あの日から、気付くと彼女のことばかり考えてた。
いろいろな気持ちが溢れてきて、どこかに吐き出さずにはいられなかった。でも、歌とバイトしかしてこなかった僕にそんなことを話せる友達はすぐには見当たらなかった。
どうにかしないと僕が壊れてしまうのではないかと不安になり、怖かった。だから、思いを必死にノートに書き出した。
もう会えないのかな、どこに住んでいるんだろう、何の仕事をしているのか…聞きたいこともたくさんある。
でも何の手がかりもない。探しに行くこともできない。僕にできることはまたカフェに来てくれるのを願うだけ。
できるだけたくさんのシフトに入れてもらえるようにもした。来てくれた時の謝罪のシュミレーションも何回やったかわからない。
どうか神様、もう一度だけ彼女に会わせて下さい。
その日は突然やってきた。
今日は体調を崩した仲間の代わりにランチタイムだけのシフト。
もうすぐ14時。上がる時間だ。
いつものようにテラス席をセットしていると後ろから女性の声。
『ここ、良いですか?』
振り返ると夢にまで思っていた彼女が。あまりにもビックリして僕は掛けられた言葉も忘れ、思わず
「あの!アメリカーノ!ごめんなさい。いや、あ、覚えてないですか?」何回もシュミレーションしたのに。。。
言いたかった言葉がもっとあったのに…
彼女は『え…!?…覚えてるんですか?一か月も前のことなのに。気にしてないですよ(笑)今日もアメリカーノをお願いします。』と。
「あの…この前のお詫びがしたくて。珈琲、ご馳走させていただけませんか?」
『いえいえ、そんなことしなくて大丈夫ですよ!』
「そーゆー訳には行きません!お願いします!僕のミスでこの前、アメリカーノが飲めなかったし…」
『では、私もあなたの分の珈琲をご馳走させてください。何が好きなんですか?』
「アメリカーノです!僕もアメリカーノが好きなんです。わかりました、僕の分を…え?それじゃあダメじゃないですか~!」
彼女は弾けるような笑顔でケラケラと笑っている。僕は嬉しくなって一緒に笑った。その笑顔に勇気を貰って、自分でも信じられない言葉が口を出た。
「僕と珈琲飲みませんか?今日はもうすぐで上がりなんです。」
こんなこと人生で一度も言ったことがない。むしろ女性を誘ったこともない。何がここまで僕を突き動かすんだろう。
でも不思議と後悔は無い。真っ直ぐ彼女を見つめ返事を待つ。
彼女は少しビックリした表情をしたが、すぐに
『ぜひ!』
と最高の笑顔を向けてくれた。
僕は急いで着替え、アメリカーノを2つ注文した。バイト仲間に「彼女か?お前にはもったいないな(笑)」とからかわれても全然平気だった。「まだだけど、これからそうなったらいい。」と真面目に返すと仲間も驚いていた。でもそれが僕の本心。
両手でそれぞれの珈琲を持ち、彼女の元へ向かう。
「お待たせ。」と声をかける。
そこにはずっと見たかった最高の笑顔。
僕はこの笑顔のためなら何でもできる気がする…
店先の通りには桜が咲き誇っていた。
まるで僕の未来を応援するかのように。
fin