枕元で振動を感じた。
何だろうと思い手を伸ばす。
寝ぼけている頭では、それが携帯であることがすぐには理解できなかった。
携帯を見るとカカオトークの通知だった。
普段はLINEで連絡を取る人ばかり。
カカオを使っているのは1人だけなので、相手が誰かはすぐにわかった。
カカオを開くとやはり、彼からだった。
"最近何してるの?"
半年ぶりの連絡だというのに、この一文だけ。
不器用な彼らしさで少しニヤける。
彼とは半年前に別れた。
特に何があったわけではないけれど、何となく忙しくて会える時間もどんどん無くなり、別れる直前は1ヶ月連絡がなかった。
いや、取らなかったというのが正しいのかもしれない。
いつも私から連絡をして、それに返事をするだけの彼。
彼から連絡してくれたことは…あったかな…?
それが、なんとなく悔しくて。
小さなプライドが邪魔をしてたんだろう。
私から連絡をすることが、『イコール負け』みたいな気がして、次第に私から連絡をすることは無くなっていった。
友達には、彼にハッキリ言えばいいじゃん!とかプライドなんか捨てなきゃ!なんて言われたけど、私にはそれができなかった。
なぜなら彼は歳下だったから。
その一文になんて返事しようかと考える。
開いてしまったので、もう既読になり無視するのもな…と悩む。
普通に、"いつも通り元気だよ"とだけ返した。
珍しい人からの連絡ですっかり目が覚めてしまった。
ベットから出るのはまだ早い…。
いや、もう11時になるところだ。
しかし休みの日のこのダラダラが私にとって最高の時間でもある。
モゾモゾと寝返りを打つとまた振動が。
カカオを開くと
"仕事大変?"
何だろう。何が聞きたいのだろうか。
きっと仕事でうまくいってないのだろう。
"何が聞きたいの?"
と率直に質問を返した。
冷たかったかな。でも、別れた彼氏に優しくする義理はない。
ましてや、半年間連絡が無くて突然のカカオ。
するとすぐに返事がきた。
"たいしたことじゃないんだけど。仕事を辞めようって思ったことある?"
私"あるよ。会社の考えに付いて行けなくなった時とか。"
"それってどんなこと?"
なんか煮え切らない。
そして、彼は会社に対して何らかの良くない感情を抱いているのにそこは教えてくれない。
質問するだけ。
教えて貰えないと的確な回答ができないのに…
少しイライラしたので携帯を枕元にしまう。
洗濯でもしようと起き上がる。
部屋中のタオルや脱ぎ散らかした服を集めて洗濯機に投げ込みスイッチを押す。
洗い終わるまでTVでも見ようとチャンネルを付けると人気芸人が司会のバラエティーがやっていた。
何が面白くて笑っているのか、この歳になると理解できなくなってくることが多い。
ぼんやりとTVを見な…いや、ただただ液晶を眺めながら彼のことを思い出す。
そう言えば別れを切り出したのも私からだった。
告白してくれたのは彼。
真っ赤な顔で俯きながら「付き合ってくれますか?」と。
いきなりの敬語で爆笑だったのを覚えている。
でも付き合うようになってからは、忙しさを理由にほったらかされてることが多かった。
付き合う前まではこまめに連絡をくれてり、ちょっとしたお茶程度のデートも誘ってくれた。
でも…。
付き合ってからは連絡もほとんどくれない。
遊ぶ約束の日の前日のドタキャンもしばしば。
理由を聞いても仕事としか言わず、埋め合わせもなかった。
私に、ただ謝罪をするだけだった。
私は思ってることを言いたい気持ちが爆発しそうになったけど、やはり言えなかった。
歳下の彼に重いとか、口うるさいと思われるのが怖かった。
次第に私も諦めるようになり、いつしか、彼からのドタキャンの連絡が入っても「いいよ!仕事頑張って^^」と余裕のある大人の女を演じていた……。
ピーピーピーピーピー…
その音で現実に戻る。
洗濯が終わったようだ。
洗い終わったものをカゴに入れてベランダへ向かう。
その途中、枕元でブーブーっとカカオの通知。
忘れていた。
彼と会話が途中だった。
ベランダに一旦カゴを置いて枕元へ。
携帯を持ちながらベランダへ向かう。
カカオを開くとそこには、やはりガッカリする文字が。
"やっぱりいいや、ごめん"
頼られるのは嫌いじゃない。
でも、ハッキリ言わないのはただの甘え。
もう、大人ぶるのは疲れた。
既読になったのを確認して、カカオを閉じる。
そしてカカオのアプリを削除した。
それから一つ大きな伸びをしてカゴに入っている真っ白なTシャツに手をかけた。
fin