ミャンマー  背後で糸引く中国仲介の「一時停戦」 長期化するクーデター以来の混乱 | 碧空

ミャンマー  背後で糸引く中国仲介の「一時停戦」 長期化するクーデター以来の混乱

(食料品店の前にできる長蛇の列も日常の光景で、人々からは物価高騰への不満の声が ヤンゴン 【1227日 NHK】)

 

【背後で糸を引く中国のマッチポンプ】

ミャンマー北東部シャン州で昨年1027日にMNDAA(ミャンマー民族民主同盟軍)、TNLA(タアン民族解放軍)、AA(アラカン軍)の三つの少数民族武装勢力が国軍に対して攻勢を開始して戦闘状態になっていることは、これまでも何回か取り上げてきました。

 

国軍側は軍内部の統制が乱れ、士気が低下していることもあって劣勢が伝えられる状況で、昨年12月中旬には国軍・少数民族双方に関係を持つ中国の仲介でいったんは「一時停戦合意」が報じられました。

 

****中国の仲介でミャンマー「一時停戦で合意」****
中国外務省は、激しい戦闘が続くミャンマー軍事政権と武装勢力などの和平交渉を仲介し、「一時停戦と対話の継続で合意した」と発表しました。

ミャンマーでは10月下旬以降、中国との国境に近い北東部や東部などで少数民族や民主派の武装勢力が軍への一斉攻撃を行い、激しい戦闘が続いています。

こうしたなか、中国外務省は14日夜、「中国国内でミャンマー軍事政権と3つの武装勢力が和平協議を行い、一時停戦と対話の継続で合意した」とする報道官の声明を発表しました。

そのうえで、「この合意は中国とミャンマーの国境の安定にも寄与するものだ」と強調。「関係者が合意を履行し、最大限自制し、状況を改善させるために協力することを希望する」としています。

中国との国境には戦闘から逃れてきた避難民が押し寄せており、中国政府が停戦を呼びかけていました。【1214日 TBS NEWS DIG

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しかし、戦闘はその後も続き、13日、中国・雲南省のミャンマーと国境を接する街の住宅街にミャンマーから飛来した砲弾が着弾して中国人5人が負傷する事態も。

 

中国は「全ての紛争当事者に対し戦闘を停止し、こうした危険な事故の再発防止措置を取るよう求める」とミャンマー軍事政権に抗議。(おそらく、少数民族側にも圧力がかけられたと想像されます)

 

中国側の強い要請によって、少数民族武装勢力と軍事政権が改めて一時停戦で合意したと報じられています。

 

****ミャンマー少数民族武装勢力、軍事政権と一時停戦で合意****

ミャンマーの軍事政権に反発する北部の少数民族武装勢力が組む「3兄弟同盟」はこのほど、軍政と一時停戦で合意した。武装勢力の指導者が12日に明らかにした。中国が特使を派遣し、交渉を仲介したという。

 

軍事政権の報道官も12日、中国の仲介で「一時停戦」に合意したことを確認。「停戦合意についてさらに協議し、合意を強化する計画だ。国境ゲート再開に向けたミャンマーと中国の協議もさらに進める」と述べた。

 

少数民族武装勢力の攻勢は国軍にとって、2021年のクーデター以降で最大の軍事的懸案となっていた。中国も国境貿易の混乱や難民流入につながるとの懸念を強めていた。

 

3兄弟同盟を組む武装勢力の一つ、タアン民族解放軍(TNLA)の指導者は、国軍拠点や町への攻撃を停止する見返りに国軍が空爆や砲撃、重火器による攻撃を行わないことで合意したと述べた。

 

中国外務省は12日、1011日に中国が昆明でミャンマー軍政と武装勢力の和平交渉を仲介したと明らかにした。双方が停戦と交渉を通じた問題解決に合意したという。【112日 ロイター

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今回合意は「一時停戦」であり、ミャンマー国軍側は完全停戦に向けて「今後も協議を続ける」としています。

 

停戦発表直後には、少数民族のタアン民族解放軍が「停戦にもかかわらず国軍が12日と13日の2日間にわたり、シャン州でおよそ20回の砲撃と空爆をした」と主張、国軍側はこれを否定する混乱も。

 

状況はよくわかりませんが、その後、戦闘に関するニュースは報じられていませんので、概ね「一時停戦」が履行されているものと推測されます。

 

中国の仲介で停戦合意・・・とは言っても、そもそも1027日の武装勢力側の攻勢は中国の描いたシナリオに沿って行われたもの・・・とのことです。中国は自分で火をつけておいて、その後消火にあたる、いわゆる「マッチポンプ」のようにも見えます。

 

そのあたりの事情は前回1229日ブログ“ミャンマー 中国系特殊詐欺グループ撲滅で始まった少数民族武装勢力の攻勢、中国仲介後も続く緊張”でも「少数民族側の報道官は、事前に中国側との接触があったことを明らかにし、ミャンマー軍と友好関係にある中国が作戦を事実上、黙認していたという認識を示しました」と触れましたが、“黙認”というより、むしろ中国側主導の様相もあったようです。

 

****ミャンマー少数民族側 軍に攻撃 “中国側が事前に連携要求”****

ミャンマーで少数民族の武装勢力が202310月に開始した軍への一斉攻撃について、少数民族側の報道官はNHKの取材に対し、中国側が事前に連携を求めていたことを明らかにしました。(中略)

 

TNLAの報道官はNHKのインタビューに対し、(中略)一斉攻撃の目的について、市民の生命と財産の保護、軍の打倒、それに特殊詐欺の撲滅をあげました。

特殊詐欺を巡っては、中国人の詐欺グループがシャン州の中国国境周辺に拠点を置いているとされ、中国政府は繰り返しミャンマーに取締りを求めていますが、軍には詐欺グループを保護する見返りとして金銭が流れていると指摘されています。

一斉攻撃の目的の1つに特殊詐欺の撲滅を掲げたことについて、報道官は「もともとは中国が思いつき、われわれも実行することを決めた。作戦の開始前には中国側が連携を求めてきたので喜んで受け入れた」と述べ、中国側が事前に連携を求めていたことを明らかにしました。

一斉攻撃には民主派勢力も呼応し、その後拡大していて、国境周辺の安定化もはかりたい中国がどれだけ関与していくかに関心が集まっています。

 

中国 高齢者や富裕層などねらった特殊詐欺 被害深刻に

中国では高齢者や富裕層などをねらった特殊詐欺の被害が深刻となっていて、公安当局が取締りを強化しています。

国営メディアによりますと、2022年の1年間に当局が摘発した特殊詐欺の件数は46万件余りにのぼり、年々、増加傾向にあるということです。

一方、中国国内での取締りが強化されるにつれて、東南アジアの国々など海外に拠点を移した詐欺グループが動きを活発化させていることから、各国の当局などとも連携して対応に乗り出しています。

とりわけ国境を接するミャンマーでは、特殊詐欺に関わった疑いで拘束された容疑者が中国側に引き渡されるケースが相次いでいて、20239月上旬には1207人、10月中旬には2349人がミャンマー北部から一斉に移送され、中国当局が取締りの成果を強調しています。

中国の王毅外相は、ミャンマー軍が外相に任命したタン・スエ氏と12月に会談した際、特殊詐欺への対応をめぐる協力について言及したうえで「双方は協力をさらに強化し、特殊詐欺という腫瘍を徹底的に取り除くべきだ」と述べています。【118日 NHK

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中国側が特殊詐欺グループの活動撲滅を強く求め、軍事政権側の対応が鈍い(国軍と詐欺グループにつながりがあるとされていますので)ことで苛立ちを募らせていたことが今回の衝突の背景にあることはこれまでも触れてきたところです。

 

一方で、中国は一帯一路事業などで軍事政権とも深いつながりがあります。

軍事政権と少数民族武装勢力双方につながりをもつ中国の動きが今後の推移を左右します。

 

****ミャンマー内戦を中国が背後で糸を引く理由****

Economist1223日号の解説記事‘China is backing opposing sides in Myanmar’s civil war’が、中国はミャンマーの軍事政権を支持しているが、202310月末の少数民族民兵によるシャン州における攻撃は、中国の安全の利益を害する詐欺グループの破壊という短期的利益のために、中国が背後で糸を引いて彼らにやらせたものだ、と解説している。(中略)

 

オンライン詐欺の問題は中国にとって外交政策のプライオリティとなったが、ミャンマー軍には詐欺産業を破壊する能力はなく、かつ詐欺グループにカネで買われていたとみられ、何もしなかった。そこで、中国は少数民族を頼ることになったとみられる。

 

中国は、軍事政権に再び擦り寄っている。軍事政権は依然としてミャンマーの空港、銀行、ネピドーを含む大都市のほとんどを支配している。西側の制裁にもかかわらず、軍事政権はジェット機を中国とロシアから買い、彼らの敵が支配する地域で民間人に対して無差別爆撃を行っている。

 

中国は大体において軍事政権を支持しているが、時には彼らの敵を支持するであろう。

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(中略)

ミャンマーの局面展開はあるのか

上記の記事によれば、1027日に始まった少数民族の連合軍の攻撃は背後で中国が糸を引いてやらせたもので、その目的の一つは国境地帯を根城に活動する詐欺のネットワークを破壊することにあった。というのは、多数の中国人が詐欺の犠牲者と下手人として関与し、中国にとって看過出来ない安全の問題になっていたからである。  

 

中国は軍事政権に詐欺の取締りを要求したが、彼らにその能力はなく、従って、かねて影響力を維持してきている少数民族を頼ったというわけである。

 

Three Brotherhood Alliance (少数民族武装勢力の「三兄弟同盟」)を構成するMyanmar National Democratic Alliance Army(MNDAA ミャンマー民族民主同盟軍)はコーカン族の民兵であるが、彼らは民族的に中国人で中国語を話す。

 

中国が軍とThree Brotherhood Allianceとの休戦を斡旋したのは、一仕事終わったので休戦させたという局部的なことのようである。  

 

そうだとすれば、ミャンマーが局面転換の展望を開くような情勢にあるのかは疑問に思われる。少数民族相互間あるいは少数民族と民主派勢力との間で調整が図られている様子はない。Three Brotherhood Allianceの攻撃は民主派の武装組織PDFと調整されたものではないとされている。  

 

しかしながら、過去2カ月の出来事は、軍事政権が民主派のPDFおよび少数民族民兵による政治的目標を共有する調整された軍事行動に当面した場合には、その結果として、国が混乱し分裂の危機に陥るようなことがあり得るということを示している。【119日 WEDGE

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今回戦闘で国軍の士気が非常に低いことが明らかになりました。

また、軍事政権統治下のミャンマー経済は悪化しており、市民生活は窮乏しています。

 

前回ブログでも“最大都市ヤンゴンでさえ停電が日常になり、さらに米の値段は3倍、燃料の価格も5倍程度に跳ね上がっており、市民生活の困窮が軍事政権への国民の不満を強め、少数民族武装勢力が拠点とする辺境地域だけでなく、ミャンマー全土において軍事政権の支配体制を揺り動かす可能性もあります。”と書いたように、今後、中国の思い描くシナリオを超えて混乱が拡大する可能性もあります。

 

【クーデターから3年 悪化する避難民の状況

今回の衝突で、地上戦で劣勢に立たされた国軍は少数民族の住民らの避難民キャンプ空爆で対抗しており、避難民の状況はこれまで以上に悪化しています。

 

****避難民キャンプは国軍の標的・故郷には地雷、攻撃恐れ各地を転々と…ミャンマークーデター3年****

ミャンマーで2021年に国軍が強行したクーデターから2月1日で3年になる。少数民族武装勢力との戦闘で劣勢の国軍は、少数民族の住民らの避難民キャンプに空爆を続け、戦意喪失を図る。山間部やタイとの国境地帯に逃れた避難民は、劣悪な生活を強いられている。

 

空爆

「夫が殺された場所にはもう戻りたくない」 ミャンマー東部カヤ州とメーホンソン県の国境地帯の村で身を潜めて暮らす少数民族出身の女性(33)がつぶやいた。クーデター直後、バイク修理店を営んでいた夫と当時7歳の長女と共にカヤ州西部の街を逃れ、森の中を5日間歩いて国境近くの避難民キャンプに着いた。

 

2年以上が過ぎた昨年7月、真夜中の就寝中に国軍機の爆弾がキャンプ内の仮設学校に落ちた。飛び起きて娘と共に近くの防空壕ごうに走った時、2発目が落ち、爆風で防空壕の中に吹き飛ばされた。夫は、他の避難民に危険を知らせるため、まだ外にいた。防空壕からがれきをかきわけて外を見ると、暗闇の中で息絶えた夫が見えた。

 

朝にかけて計4回の空爆があった。「もうキャンプには住めない」。夜が明けると、娘とキャンプを出てジャングルを歩き、国境付近の村に着いた。故郷に戻るつもりはないという。

 

多民族国家のミャンマーでは、国境地帯を中心に、自治権を求める少数民族武装勢力が国軍と繰り返し衝突してきた。カヤ州では、市民が武装した「国民防衛隊」と連携して戦っている。

 

戦闘が長引くにつれて国軍の兵力は落ち、現在は15万人程度だとの見方もある。国全体での戦闘を続けるには地上部隊の兵力が不足し、最近は空爆や火砲での攻撃が主体になりつつある。

 

避難民キャンプには、それぞれの地域の少数民族が多く避難する。非武装の住民が集まるキャンプを標的にするのは、地上戦で劣勢になる中で、少数民族側の犠牲を増やす狙いがあるようだ。

 

ミャンマー国内で家を追われた「国内避難民(IDP)」は増え続けている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、クーデター以降、避難民は約230万人に達した。

 

カヤ州で人道支援を行う団体のネイ・ネー氏によると、州人口の6〜7割にあたる20万人以上が家を追われ、キャンプや山間部の村など220か所に分散して避難している。国際支援団体がほとんど活動できず、「水や食糧、医薬品が全然足りていない」と明かす。

 

長期化

国境付近のキャンプで暮らす男性(29)によると、戦闘の長期化につれて避難民は増え、今は約3000人が粗末な小屋やテントで暮らす。地元の支援団体が届ける食糧は不足し、森でタケノコなどを採って補う。

 

水も足りず、沢の水をせき止めて煮炊きに使う。体を洗えず皮膚病が蔓延まんえんしているが、医薬品はない。男性は「攻撃を恐れ、夜は森で寝る人もいる。子どもは空爆を恐れ、飛行機の音に体を震わせる」と話す。

 

昨年10月、カヤ州の北のシャン州では少数民族武装勢力3派が一斉に国軍に攻撃を始めた。カヤ州でも昨年11月、武装勢力が攻勢を始めた。武装勢力関係者によると、国軍は国境沿いの20以上の拠点から撤退。主要な町に部隊を戻し、反撃態勢を整えている。山間部の多くは武装勢力側が支配するが、避難民がすぐに故郷に帰れるわけではない。

 

大きな理由が、国軍が敷設した地雷だ。キャンプで4人の子どもと暮らす男性(36)は「カヤ州の故郷には地雷があちこちに埋まっており、家も破壊された。生活の再建資金もなく、状況を見守るしかない」と明かす。国軍が撤退した町に戻り、地雷で亡くなった人は5人に及ぶと聞いたという。

 

流浪

攻撃を恐れ、キャンプに入らず各地を転々とする人もいる。カヤ州北西部で農業を営んでいた男性(66)は、クーデター以降、妻(65)と義母(93)を連れ、7か所の町や村をさまよった。国軍が支配する町では、携帯電話の写真までチェックされた。国軍が市民を撃つ場面を何度も目撃した。

 

少数民族側の攻勢が始まった昨秋、国軍が支配する北西部の都市にいた。空爆は毎日経験した。民家で息を潜め、市外に通じる道路が使えるようになると、車で国境地帯を目指した。

 

ジャングルでは義母を背負って山道を歩き、タイ側の村に着いた。故郷を出る時に自家用車を売却して得たお金を取り崩す日々だ。「戦闘が終わり、本当に平穏が訪れたら故郷に戻りたいが、いつのことになるか分からない」とつぶやいた。

 

食糧、水、医薬品 足りない…少数民族勢力 指導者が訴え

カヤ州で国軍と戦うカレンニー民族進歩党(KNPP)のウー・レ議長=写真=がタイとミャンマーの国境地帯で本紙の取材に応じた。(中略)

 

「停戦は絶対に必要だ。ただ、対等に交渉に臨むため、もっと国軍を押し返す必要がある。民主派勢力が樹立した『国民統一政府』はまだ政治的、軍事的に国全体を統治する力がない。カヤ州は我々が統治できる。昨年、暫定執行評議会を設立し、教育や医療などの行政機能を持つ。他州でも同様の動きがあり連携している」【120日 読売

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【混乱長期化で改めて問われる日本の姿勢】

ミャンマー国内の不安定な状況、軍事政権による人権弾圧が長期化するなかで、日本は欧米が軍事政権に課す制裁には消極的で、軍事政権とも「対話」を続ける姿勢で、ODA・政府開発援助についても従来からのものは継続しています。 

 

ただ、実際問題として「対話」で何が改善したのか?(中国に利権を奪われたくないというのが本音でしょう)

そうしたなかで、日本企業は改めて「今後どうするのか?」対応を迫られています。

 

****国連にも“名指し”されたKDDI・住友商事  軍政下のミャンマーで事業継続を発表「通信網の維持・確保が重要」****

KDDIと住友商事は、軍事政権下のミャンマーで、通信事業を継続すると発表しました。人権侵害に加担するリスクも指摘されていますが、両社は「通信網の維持・確保が重要」と説明しています。

2021年のクーデター以降、混乱が長引くミャンマーでは複数の日本企業が撤退したほか、事業の見直しや縮小を迫られている会社も少なくありません。

こうしたなか、現地の通信市場をけん引しているKDDIと住友商事は23日、ミャンマー郵電公社と提携する事業の継続を発表しました。

両社の事業をめぐっては、国連人権理事会の特別報告者が去年、軍の支配下にある国営企業との提携関係に「深く憂慮している」と表明。また、世界最大級の政府系ファンド「ノルウェー中央銀行」も先月、「個人の重大な権利侵害に加担するリスクがある」と指摘しています。

KDDIと住友商事は、「通信網の維持・確保が人権尊重上重要」としたうえで、「状況変化を注視しながら適切な対処を検討する」としています。【125日 TBS NEWS DIG

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