これは、とある浮気性のPが刺されるまでの物語である。
浮気をしている人、しようと思ってる人は思いなおしてほしい。
そして、自分が愛する人をただひたすらに思い続けることを切に願う。


「春香、今日のライブも最高だったよ。」
「ありがとうございます。」

天海春香、俺がプロデュースを担当するアイドルの一人だ。
初めこそこれと言ってぱっとするものはなかった。
レッスンを積み重ね、小さな仕事から経験していった。
そして今、日本を代表するトップアイドルの一人として登りつめた。

「あの、プロデューサーさん。」
「どうした?」
「えっと……その、いつものご褒美を……」

とても恥ずかしそうに春香がご褒美を求めてくる。
最初はただのアイドルとプロデューサーの関係だった。
それが共に仕事をしていくうちに芽生えた気持ちから、いつしか関係を持つようになった。

「全く、春香はいやしんぼだな。」
「プ、プロデューサーさんのせいですからね!」

何度こんなやり取りをしただろうか。
それすらわからないほど、二人の仲は密であった。

「それじゃ、いつものところでな。」
「はい、プロデューサーさん。」

春香がアイドルとしての地位を上昇させるにつれて怖いもの、そうスキャンダルだ。
しかし、それすらも悦に感じるこの背徳感がたまらない。
バレさえしなければ、こんなにも楽しいことなんだ。



「春香、待たせたな。」
「いえ、私も今来たところです。」
「それじゃ、見つかる前にな。」

二人がいつも使う場所、都心から離れた遠い場所だ。
駐車場が内部にあるタイプ、念には念をってやつだ。
いつものように、いつもの場所で楽しむ行為。
それは時に永遠すら感じさせるものであった。

「春香、愛してるよ。」
「わ、私もです。」

頬を赤らめて照れくさそうな春香。
二人はさらなる深みへとはまっていった……



「それじゃ春香、次の仕事でな。」
「はい、あの……プロデューサー?」
「なんだ?」
「雪歩のプロデュースも頑張ってくださいね。」
「ああ、春香に影響が出ないように頑張るさ。」

萩原雪歩、彼女もまた春香と同じアイドルの一人だ。
最近伸び悩んでいるらしく、春香をトップアイドルまで育てた俺に仕事が回ってきた。
確かに、春香は俺が直接仕事を取らなくても仕事が入るくらいに成長した。
つまり、余裕の出てきたところに次なるアイドルのプロデュースを任されたって事だ。

「プロデューサー。」
「どうs……」

春香が頬にキスをしてきた。

「それじゃ、プロデューサーまた次のお仕事で。」
「おう、気をつけてな。」

こうして、春香とのささやかな時間は終わった。
次の一緒の仕事の日まで……



with春香 Fin
営業も結構重労働だな。
俺は新人プロデューサーとしてプロデュース中のアイドル菊地真のために仕事を取っている。
本人は女の子らしい仕事がたまにはしてみたい。
とは言うんだけど、どうやら中性的なアイドルとしての見られ方が強いためなかなか見つからない。

「戻りました。」
「おう、後堂戻ったのか。」
「前先輩、今日はお休みでは?」

大先輩の前プロデューサー、今ではトップアイドルと言われる天海春香をプロデュースした人だ。
俺もいつかこのようなプロデューサーになりたいと思う。

「休みだったんだが、音無さんに頼んでた物が手に入ったということなんでな。」
「小鳥さんにですか?」
「あぁ、後堂は旅と鉄道って雑誌知っているか?」
「いえ、初耳です。」

旅と鉄道?タイトルから想像すればきっとそのままなんだろうけど。

「そうだろうな、俺みたいな鉄道マニアにはたまらない雑誌なんだがな。」
「前先輩は鉄道好きなんですか?」
「別に隠していたわけじゃないんだがな。興味ない人に押し付けても迷惑だからな。」

迷惑かどうかは聞いてみたいが、こういう人の話は止まらないとも聞くしな。
うーむ、でもそのうち聞いてみよう。

「もし、機会があればお話を聞いてみたいかなと。」
「そうだな。そのうち飲みにでも行こうか。」
「はい、そのときは是非。」

ま、まさか大先輩と飲みにいけるかもしれないなんて。
これは、それだけでも十分な価値があるぞ。



「プロデューサーいますかー?」
「おや、真か。」
「新しい仕事はどうですか?」
「うっ、それがだな……」

正直にまたいつも通りの仕事しか取れなかったと話した。
真も少し残念そうにしてる。
あぁ、俺はなんて無能なんだ。

「菊地さん、後堂も頑張っているんだ。そのうち君が望む仕事を取れる男になるさ。」
「前先輩……」
「え?あ、僕は仕事をもらえるだけで嬉しいです。」

真……俺、もっと頑張るよ。
よし、少しでも真のよさを伝えれるように頑張ろう。

「よし、真さっそく仕事の打ち合わせだ。」
「は、はい。」
「それでは、前先輩失礼します。」
「あまり張り切りすぎるなよ。少しくらい肩の力を抜いたほうがいい仕事できるぞ。」
「はい、ありがとうございます。」

よし、すごいやる気になってきたぞ。
俺も絶対前先輩のように素晴らしいプロデューサーになる。

「真、俺頑張るから。一緒にトップアイドルを目指して頑張ろう。」
「はい、プロデューサー。信頼してますよ。」



二人の絆深まる一日であった。
「プロデューサーさん。」
「お、春香どうしたんだ。」
「お菓子作ってきたんで食べませんか?」

ふむ、ちょうど仕事もきりがいいし休憩するか。

「わかった。少し片付けたら行くよ。」
「いつものところで待ってますね。」

鼻歌を歌いながら春香はいつもの休憩室に行った。
俺は仕事の資料をきちんと整理して片付ける。

「小鳥さん、休憩行ってきますね。」

返事がない、いつもの世界へ旅立っているようだ。
まあ、いいか。あまり待たせたくないし行こう。

「春香、待たせたな。」
「そんなことないですよ。プロデューサーさんは何飲みますか?」
「たまには紅茶にしようかな。」
「今入れてきますね。」

こうやって女の子と一緒にティータイムなんて洒落た時間を過ごせるのはここのいいところだな。
そういえば、今日はどんなお菓子作ってきたのか楽しみだ。

「プロデューサーさん、ティーパックどこにあるか知りませんか?」
「ん?何探してるって?」
「ですから、ティーパックどこにあるか……」
「その前に春香、一旦ここに座ってくれ。」

イスをひいて座らせる。春香は頭にはてなを浮かべているが大人しく座った。
大人気ないがこれは我慢できない。

「春香、あのな。ティーパックじゃなくてティーバッグだ。」
「え?え?」
「確かに今ならティーパックでも通じる。だが、俺は正しい言葉を覚えてもらいたいんだ。」

みんなよく勘違いしているが、正しくはパックではなくバッグなのだ。
そんな細かいことをと思われてもいい。
俺は俺より若い世代の子に出来るだけ正しく言葉を覚えてもらいたいのだ。
そして何より、細かいことに気をつけることはアイドル活動の中でも役に立つはずだ。
どんなに細かい部分でも妥協しないでやりぬく、そんな力が身につくと信じている。

「ご、ごめんなさい。プロデューサーさん。」
「わかってくれて嬉しいよ。さあ、一緒に探しに行こうじゃないか。」
「は、はい!」

少ししょんぼりしていたが、すぐに元気いっぱいの笑顔を見せてくれた。
二人で給湯室を探したが見つからないのでどうやら切らしているようだ。

「ないみたいだな。」
「買いに行きますか?」
「たまには小鳥さんに頑張らせて長めに休憩取るか。」

というわけで、二人で切らしていたものを買出しに出発。
買い物中もやたらご機嫌な春香。
そんなにいいことでもあったのだろうか。
会計を済ませ事務所に戻るときに、千早に会う。

「おや、千早じゃないか。」
「春香にプロデューサー?二人でどうしたんです?」
「あのね千早ちゃん……」

春香がここまでの経緯を話す。
途中千早がこっちを呆れ顔で見てきたのが気になるところではあるが。
そのあとは3人で事務所に戻り、春香が作ってきたお菓子と買ってきた紅茶でティータイムを楽しんだ。
うん、春香の作ってきたお菓子はおいしいな。

「春香、また今度お菓子作ってきてくれな。」
「もちろんです。」

満面の笑みで返事をしてくれた。
このやりとりを千早がただじーっと見つめているのであった。





-そのころの小鳥-

「こんなことになるなら、真面目に仕事しておけばよかった……」

3人のティータイムを羨ましそうにしながらも、たまった自分の仕事を片付ける小鳥であった……