村の入口近くに建っていた、あのログハウスも、今はすっかり静かになりました。
4、5年前、この過疎の村に突然、ウッドデッキ付きの洒落た建物が建ったときは、みんな驚いたものです。
「こんな山奥に別荘でも出来るのか」と話題になりましてな。
そこへ移り住んできたのが、60代半ばくらいのご夫婦でした。
定年退職後、「夫婦で田舎暮らしをするのが夢だった」と話しておりました。
ご主人は気さくな方で、奥さんも明るい。
家庭菜園を始めたり、庭でバーベキューをしたり、近所の年寄りともすぐ仲良くなっておりました。
夏場なんか、夕方になると肉を焼く匂いが流れてきましてな。
「田中さんもどうですか」と呼ばれて、何度かビールをご馳走になりました。
炭火を囲みながら、ご主人が「いやぁ、こういう暮らしがしたかったんですよ」と、本当に嬉しそうに話していたのを覚えております。
朝起きて畑へ出て、昼はのんびり本を読んで、夜は静かな山を眺めながら酒を飲む。
都会では長く忙しく働いていたそうで、「定年したら、自然のある場所で暮らしたかった」と言っておりました。
その様子を見ておりますと、「この村も、まだ捨てたもんじゃないのかもしれんなぁ」と、こちらまで少し嬉しくなったものです。
ただ、田舎暮らしというのは、やはり簡単ではありません。
特に歳を取ってからになりますと、病院や車の問題が急に現実になります。
この村にはスーパーもありませんし、病院も小さな診療所だけです。
去年には、唯一残っていたスーパーまで閉まってしまいました。
今では買い出しも、車で20分以上かけて隣町まで行かねばならん。
つまり、“車に乗れる”ということが、そのまま生活なんですな。
ところが去年の冬、そのご主人が倒れましてな。
急に大きな病院へ入院することになりました。
それから一気に状況が変わったんです。
奥さんはペーパードライバーだった。
最初は近所の人も、「買い物ならついでに行くよ」とか、「病院まで送ろうか」と助けておりました。
この村は年寄りばかりですが、困っている人を放っておくほど冷たい場所ではありません。
ただ、毎日のことになると、やはり限界があります。
助ける側も高齢者ですし、病院まではかなり距離があります。
結局、ご夫婦はこの村を離れることになりました。
元の家は売っていなかったそうで、戻る場所には困らなかったらしい。
それを聞いたときは、少し安心しました。
もし家まで処分していたら、本当に大変だったでしょう。
先日、そのログハウスの前を通りました。
庭の畑には草が伸びて、ウッドデッキも静かなままです。
以前は笑い声がして、炭火の匂いが漂っていた場所が、急に時間だけ止まったようになっている。
少し寂しい景色ですな。
ただ、不思議と、「失敗だったんだな」とは思わないんです。
あのご夫婦、本当に楽しそうでしたからな。
畑を作って、山を眺めて、近所の人と話して。
たぶん、あの数年間は、ご夫婦にとってちゃんと意味のある時間だったんでしょう。
田舎暮らしは簡単ではありません。
でも、だからといって、無駄だったわけでもない。
人生というのは、案外そういうものなのかもしれませんなぁ。
……話題は変わるのですが。
実はわたし、最近また補助金申請の書類と格闘しております。
以前、小規模事業者持続化補助金の申請を目指して、慣れないパソコン作業に四苦八苦しておりました。
民宿の古いホームページを見直したり、省エネ改修の計画を書いたり、
「この歳になって、こんなに文章を書くとはなぁ」
と頭を抱えながら、なんとか形になってきた頃でした。
ところが、まさかの怪我で数日間の入院。
気づけば申請期限日は過ぎておりまして、病室の天井を見ながら、「ここまで頑張ったのになぁ」と、正直かなり落ち込みました。
ただ、嘆いてばかりもおれません。
退院後、気持ちを切り替えて、今度は小規模事業者持続化補助金第20回へ再挑戦することにしました。
まずは提出様式を新しいものへ更新。
制度改正のポイントも確認して、フォレストさんにも引き続き添削をお願いしております。
前回より、少しはマシになった気がしております。
特に、「何をして、どう良くなるのか」を、数字で書けるようになった。
以前は、「ホームページを作ります」くらいしか書けませんでしたが、
今回は、「直予約率を〇%向上させる」と、ちゃんと目的を書くようにしました。
また、宿の老朽化への不安だけ並べるのではなく、省エネ改修による光熱費削減とか、IT導入による業務効率化とか、話の流れも少し整理できた気がします。
スケジュールも、「いつ、何をやるか」を具体的に書きました。
採択までは半年から一年くらいかかるとも聞きましたが、その間も他の補助金について色々教えてもらいながら、ぼちぼち前へ進めればと思っております。
怪我で一度止まりましたが、まだ終わりではありません。
あのログハウスのご夫婦じゃありませんが、人間、思った通りにいかないことはありますなぁ。
それでも、やれるところまでやってみる。
最近は、それで十分なんじゃないかと思っております。
60代の再挑戦です。
まあ、ぼちぼちやりますか。