先日、市の広報をぼんやり読んでおりましたら、「フレイル予防」という言葉が出てきましてな。
恥ずかしながら、わたしは初めて聞きました。
なんでも、健康な状態と、要介護状態の間くらいの“虚弱”な段階のことを言うそうでして、

年を取れば自然とそうなるものだと思っておったのですが、どうやら、ある程度は予防できるらしいんですな。
なるほど、と感心しながら読んでおりましたが、正直なところ、ちょっと他人事ではありませんでした。

わたしもここ数年、膝を悪くしてからというもの、歩く量がずいぶん減りました。

若いころは山道でも平気で歩いておったんですが、最近は、少し坂道が続くだけで膝が痛む。
民宿の掃除や買い出しで動いてはおりますが、以前みたいに、山へ分け入ったり、海辺を長く散歩したりは減りましたな。
このままでは良くないとは思っておったところでした。
とはいえ、広報に書いてあるようなウォーキングやスクワットは、今の膝では少々不安があります。

無理をして悪化させても仕方ありませんしな。

そこで、とりあえず始めたのが、ラジオ体操です。
朝、宿の玄関を開けて、スマホでラジオ体操第一を流す。

最初は「こんなもので意味あるのかね」と半信半疑だったんですが、第一と第二を通してやると、これが案外しんどい。
腕を回して、背伸びをして、身体をひねるだけで、じわっと汗が出る。
ジャンプのところだけは膝が怖いので飛びません。

あれはもう、若い人に任せます。


体操が終わる頃には、宿の前の空気が少し暖かくなっておりましてな。
山から鳥の声が聞こえて、川の流れる音もする。
毎日見ていた景色のはずなんですが、不思議と少し違って見えるんです。
朝の空気をちゃんと吸い込むのなんて、ずいぶん久しぶりだったのかもしれません。

そういえば最近は、経営のことばかり考えておりました。
宿の予約は昔ほど入りませんし、燃料代も食材も高くなる一方です。

正直、楽な商売ではありません。
「もう少し客が増えてくれればな」とか、「あと何年続けられるかね」とか、そんなことばかり考えておった気がします。
ただ、広報には“社会参加も重要”と書いてありましてな。
人と交わり、役割を持つことが、フレイル予防には大事なのだとか。
そこを読んだときは、「まあ、それはまだ大丈夫かな」と思いました。

宿をやっておりますと、なんだかんだ毎日人と話します。
先日も、一人旅のお客さんが泊まりに来ましてな。
70代くらいの男性で、退職後に全国の小さな宿を回っているそうです。
夕食のあと、囲炉裏端で少し話をしたんですが、「家にずっといると、弱るんですよ」と笑っておりました。


その方は、奥さんに先立たれてから、なるべく外へ出るようにしているそうで、

「人と話さない日が続くと、声が出にくくなる」と言うんです。
ああ、なるほどなと思いました。
身体だけじゃなく、人との関わりも、使わないと衰えるんですな。
わたしは独身ですから、余計にそういう話は身につまされます。

正直なところ、将来への不安がないと言えば嘘になります。
膝も悪い。経営も楽ではない。

もし寝たきりにでもなったら、どうなるんだろうとは考えます。
ただ、だからといって急に立派な健康老人になれるわけでもありません。
せいぜい、朝ラジオ体操をして、少し歩いて、ちゃんと飯を食うくらいです。
それでも、やらないよりはマシでしょう。

あと、今回いちばん驚いたのは、口腔ケアの話でしたな。
フレイル予防には、歯や口の健康がかなり重要なんだそうです。
噛む力や飲み込む力が落ちると、食事量が減って、筋力も落ちて、そのまま身体全体が弱っていく。

“負の連鎖”というそうですが、これは完全に盲点でした。


そういえば最近、硬い漬物を避けるようになっておりました。
「年だから仕方ない」と思っていたんですが、あれも身体の変化なんでしょうな。

広報には、定期的な歯科受診も大切と書いてありました。
歯医者というのは、いくつになっても気が重いものでして、できれば避けたいんですが、これもそのうち行かんといけません。

夕方、帳場でノートを広げて、「毎日やること」を書き出してみました。
ラジオ体操。朝飯をちゃんと食べる。少し歩く。歯磨き。人と話す。
そんなことを並べていたら、「老後って、案外忙しいなぁ」と笑ってしまいました。
若いころは、年を取れば暇になると思っていたんですが、健康を維持するだけでも、なかなか大変です。
まあ、それでも、ぼちぼちやるしかありませんな。

宿の仕事も、身体の様子を見ながら、ゆっくり続けられれば十分です。
今朝もまた、宿の前でラジオ体操をしました。
相変わらず第二体操はきついですが、終わる頃には身体が少し軽くなる。
山の空気を吸いながら、「今日もなんとかやりますか」と思えるくらいが、今の自分にはちょうどいい気がしております。