第一華



「秋月涼、どうしたのですか。レッスン後だというのに体が硬いようですが。」
「え?そ、そんなことないですよ。」
「なにやら、緊張しているようですが。私と一緒は緊張しますか。」
「そんなことないです。き、急に声をかけられたからまだちょっとドキドキしてるだけで。」

なんでだろう、貴音さんの前だと全部見透かされてる気がする。
そういえば、初めて会ったときも愛ちゃんや絵理ちゃんにはばれなかったのに一瞬で見抜かれたっけ。

「誰しも、秘密の1個や100個持っているものです。」
「え?あ、えっと……」
「ふふっ、さあ着きましたよ。」
「貴音さんはよくここに来るんですか。」
「えぇ、ここは私のお気に入りの店。」

そうなんだ、ここに通ったら貴音さんに会えるのかな。
でもそれはそれでかっこ悪いから嫌だな。

「さあ、入りましょう。私お腹がすきました。」
「はい、初めてのお店なんでオススメの味とか教えてもらえると嬉しいな~なんて。」
「では、私がいつも食べているのを二つ注文しましょう。」

貴音さんと一緒のラーメン……
なんで、こんなに緊張してるんだろう。

「では、いただきましょう。」
「す、すごいボリュームですね。」
「なんと……これが普通ではないのですか。」
「こんなにすごいボリュームのラーメンは初めてです。」

貴音さんはこの量を一人で食べきるんだ。
た、食べれるかな……

「いただきます。」
「いただきます。」

黙々とラーメンを食していく貴音さん、なんか圧倒されちゃうな。

「どうしました、箸が進んでいないようですが。」
「そ、そんなことないですよ。」
「もしや、口に合わないと。」
「そんなことないです!とてもおいしいです。」

うぅ、貴音さんの前だと変に意識しちゃって食べるのに集中出来ないよ。
と、とにかく食べきらないと貴音さんにもお店の人にも失礼だね。

「ご馳走様です。」
「ご馳走様でした。」
「どうでしたか。お腹いっぱいになりましたか。」
「はい、とても……」

こ、この量を食べて顔色変えない貴音さんって……
僕もたくさん食べれるようにならないと駄目かな。

「貴音さん。」
「何でしょう。」
「また一緒にラーメン食べに行きましょうね。」
「そうですね。次に行くときは秋月涼、あなたのオススメのらぁめん店にでも。」
「そのときまでにいい店探しておきます。」

よし、これで次の機会を作れたぞ。
少しずつでも自分をアピールしていかないと。

「それでは、また会いましょう。」
「はい、貴音さんも気をつけて帰ってくださいね。」

次会う前においしいラーメンのお店探しておかなきゃね。
うん、自分の気持ちにはっきり気付けた。これで、全力で物事を取り組んでいける。
明日からも頑張るぞ!


第三華 ~へ続く
一体いつからだったんだろう。
僕の中にこの気持ちが芽生えたのは。
どうして気付いてしまったんだろう。
理由はわからない。恋なんてアイドルしてる間はしないと思っていたのに。

(貴音さん……)

「涼さーん!おはようございます!」
「あ、愛ちゃん、おはよう。」
「涼さんなんだか元気ないみたいですけど。」
「そ、そうかな?ちょっと考え事してただけだから大丈夫だよ。」

愛ちゃんに心配されるくらい顔に出てたんだ。
しっかりしないと!


「ふぅ、今日もこれでお終いだね。」
「涼さん、調子悪い?」
「え?そんなことないけど。」
「なんか、いつもより動き悪かった?」
「そ、そうかな?」
「悩み事あるなら相談に乗る?」
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね。」

絵理ちゃんにまで心配されちゃった。
そんなに影響でてるのかな。
たまには外食でもして気分を変えてみよう。
うん、そうしてみたら何か変わるかもしれない。



「もし、そこにいるのは秋月涼ではありませんか。」
「た、貴音さん!?どうしてここに。」

静かに胸が高鳴る。会って再認識する。
僕やっぱり貴音さんのことが好きなのかもしれない。

「やはり、秋月涼でしたか。」
「こんばんは、貴音さん。」
「おや、声が上ずっているようですが大丈夫ですか。」
「れ、レッスン終わりだったんでちょっと疲れてるだけです。」
「それならいいのです。では、私とらぁめんを食べに行きましょう。」

えぇ!?い、いきなり二人きりで食事は緊張しちゃうよ……
ど、どうしよう。元々外食しようかなと思ってたから断る理由もないし。
お、思い切って一緒に食べに行こう。

「是非、お供させてください。」
「よい心意気です。では、行きましょう。」

急にではあるけど、貴音さんとラーメンを食べに行くことになった。
すごく嬉しい反面、すごく怖い。
自分が自分でなくなっていくような気がして……

第二華 ~へ続く
「この前のライブ楽しかったですよね!」
「うん、私達も頑張った甲斐があった?」
「ディアリースターズとして、私達がやってきたことが認められるって嬉しいよね。」

大きな仕事が一つ終わり、ほっとした様子の876事務所内での会話。
自分達だけのライブではない。他プロダクションとの合同ライブなんてそうそうあるものではない。
その合同ライブの中に自分達がいた。それはとても光栄なことであった。

「私もあこがれの春香さんと同じ舞台に立ててすっごく嬉しかったです。」
「今までは追ってばかりだった先輩達と一緒のステージに立てたのは、すごくいい体験。」
「私は律子姉ちゃんと一緒だったからすごく緊張したけど、やっぱり楽しいよね。」

各々が先日のライブを振り返る。
それぞれ違う思いがあったにしろ目指すところは同じであった。

「そういえば、私気付いたんです。」
「愛ちゃん、何に気付いたの?」

はっと思い出したように愛が腕を突き上げる。
顔には満面の笑みを浮かべていたが、それを見た涼はあまりいい予感がしていなかった。

「あの、ジュピターの御手洗(おてあらい)翔太さんってぼっ」
「愛ちゃんストップストップ!名前も間違ってるしそれ以上は言っちゃダメだよ!?」
「え!?絵理さんに読み方聞いたんですけど、絵理さんが間違ってたってことですか!」
「私はちゃんとわかってる?面白そうだからそう教えただけ?」
「絵理ちゃーん!せっかくみんな仲良くなったんだから喧嘩売るようなことはやめようよー!」
「それでぼっちの翔太さんは本当はなんて言うんですか?」
「ぎゃおおおおおおん!?ぼっちじゃないし、おてあらいじゃなくてみたらいさんだよー!」
「涼さん……どんまい?」



くすくす笑う絵理。大笑いの愛。
そんな二人に一人焦っている涼。
今日も876プロは平和であった。


~Fin~