いま「村上さんのところ」というサイトが期間限定で開設されています。
http://www.welluneednt.com/
もう応募は締め切っていますが、読者からの質問を受け付け、
それを村上氏が全部目を通し、できる限り返答するとの企画です。
(自分も投稿しましたが、残念ながら返答対象にはならず・・・)
このサイト上のやり取りで、交通犯罪遺族にとって、
やや複雑な気持ちにさせられる回答がありました。
原発をめぐって話題にもなった回答ですが、こんなやり取りです。
【読者からの質問】
「(前略)私自身は原発についてどう自分の中で消化してよいか未だにわかりません。親友を亡くしたり自分自身もけがをしたり他人にさせたりした車社会のほうが、身に迫る危険性でいえばよっぽどあります。(年間コンスタントに事故で5000人近くが亡くなっているわけですし)(後略)」
この読者質問に対して、村上氏はこう答えています。
「たしかに年間の交通事故死が約5000人というのは問題ですよね。それについてはなんとか方策を講じなくてはと、もちろん僕も思います(最近は年々減少しているようですが)。しかし福島の原発(核発電所)の事故によって、故郷の地を立ち退かなくてはならなかった人々の数はおおよそ15万人です。桁が違います。(中略)「年間の交通事故死者5000人に比べれば、福島の事故なんてたいしたことないじゃないか」というのは政府や電力会社の息のかかった「御用学者」あるいは「御用文化人」の愛用する常套句です。比べるべきではないものを比べる数字のトリックであり、論理のすり替えです。僕は何度もそれを耳にしてきましたが、耳にするたびにいささか心がさびしくなります」
【原発NO!に疑問を持っています】
http://www.welluneednt.com/entry/2015/04/09/073000
原発がどうこう言う話は、今の日本ではタブーになっています。
原発云々が、ここでこの話題を持ち出した理由ではありませんし、
下手に触れて、官庁からの支援に悪影響を及ぼすなどして、
あいの会に迷惑をかけたら嫌なので黙っています(笑)
(この引用自体が悪影響を及ぼす危険もありますが・・・)
交通遺族の古くからのメーリングリストもあり、私も入っていますが、
そこでもこの回答に対して、複雑な思いを吐露された方もいました。
私も読んで少しだけ複雑な気持ちになりました。
「毎年数千人奪われる交通犠牲者の命を特別視すべきではない」
間違いなく、これを書いた村上氏にそんな意図はないでしょうが、
人によってはそんなニュアンスが感じられないでもないからです。
村上氏がこれまで書いたり話してきたりした内容を振り返れば、
村上春樹という作家が、他人の痛みに対してとても敏感で、
他者への想像力にとても注意深い人であることは明らかです。
例えば、2009年に行ったエルサレム賞受賞スピーチでもそうです。
http://kakiokosi.com/share/culture/89
http://d.hatena.ne.jp/nakanotaku/20120917/1347819555
また今はあまり知られていないかもしれない昔のエッセイですが、
週刊朝日での「村上朝日堂」という連載の最終回(1996年)で、
部落差別の加害者になった過去を告白している美しい文章からも、
他人の痛みへの想像力を決して失わない人なのだとわかります。
ただ、そんな村上氏の書く文章でも、交通犯罪遺族が読むと、
複雑な気持ちにさせるかもしれない内容になることがある。
村上氏自身が交通犯罪遺族だったり、遺族が身近にいれば、
わずかでも違った文章になっていたのではないかと思いました。
先日、あるやり取りで、ある人たちと接することがあったのですが、
(今は書けない内容です。モゴモゴした書き方ですいません)
遺族を傷つけた人が「自分は遺族ではないので(わからなかった)」
と弁解に終始する姿を目にすることがありました。
「遺族でなくても、遺族だったらどう思うか想像くらいできるだろ」
と思いましたし、その相手は論外な人なので極端な例ですが、
村上氏ほどの思慮深さをもってしても危うくなる場合もある。
実際に私はほとんど被害には遭わずにきていますが、
(それでも数回は嫌な思いをしてきています)
周囲の、悪意はないけど無神経な言葉に傷つく遺族は結構います。
先に画像を貼った「村上朝日堂」最終回のエッセイであった、
「ショッキングだったのは、この世界では人は誰でも、無自覚のうちに誰かに対する無意識の加害者になりうるのだという、残酷で冷厳な事実だった。僕は今でも一人の作家として、そのことを深く深く怯えている」
という気持ちは、全ての人に持ってほしいものだと思います。
これは交通犯罪に限らず、犯罪以前の話においても、全てにおいて。
ちなみに「村上さんのところ」は5月13日で閉鎖されてしまいます。
面白く読んでいますし、今回も村上氏への批判の気持ちは皆無です。
「なるほど」と考えさせられる回答や新しい発見も多かったりします。
親しい人にはお勧めしたいサイトであることに変わりはありません。
また投稿にあたっては、もっとユーモアのある文章にすべきだったし、
遠慮せず何通も何通も何通も送るべきだったと後悔しています。







