ポーランド総選挙の結果、親EU路線への政権交代の方向 ハンガリー・オルバン政権へも影響か | 碧空

ポーランド総選挙の結果、親EU路線への政権交代の方向 ハンガリー・オルバン政権へも影響か

(ポーランドの野党連合「市民連立」を率いるドナルト・トゥスク氏【1016日 BBC

極右勢力、ポピュリズムの台頭に悩むEUにとっては、ポーランドでの親EU政権樹立は(まだ確定ではありませんが)珍しく明るい話題になりそうです)

 

【西欧的価値観に抗うEUの“異端児”ポーランドとハンガリー

EUないにあって、ポーランドとハンガリーはいわゆる西欧的価値観とは異なる価値観を前面に出し、言論の自由への弾圧や司法への介入、移民受入れ・性的少数者の権利の問題での消極姿勢など、EUの方針に反対する“異端児”的な存在となっています。

 

****EU内部での価値をめぐる戦い****

(中略)冒頭で述べたとおり、ロシアへの対応をめぐりEU加盟国間の足並みの乱れがある。自国経済への影響を考慮したことが大きな理由の1つとされるが、EUの結束の乱れは経済的な理由だけに起因するものではない。

 

EU内部には民主主義や法の支配を中心とした価値観をめぐる相違が以前から根強く存在しており、現在も対立は続いている。

 

例えば、ハンガリーのオルバーン首相が「民主主義は必ずしもリベラルであるわけではない」と持論を述べた2014年の「非民主主義」演説は、欧州ではよく知られており悪名高い。

 

実際、政府に対して批判的な言論への統制は年々厳しさを増しており、今年行われた20224月のハンガリー議会選挙において、国営放送では野党に許された発言時間はわずかであった。

 

オルバーン派は、影響力のある独立系メディアの経営権を掌握する動きも同時に進めており、選挙が定期的に行われていると言うことはできても公平な選挙が行われているとは言えない状況である。

 

また、EU基金の不正利用や利益相反といった組織的な汚職疑惑が多いにもかかわらず、起訴率はほかのEU諸国と比べて低い水準にとどまっており、オルバーン首相とその周辺による公的資金の私物化が進められていると言える。

 

ポーランドも、政府にとって都合の悪い裁判官に対して定年引き下げや懲罰制度などを通じた介入を試みており、法の支配と司法の独立性が脅かされつつある。

 

EU内の現実を目にして、期待は失望に

民主主義と法の支配はともにEU憲法条約の第2条においてEUの基本的な価値と記されている。EU加盟の際には「コペンハーゲン基準」をクリアする必要があり、その条件の中には民主主義や法の支配も含まれているため、ポーランドやハンガリーでも導入が進められた。

 

しかし、加盟後はそうしたテコが使えず、代わりにEU憲法第7条を根拠としたEU基金の停止を新たなテコとして両国の状況改善を求めている。

 

それにもかかわらず、両国はEUの基本的な価値の書き換えに向けた試みを続けている。

 

EU加盟当初、ポーランドとハンガリーはEUのメンバーとなることで西欧諸国や中欧のオーストリアと同レベルの豊かさを享受できると期待していた。そうした期待は厳しい市場競争や経済格差というEU内の現実を目の当たりにして、EUへの失望に変わってしまった。

 

この失望は両国の保守派の間で、冷戦終結以後に推し進めてきた民主主義や法の支配の確立といった取り組みへの反発をもたらした。

 

さらには、両国はEUからの政治的な抑圧を受けており自律的な意思決定が妨げられているという、ドイツをはじめとした欧州の大国およびEUに対する不満も増大させた。

 

こうした反発や不満をもとに、ハンガリーのオルバーン政権やポーランドのモラヴィエツキ政権は、「自国ファースト」の政治を進めるとともに、EUの民主主義や法の支配を、人権への配慮などの要素を含んだ「厚い」理念ではなく、手続き的な意味だけに狭めた「薄い」理念に狭めようとしているのである。(後略)

【20221121日 石川雄介氏 東洋経済オンライン「ポーランドとハンガリーの反発に映るEUの揺らぎ」】

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【ポーランド総選挙の結果、親EU野党への政権交代となる見込み】

そうした“異端児”の一画、ポーランドで政権交代が実現しそうです。(実際の政権確定は今後の議会内手続き後になりますが)

 

****ポーランドで総選挙、与党は過半数確保できず、政権交代の公算大****

ポーランド議会の総選挙(上院100議席、下院460議席)が1015日に行われた。8年ぶりに政権交代する可能性がある。上下両院の投票率はそれぞれ74.31%と74.4%となり、ポーランドが民主主義へ体制転換した1989年以降、初めて70%を超えた。

 

国民選挙管理委員会(PKW)が1017日に発表した最終集計結果によると、政権3期目を狙っていた保守与党「法と正義(PiS)」は下院で194議席を獲得した。

 

PiSが第1党となったが、欧州理事会(EU首脳会議)の前常任議長であるドナルド・トゥスク元ポーランド首相率いる「市民連立(KO)」が、中道の「第3の道」および「新左派」と合わせて248議席となり、野党勢力が多数派を形成できる見込み。

 

仮にPiS18議席を獲得した極右野党「同盟」(注1)と連立を組んだとしても、過半数には届かない。

 

102425日に、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領が、国民議会入りした各党の代表と個別に協議を行う予定だ。同大統領は選挙期間中にも、勝利した政党が支持する候補者に政権樹立の使命を託すことを示唆していたことから、地元メディアは、同大統領が(現与党)PiSのマテウシュ・モラビエツキ現首相に政権樹立を一任する予定だ、と非公式に報じている。

 

新首相は、任命の日から14日以内に活動計画を国民議会に提出し、信任投票を得る。現地メディアは、この投票はおそらく否決され、現野党が政権を樹立することになる、と予測している。

 

PiS2015年に政権の座に就いて以来、「法の支配」や、移民、LGBTなど性的少数者の権利を巡ってEUと対立してきた。国内の経済専門家は、政権交代すれば、EUとの関係が改善し、「法の支配」などを巡って凍結されているEUの復興基金の拠出が開始されるという見通しを示している。

 

上院では、PiS34議席しか獲得できず、野党が20232月に結んだ上院議員選挙協力協定、いわゆる「上院協定」(注2)「に圧倒的に敗北した。

 

国民投票の結果は拘束力を持たず

今回の議会選挙と同日に、国民投票も実施された。その内容は、(1)国家資産の外国企業への売却、(2)定年の年齢引き上げ、(3)ベラルーシ国境の壁の撤去、(4)不法移民の受け入れ、の4点の是非を問うものだった。

 

国民投票に参加した国民の大多数は、各議題に反対票を投じた。ただし、今回の投票率は40.9%で、ポーランドの憲法で定められている50%に達しなかったことから、拘束力を持たない結果となった。

 

議会選挙の投票率は過去最高を記録したものの、国民投票の投票率が低かったのは、野党が国民投票を「与党の政治ゲーム」とし、ボイコットを呼びかけた結果とみられる。

 

(注1)正式名称は「自由と独立同盟」。

(注2)「上院協定」とは、20232月に野党により締結された、20231015日の議会選挙において上院議員統一候補を立てる協力協定のこと。(後略)【1023日 JETRO

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【対ハンガリー制裁決議に拒否権を発動してきたポーランドの政権交代はハンガリーやEU結束にも影響】

この政権交代は単にポーランドだけでなく、ポーランドと並んでEU方針に抵抗してきたハンガリーにも影響が及びます。そして当然にEUの結束にも。

 

****EUの未来を左右するポーランド総選挙 ~反EU政権が倒れ、親EU政権が誕生へ~****

(中略)

政権続投を目指した(現与党)PiSは、(野党指導者)トゥスク氏をベルリン(ドイツ政府)やブリュッセル(EU)の操り人形で、ポーランドの独立を脅かし、イスラム諸国からの大量の移民流入を招くと批判、影響力を持つ国有メディアを使って選挙戦を有利に進めようとした。

 

また、PiSの支持基盤が強固な地方の投票所や投票所に向かうバス路線を増やしたほか、総選挙と合わせて、退職年齢、ベラルーシとの国境管理、EUの移民受け入れ割り当て、国有企業の民営化を巡る4つの国民投票を実施し、与党支持者の投票率を高めようとした。

 

対する野党勢は、与党が司法やメディアを支配していると批判、与党政権の続投がポーランドのリベラル民主主義を脅かすと主張、今回の選挙が共産党体制崩壊後のポーランドにとって最も重要で、EUの未来を左右すると訴えた。与党のスキャンダル発覚や野党の主張がEU再接近を求める若者の投票率上昇につながり、逆転勝利につながった。(中略)

 

(野党指導者)トゥスク氏はEUとの関係改善、司法介入などを巡って凍結されている欧州復興基金の拠出開始を目指すとしている。また、現政権が進めた中絶反対を撤回する可能性も示唆している。

 

経済政策面では、個人所得の非課税枠の倍増、住宅の新規購入や改修時の補助金、3歳未満の子育て中の母親の職場復帰時の補助金、公共部門の20%の賃上げなどを主張しており、現政権以上に拡張的な財政運営を計画している。

 

なお、近年、ポーランドとともにEUとの対立を繰り返してきたハンガリーは、これまでポーランドの拒否権発動で重要な制裁決議などを免れてきた。ポーランドで親EU政権が誕生することで、ハンガリーとEUとの対立がどう展開するかにも注目が集まる。【1016日 田中理氏 第一生命経済研究所

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【ハンガリー・オルバン首相 「EUは旧ソ連のパロディ」】

一方、ハンガリー・オルバン政権には、多くの事案で全員一致を必要とするEUも手を焼いています。

ウクライナ支援に反対するハンガリーをなだめるべく補助金凍結の解除を検討しています。

 

****EU、対ハンガリー補助金凍結の解除を検討 ウクライナ支援模索****

欧州連合(EU)は、ウクライナのEU加盟協議開始を含むウクライナ支援に関してハンガリーの同意を得るため、ハンガリーへの補助金の凍結を解除することを検討している。複数のEU高官が明らかにした。

 

ハンガリーは他のEU諸国よりもロシアと緊密な関係を築いており、EU加盟27カ国の全会一致を必要とするウクライナの加盟協議を開始するかどうかの決定に関して反対する可能性が高いとみられている。

 

また、EUの行政執行機関である欧州委員会は、ウクライナ支援を拡大するため加盟国にEUへの拠出を増やすよう求めている。この決定にも全会一致が必要だ。

 

EU高官の1人はロイターに対し、ハンガリーの同意を得るために、EUはハンガリーの補助金の状況について検討するだろうと語った。ハンガリーへの補助金は現在、オルバン首相が裁判所の独立性を制限したとして、法の支配への懸念から凍結されている。この高官は「まず凍結された補助金に対する解決なしに、ハンガリーが同意するとは考えられない」と述べた。

 

もう1人の高官も、ハンガリーへの補助金交付と、加盟国拡大や予算協議など全会一致を必要とするEUの計画との間に関連性があることを認めた。

 

3人目のEU高官は、約130億ユーロ(136億ドル)が検討されていると述べた。

 

ただ関係者らは、結論は既定ではなく、国内の景気停滞と財政赤字の拡大に直面しているオルバン氏によるところがかなり大きいことも強調した。【104日 ロイター

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こうしたハンガリー・オルバン政権の対応が、「パートナー」ポーランドの政権交代・親EU路線への変更で、どのように影響を受けるかは今後の話です。

 

そのハンガリー・オルバン首相のロシア接近にはNATOも懸念を示しています。

 

****NATO、ハンガリー・ロシア首脳会談に懸念****

北大西洋条約機構加盟国とスウェーデンの在ハンガリー大使は19日、同国の首都ブダペストでハンガリーがロシアとの関係を深めていることへの懸念が高まっていることについて協議した。在ハンガリー米大使館がAFPに明かした。

 

NATO加盟国であるハンガリーのオルバン・ビクトル首相は同日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国・北京で会談した。両首脳の対面での会談は、昨年2月のロシアのウクライナ侵攻開始以降初めて。オルバン首相は、ウクライナ侵攻後もロシアとの緊密な関係を維持している。

 

米大使館の報道官によれば、協議の主要議題はこの首脳会談だった。

米国のデービッド・プレスマン駐ハンガリー大使は米国が出資するラジオ・フリー・ヨーロッパに対し、「ハンガリーがこのような形でプーチン氏と関わるのを選択したことは、憂慮すべきだ」と語った。

 

また「プーチン氏がウクライナに仕掛けた戦争を表現する際に、オルバン首相が使った言葉も同様だ。どちらも議論に値する」と批判。

 

「ロシアがウクライナに侵略戦争を仕掛けているさなかに、ハンガリーの首相がプーチン大統領と会談したことをわれわれ全員が懸念している」と強調し、「安全保障上の正当な懸念があれば、同盟国に伝え、真剣に受け止めてもらうことを期待する」と付け加えた。

 

一方、ハンガリーのグヤーシュ・ゲルゲイ首相府長官は放送局ATVに対し、「米大使にハンガリーの外交政策を決定する権限はない。それはハンガリー政府の仕事だからだ」と語った。 【1020日 AFP

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なお、オルバン首相はEUを旧ソ連の「パロディー」だと批判しています。

 

****EUはソ連の「パロディー」 ハンガリー首相****

ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は23日、旧ソ連軍の撤退を求めてハンガリー市民が蜂起した「ハンガリー動乱」の日に合わせて行った演説で、欧州連合を旧ソ連の「パロディー」だと批判した。

 

ハンガリーはEU加盟国だが、オルバン氏は昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始後も、ウラジーミル・プーチン大統領との関係を維持している。

 

西部べスプレームで演説したオルバン氏は「歴史は時に繰り返す。幸いなのは、1度目は悲劇だったものが、2度目はせいぜい茶番に終わることだ」と発言。

 

その上で、「モスクワ(ソ連)は悲劇だったが、ブリュッセルはまずい現代版パロディーだ。モスクワが口笛を吹けば、われわれは踊らないわけにいかなかった。ブリュッセルも口笛を吹くが、われわれは好きなように踊ればいいし、躍りたくなければ踊らなくても済む」と述べた。

 

ただしオルバン氏は、EUは「まだ絶望的ではない」と補足。「モスクワは修復不能だったが、ブリュッセルとEUは修復が可能だ。欧州にはまだ選挙がある」と述べ、来年6月に予定されている欧州議会選挙に言及した。

 

オルバン氏は司法や報道の独立性、移民問題、性的少数者(LGBTなど)の権利をはじめ、さまざまな課題をめぐってEUと頻繁に対立しており、以前から欧州議会でポピュリスト政党が躍進し、EUに方針転換を迫ることを望むと語っている。 【1024日 AFP

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面白い批判ではありますが・・・旧ソ連とEUの決定的違いは、旧ソ連から勝手に抜けることはできませんが(反攻すればハンガリー動乱のようなことにも)、EUはイギリスのように抜けることができます。

 

「そんなにEUが嫌いなら、EUから出ていけばいいのに・・・」と思うのですが、出ていきません。

これまでハンガリーなど東欧諸国はEUから巨額の補助金を受け取っています。そのあたりの話でしょうか。

 

なお、多くの権威主義政治家がそうであるように、オルバン首相も、かつては“民主化の旗手”でした。

 

“19896月、ハンガリー動乱で失脚、処刑されたナジ・イムレの再埋葬式で、「共産主義と民主主義は併存し得ない」と社会主義政権打倒を訴える演説を行い、民主化の旗手として名を高めた。”【ウィキペディア】