改:第686話.大人になりたい【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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第686話.大人になりたい

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

ジュンサンとミニョンは早々にGED(高等学校卒業程度認定試験)に合格すると、大学入試の統一試験で高得点を得るため、ひたすら勉学に励んでいた。アメリカの大学合格までの期間はとても長い。前年の秋9月からガイダンスカウンセラー(進路担当教師)と志望する大学を決める。12月には統一試験を受け1月には大学へ成績表を送る。大学合格が分かるのは3月だ。5月には入学の手続きをとる。そのあとは8月末まで長い夏休みだ。そうして9月の入学を心待ちにして過ごす。

合否の判定は統一試験の点数だけではない。課外活動の実績やエッセイ、面接も行われる。ジュンサンはミニョンの後を継ぎ、セウンが請け負ったヘイデン・プラネタリウム別館建設のへの参加から、貴重で有意義な経験を得る事となった。

一方ミニョンは、その研ぎ澄まされた感性と美声を活(い)かし、フローラと共に児童書の朗読をデモテープへ吹き込み、学校や施設へ送っていた。中でも児童施設の子供たちは大喜びだった。児童施設へ保護された子供たちは親から十分な愛情を受けておらず、本を手にすることさえ儘(まま)ならなかった。中には教育も十分に行われず、字を書く事も読む事も出来ない子供もいた。子供たちは新しい物語に目を輝かせ耳を傾けた。ボランティアだけではなくミニョンの魅力的な声に、大人も子供も胸をワクワク踊らせた。

もう一人、コロンビア大学へ進学するように言われたキム・ヒョクスもセウンの現場でテキパキと仕事をサポートし、スピードと要領の良さを強く印象づけた。

3月、コロンビア大学の合否を緊張の面持ちで待っていたのは、他ならぬキム・ヒョクスだった。合格通知を受けたヒョクスは同じ言葉を何度も繰り返した。
「キム・ヒョクスがコロンビア大学へ合格だって!?…この俺が?信じられん」
ジュンサンはクスクス笑い出した。
「何度言っても合格は一度ですよ」
「奨学金を考えていたんだよ」
「キム・ヒョクス何人分?」
「一人分だ」
「奨学金は複数申し込めますよ」
「あっ、そうか」

入学の手続きを終えると夏休みだ。ミニョンはテキサスの別荘へ行く用意をしていた。ジュンサンはパリ郊外の別荘でバカンスを過ごす。祖父のテソンと祖母のソンヨン、三人でテワンより一足先に行く。テワンはミヒのコンサートツアー終了を待ってパリへ向かう事になっているのだが、実はミニョンと共にテキサスの別荘で数日間を過ごすことになっていた。ケンイチには両親と過ごすようにと休暇を与えた。身の回りの世話にミニョンに会いたがっていたウンミンも一緒に連れて行く。ミニョンにはフローラが付き添い、後からダニエルとヒエ夫妻が合流することになっていた。

ところが出発して直ぐにアクシデントが起きた。ウンミンが熱を出したのだ。
「申し訳ございません」
「気にしないで。僕は大丈夫だよ。眠くなったら寝るだけだから」
「ミニョン坊っちゃん」
「そんな顔するなよ。直ぐに目が覚めるから」
「それよりウンミンさんは別荘に着いたら直ぐに安静にして下さいね」
「それでは私の仕事が出来ません」
「ダメだ。熱が下がるまでベッドから出ないこと。これはパパの伝言だからね」
「ゆっくり休んで、ウンミンさん」

ミニョンとフローラは夕食を終えると仲良く食器を洗った。
「なんか、新婚さんみたいだね」
「ふざけないでよ」
「フローラ、僕たち今夜、結婚しちゃおうか」
「えっ!?」
ミニョンはフローラの手から滑り落ちた皿をキャッチした。
「危ないなぁ」
「ミニョンが変なこと言うから」
「本気だよ。だって二人きりだろう」
「ウンミンさんがいるわ」
「薬が効いて朝まで眠っているよ」
「は、早く熱が下がるといいわね」
食器を洗い終えたミニョンはさりげなくフローラに告げた。
「お風呂に入るから一緒に来てくれる?」
「ダメよ、そんな急に」
「バスタブで眠ってしまうと危ないから近くにいて欲しいんだ。声を掛けるだけでいいから」
「そ、そうよね」

ミニョンはバスタブの中で眠る事もなかった。出て来た彼はフローラに囁(ささや)いた。
「君も入って。ゆっくりでいい」
「あ…うん」
「後から部屋へ行くよ」
「えっ?」
「君のベッドで一緒に眠りたい。言ってる意味、分かるよね」
フローラは言葉に詰まった。
「緊張しないで、僕に任せて」

しばらくするとミニョンはフローラの部屋へやって来た。
「ベッドへ行っていい?」
「あ…うん」
「パジャマ、可愛いね。初めて見た」
「そう?…ありがとう」
「でも直ぐに要らなくなるけど」
ミニョンはフローラの胸元へ手を伸ばした。
「待って、灯りを消すわ」
「フローラ、愛してる」
そっとキスをするとミニョンはフローラを見つめた。その眼差しは甘くロマンチックだったが、彼の口から出た言葉は違っていた。
「眠い、フローラ。僕…眠っちゃう」
ミニョンはフローラの胸の中でコトリと眠りに落ちた。

彼女はミニョンを抱いたまま優しく髪を撫でていた。彼は15分もすれば目を覚ますだろう。私はどうしよう。フローラはミニョンをベッドへ下ろすとパジャマの胸元を整えた。ベッドから立ち上がると彼はちょうど目を覚ました。
「フローラ、ごめん。行かないでよ」
振り向いたフローラは笑っていた。
「怒ってないわ」
「もう一度チャンスをくれる?」
「もう少し待ちましょう。大人になってからでいいから」
「僕はもう大人だよ」
「大人になったらナルコレプシーも良くなっていくわ」
フローラはミニョンの頬に優しくキスをした。
「私の気持ちは変わらないから」
ミニョンは少しだけ口を尖(とが)らせた。
「早く大人になりたい」

次回:第687話.美男のエイリアン

(風月)