第1部⑤ 日常の崩壊


姉は机の上をひっくり返す勢いで探していた。

アクセサリーケース。

化粧ポーチ。

引き出し。

ガサガサと音が続く。

「どこ行ったのよ……!」

苛立った声。

俺は部屋の入り口のところで腕を組んだまま立っている。

正直、本当に知らない。

妹はドアの横の壁に軽く背を預けていた。

スマホをいじっている。

「ねぇ」

姉が突然振り向いた。

「悠真」

嫌な呼び方だ。

「ほんとに知らないの?」

「知らない」

俺は即答した。

姉はじっと俺を見る。

それから、ため息を吐いた。

「……まあいい」

そう言いながら、また机を漁り始める。

俺は少しだけ廊下の方を見た。

妹と目が合う。

妹はスマホを軽く振って見せた。

意味は分からない。

でも、何かしているのは確かだ。

その時だった。

――ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴った。

家の中の空気が止まる。

姉が顔を上げた。

「……は?」

もう一度チャイム。

ピンポーン。

妹がゆっくり体を起こす。

「来たね」

小さく呟く。

俺は眉をひそめた。

「母さん?」

「うん」

妹はあっさり答える。

姉は舌打ちした。

「最悪」

髪を手で整えながら、部屋を出る。

俺と妹も廊下へ出た。

階段を降りる音。

姉が玄関へ向かう。

ガチャ。

ドアが開く音。

「……何?」

姉の声。

次に聞こえたのは、女性の声だった。

「久しぶりね」

母さんだ。

俺と妹は階段の途中で立ち止まった。

母さんの声は落ち着いている。

でも、いつもより少し硬い。

「ちょっと話があって来たの」

姉は面倒そうに言う。

「は?今?」

「今」

短い返事。

沈黙が少し続く。

俺は階段の手すりに手を置いた。

妹はその横で静かに立っている。

スマホを握っている手が、少しだけ力が入っているように見えた。

母さんの声がもう一度聞こえる。

「悠真もいる?」

「いるけど」

「美咲は?」

「いる」

姉がぶっきらぼうに答える。

「じゃあ三人とも、ちょっと来て」

玄関から、靴を脱ぐ音。

母さんが家に入ってきた。

俺は階段をゆっくり降りる。

リビングの方へ向かう。

妹も隣を歩く。

小さく、俺の袖を引いた。

「悠馬」

「ん?」

妹は前を見たまま、小さく言った。

「多分、今日で終わるよ」

「何が」

俺が聞くと、妹は少しだけ笑った。

でもその笑い方は、いつもの軽いものじゃなかった。

「色々」

リビングのドアが開く。

母さんがソファの前に立っていた。

テーブルの上には――

スマホが置かれている。

画面には、写真がいくつか並んでいた。

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