夕の空 (朱音の空想想像小説) -157ページ目

『赤炎』 5ノ1

5.


路地を素早い影が奔ります。
レイディンの体は、それに十分対応できる反射神経が戻っていました。

音を立てずに動く方法も、気配を消して目標物に近づく方法も、レイディンが独自に身につけたものです。

幼い頃から、シェイヴィアにやたらしごかれていた、その賜とでも言うものでした。
まぁ、シェイヴィアに言わせれば、将来の為に備えていたのだ、と言うところでしょう。

レイディンが追いついた、その時には、魔性はすでに標的になった男の頸硬骨をへし折ってしまっていました。

さらに、口唇から魂を吸い出しているところをレイディンは制止します。
一線の炎が路地を舐め、女は悲鳴を上げて男を捨て、逃げだしました。

魔性の女は……そう、女だったのです。

「!」

レイディンは路上に倒れた男に駈け寄ります。

「大丈夫かっ!?」

しかし、その男性にすでに息はなく、魂も吸い取られてただの抜け殻になっていたのでした。

「……。やっぱり吸魂姫の眷属か」

チッ、と少年は下を打ちます。
その漆黒の瞳の奥に業火の炎を灯して、しかしその夜は魔性の後を追う事はせず、周囲を探索するだけにとどめて、アサリーの家に帰ったのでした。


「夕べはどうしてたの?」

ダイニングテーブルに突っ伏して、アサリーが頬を膨らませています。

「い、や……ごめん、ちょっとした野暮用で」

普段、家で待っているはずのレイディンが夕べに限って留守にしていた為、アサリーは怪訝な表情を浮かべていました。

「ふぅーん。……ま、いっけど。私もなんか二日酔い気味だしね」
「あんた、最近、いっつも飲んで帰って来てんじゃん」

どうもアサリーが言うには、知り合いの飲み屋で毎日多少飲んで返ってきているらしいのです。

「あんたの事、このウチに運んでくれた恩人なんだから、大目に見なさいよね」
「分かってるよ」

レイディンはふて腐れた顔をして、ダイニングの椅子に寄りかかります。

「それより、早く食わないと時間なくなるよ?」

そんなレイディンからあくびが漏れました。

「レイディン?あんた、ちゃんと夜寝てるの」
少し心配げな声がかかります。

「夕べはちょっと、……考え事」

アサリーがひょいと肩をすくめます。

「寝ないとちゃんと育たないわよ」
「ガキ扱いしてんじゃねぇよ。ちゃんと育ってるよ」

「あははは。なによ、心配してあげてんのに」

「オレは今からだって寝れるからいいの」

アサリーは快活な笑顔を残して出勤していきました。


レイディンは自分用に淹れたアップルティーのカップに口をつけます。

アサリーの飲み残したコーヒーカップの中身はシンクに捨てました。
タイル張りのシンクに、茶色い液体が排水口に向かって流れる様子を見ながら、レイディンは小さな溜息を吐きました。




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話は終盤に。




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