民宿を続けてきて、もう何十年になります。
 若いころは、とにかく目の前の仕事をこなすことで精一杯でしたが、気がつけば建物も、私と同じように、ずいぶん年季が入ってきました。
客室の畳はところどころ色あせ、歩くと少し柔らかく沈む場所もある。

厨房の機器も、長年働いてくれてはいますが、いつ止まってもおかしくない年齢です。

エアコンも古く、効きが悪い日もある。

給湯設備も、昔のものですから、電気代やガス代を考えると、決して効率がいいとは言えません。
「そのうち直さないとなあ」と思いながら、忙しさにかまけて先送りにしてきたものが、今になって一気に目の前に並んでいる、そんな感じです。


それに加えて、今の時代はホームページも必要だと、よく言われます。
 若いお客様は、まずインターネットで宿を探すそうです。

予約サイトに掲載してはいるのですが、手数料も決して安くありません。

できれば自分の宿のホームページを作って、そこから直接予約してもらえるような仕組みを作った方がいい、と知人にも言われました。
さらに、Wi-Fi環境も整えたい。
 最近は山歩きやキャンプを楽しむお客様も多いのですが、「Wi-Fiありますか?」と聞かれることが増えました。

自然の中でゆっくり過ごすとはいえ、スマートフォンやパソコンが使えないと不便だという方も多いのでしょう。
広告も出してみたいし、できれば省エネ改修もしたい。
 古い照明をLEDに変えたり、給湯設備を新しくしたりすれば、光熱費も少しは下がるかもしれません。

それから、高齢のお客様のために、手すりを付けるなどのバリアフリー対応も考えています。
 私自身ももう60代です。
 同じくらいの年代のお客様が増えてきて、「階段が少しきついね」と言われることもあります。
こうして書き出してみると、本当にやりたいことだらけです。
 挙げればきりがありません。


そんなとき、知人から「補助金が使えるかもしれませんよ」と聞きました。
 それなら、と軽い気持ちで説明会に参加したのですが、これがまた想像以上に内容が広い。
経営の効率化、設備更新、広告宣伝、IT導入、販路開拓。
 どれも対象になり得ると聞くと、逆に迷ってしまいました。
「これは全部やれるんじゃないか」
 そんな欲も出てきます。
ですが、資金も時間も限られている。
 あれもこれも一度に進めることはできません。
いざ申請の話になると、
 「何をテーマにするのか」
 「どこにお金を使うのか」
 「それが売上にどうつながるのか」
 そういったことをきちんと説明しなければいけないそうです。
正直に言えば、その段階で私は完全に混乱していました。
 頭の中は、ごちゃごちゃです。
「畳も替えたいし、ホームページも作りたいし、Wi-Fiも入れたいし、設備も新しくしたい…」
考えれば考えるほど、まとまりません。


 結局、ノートに書き出してみたものの、やりたいことのリストが増えるばかりで、優先順位はまったく見えてきませんでした。
そんな状態で受けたのが、フォレストさんとの面談でした。
正直に言えば、かなり不安でした。
 こんな散らかった話を聞いてもらっていいのだろうか。
 「結局何をしたいんですか」と言われてしまうのではないか。
そう思いながら、オンラインでの面談に臨んだのです。
ところが、相談員の方はとても落ち着いていて、私の話を途中で遮ることなく、最後まで聞いてくれました。
 そのうえで、こう言われました。
「まずは売上に直結するものから考えましょう」
 「次にコスト削減、そのあと設備更新です」
この一言で、少し頭が整理されました。


言われるままに、
 ・今の集客はどこから来ているのか
 ・どの予約経路が多いのか
 ・直接予約はどのくらいあるのか
そんなことを一つ一つ書き出していきました。
すると、だんだん見えてきたのです。
まずはホームページと予約導線の整備。
 それによって、予約サイトに頼りすぎない集客を作る。
その次に、必要な設備更新や省エネ改修。
つまり、
 「まず売上を増やす」
 「次に経費を減らす」
 「そのあと環境を整える」
という順番です。


言われてみれば、まったくその通りです。
 ですが、自分一人では、あれもこれもと広げるばかりで、整理できませんでした。
方向性が決まったとき、
 胸のつかえが、少し取れました。
まだ申請書も書いていないのに、
 「進んでいる」という感覚があったのです。
もっと若いうちに、
 こういう整理をしていればよかった。
そんな後悔も、正直あります。
ですが、今からでも遅くはない。
 60代でも、順番を決めて進めればいい。


民宿という仕事は、
 一日一日を積み重ねていく商売です。
一気に何かが変わるわけではありません。
 ですが、小さな改善を重ねていけば、
 少しずつ宿の姿も変わっていく。
そう思えたことが、
 私にとっては何よりの収穫でした。
さて、次はいよいよ申請書づくりです。
 これがまた、なかなか骨の折れる作業なのですが、
 その話はまた、次の記事で書いてみようと思います。