大学生の頃、喫茶店でバイトしていました。
働き出した頃、み〜んな絶対6ヶ月以内にグラスのコップを割るというジンクスを聞き
熱血な若者だった私は
「いや、絶対そのジンクス破ってやる〜!」と思い
毎日、細心の注意を払ってお皿もコップもコーヒーカップとかも丁寧に扱うように気をつけていました。
確か6ヶ月はクリアしたと思うんですけど、でもその日はやっぱりやってきた。
お客さんに水を持って行こうと手を伸ばしたとき、持ち上げた途端につるっと手から滑り落ちてしまいました。
「あ〝」
声にならない叫びと共にまっすぐ落ちていくグラスに目が釘付けになりました。
すると変なことが起きたんです。落ちるコップのスピードがすごーーーくゆっくりなんです。
それなのに私は「ん?なんか今ちょっとだけど照明が暗くなった?」ってそっちが気になったりして状況が良く飲み込めていませんでした。
普通なら一瞬で地面に落ちるはずのコップが、10秒以上かかってゆっくりと地面に到着。
まさに到着、という感じだったな。
そして地面に着地したとき、ゴンっというボーリングぐらいの大きくて重たい金属のボールが硬い地面に落ちたような、鈍くて低い音がしました。
なんだ、今の音は?
と思っていると、
コップが地面から跳ね返って垂直に5cmぐらい浮かび上がりました。
「ああよかった!割れなかった。」
と思った瞬間、コップ全体に細かくヒビが入り
全体が2cmぐらい膨らんだ感じにポンっと広がり
それから花火が開くみたいに、キラキラ光りながら割れたコップの破片も水の粒もふわ〜っと丸く大きく球状に広がって行きました。
ああ〜やっぱ割れた。
さて私は入り口を入ったすぐのところに立っており
私の左側は狭いホールになっていて、右側はひらけた客席でした。
コップが花火みたいにキラキラ光りながら拡散していく光景に見とれていると
今度は左側のホールの方から、薄くて硬い金属の大きな板を震わせるような
グアングアングアングアンという音が聞こえてきたので、
ん?と思ってそっちの方に振り返りました。音は見えないけれど、だんだんその音がこっちに近づいてきてる…つまりだんだん大きくなってきているのをはっきりと感じました。
なんの音かな?と良くわからないでいましたが、その音が自分の耳元にたどり着くと、低い音からシンバルを激しく叩くようなシャアアアアアアアアアンンンという高い音へと変わり
それで初めて
あ、これってガラスが割れる音なんだ!確かにガラスが花火みたいに割れた時には音がなかったね、と気がつきました。
それからそのシンバルのような音は右側の客席の方に遠ざかっていきました。音を追って右を見ると客席のお客さんがコップが割れたことに気がついてこっちを振り返るのが見えました。
そしてまた始めと同じように唐突に普通の時間に戻ったのです。
びっくりしたので、その話をみんなにしたら、意外とそういう体験をする人は多いことを知りました。
こんな実験をして再現しようとした研究もあるとか
脳が加速するとき:「恐怖の時」はなぜ遅い?
この研究でも苦労しているけど、スローモーになる程の体験は『唐突に』ショックなことがあるから起きる反応であって
やろうと思ってできるもんじゃない、というのはありますね。
ま、普通は事故にあったりとか生死を分けるようなショックなことがあって体験することが一般的で、私みたいにコップ割ったぐらいでそんな目に合う人なんぞ聞いた事ありません。
割れたコップを片付けながら、我に返って
「バカだった、あんなにゆっくり落ちていってるんだから地面に落ちる前に拾うことだってできたはずじゃないか。コップはスローモーになったけど自分は普通のスピードで考えて動けてたのに。」
今度もしコップを落とすことがあったら、絶対地面に着く前に拾ってやる!
それから2年ちょっと働いて後もう一回ガラスを割ったことがあったけど、その時は普通のスピードで普通に割れちゃって落ちる前に受け止めることはできませんでした。
あの時のことを思い出すと、普通なら絶対に聞こえないあの音。あの音を思い出します。
よく超スローモーションの動画はネットでも見るけど、
超スローモーションの音って聞いたことないなぁ。超スローモーションで録音できる機械があったらあのゴン!とかグワングアンとか、シャアアアアアアアン!という音が聞けるのかな。