第1部② 妹の策略
放課後の教室は騒がしい。
部活の話。
帰り道の約束。
机を引く音。
そんな中で、私はいつも通り鞄を閉じた。
周りの会話は半分しか聞いていない。
考えているのは別のことだから。
……そろそろだ。
私は立ち上がり、廊下へ出る。
校舎の窓から見える空は、少し曇っていた。
兄はまだ教室にいるはずだ。
多分、腕に絆創膏を貼って。
今日も何も言わないで帰る。
あの人はそういう人だ。
だから。
――私がやる。
私は階段を降りながら、ポケットの中のスマホを取り出した。
画面にはいくつかの写真がある。
姉の部屋。
机の上。
床。
どれも、さっき撮ったものじゃない。
何日も前から少しずつ撮っている。
例えば。
ヘアアイロン。
焦げた跡。
床に落ちた髪の毛。
兄の腕の写真。
全部、証拠になる。
……必要な時に。
私はスマホを閉じた。
外に出ると、風が少し強かった。
ここからは時間との勝負だ。
姉は気分で動く。
機嫌がいい日もあれば、最悪の日もある。
でも。
癇癪は必ず起こす。
それが分かっているなら、やり方はある。
私は歩きながら、頭の中で順番を並べる。
まず。兄は絶対に巻き込まない。
あの人は、こういうことが向いてない。
次に。両親。
別居しているけど、完全に無関心ではない。
ただ。証拠がない。
だから今まで、何も起きなかった。
でも。証拠があれば話は別だ。
私はスマホをもう一度取り出した。
メッセージ画面。
送信先は――母。
まだ送らない。
今じゃない。
私は歩きながら、空を見た。
兄は優しい。
優しすぎる。
だから姉は調子に乗る。
でも。
それも、もう終わり。
私は信号で立ち止まる。
赤信号。
車が横を通り過ぎる。
私は小さく息を吐いた。
――最後の一つ。
それさえ揃えばいい。
癇癪。
暴言。
暴力。
それが親の前で起きるようにする。
ただ、それだけ。
信号が青になる。
私は歩き出した。
頭の中で、静かに呟く。
「もうすぐだよ」
兄には聞こえない。
でも。
そのために、私は全部準備している。