熱血歌バカ物語
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熱血歌バカ物語 その78

レコーディングの第一段階はリズムトラックの構築である。
とりあえずは、全パートでスタジオに入るのだが、本番テイクとして欲しいのは、
ドラムとベース。
他のパートは、その曲の全体のグルーヴを出すために、かなり本気の「お付き合い」演奏をするのだ。俺も然り。
順番はこうだ。ドラム→ベース→リズムギターまでで第一段階は終了。
その後、仮歌と仮コーラスを入れて、全体像が見えるところまでを1日1曲のペースで
行うのだ。
真剣なレコーディングとその後のギャップが凄い。
スタジオからの人の流れは、まず、ドラムのウェインが「トオル、トナリのパブでマッテルヨ!」的な微笑みを残し、出て行く。
でもって、ベースのロビーがOKテイクを録り終えると「トオル、ハヤクコナイト、
ヨッチマウゼ~~!」的な微笑みを残し、出て行く。
でもって、次にギターのコナーが「チョット、ギター、ヒキタリナイゼ~!」的なナイーヴな
微笑みを残し、出て行く。
コンソールでは、ジョニーが「トオル、ギネス、ギネス!!」と叫んでおり、それをエンジニアのリチャードが笑っている。
さあ、仮歌一本勝負!である。が、だいたい10本勝負くらい挑んでしまうので、
俺がパブに行く頃には、メンバーはほぼ出来上がり!の状態なのだった。

とはいえ、スタジオとちょっと距離を置いた状態で、しかもすぐに飲みながら
レコーディングを振り返ることが出来るのは、なかなか良い感じである。
テンションが高いままなので、飲み過ぎる傾向にあるのがやや問題ではあるが、
一緒に「音」を創っているメンバーとの会話は、なんとも心地良いのだ。
音楽の話だけではなく、その店で食べているものから、お互いの国の食文化の話に発展したり、お互いの国で何が流行っているのか、たわいのない話なのに、とても気持ちが持っていかれる。
この場所だけで語れるはずもないが、確実に「アイルランド」にハマりつつある自分がいた。
なんか、良いぞ、ここは!と、ギネスに言わされているのだろうか?(笑)

翌日のスケジュールをその日最後の真面目な顔で確認し、それぞれが家に帰る。
俺を含めた日本から来たチームは、ダブリンの中心から車で20分ほどのコテージ風?な宿舎に
戻るのだ。
その道中が、あまりに真っ暗だったので、いったいどんな道を走っていたのか、
俺の記憶には欠片も残っていない。
しかし、運転手はかなりのスピードで突っ走っていたことは覚えている。
うん、生きてて良かったね。
ギネスの苦みがとても良い夜をくれた。

熱血歌バカ物語 その77

ナチュラルハイとはこのことか?
特に何があるわけじゃない。音楽家がレコーディングをするだけなのだ。
ただ、ちょっと場所とメンバーが違うだけ。
しかし、確実にいつもより脈が速い。あまり良いことじゃないな、と自覚し、
冷静さを失わないように言い聞かせる。

「これは仕事なんだ!」と。

確かに環境的には「上がる」要素はたくさんあったが、落ち着いて周りを見回すと、
例えば、スタジオの設備や機材的な面での古さなどが見えてくる。
ヘッドホン一つとっても、ちょっとくたびれた感じだったりね。
そして、ある一つの現実が俺の頭ん中を支配するようになってくる。

「これは仕事で、しかも結果を伴わなければならない!」と。

俺は新人ではなかったのだ。
当たり前のことだが、このレコーディングが実現している事実が含んでいるのは、
結果を伴う作品の完成が前提となっている。
つまりは、出来なければ未来はないということだ。
しかも、このレコーディングは、事務所主導で行っているわけで、レーベル主導ではない。
レーベルが見つからない故に、作品でレーベルを納得させようという、事務所の戦略に
基づいて進んでいた。
現在の俺ならば、それがどれだけのリスクを伴ったものかは容易に理解出来るし、俺ならば
GOサインを出せなかったと思う。
当時の俺はそこまでの理解は出来ていなかったが、それでも緊張感は、どこかで張り付いて
いたように思える。
とにかく「やるしかねえ!」という、ありきたりな結論で気合いを入れ、作業に没頭して
いくことに決めた。

RECの行程は、国が変わっても同じで、リズムトラック、ギターダビングを経て、ヴォーカルRECという流れで行っていく。
ヘッドホンが、日本ではほぼ100%ソニーのもので行っていたんだけど、ゼンハイザーという
ドイツのヘッドホン、しかも、かなり古いタイプのもので状態も悪く、モニタリングが難しくて、歌うことに集中するまで時間がかかってしまった。
スタジオで、バンドのメンバーと一緒にRECするのは、仮歌だけなので、気にしなければ
問題ないレベルだったんだけど、俺としてはいつでもベストの状態で歌っている必要があったのだ。
言葉でのコミュニケーションが足りない以上、「歌」で説得するしかない!
バンドの実力を引き出すには、それしか策がなかったのさ。

熱血歌バカ物語 その76

同じことでも環境によって感じ方が変わる。
ずっとやってきたことなのにね。
オノボリサンのレコーディングが始まりました。




さあ、海外レコーディングのスタート!
宿舎から車で20分。特に渋滞があるわけでもなく、新旧が混ざり合った街並を
眺めながら、スタジオに向かう。
さすがに何処を走っているのかはわからないけど、なんとなく気分が上がる。
心地良い高揚感だ。
ヴォーカルとしての出番は、レコーディングの後半の過程になるので、「歌いたい!」
という感情が沸き上がることはなかったが、確実に興奮していた。

興奮の源は、これから逢うメンバーだ。
プロデューサーのジョニーのコーディネイトで、レコーディングのメンバーは、日本から
動向したマニピュレーターの宮本氏以外、全員現地アイルランドのミュージシャンで行う
ことになっていたことが理由であった。
「いったいどんなヤツなんだろう?」と不安と期待で妄想モードはレッドゾーンに突入し
つつ、車は非常な安全運転でスタジオへ。

スタジオ到着!
なんか、入り口からして、日本とは違う雰囲気だわ。
インターホン越しにジョニーがなにやら喋ってる。しかも、なんか揉めてる??
「???」な感じで様子を見守っていると、ジョニーがニヤっと笑って、入ろう!
というジェスチャー。
「まあ、いいか」ということで、中へ。
とりあえずミーティングルームのようなスペースに荷物を置き、コンソールへ。
そこで待っていてくれたのは、エンジニアのリチャード。
相変わらず、イイ男だぜ!
で、そこからスタジオのメインブースに。ドラムのセッティングをしていたのは
ウェイン。彼はRolling Stonesのギタリスト、キースリチャーズのソロツアーで
日本にも来たことがあるとのことで、I Love Japanモードで握手が熱かった。
それからベースはロビー。彼も人懐っこい笑顔で、「おお、こいつは年上キラーだぜ!」
などと、初対面ながら思わざるを得なかったのね。
で、ギターのコナー。彼はコアーズのサポートギタリストということで、当時、俺は
コアーズ好きだったので、ちょいとミーハーモードになっておりました。
コナーの風貌は、線が細く、いかにもナイーブな感じで、俳優でも通じるルックス。
いるんだねえ、こういうオトコって。な、感じさ。
とりあえず初日はこのメンバーで、基本的な音作りから、ベーシックトラックの
レコーディングへ。
徐々に、全体の「音」が出てくると、まあ月並みな言い方だけど、「音楽に国境無し!」
のフレーズが浮かんでくる。
でもね、なんか違うんだわ。それが良い意味か、悪い意味か、まだ実感が湧かないのさ!
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