2006年9月19日のブログでご紹介した内容です。
最近、再び同じようなお問い合わせを頂いたので
加筆して再度、掲載します。
関心がある方はじっくりと内容をお読み頂ければ幸いです。
ある方から、
-----------------------------------------
バリアフリー温泉旅館の紹介をしてもらおうと
JTBさんやクラブツーリズムさんに問い合わせたら
「紹介だけはやっていない」と言われました。
どうしてでしょうか。
ベルテンポでも温泉旅館の斡旋はやっていないみたいですね。
-----------------------------------------
とのメールを頂きました。
ベルテンポでもバリアフリー旅館のご紹介、斡旋は
現在行なっておりません。
●バリアフリー旅館のご紹介、斡旋をやっていない理由
各社とも行なっていない理由は同じだと思います。
トラブルが多いのです。
ある旅館がバリアフリーを銘打っていたとして
お客様にその旅館をご案内します。
Aさんご家族はとても喜ばれました。
ところがBさんご家族に同じ宿をご紹介すると、
「あんな旅館はバリアフリーじゃない!」
とたいそうご立腹になられる。
このような事例が後をたたないのです。
当社では安易な紹介はせず、相当に時間と手間を
かけてヒヤリングをしてからご紹介していましたが、
正直に申し上げると、それでもクレームをかなり頂戴しました。
クレームとは言えないまでも、決してご満足頂けなかった
ケースが相当にあるのです。
「障害はおひとりおひとり異なりますので、安易な紹介は
控えさせているのです。」
とお伝えすると、今度は
「うちの主人は左麻痺で、要介護4です。」
とおっしゃって下さるのですが、左麻痺で要介護4の方でも、
・今までの旅行、外出経験
・握力、立位の可否、可能な場合、足がどれくらい上がるか
・心臓疾患など、入浴リスクはどれくらいあるのか
・ご本人の旅行への意欲の度合い
・チャレンジ精神旺盛か、慎重派か
など、人にはそれぞれ性格があるように、バリアフリーにも
「本人の自立度やADL(どの程度、体が動くか)」だけでない
多くの要素が複合して、その先に「お風呂」の成功があるのです。
そして、
これもまた反論や厳しいご意見があるかも知れませんが、
私達も企業である以上、利益が継続して出ることがサービス
継続の絶対条件となるのです。
本気で成功させる為には、じっくりと長い時間を掛けた
ヒアリングが必要になり、その「時間と手間」はそのまま
旅行実現の為のコストとなります。
旅館の宿泊1泊が2万円として、その事前相談に同額のお金を
頂くのは至難の業ですし、私が利用客だとしても、払うには
心理的な抵抗もあると思います。
当社のリピーターのお客様のように
その方の好みだけでなく、チャレンジ度、許容範囲など
細かいニュアンスも把握していれば、ある程度は希望にかなう
宿をご提案することも可能ですが、それでも、私達が自分の目で
見たことがない宿は恐ろしくて紹介できません。
このように「バリアフリー」温泉旅館をご紹介できない理由は、
以下のようにまとめられます。
●対象の宿が少なすぎる
まず最大の原因は「対応できる宿が少ない」ことです。
たとえば、箱根。
車椅子を利用される方が安心して、何度でも泊まりたく
なる宿は、私が知る限りありません。
山間部にある、古い旅館が多いなどの事情もありますが、
高齢者が増えて、どうなるのだろうと心配になります。
他の温泉街も同じようなものです。
町全体が高齢の方など足腰が弱ってきた方を
お客様とイメージして、受け入れの取り組みを
始めたところをまったく聞きません。
現在のところは、特定のオーナーさんの孤軍奮闘のレベルです。
●バリアフリーに定義がない
多少の反発は覚悟で誤解を恐れずに申し上げます。
バリアフリーが混乱している理由。
まず、
旅館が勝手に「自己流バリアフリー」を定めます。
ロビーに車椅子トイレがあるだけでバリアフリーを
名乗る旅館も多数あります。(和室しかなくても)
ただ、それが絶対に悪いかとも言い切れません。
それでもOKという方もいるのですから。
旅行会社もすべての旅館のすべての設備を掌握している
訳ではないので、資料や電話のやりとりで
「概況」を理解し、お客様にお勧めします。
お客様は自分を中心にものを考えます。(当然です)
たとえば、
・手すりは左側で自分にちょうどよい高さ
・ベッドの固さや高さも、日頃自分が使っているのと同じ
・介護ベッドは必須
・洗浄トイレも必須
・段差は1センチでもダメ
・洗面も車椅子が回転できる広さを
・お風呂には入浴リフトを
などなど。
民間の温泉旅館では、そこまでは無理でしょう、と思うことも、
ご自身にとっては「絶対譲れない条件」ですから必死だと思います。
ある意味当然ですが、過度な期待もします。
現地で、
・お客様がある意味“勝手にイメージした”バリアフリーと、
・旅館が“勝手に定義した”バリアフリー
のギャップがひどく、クレームになることが多いのです。
間に入った旅行会社は、
「労多くして・・・」となり、結局斡旋を中止します。
そもそも「バリアフリーの旅館ありませんか」と言った
聞き方が問題で、私に言わせれば、
「誰かいい人紹介してください」
の「誰か」「いいひと」の定義と同じくらい、あいまいな表現です。
「バリアフリー」だけが一人歩きをしてします。
アメリカではADAという法律に従い、基準が定められ、
それをクリヤーしているかどうかだけが問題にされます。
それは最低の基準ですから、そこから先のリクエストは
宿泊客のリスクと判断となります。
自己責任原則が強いアメリカならではですが。
そしてアメリカには「入浴の文化」がありません。
シャワーをちょっと浴びればそれでOK。
日本人には「肩までお湯に浸かりたい」との根源的欲求、
私達のDNAでもあり、大げさにいえば人権なのかも知れません。
それを民間の旅館に「全部やれ」というのも無理があります。
お客様の気持ちは痛いほど判りますが、
私が旅館の経営者だったら「気持ち」だけで多額の投資は
やっぱり出来ないと思います。
これは誰に責任があるのでしょう。
そう、責任者を探す事には何の意味もありません。
★私の提言です。
●旅館の皆様へ
旅館など民間の事業者の方には、
3年後、5年後、10年後のマーケットを考えた時、
今のままで良いのか、何もしなくて大丈夫かをしっかりと考えましょう。
投資をするだけが「対策」ではありません。
お金を掛けないで出来る事がたくさんありませんか?
和室しかない為に、どれだけのお客様を失っているか、
考えた事はありますか。
椅子席で食事が出来ないことで、どれだけのリピーターを
失っているか、考えたことはありますか。
まさか、これから先10年。
和式トイレだけでOKとは思っていませんよね。
あなたのサービスは賞味期限切れ寸前かも知れません。
いや、とっくに切れているかも。
団体客は喉から手が出るほど欲しいでしょう。
日本が不景気なら韓国、台湾?それも判らないでもありません。
でも、どんな努力をしても、この円高で全部チャラです。
私の個人的な(極めて勝手で無責任な)見解ですが、
ご高齢の多くのお客さまは和室や座敷では無理です。
多くのお客さまが日常生活でイス、ベッドになっています。
「膝が悪いから、ベッドでないと。」
障害があるお客さまでなくても、ごく普通のお客さまが
和室を避けた結果、旅館の宿泊から遠ざかります。
今日付け(11月4日)の業界紙「旅行新聞」によると、
旅館は国内の営業件数が5万2,259軒。
前年比で1,811軒の減少だそうです。
不景気が悪いのではなくて、自社の提供サービスが
世の中のニーズから大きく乖離していることから、
目を背けないことをお勧めします。
バリアフリー以前の問題として、
・ひとりじゃ泊めて貰えない
・料理は量がやたらと多く、油モノばかり
・瓶ビールが700円、800円
この「気づきのなさ」の先に、客数減少があるのではないかと
思うのは、私だけではないはずです。
●お客様へ
温泉に入る夢。
ぜひ叶えて頂きたいと思います。
ただ、配慮が必要な場合や
宿泊に絶対条件が付く場合、
やはり準備はそれなりに大変です。
大変だと思いますが、しっかり準備してこそ、
楽しい旅が待っています。
外出や宿泊の経験がない場合は、
出来れば公共の宿で、障害がある方専用に
作られた保養所のようなところでまずは
練習されると良いと思います。
そして成功体験と共に、少しずつレベルを
上げて行かれることで、和の寛ぎやチャレンジ精神を
取り戻すことが出来るのです。
残念ながら、多くの日本旅館は障害がある人どころか
一般の行楽客にも満足なサービスが出来ないでいます。
リピーターの少なさがそれを物語っています。
自分の成功は自分で勝ち取る。
大変だと思いますが、私は「手に入れた情報を元に」
ご自身で直接電話をして、その対応のようすを
直接声を聞きながら準備されることをお勧めします。
人に依存するだけでは、安全、安心な旅は実現しません。
バリアフリーは、残念なことですが、
『間に人が入ると、情報は正確に伝わらない』ものです。
あなたのことは、あなたがいちばん良く知っています。
そして、自分の要求ばかりを一方的に話すのではなく
どこまでなら譲れるのか、
過去、どんな旅行体験があって、どの位は頑張れるのか、
譲れること、譲れないことを明確にしていくことで
接点が見つかるのではないでしょうか。
手間ヒマかけるのは大変ですが、「良い宿」がもう少し
増えて来るまでの辛抱です。
私は5年以内に、飛躍的に増えると確信しています。
バリアフリーはデリケートな問題でもあります。
元気な人の温泉宿泊とは、必要な情報交換のレベルが違うのです。
条件が厳しければ、それだけ選択肢は少なくなります。
旅館に自宅と同じ環境を求めるのは残念ですが、無理です。
旅に慣れてくれば、だんだんと要領が判ってきて、
「この位なら大丈夫」と思えるフィールドが広がります。
譲れること(工夫すれば何とかなること)が増えれば、
旅の選択肢が増えて行きます。
私はアメリカのように「すべてが自己責任」と言ったドライな
考え方は日本には馴染まないと思いますが、かといって
福祉施設と同じレベルの設備を民間の旅館に求めるのも
「無理な相談」だと考えています。
妥協点はどこなのか、
旅館さんからすれば、私も経営者ですから判りますが、
「どのレベルが業として継続でき、お客さまにも喜んで貰えるのか」
を追求していく向上心は大切だと考えます。
当社で何度もお世話になっている宿。
私は、日本で3本の指に入る、庶民派バリアフリー旅館だと
思いますが、それでも「使いにくかった」という事を聞いたことがあります。
障害者保養所ではない、民間のバリアフリー旅館でできる
最高のパフォーマンスだと、私は思いますが。
信州・あさま温泉「玉之湯」
http://www.asama-tamanoyu.co.jp/
☆こんなことを書いていいのかどうか判りませんが、
玉之湯さんがバリアフリーに取り組み始めてもうすぐ10年。
どんどん進化していっています。
その最中には、お叱り、クレーム、罵声、怒号、
「こんなのはバリアフリーじゃない」と叱られ続けたそうです。
もちろん、それ以上にお褒めの言葉を頂くのですが、それでも
怒鳴られれば、誰でも堪えると思います。
10年間、褒められて、怒鳴られて、今の形があるのです。
その位、腹が据わっていないと、バリアフリーには取り組めないのが
日本の現状です。
玉之湯さんは、私が知る限り「孤軍奮闘」です。
本当に素晴らしい取り組みをされていますが、誰も真似しません。
真似出来ないのかも知れません。覚悟がなければとても真似できない。
障害者と言われる方々から罵声を浴びながら、それでも自分の信念に
基づいて、前に進む覚悟。
そこまでの覚悟がないと、バリアフリーが民間企業の「業」として
継続できない社会なのも、どうかと思いますが。
バリアフリー旅館を始めようとする、改築されようとする、すべての
経営者の方は、玉之湯さんに泊りに行かれることをお勧めします。
そして、手すりの位置とか、そんなことを見るのではなくて、
どうしてこの旅館には「ファン」が多いのか(リピーターではなくて
ファンです)五感をフル活用して、感じ取ってみてください。