妖怪の夏、悪魔の秋 | 高校日本史テーマ別人物伝 時々amayadori

高校日本史テーマ別人物伝 時々amayadori

高校日本史レベルの人物を少し詳しく紹介する。なるべく入試にメインで出なさそうな人を中心に。誰もが知る有名人物は、誰もが知っているので省く。 たまに「amazarashiの歌詞、私考」を挟む。


 ※ 調子に乗って動画をペタペタ貼っていきましたらページが異様に重くなりました。ネット版「子泣き爺」とか「塗り壁」、或いは「脛こすり」の仕業でしょうか? とにかく動作が遅くなりがちなので閲覧にはご注意ください。

○ “夏の風物詩” 消滅の危機 !?

 いやぁ~、どうにか生き延びましたね、今年の夏。9月後半に入ってもまだ厳しい残暑が続いておりますが。日中は未だにチリチリ灼けつくような日射しにウンザリするものの、秋分の日に至ってようやく一息つけそうな風の気配。しかしここまで長かった、運良く生き延びられたんで存分に息をするんだー!
 しっかし、なんかだんだん夏が長くなってません? 間延びしてるだけじゃなく気温も目に見えて高くなってるし。幾つかの気象条件が重なった今年は特に異常な高温が長期間継続したという話だが、温暖化が亢進しつつあるなら、これに近い状態が来年以降も続くのかも。

 蒸し暑いの苦手だから、そうなったらたまったもんじゃありませんけど。今年だってバテバテにヘバってどうにかこうにか乗り越えられそうな案配なのに。
 それに期間も長くなって、今や6月中旬から9月下旬くらいまでずーっと暑い。ひと昔前は7月中頃から9月始めくらいまでが夏の盛りだったような、なら夏の範囲が2倍近くになった計算。その分、爽やかな秋の時間が縮小されるのもツラい。
 今までの異常がこれからのスタンダード、という気候変動の時代の入り口に来ているのかもしれません。

 そんな季節の変動に昨今の物価上昇や人手不足の条件が重なりまして、日本各地で “夏の風物詩” が様変わりを迫られているようで御座いまして。

・海水浴/プール
 →暑っつ過ぎて危険、日焼けを通り越してヤケドの恐れも。
・打ち水
 →朝夕も気温が下がらず、むしろ水気が増えて蒸しがち。
・花火大会
 →運営と会場準備の費用が高騰、中止・終了や観覧有料化の動き。
・スポーツ競技
 →これも暑くて屋内屋外を問わず熱中症の恐れ、高校野球や国際大会などビッグイベントも前後の季節にズラすことを検討し始めるだろう。

 かように昔ながらの風物詩も時代の推移とともに変化を余儀なくされております。まぁ大人のノスタルジーを満たすためだけに若人たちの健康を害する訳にもいかないから、安全な方向に改善されていくのは全く問題ありやせん。

 さて “夏の風物詩” といえば、昔はあちこちでお化け屋敷の興行が開かれていた記憶が。しかし世紀をまたいだ頃にはほとんど見かけなくなりました。今では大きなアミューズメントパークとかに行かないと味わえない希少な体験に。
 過剰なおどろおどろしさとか子供だましのギミックも今では懐かしい・・。いや実際には当時怖がり過ぎて、お化け屋敷の入口で一歩も動けなくなったりしてましたけど。恐怖で身体が硬直して微動だにできなくなったのは後にも先にもあの瞬間だけ。

 でも同じお化けでも、「怪談」「妖怪」「ホラー映画」なんかは立派なエンターテイメントとして夏場でも展開していますな。そりゃもう江戸時代以前から続く苔むしたコンテンツ、かと思いきや、アップデートを繰り返して今でも夏の娯楽を彩っている。
 メディア展開もマルチに広がり、本・マンガ・アニメ・映画・ゲーム・ラジオ・インターネットなどあらゆるジャンルに顔を出し。最近ではデジタル化やネット視聴などで必ずしも物理的拘束を伴わないから、昨今の夏の異常な暑さの中でも比較的安全に楽しめる。そのこともプラスに働いているのだろう。
 なにせこれら「お化け」「幽霊」「妖怪」が跳梁跋扈する唯一のフィールドは、人の “心・精神/思考・価値観” の中であるのだから。


○神経、やられる

 思うに「怪談」「幽霊」がこの季節に登場するのは、夏の暑さも関係しているのかもしれない。あまりの暑さに諸物の輪郭、境界線が歪み、滲み、中身が融け出し、混じる。
 自然物と人工物、人間と物体、自分と他人、生者と死者、この世とあの世。それらの境目が曖昧になり、どちらがどちらとも分別できなくなるこの感覚。まぁ暑さの余り万事にだらしがなくなる、とも言えますが。
 そこでこの世ならざるものをうっかり見てしまう、聞こえないはずの声を予期せず聞いてしまう、ということも、万が一にもあるかもしれない。そう思わせるのが夏の魔力というものでしょうか。

 そんな「妖怪」「怪異」が見えるのを、明治時代の人々は衰弱した神経の迷いのせいだと考えていたようで御座います。
 この「神経」の語そのものは、古くは杉田玄白・前野良沢らが翻訳図版『解体新書』の中で案出した例が初めらしく。古代中国医学由来の「神気(しんき)」「経脈(けいみゃく)」という漢語を掛け合わせたものだとか。
 「神気」は人の精神や気力、「経脈」は体内を気脈が通る経路。江戸末~明治半ばの「神経」と現代の「神経」とでは厳密には差異があるものの、人体における働きの認識はそう大きく変わるものではない。

 その神経が宿主の身体的疲労消耗や精神的ストレスによって弱まることで、各種の気の迷いが生じる。その神経病に罹っている時に錯覚してしまう幻覚・幻聴の一種が、幽霊あるいは妖怪であると。
 江戸末~明治半ばにはこの「神経」の概念と、語感までが流行語のように人々に持て囃された。その頃の文化人らもこれを積極的に摂取して、とにかく何でもかでも「神経」で説明しようとする風潮が生まれたとか。

 明治の落語名人・三遊亭圓朝の怪談『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)』の「真景」は当時流行りの「神経」の音のもじりであり、月岡芳年の浮世絵シリーズ『新形三十六怪撰(しんけいさんじゅうろっかいせん)』の「新形」もまた同様。
 「真景」=「まことの情景」、「新形」=「新しいスタイル」の意を匂わせながら、それらを見せるのは実は当人の「神経」の働きなのである、という個人主義・啓蒙思想の芽生えを感取することもできる。

 ところで今の世に流行する「神経」といえば、21世紀なら「自律神経」でしょうか。これは現代医学で立証されている神経系の働きで、読んで字のごとく「自律」的に人体内の大小様々な生理機能を細やかに調節する役割を担う。
 例えば暑ければ汗をかいたり、寒かったら汗腺を引き締めて血管を収縮させたりする、その差配を司るのが自律神経であるという。ストレスのかかる状況下では闘争反応をONにしピンチを乗り切り、逆に刺激が少ない環境ではOFFモードになって身心をリラックスさせたり。人体が無意識に行っている生命活動を、統括・調整する大切な働きを有する重要システムなのである。

 その自律神経、ある程度のストレス環境にも耐えられるように設計されているのだが、あんまり過度の負担を長期にわたって受け続けるとさすがに参ってしまう。そう今夏なんてモロに、ほとんどの人の自律神経が多かれ少なかれダメージを受けたと言っても過言ではない。
 まず第一に暑い、しかも一日中のべつまくなしに猛烈な暑さ、これで既にかなり負担がかかる。日中なんて気を張ってないと一瞬で持ってかれる程の過酷さ、夜もそのまんまだからオチオチ気も休まらず。
 たまらず冷房を効かせたは良いものの、今度は室内と屋外のかけ離れた温度差で体内の調節機能のON/OFFが頻繁に切り替えられて、仕舞いにはスイッチがバカになるという。あと冷たい飲み物の摂り過ぎもお腹の胃腸まわりを冷やしてあんまり良くないのですが、熱中症予防で背に腹はかえられず。

 そんなこんなで神経もだいぶダメージが蓄積されていると思いねぇ。さすがにこれから徐々に涼しくなって過ごしやすくなるとは思いますが、そこで気を緩めすぎて生活が放埒に傾くと、弱った神経が回復する間もなく寒さと乾燥の冬に突入しちゃう。そうなると免疫力も落ちてて冬季に体調を崩しやすくなってしまいます。
 涼しくなって身体を休ませることができる秋にこそ、暴飲暴食を慎み夜更かしは程ほどに、体力気力を補い神経を養生させることが肝要なので御座います。

 ・・ハテこの記事、何について書こうとしてたんだっけ?


○妖怪の夏

 そうそう、妖怪についてですね。

 かねてより宣言している通り、私の念願は妖怪に生まれ変わることであります。死後でも生きながらにしてでもどっちでもいいんですけどね、エエ。
 クソ暑かったこの夏こそはもしやその機が訪れるやもしれぬと、そう秘かに期待していたものです。本気で暑さにヘバってほぼ毎日木陰でぐったりしてたもんで、そろそろ何かぐにゃりと溶けて自然と一体化できるんじゃないか、と。

 でも駄目だったみたいです。まだ修行が足りないのでしょうか? あと何の要素が必要なのかもよく分かりませんが、引き続き精進していきたいと思っております。
 そこで妖怪変化(メタモルフォ-ゼ)の機会こそおめおめと逸したこの愚物で御座いますが、このたび妖怪ファン待望のイベントに生きてお目にかかることができました! 無駄な長生きでもしてみるもんじゃあ!



 京極夏彦の「百鬼夜行シリーズ」17年ぶりの新作『鵺の碑(ぬえのいしぶみ)』が、9月14日にノベルス版と単行本同時リリースで堂々登場ッ!

 いやぁ~~、前作『邪魅の雫(じゃみのしずく)』で次回作として予告されてから早や17年、待って待って待ちわびて、これもう京極先生が多忙過ぎて執筆を諦めたんじゃないかとまで絶望した最新作を、まさか拝める日が来ようとは・・。
 もう書店さんは大わらわですよ、なんせかの悪名高い「レンガ本」が久々の発刊ですからね。もしご存知でない方は、近くの本屋さんに行って売り場を見てみれば早いですけどね、単行本はおろか新書版ですらが常軌を逸した厚みと重み、まさにそれは「読める鈍器」。たぶん新刊フェアなんかもほとんどの売場で開かれているかと思いますが、レンガ本が複数冊積み上げられている様はそれはもう圧巻で御座います。塀でも作んのか?

 あんまり嬉し過ぎるんで、まだ1頁も読んじゃいないんですけどね。一寸でも読み始めたら絶対に止まらなくなる自信があるんで、何かとやらなきゃいけない事を抱えてる今の状態では手を出すわけにもいかず。これもう、来年の元旦まで封印しとこうかなと。
 それまでは間違ってもくたばるわけにゃあいかねぇし、妖怪変化の宿願もおあずけということで。


◇京極夏彦「百鬼夜行」シリーズ













◇京極夏彦「巷説百物語」シリーズ






 ついでと言っちゃあ何ですが、「百鬼夜行」に並ぶ京極夏彦の人気シリーズ「巷説百物語(こうせつひゃくものがたり)」も載っけちゃいました。
 この「巷説百物語」も20年以上続く息の長いシリーズですが、どうやらそろそろ完結する段に入ったかと。

 ちょうどこの夏の間にこれまでの既刊を未読だった分も含めて一気に読み返してまして、改めて面白さを噛み締めていた所。そのシリーズが完結しちゃうのは甚だ寂しいですが、語り始めると長い百物語も続けていけばいつかは終わる定め。ここはどんなラストが待ち構えているのかを、指折り数えて楽しみにしておきましょう。

 現在シリーズ最新作である『了(おわりの)巷説百物語』を妖怪学機関誌『怪と幽』で連載中なんですが、そこでクライマックスが近い。シリーズを通して主人公たちが対峙してきた巨悪とついに決着間近、たぶんあと1~2回分で終幕となると予想される。
 掲載誌『怪と幽』が年3回刊行なんで次回は12月末、ちょっと先なんだけどそこでほぼ完結と見てよさそう。エピローグ的な話がもう一回ぐらいあるかもしれないけど。



○百鬼夜行といえば・・・

 そのまんま、百鬼が夜闇に練り歩き行く様を表す言葉ですな。こんな風に↓。



 練り歩いてるの人間の方が多いじゃないか、とかは言いっこなしで。ともあれ、「渋谷事変」編はこの先どえれぇ展開が目白押し。五条先生~!
 そんで「百鬼夜行」といえば、こちらも思い浮かびますな↓。


 更には「もののけ」「よーかい」「あやかし」「バケモノ」がこの21世紀にいよいよはびこる中で、一服の清涼剤みたいな地位を確立したこの作品↓。

◇『夏目友人帳』緑川ゆき 白泉社「LaLa」


 漫画『夏目友人帳』も気づけば長期連載になりました、そのアニメシリーズ7番目のタイトル『夏目友人帳 漆(しち)』が制作決定だそうです。にゃんこ先生~!

◇劇場版『モノノ怪』2024年公開予定


 すったもんだがありまして、メインキャストを変更しての来年公開予定。でも声優が神谷浩史さんなら違和感が無いように感じられるから、あとは内容をじっくり煮詰めて満を持して銀幕に掛けて欲しい。

 そういえばこの『モノノ怪』シリーズ、元々はフジテレビ系「ノイタミナ」で放映したあるオムニバスアニメから派生したもの。元を『怪 ~ayakashi~』と言い、その第1弾が『四谷怪談』でありました。「四谷怪談」といえば伊右衛門、お岩。
 そこで京極先生にも同じ鶴屋南北の怪奇劇「東海道四谷怪談」を下敷きとした、狂おしいほどの恋慕情の末の悲劇を描いた異色作が御座います。



○いよっ、御大(おんたい)!!

 そしてオオトリは、やはりこの方にご登場願いましょう!
 っていうか鬼籍に入られて数年経つのに、ここに来て益々の八面六臂の大活躍のご様子。さっすが我らが大先生! ヨッ、妖怪大統領!(←なんかネズミ男が権力者に媚びへつらってる時みたいになった。)

◇『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
 新作劇場アニメが今秋 11/17 に公開予定! 鬼太郎誕生前夜を描く渋いチョイス、主人公は目玉のオヤジの外の人!!




◇アニメ『悪魔くん』Netflixシリーズ 11/9 より配信スタート!(ネットフリックス配給だから有料視聴環境が必要だけど、そのうちBSとかでも放送すると思う!)




 11月公開の話題のアニメ2作品を当て込んで、もとい、記念しての商品展開も其処此処で行われる模様。親戚の子供の為ですよぅ、とか何とか言いつくろって自分用にコレクションしていきたい所存!

 ところで、水木翁と京極夏彦さんとは師弟の間柄。歳はだいぶ違えど仕事上でもプライベートでもお互いに触発し合いながら、昭和~平成の妖怪ブームを牽引してきた御二人である。
 たまさか京極先生の執筆活動の勢いと水木漫画アニメ化のタイミングが重なっただけのようですが、それにしても縁は異なもの味なもの、妖怪好きにはたまらない一年となりそうです!

 ・・待てよ、それにしても手際が良すぎる。まさか御大、こっそり化けて出てこのムーブメントの総監修とかしてるんじゃあるまいな・・?
 そういや今日は秋分の日、秋のお彼岸の中日。お彼岸といえば “彼岸” と “此岸” が近くなって、此の世と彼の世とで思いが通じやすくなる時節だとか。
 ならば存命中から半ば妖怪化していたような水木翁、通力であの世から関係者に暗示を飛ばすみたいな珍妙な芸当をこなしている可能性も十分にあり得る。

 オンキリキリバサラウンハッタ、南無三、くわばら、波羅蜜多、エロイムエッサイム我は求め訴えたり!

 君の後ろに、黒い影・・・。


*映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
 観賞後感想:
 まさかあんな、「横溝正史ミステリ/バディの友情/悲恋/ド派手なアクション」てんこ盛りの内容になるとは! しかも60年越しに漫画版『ゲゲゲの鬼太郎』序章に新たな意味を付与する積極的な繋げ方、不覚にも涙・・・。

*『了巷説百物語』誌上連載完結
 いっけね。そういや最終話って、誌上連載終了後の書籍出版時に書き下ろしで収録されるんでしたっけ。というわけで、万象が収斂するクライマックスは今しばらくお預けと・・・。