この項はもう半世紀前にもなりますが、大学生の頃経験したなんともハチャメチャな「トシカの宿」という民宿の思い出を書き残したいと思い、以前に書き残していたものを覚書としてブログに残したいと思います。ちなみにトシカというのはアイヌ語なんでしょうけど意味は分かりません。その時訊いていたのかもしれませんが記憶に残っていないですね。
トシカの宿をググってみると現在もあるようですがどうやら二代目のようです。
(1)プロローグ
その日は昨夜知り合った女の子に心を残し、利尻のユース・ホステルを出て稚内行きの船に乗った。車は無事にあった。と言うのは知らない土地での露天駐車だったから少し心配していたのだ。コースは宗谷岬を回り浜頓別でキャンプをすることになっていた。
天候は船を下りた頃から曇りがちとなり、寒くなってきていた。日本最北端の地にあるたった一軒の土産物屋ではストーブを出しているほどだ。確か、テント張りの小さな店だったように思う。Hが姉夫婦への土産だと言ってニポポを買った。その間俺たちはストーブの上に冷えてきた手を差し出す。記念写真を撮ることになり外に出るが、外は雨混じりの強い風ですごく寒い。帽子が飛びそうだ。2・3枚の写真を撮りかねてそこを逃げるように出発する。
それからは長い間たいした景観もなく冬の海のように荒い波が見えるばかりで単調な海岸線が続くだけだ。急いで浜頓別まで直行する。キャンプはクッチャロ湖で張るつもりだったので、地図上のキャンプ場に行ってみたがまだこの辺では七月とはいえシーズンではないのだろう、そこは荒れ放題である。
雨はここに着く前にやんでいたが、また降り出しそうな気配を感じさせる。仕方なく相談の上、民宿でも探そうということになった。
引き返す途中、先ほどは誰もいなかった岸辺に二人の男女がたたずみ、なにやら楽しそうに身振りってぶりを入れてしゃべっている。『この野郎、うまくやりやがって。』と思いながら遠目に見ていたが、何か見たことがあるような横顔なのだ。そのうちに男が振り返った。
「あ、T。」
それは同じクラスのTだったのだ。お互い驚いた。全くの偶然である。こんなに広い北海道の端で知り合いに出会うとは思いもよらなかった。聞くところによると一人で旅行中だということである。では先ほどの連れの女の子は、と訊くとここであっただけだと言う。『そうだろう、そうだろう』
Tに宿の事を訊くとユース・ホステルに泊まるという事だったから、われわれもそこに泊まろうかという事になり、そのユース・ホステルに行ってみたが満員で駄目だと断られてしまった。
結局はやはり民宿を探すことになってしまい、駅の旅行案内所で宿を当たってみることになった。これが我々がなんともおかしな民宿に泊まることになってしまったキッカケなのである。
(2)へ続く