『福田村事件』残照 | 高校日本史テーマ別人物伝 時々amayadori

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高校日本史レベルの人物を少し詳しく紹介する。なるべく入試にメインで出なさそうな人を中心に。誰もが知る有名人物は、誰もが知っているので省く。 たまに「amazarashiの歌詞、私考」を挟む。


○『福田村事件』残照


◇日本経済新聞 9/19(火)付 朝刊

 1面コラム欄「春秋」より




 関東大震災の発生から18日たった1923年9月19日のことである。「都新聞」で連載中の「東京災難画信」に「自警団遊び」という話が載った。東京市中を取材してあるき、見聞きしたことを挿絵と文で寄稿したのは、大正ロマンを代表する画家で詩人の竹久夢二だ。


 「万ちゃん、君の顔はどうも日本人じゃあないよ」。豆腐屋の万ちゃんを敵に見立てた子供たちの遊びがはじまる。僕を竹やりで突くんだろう、と怖がる万ちゃん。ただのまねごとと言い聞かせても納得しない。ガキ大将が、敵にならないと打ち殺すぞと追いかけまわすうち、ほんとうに泣くまで殴りつけることになった。


 震災後、流言やデマをきっかけに朝鮮人らが竹やりなどで殺害された。大人の会話や行動を子供はしっかり見ていたのだろう。無邪気なごっこ遊びにぞっとする。

 「当節は、大人までが巡査の真似や軍人の真似をして好(い)い気になって棒切を振りまわして、通行人の万ちゃんを困らしているのを見る」。夢二はさらに記した。


 各地で自警団が結成され、アナキストの大杉栄らが命をおとす「甘粕事件」の発生は9月16日。他者への差別意識や日ごろの生活への鬱屈が火をふいた。

 夢二の感傷的な絵は震災を境に人気を失う。再起をかけ渡欧。ドイツでユダヤ人の迫害を目の当たりにし、熱狂した集団の恐ろしさを日記につづるのは10年後のことだ。





◇読売新聞 9/19(火)付 朝刊

 29.社会面 シリーズ「情報偏食 ゆがむ認知」第4部 より




【 極端思考 仲間内で加速 】


 ネット空間の問題の一つ「エコーチェンバー」。SNSで自分と似たような関心を持つ人々とつながる結果、同じ考えばかりが目に入り、思考が極端化していく現象だ。


 (中略)


 近年の海外の研究によると、強いエコーチェンバーに陥った集団は、対立する考えに触れても自らの意見が修正されることはなく、むしろ攻撃的になるという。最終的には対話する意思も失い、暴力の代わりに容赦のない言葉を浴びせるようになる。





◇朝日新聞 9/2(土)付 朝刊

 16.読書面、書評欄

『同調圧力 デモクラシーの社会心理学』キャス・サンスティーン 著 白水社 2023年

評:小宮山亮磨(朝日新聞記者)




 同調圧力といえば日本人の得意技。空気を読めとか忖度とか。でも本書によれば、実は洋の東西を問わない普遍的な現象だ。


 (中略)


 その力を示したのはこんな実験だ。線を1本引いたカードを被験者に見せ、それと同じ長さの線を三つの選択肢から探させる。別に難しい問題ではないので、普通に答えてもらえば誤答はほぼゼロ。なのに周りのみんながわざと間違った答えを選ぶと、付和雷同による誤答が激増した。

 日本を含む17ヵ国での実験で、誤答率20~40%。程度の差こそあれ、どこにでもあるものなのだ。


 同調で怖いのは、連鎖すること。ある意見に賛同する人が増えていくと、異論を言える人はどんどん減り、多数派はさらに勢いづく。過激になり、ときにカルト化する。ドイツのナチス台頭や中国の文化大革命といった悲劇も生む。





○人類が抗うべき最大の敵の一つ、は人間の共同体自身に内在する「集団の狂気」であるか?


 関東大震災から百年を経て現代に至るまでに変わったこと、人が人を追いつめ尊厳を貶める攻撃の手段が、ネット上の言葉と情報の暴力に移行したこと。・・・だけ?

 人間存在の本質が百年前と大きくは変わらないとすれば、そこに内在する「集団の狂気」、「権威者への盲信と追従」「集団内の決定事項を遵守する頑迷」「構成員に同質を求める同調圧力」「同質グループ内で反響増幅する極端思考」「異質者への差別意識・排外感情」、そして「ひとたび激すると抑えが効かなくなる狂奔」。これら人間社会の負の面もまた、完全に克服できてはいないのだろう。


 こんにち科学技術は超速の進歩を遂げ続けているが、片や倫理・人道上の課題は、じれったくなるほど遅々としてしか進展しない。しかも時に無情にも、盛大に後戻りすることもある。

 それでも今ここが分岐点。終わりの見えない問題を直視するのを止めてしまうか、それともしぶとく考え続けるか?


◇ 前回記事 映画『福田村事件』


 ※ 追伸

 映画『福田村事件』。前回記事で公開劇場が少ねぇよってボヤいてたら、今週末からちょっと離れた地域の映画館で上映するって! どうやらジワジワっと評判が広まっているらしい、こんな反響なら大歓迎。行ってみべぃ、割引料金の日を狙って!