ウクライナ  国際支援に二つの懸念 スロバキア新政権とアメリカ新下院議長 | 碧空

ウクライナ  国際支援に二つの懸念 スロバキア新政権とアメリカ新下院議長

(スロバキア・スラビンには第2次世界大戦においてスロバキア首都ブラチスラバ解放で倒れた6,278人のソビエト兵士が埋葬されています【英語版ウィキペディアより】)

 

【膠着状態のウクライナ戦局】

連日圧倒的な量の情報が報じられているパレスチナ情勢の一方で、先日までメディアの中心的な関心事であったウクライナ情勢に関しては目立った情報をめにしなくなりました。

 

それはメディアの関心がパレスチナに向いているということに加えて、東部でのロシア、南部でのウクライナ双方の攻勢が相手側の抵抗にあい、戦況が膠着状態にあるためでしょう。

 

****露軍の攻勢弱体化 損害拡大で再編成か 東部ドネツク州****

ロシアによるウクライナ侵略で激戦が続く東部ドネツク州アブデエフカを巡る攻防に関し、ウクライナ軍のシュトゥプン報道官は25日までに露軍の攻勢が弱まっていると報告した。

 

シュトゥプン氏はその理由を、露軍が過去1週間に同州だけで約3000人の死傷者を出し、部隊の再編成に着手したためだと指摘した。ウクライナメディアが伝えた。

 

ドネツク州全域の制圧を狙う露軍は今月、同州の州都ドネツク近郊の都市アブデエフカへの攻勢を強化。露軍は同州バフムトの制圧後、周辺でウクライナ軍に足止めされていることから、別の進軍ルートとしてアブデエフカの突破を狙っているとみられる。

 

ただ、米シンクタンク「戦争研究所」や英国防省によると、露軍はアブデエフカ周辺でもウクライナ軍の抗戦に遭い、大きな損害を出して目立った前進を達成できていない。

 

一方のウクライナ軍も、反攻の主軸とする南部ザポロジエ州方面で8月下旬に集落ロボティネを奪還したものの、露軍の防衛線に直面。当面の奪還目標とする小都市トクマク方面に前進できておらず、戦局は南部・東部とも膠着(こうちゃく)の度を増している。【1026日 産経

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【スロバキア新政権はウクライナへの武器供与停止を発表】

戦況は膠着状態ですが、ウクライナにとって生命線である国際支援については懸念すべき材料も生じています。

 

ひとつは欧州にあって、スロバキアにおいてロシア寄りの主張を掲げて9月の総選挙を制した政権が誕生したこと。

 

****ウクライナ支援疲れ、浮き彫りに 東欧で足並み乱れ拡大も****

ウクライナの隣国スロバキアで930日実施の国民議会選挙で、ウクライナへの軍事支援停止を訴えた左派スメルが第1党になり、物価高騰などに直面する有権者の支援疲れが浮き彫りとなった。ポーランドでも10月、総選挙が予定され、東欧で支援を巡る足並みの乱れが拡大する可能性がある。

 

スロバキアはウクライナ支援では、旧ソ連製の戦闘機や旧ソ連時代に開発された地対空ミサイルシステムを供与するなど積極的だった。

 

一方、近年はコロナ感染拡大などの難局に直面。「ウクライナ人が優先されている」との不満が高まった可能性がある。スメルはこうした声を取り込んだとみられる。

 

ポーランドでは侵攻後、東欧経由の陸送拡大で通過する安価なウクライナ産穀物が自国内に流入。市場価格は侵攻前の3分の1に下落したとされ、農家が強く反発する。

 

総選挙を控え、政権を率いる保守与党は支持基盤である農家の保護優先を強調。モラウィエツキ首相は「自国の利益が最も重要だ」との主張を繰り返し、ウクライナへの武器供与停止にも言及している。【102日 共同

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上記記事にあるポーランドに関しては、1024日 ブログ“ポーランド総選挙の結果、親EU路線への政権交代の方向 ハンガリー・オルバン政権へも影響か”でも取り上げたように、EUと歩調を合わせる野党による政権ができる流れですが、スロバキアの方は早くもフィツォ新首相が「もうウクライナに武器は送らない」と明言しています。

 

****ウクライナへの武器供与停止=スロバキアが正式表明、人道支援は継続****

東欧スロバキアのフィツォ新首相は26日、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの武器供与を停止すると正式に表明した。AFP通信が伝えた。人道支援や財政的な援助は継続する方針。

 

フィツォ氏は国民議会の議員らに「もうウクライナに武器は送らない」と明言した。ロシア寄りの左派政党「スメル(道標)」を率いる同氏は、軍事支援の停止やウクライナ和平推進を訴えて9月の総選挙に勝利。今月25日に首相に就任した。【1026日 時事

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ポーランドは最近のウクライナ産穀物をめぐる問題、そこから派生するウクライナ支援に関する不協和音は別として、欧州でも最もロシアに対する警戒感が強い国で、従来からウクライナ支援では先頭に立つ国でした。

そのウクライナ支援・ロシア批判という点では、現政権も今後成立する新政権も基本的には同じでしょう。

 

ということは、ウクライナ支援に関して言えば、欧州はこれまでのハンガリーに加えてスロバキアという反対勢力が増えた形になります。そのあたりは早速表面化しています。

 

EU首脳会議は27日、ウクライナに対する「強力な財政的、経済的、人道的、軍事的、外交的支援を提供し続ける」ことで大筋合意しましたが、詳細を決定していくうえではハンガリー・スロバキアの抵抗が予想されます。

 

****EU、ウクライナ支援で亀裂 ハンガリーとスロバキアが難色****

欧州連合(EU)はウクライナに向こう4年間で500億ユーロ(530億ドル)を支援する案を大筋で支持したが、全会一致が必要となる12月の詳細合意を前にハンガリーとスロバキアが難色を示し、EU内に亀裂が生じていることが明らかになった。

 

EUはブリュッセルで開催された首脳会議2日目に「ウクライナとその国民に必要な限り、強力な財政・経済・人道・軍事・外交支援を提供し続ける」と明記する声明を採択した。EU欧州委員会は6月、202427年にウクライナに500億ユーロを支援することを提案している。

 

ドイツのショルツ首相は首脳会議後「ウクライナの財政安定のために必要なことが決定されると予想している」とし、「部分的に異なるアセスメントが決定に影響するとは考えていない」と述べた。

 

アイルランドのバラッカー首相は2日目の協議前「ウクライナに追加の資金が必要だという強い意見があり、その点はほぼ一致している」とした上で「ただ、資金をどこから捻出するかについては、効率性を除いてほとんど意見が一致していない。12月までに合意できると思う」と述べていた。【1027日 ロイター

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【スロバキアの親ロシア感情】

スロバキアの親ロシア感情については、“第2次大戦においてイギリス・チェンバレン首相がチェコスロバキアをヒトラーに売り渡し、ソ連が多大な犠牲を払ってヒトラー支配から解放した”という歴史の一面(もちろん、チェンバレン、ヒトラー、スターリンにはそれぞれの思惑があっての「結果」ではありますが)が影響しているとの指摘も。

 

****共産党支配に苦しんだ国のはずなのに...スロバキアで体感した「親ロシア」の謎****

<旅行中に偶然居合わせたスロバキア総選挙では、親ロシアを掲げる政党が第1党に。旧ソ連兵を大事にまつり、欧米に反発するスロバキアの背後にある複雑な事情とは>

 

(中略)さらに偶然に、僕はブラチスラバ最初の朝を、大いに意味のある場所から始めていた。良い天気だったし外で朝食を取りたいと思った僕は、ホテル近くの丘の上に大きな緑地があることを地図で知った。スラビンというところだ。ここが1945年にブラチスラバを解放したソビエト赤軍の戦死者を称えた記念碑であることは、着いてから初めて知った。

 

その場所が完璧に維持管理されていて、街を一望できる目立つ場所にあり、そして「赤軍の犠牲への敬意」がそこかしこに記されている点に僕は驚いた。旧ソ連圏の国々のほとんどでは、ソ連時代の記念碑は破壊されるか軽視されるかしていた。あるいは少なくとも、共産主義支配の「罪」のほうも忘れないために、という狙いで残されていた。

 

でもスラビンの記念碑は汚れ一つないだけでなく、スターリンが事実上ヒトラーに代わって新たな占領者になっただけだという意味合いは全く匂わせず、2015年に改良工事まで行われていた。もちろん解放70周年記念の年ではあったのだが、ロシアがクリミア半島に侵攻した翌年でもあった。ロシア軍をあえて記念しようとするには奇妙なタイミングだ。(中略)

 

ヒトラーを倒すために多くの戦いを担い、多くの犠牲を生んだのはソ連軍兵士であったことは、西側にとってもきまりの悪い公然の秘密だ。人類の自由と国家の主権にとって、ソ連は恐ろしい敵だったという僕自身の考えはそのままに、彼らの犠牲には敬意を払うべきだと僕は感じた。

 

それでも、スロバキアの市民が彼ら「解放者」に感謝よりも怒りを感じないでいられるのは、理解し難かった。チェコスロバキア(当時)の発展は数十年も停滞した。スロバキアの共産党指導者アレクサンデル・ドゥプチェクが自由化を図ろうと「プラハの春」を進めると、ソ連はただもう単純に侵攻して自由化を阻止し、あらゆる反対派をつぶした(1968年)。

 

イギリスによって「売り渡された」歴史

(中略)僕はオーストリア国境に向かって、ブラチスラバ郊外の森の中へと足を踏み入れた。奥深くには、第1次大戦後にチェコスロバキアが成立した当時に建てられたバンカーが数多く残されていた。(中略)

 

重要なのは、これらが重大な要塞の数々だったのに、イギリス史上最も恥ずべき瞬間の一つである1938年のミュンヘン協定によって、その重要性が失われてしまったことだ。ヒトラーのドイツ(既にオーストリアを併合していた)はチェコスロバキアのいわゆる「ズデーテン地方」をドイツに割譲するよう求めていた。多くのドイツ系が居住していた地域だ。


戦争を回避するために、イギリスのネビル・チェンバレン首相は「協定」を交渉し、そのなかでチェコスロバキアはこの領土を割譲するよう強いられ、そのうえ戦わずして国境地帯の要塞を全て放棄しなければならなくなった。

 

その翌年、当然ながらヒトラーは無防備になったチェコスロバキアの残りの地域に軍を向かわせ、征服した。事実上イギリスは、ドイツとの戦争を回避しようとの無駄な努力によってチェコスロバキアの主権を売り渡したことになる。

 

明らかに、今のスロバキアにおける親ロシア政治には、歴史的背景以上の理由がある(LGBTの権利や移民問題など、ある種の「リベラルな価値観」への反発もあるだろう)。

 

でも僕は、イギリスが自らの保身のためチェコスロバキアをヒトラーに売り渡し、ロシアが大きな犠牲を払ってヒトラーを追い出したと考えるのは理にかなっていると思う。だから「西側は善、東側は悪」という単純な物語は、スロバキア市民にとっては必ずしもそう単純ではないのだ。【1012日 Newsweek

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“第2次大戦においてイギリス・チェンバレン首相がチェコスロバキアをヒトラーに売り渡し、ソ連が多大な犠牲を払ってヒトラー支配から解放した”といった認識を是とするかどうかは議論があるところでしょうが、西欧と中東欧では歴史も認識も異なるものがあるということは留意すべきことでしょう。

 

私のような年代の者にはチェコスロバキアと言えば東京オリンピック(1964年)で活躍した女子体操のチャスラフスカ、彼女も関与した「プラハの春」(1968年)が想起されますが、このソ連への抵抗と弾圧の「プラハの春」にしても、欧米的な理解とスロバキア国内での理解・評価にはズレもあるのかも・・・。

 

【アメリカ下院新議長 ウクライナへの追加支援に難色か】

ウクライナにとって、今後の支援に関し懸念すべきもうひとつの材料は、死活的に重要な最大の支援国アメリカの動向です。

 

周知のようにアメリカでは異例の大混乱の末、ようやく下院議長が決まりましたが、マイク・ジョンソン新議長はtトランプ前大統領に近く、これまでロシアの侵攻を受けるウクライナへの追加支援に反対するなどバイデン政権と対立してきた人物です。

 

“トランプ前大統領の周辺の人たちは、ウクライナ支援を続けることに反対の立場です。11月半ばにつなぎ予算が切れたあと、アメリカがどんな姿勢を示すかは、ウクライナ戦争の結果に大きな影響をもたらします。”【1027日 ニッポン放送NEWS ONLINE

 

****ウクライナとイスラエルの支援策を分割すべき=米下院新議長****

ジョンソン米下院新議長は26日、ウクライナとイスラエルへの支援策は別々に扱うべきだと述べ、バイデン大統領が要請している両国支援を盛り込んだ1060億ドル規模の予算案を支持しないことを示唆した。

議長はFOXニュースのインタビューで、大統領とこの日会談し、ホワイトハウス側に両国の問題を分ける必要があるというのが下院共和党のコンセンサスだと伝えたと語った。

ジョンソン氏は「ウクライナ(支援)での最終目的は何かを知りたい」とし、「ホワイトハウスはそれを示していない」と述べた。

バイデン氏は、予算案にイスラエルと移民への支援を含めることでウクライナへの追加支援に慎重な共和党下院議員を説得したい考えだ。

予算案にはイスラエル向け支援が143億ドル、ウクライナ向けが610億ドル盛り込まれている。【1027日 ロイター

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次期大統領選挙でバイデン大統領が敗れてトランプ前大統領が復活する事態になれば、ウクライナ・ゼレンスキー大統領の命運も尽きる可能性が濃くなりますが、それ以前にジョンソン新下院議長という厄介を抱えることにもなっています。

 

ゼレンスキー大統領としては、欧州・アメリカの“ウクライナ支援疲れ”的な動きが表面化する前に戦況において大きな成果を得て、支援継続を確固たるものにしたかったところですが・・・思いどおりには行っていないようです。