうな人を中心に。誰もが知る有名人物は、誰もが知っているので省く。 たまに「amazarashiの歌詞、私考」を挟む。


○「最悪の地上侵攻」に向け着々と準備中・・・じゃない、もう始めてる


◇読売新聞 2024.5.28(火)朝刊
 7.国際面記事
〖 イスラエル ラファ空爆 45人死亡 〗
〖 戦闘激化 人質解放交渉 不透明に 〗

 イスラエル軍は26日、パレスチナ自治区ガザ最南部ラファを空爆し、ガザ保健当局によると少なくとも45人が死亡した。ガザでの戦闘休止や人質解放を巡る交渉が近く再開するとの見通しが広がる中、戦闘の激化により先行きが不透明になっている。
 パレスチナ赤新月社によると、避難民のテントが密集するラファ北西部の地帯が空爆された。イスラエル軍は、民間人の負傷者が出たことを認めている。
 この空爆の数時間前には、イスラム主義組織ハマスがラファからイスラエルの商都テルアビブ方面にロケット弾8発を撃ち込んだ。国際司法裁判所がイスラエルに対し、ラファへの攻撃の即時停止を命じる暫定措置を出した24日以降も、攻撃の応酬が続いている。
 戦闘休止などに向けた交渉を巡っては、米CNNがエジプト当局者の話として、カイロで28日に再開される見通しだと伝えた。ロイター通信は「日程は決まっていない」とするハマス当局者のコメントを報じた。

( 写真:27日、ガザ南部ラファで、イスラエルの攻撃後に焼け焦げたがれきの中から食べ物を探すパレスチナの人々 )


◇読売新聞 2024.5.29(水)朝刊
 2.総合面記事より
〖 イスラエル ラファ中心部に戦車 〗
〖 ロイター報道 作戦拡大の構え 〗

 ロイター通信は28日、目撃者の情報として、イスラエル軍の戦車数台が初めてパレスチナ自治区ガザ最南部ラファの中心部に到達したと報じた。イスラム主義組織ハマス幹部が潜伏するとみるラファで、作戦を拡大する構えとみられる。
 報道によると、戦車が中心街にあるモスク近くで確認された。戦車は中心部の端まで到達していたが、中心部の内側には本格的に進軍していなかった。
 イスラエル軍は、ラファで避難民ら45人が死亡した26日の空爆で批判にさらされている。(中略)
 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は27日の演説で、「民間人への危害を避けるための最大限の努力にもかかわらず悲劇が起きた」と釈明した。
 イスラエル主要紙ハアレツによると、空爆を受け、ハマスは戦闘休止などをめぐる間接交渉に参加しないと仲介国に伝えた。

( 写真:28日、ガザ最南部ラファで、イスラエルの攻撃を受けて立ち上る煙 )


◇日経新聞 2024.5.29(水)朝刊
 11.国際面記事より
〖 ラファ中心部 戦車到達 〗
〖 イスラエル エジプトとも銃撃戦 メディア報道 〗

 ロイター通信は28日、パレスチナ自治区ガザ最南部のラファ中心部にイスラエル軍の戦車が初めて到達したと報じた。26日夜には同軍がラファを空爆し多数の民間人が死亡した。攻撃を強める同国に対し、国際社会の批判が強まっている。

 ロイターによると、ラファ中心部にあるモスク(イスラム教の礼拝所)周辺でイスラエル軍の戦車が目撃された。英BBCも現地の目撃情報として、イスラエル軍の戦車がラファ中心部を制圧したと伝えた。
 イスラエルは5月上旬からラファに「限定的」と主張する地上侵攻を始め、エジプトとの検問所を閉鎖するなど戦闘地域を広げてきた。24日には国際司法裁判所(ICJ)が暫定的な措置としてラファでの軍事作戦の即時停止を命じたが、イスラエルは攻撃を続けている。

 イスラエルメディアは28日、イスラエル軍がラファに向けて部隊を追加投入したと報じた。
 イスラエル軍は26日夜にラファを空爆し、民間人45人が死亡した。同軍は空爆でハマス幹部を殺害したと説明したが、避難民が密集する一帯が攻撃され被害が大きくなったとみられる。

 ラファのエジプトとの境界付近では27日、イスラエル軍とエジプト軍による銃撃戦がありエジプト兵一人が死亡した。エジプトメディアによると、現場付近でイスラエル軍とハマスの戦闘があり、発砲がエジプト側にも及んだためエジプトの治安部隊が自衛措置として発砲した。
 両国は今回の銃撃戦の詳細を明らかにしていない。(中略)

 エジプトは1979年にイスラエルと国交を樹立した。23年10月にイスラエルとハマスの衝突が始まって以降も、エジプトはカタールとともにガザでの戦闘停止や人質解放を巡る交渉の仲介役を務める。
 ラファで強硬姿勢を貫くイスラエルに国際社会は厳しい目を向ける。


◇日経新聞 2024.5.30(木)朝刊
 11.国際面記事より

〖 避難民テント焼失 〗

 パレスチナ自治区ガザ最南部ラファで、避難民キャンプに設置されたテント群の一部が焼失していることが衛星画像から分かった。イスラエル軍は26日夜、ラファを空爆し、少なくとも45人が死亡した。
 空爆を受けたのはラファ西部のクウェート難民キャンプと見られる。パレスチナ赤新月社によると、イスラエル軍が住民の避難先として「人道地区」に指定していた地域が空爆されたという。一帯には避難民らが身を寄せるテントが密集し、イスラエル軍による攻撃で火災が発生した。

〖 ラファ人道地区 再攻撃 〗

 パレスチナ自治区ガザ南部ラファで28日、住民が避難するテントに攻撃があり、少なくとも21人が死亡した。イスラエル軍はラファに追加部隊を投入したと発表しており、ラファでの侵攻は拡大している。同国高官はガザでの戦闘は少なくとも年内は続くとの見方を示した。
 28日に攻撃があったのはラファ西部のマワシ地区。イスラエル軍が住民の避難先として「人道地区」に指定しているエリアだ。

 (引用終わり)



 ごく短期間の停戦状態を何度か挟みながら、しかし着実にパレスチナ自治区ガザを端から端まで徹底して蹂躙し終えようとしているイスラエル軍。
 最後に残ったガザ最南部ラファ地区には今も100万人規模の避難民たちが身を寄せあって暮らし、支援ルートを隔絶され逃げ場のない状況で眼前の恐怖と飢餓にさいなまれながら生きている。

 国際社会からはパレスチナ人への同情とイスラエル国への強い非難の声が上がっているが、頑なに強硬姿勢を貫くイスラエルの挙動を一向に制止できない現状がある。
 停戦・休戦に向けての交渉もイスラエル側とガザ地区の実効支配組織ハマスとの間で断続的に行われてきたが、両者の主張の食い違いと提示条件の不一致がたび重なって順調とは言いがたい。

 その交渉の間にもイスラエル軍はガザ地区にミサイルの雨を降らせ、日常的な空襲によりハマス戦闘員だけでなく民間人にも甚大な被害が出ている。
 地上作戦としてはこの数ヵ月の間にガザ北部から侵攻を開始して中部に至り、そこでいったん止まって部隊を再編成しながら、同時に北部・中部の爆撃を受けた街の瓦礫を撤去して軍事行動の輔けとなる道路や更地を整備していた。

 そしてこの5月上旬、事前の宣告や通達をすることなく実に密やかに、最後に残った最南部ラファへの侵攻を開始したのである。
 ラファの下端から隣国エジプトに通じていた検問所を封鎖、世界各地から集められた食料や医薬品など支援物資の搬入ルートが断たれた。別ルートからの物資の投下も行われているが、ガザ地区200万人超の住人の命を繋ぐにはとても間に合わないという。深刻な飢餓と病気の蔓延が危惧される。

 世界に向けたパフォーマンスとして、イスラエルは「ラファ住民への事前の避難指示と誘導計画」「軍事作戦の民間人危害を避ける最大限の努力」を掲げるが、実態を伴わないまるで空疎なアピールであることは明らかだ。
 民間人・非戦闘員のラファ市街地からの避難と言っても、100万人単位の人々が暮らしていけるだけの生活拠点を用意しているわけではない。北部・中部は既に大部分が廃墟と化し、イスラエルの指定地域には荒地が広がるだけで大人数がとても生きていける場所ではない。

 また地上侵攻の準備期間にも空爆は続き、イスラエル側が「人道地区/非戦闘区域」に指定してパレスチナ避難民が密集していたキャンプ地にミサイルが着弾、日に数十人単位の死傷者が出ていた。
 支援物資の搬入流通ルートの確保にも全く意識を向けず、相手が何人死のうがどれだけ苦しもうがお構いなしの非道。
 そこに加えての本格的な地上侵攻の開始に、国際司法裁判所が異例の早さで軍事作戦の即時停止を勧告したが、今のイスラエルはそれでも止まれない所にまで来ているのかもしれない。

 これまでイスラエルを全面的に支持・後援してきたアメリカや西欧諸国も、今回ばかりは自衛を逸脱した過剰な戦闘行為に難色を示してここで踏み止まることを要請している。
 ただ各国の温度にはバラつきがあり、特にイスラエルに対して影響力を持つ最大の支援国であるアメリカは、国内世論がイスラエル支持と侵攻批判の真っ二つに割れて明瞭なスタンスを打ち出せないでいる。
 その同盟国である日本としては今こそ存在感を発揮してアメリカを説得し、率先してイスラエル・パレスチナ紛争の解決に尽力しても良さそうなタイミングなのだが、不気味なほど静かな沈黙を保っている。居留守でも使ってるんでしょうか?

 近現代史的に見ても、今回のイスラエルの暴挙を取り巻く環境は異質である。
 1948年にアラブ地域に強引に建国されたユダヤ民族国家であるイスラエルは、20世紀後半に周辺地域との係争を繰り返してきた。イスラム教圏の中の異教という宗教的対立もありアラブ諸国と険悪な関係が続いていたのだが、アメリカや西欧諸国の援助を受けて領土を拡大し、産業を育ててハイテク技術と強大な軍事力を有する大国に成長した。

 従来は反目していた周辺の国々も、その強さ豊かさと先進国との強固な繋がりの利便を求めて、次第にイスラエルと友好な関係を築こうという協調姿勢に変わっていった。
 ゆえに今回のイスラエルの軍事作戦に対してもアラブの人々やイスラム教徒の間で怒りは高まっているものの、国家レベルの態度としてはイスラエルに配慮して静観の構えをとらざるを得なくなっている。
 また最近の自国第一主義の風潮もあり、周辺諸国においても他国の内情への過度な干渉や避難民の安易な受け入れには経済悪化を懸念する国民の反発を招く恐れがあるとして、政府が消極的な対応をとることが多い。

 かくして世界中の多くの人々が同情関心を寄せているにも関わらず、行政府がジレンマに陥って具体的な支援も仲裁も満足に行えていないのが実情であるか。

 一方ラファのパレスチナの人々にとっても、そこを動くに動けない事情がある。老人子供や病人を抱えた家族では思うように身動きがとれないし、圧倒的に少ないながらも支援物資が流れてくる可能性がわずかでもあるラファを離れるのも思い切りがつかないだろう。
 また戦火を逃れようにも、速報では人道地区だったはずの避難民キャンプまで空爆されてしまった。他に行く当てはなく、食べ物がまるで無い荒野に向かうのも考えにくい。
 国境を越えようとしてもイスラエル軍が先回りしているし、よしんば隣国に入れても、難民として迎え入れてくれるかは未知数である。下手すると元居た場所に押し戻されてしまうかも。「国境を越える難民」とはとても微妙な、そして大抵はとても危うい立場に立たされることを意味する。

 進むも地獄、止どまるも地獄。

 少なくともパレスチナの民に、この過酷な状況下では自力救済は求められないだろう。ではイスラエル国の良心に望みを託すか、いやそれもここまでの経過を見ていると期待は出来ないように思える。
 やはり外側からの第三者の積極的な働きかけが不可欠だろう。

 アメリカやドイツなどイスラエルの後ろ盾の国に対しては、他の国々が圧力をかけて侵攻反対の意志を表明させ、断行した場合の支援停止や制裁措置を前面に打ち出させる。
 イスラエルの周辺国は外交交渉を活発化させ、同時にパレスチナ住民の一時避難の受け入れも検討する。抵抗組織ハマスとの繋がりを持つ国も多いから、そちらから手を回して停戦交渉のテーブルに何とかして着かせる。

 これには多くの国々の連携プレーが必須となる。米・露・中の3大国のリーダーシップが当てにならない今、世界中の国々が合縦して一つの目的に向け協同せねばならない。
 たぶん、一つの国の努力、一つの組織の働きかけのみでは事態は止まらない。多くの第三者が個々各々に手段を講じ伝手を辿って有効手を探り、それらが集まってどうにか実現できるかという火急の事案。

 もう猶予は無いのだろう、この惨劇を止められなければ人類は大きな後悔を共に刻むことになる。


○「戦場を逃れて廃墟を目指し荒野を行く」ことの難しさ、それに輪をかけた「国境を越える」ことの難しさ

 参考までに、この映画を。
 日本では今年5月3日に公開された「ポ-ランド・フランス・チェコ・ベルギ-」協力のドキュメンタリー映画『人間の境界』。監督は社会派映画の名手、アグニエシュカ・ホランド。

 原因が過酷な天災であれ悲惨な人災であれ、ひとたび難民となれば一身の無事安全は運に大きく左右される。
 世界的に関心が高くある程度の理解同情を得ている地域問題からの難民ですら、受け入れ先の周辺諸国での生活は困難を極める。まして社会的な関心が薄い地域問題で発生した難民は、周辺国の思惑や住民の嫌悪反発にあって困窮しながらの彷徨、また時には国境線を前に絶望的な立ち往生を余儀なくされる。

 映画『人間の境界』はヨーロッパの難民問題をより深く抉り出し、隣り合う国同士や異なる陣営間の諍いに巻き込まれ政争の道具とされる難民たちの姿を映し出す。


 公式サイト紹介文より

 「本作は、ベラルーシ政府がEUに混乱を引き起こす狙いで大勢の難民をポーランド国境へと移送する〈人間兵器〉とよばれる策略に翻弄された人々の過酷な運命を、シリア人難民家族、支援活動家、国境警備隊の青年など複数の視点から描き出す群像劇。」

〖 記録を禁じられた国境で、いま何が起こっているのか・・〗

 「ポーランド政府は2021年9月、EU諸国への亡命を求める人々で溢れるベラルーシとの国境付近に非常事態宣言を発令。ベラルーシから移送される難民を受け入れ拒否したうえ強制的に送り返し、ジャーナリスト、医師、人道支援団体らの立ち入りをも禁止した。入国を拒否された難民たちは国境で立ち往生し、極寒の森をさまよい、死の恐怖にさらされた・・・。」