トシカの宿のこと (5) | 木工房とんとんのブログ

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(5)

 この男達も一緒になって話してみるとおもしろいのである。いつの間にか、ここへきた時のあの何とも言えない未知への不安は我々の心の中から消え失せていた。それよりもまして、この粗野で無遠慮な男達に親近感さえ感じるようになってきていたのである。

 

 最初にドアから顔を出し、我々に不安と畏怖の念を抱かせた男、この男は家の中でも帽子を脱がないのである。多分、禿げているかなんかだろう。

 この男が一応この宿の主人らしい。前の年に嫁さんをもらう予定だったらしいが、こんな生活に恐れをなしてかまだきてくれないと言うのだ。『そうだろう、そうだろう』その嫁さんになるひとの気持ちもわかる…。

 秋にはきてくれるだろうと話していたが、しかしかわいそうだがそれも期待はできないなと我々は思うのであるが…。

 

 

 彼等の話は、どこまでが冗談でどこまでが本当の話かわからないといったような調子で話すのであるから、嘘か本当かわからないが、先月の利益はただの八千円だったと言うのだ。しかし、その話もまるっきり嘘でもないような気がするのである。というのはここの宿賃は一人千二百五十円である。これはユース・ホステルの宿賃と同じなのだ。そこへもって肉の食べ放題、酒は個人持ちときたら儲かるのが不思議なくらいだ。

 

 もう一人の男、これも嘘か本当かまるでわからないが、一時大阪の吉本新喜劇にいたことがあると言うのだ。またこれも信じていいくらい常識をはずれたメチャクチャにおもしろい男なのである。俺達をお客扱いもせず、俺達に話しかける時は“おまえら”である。メガネはよく見ると片一方は糸で耳に引っかけている。そのことを笑うと、金がないからこんなんだ、おまえら買ってくれと言う。

 来年は礼文島で『狂人の館』なる民宿を始めるんだといっていたが、この男にふさわしいネーミングだと思う。

 

 こんな二人が一緒になって騒ぐのである。と言うよりも俺達の方が彼等のペースに巻き込まれていたのだろう。酒も飲み終わり、ご飯を食べ出すと、自分達だけウニを出してきて、

「こんな美味いものはおまえらに食べさせられるか。」

 と言って隅の方で後ろ向いて食べるのだ。しかし、こちらもそんなことでおとなしく引き下がるわけにはない、奪いに行くのだ。俺はあまり好きではなかったからもらわなかったが、YやMにはしかたなしにご飯の上にのせてやっていた。

 

 ビール代も余り払わないで四人で五・六本は空けたようである。おまけにYとMは隣のテーブルからも酒を飲ませてもらったようだ。このときには金を余り出さなかったことに皆後悔していたがもう後の祭りである。

 

 さて、なんと破廉恥な食事も済ませるトランプでもやろうと言うことになり、女の子二人と俺達四人が始めた。その間、二人の男達は女の子達の手伝ってあげるという申し出もかたくなに断って、せっせと食器を片付けたり洗い物に励むのである。まったく変わった男達だ。

 

 

 俺達と女の子は和気藹々、七並べ、ババ抜きなどに興じる女っ気のない俺達はここぞとばかり大騒ぎをする。特にMなど人一倍ハッスルする。ところで、一緒にトランプをしている二人の女の子達とは違うのである。この女の子達のほうが二・三歳若く、二十歳過ぎだろう。トンボメガネの女の子達は二十四・五歳ぐらいとみたが、やはり少し落ち着いていて俺達のばか騒ぎには加わらなかった。他の客達はめいめいに赤い顔をさせ大声で雑談している。

 

 そのうちに、例の二人が炊事仕事を終え、我々のトランプに加わることになった。この二人が加わると一段と賑やかというか、騒がしいと言うか、狂気じみているというか・・・・・・になる。

 罰ゲームをやろうということになった。例の手を重ねておいて勝った者がその上を叩くというゲームである。皆初めのうちは叩かれるのが嫌だから、手をおいて逃げていたが、例の男の一人が自分の手の下に女の子の手が来ると、その手を握って離さないのである。当然、みんなの手は逃げ、男の手はしたたかに叩かれる。

 しかし、そんなことはものともせず、手の甲を赤くさせながらまたもやるのである。そうなると、今度は俺たちもまねをして女の子達の手が下に来ると強く握って、叩かれた後もしばらくは手を離さないのである。いつの間にか、トランプゲームよりも罰ゲームのほうが中心となり、トランプに勝ったり男どもの手が自分の下に来ると残念がる始末である。

 ワイワイ、キャアーキャアーと騒いでるうちに夜も更け、みんな一斉に寝ることになったが、しかし、寝てからもひと騒動起こるのである。

 

(6)に続く