花屋でのアルバイトももう2年になる。
美大に通いながら色彩感覚を養いたかったのと、元々花が好きだからこのバイトを選んだ。
男なのに花が好きなんて、友達からおかしいと笑われたこともあるけど、気にしない。
同じ花でも、全て表情が違う。
花に話しかけると答えてくれてるように感じる時もある。
花をもらって嬉しくない人はいないでしょ?だから、人の笑顔を見ることができる花が僕は大好きだ。
花屋は朝が早い。
今日は8時までに2つの花束を作成して届けなければならない。
急いで準備していると1人の女性が店頭に立っている。
あ、また来た…
細身で髪はボブカット。アイボリーのセーターに淡い色のデニム。ベージュのトレンチに真っ赤なクラッチバック。シンプルだけどとてもオシャレ。年齢は…僕と同じかちょっとだけ上かな…?
(またあの人だ…だいたい毎日来るんだよな。何だろう…)
その女性は毎回花を一輪だけ買っていく。必ず僕にオススメを聞くくせに、1回もそのオススメを買ってくれたことがない。それが僕は面白くない。
はぁ…
下がりそうな気分を振り払い声をかける。
「いらっしゃいませ。今日は何にしますか?」
『オススメは何ですか?』
彼女は僕を見ようとしない。
俯いたままの質問。
何だか今日は少しイタズラ心が湧いて、俯いている彼女の顔を初めて覗き込んでみた。
少しキツそうな目元だけど、すごくキレイというか可愛いというか、不思議な魅力のある顔だった。
彼女は驚いて一瞬だけこちらを見たが、すぐに目を逸らしてしまった。
「今日はこちらのラナンキュラスがオススメですよ。とても質の良いものが入荷できたんです!」
『……』
やっぱり無反応か…
「えっと…じゃあ違うものですと…」
『そうですか…じゃあそれで』
「え?オススメでいいんですか?いや、あの、かしこまりました!」
信じられない。
僕がオススメした花を選んでくれた!
こんなに嬉しいことがあるなんて!!
僕ははやる気持ちを抑えてラッピングする。
その間彼女は僕のことをじっと見ている。
僕が顔を上げると、さっと目をそらす。
毎回のことだけど、今日はそれすら楽しくて、何度も彼女の方を向いてしまう。
「お待たせしました。プレゼントですか?いつもありがとうございます!」
『……いえ…』
相変わらずそっけない態度の彼女。
会計を済ませ、軽く会釈をして出て行ってしまった。
「ありがとうございました!またお待ちしております。」
僕は今までに無いくらい舞い上がっている。たった一輪の花を買ってもらっただけなのにこんなに嬉しいなんて…。
今日に限ってオススメを買ってくれたから?それとも、彼女のことが気になってる?そんなわけない…はず…
僕は何故か心臓がドキドキしていた。
続く。