エチオピア  北部ティグレ州の混乱続く 支援団体が入れないなかで飢餓 子ども3万人が死亡の恐れ | 碧空

エチオピア  北部ティグレ州の混乱続く 支援団体が入れないなかで飢餓 子ども3万人が死亡の恐れ

(米国際開発庁(USAID)が提供した食料支援の袋の上で眠る子供(38日、エチオピア北部ティグレ州メケレ)【611日 BBC】)

 

【長引く混乱 ティグレ人武装勢力、政府軍に加え隣国エリトリア軍も】

アフリカ東部・エチオピアの混乱については、45日ブログ“エチオピア 政府軍とTPLFの双方、更にはエリトリア軍による市民の殺害や性暴力”でも取り上げました。

 

混乱の経緯については重複を避けるため詳細は省きますが、長年権力を牛耳って権益を独占してきた少数民族のティグレ人を排除して、民族単位ではない国家を構築しようというアビー首相(ノーベル平和賞受賞者)の試み、それに反発したティグレ人が昨年11月に反乱、その反乱を鎮圧する政府軍及び隣国エリトリア軍・・・という状況。

 

昨年1128日にはアビィ首相は、反乱が起きたティグレ州の州都メケルを制圧し軍事作戦は終了した旨宣言しましたが、未だに混乱が続いています。

 

****70万人避難、水も食料も足りない エチオピア北部、軍事衝突やまず****

 「食事1日1回」栄養不足深刻

ティグレ州北西部の町マイツェブリ。記者が訪れた4月初旬、人口4万人ほどのこの町に避難民約2万6千人が逃れてきていた。大通りに面した町役場のすぐ裏手にあるキャンプには、このうち約8500人が身を寄せていた。

 

この場所はかつて、地元政党ティグレ人民解放戦線(TPLF)の軍施設だったが、兵士は敗走し、姿は見えない。広場には国際NGOが設置した給水タンクがあり、数十人の避難民が列をなす。水の補給は1日4千リットルしかない。避難民は足りない分を川の水に頼り、下痢が流行しているという。

 

避難民が寝起きするのは、敷地内の倉庫群や大型テントだ。幅10メートル、奥行き30メートルほどのテントの中は地面がむき出しで、赤ん坊から老人まで数十人が地面に敷いた布や石に腰掛けていた。日中は空きスペースが目立つが、夜には足の踏み場もなくなるという。

 

キャンプに入れなかった1万7千人余りは、知人宅に身を寄せるか、野宿をするしかない。1歳の息子と知人の家を転々としているというウハデイさん(27)は「毎日キャンプに通っているが、支援物資を何一つ受け取れていない」と訴えた。

 

軍事衝突が始まってすぐに州西部の町から逃げた。その時から身につけている服の袖はほころび、色はくすんでいる。「食事は友人から1日1回だけ分けてもらっている。とにかく食べるものがほしい」

 

軍事衝突は昨年11月、TPLFが州内の政府軍施設を襲撃したとして、アビー首相が「反撃」を命じて始まった。政府軍は1カ月もたたずに州都メケレを制圧し、勝利宣言したものの、州内では今も戦乱が終わらない。

 

軍事力で屈したTPLFを支えてきたティグレ人が暴力の標的となっており、米国のブリンケン国務長官が「民族浄化が起きている」と非難するなど危機的な状況が続く。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、暴行やレイプなどが相次いでおり、家を出て、安全な場所を求める避難民が増え続けている。

 

マイツェブリでは1日300~500人の避難民が新たに町にたどり着き、支援物資の不足に拍車をかける。町の行政官を務めるシユム氏らによると、国際NGOが昨年末から入り始めたものの、町として食料支援を始めたのは3月に入ってからだ。1人あたり月15キロの小麦を配るというが、取材で話を聞いた避難民の約4分の1は、これまでに支援物資を何も受け取っていないと話した。

 

州内の子どもの栄養不足も深刻だ。OCHAによると、5歳未満の子ども約1万9千人を調査したところ、約3900人が栄養不足と診断されたという。

 

 医療施設、7割が略奪被害

軍事衝突で州内の医療施設も深刻な被害を受けた。マイツェブリで唯一の病院では、戦闘が始まる前に15人いた医師が避難したまま戻らず、4月初めの段階で2人しかいなくなった。

 

戦闘が激しかった昨年11月下旬、小銃を持った民兵が押し入り、備品を略奪していった。隣の州から応援に来ている男性医師は「輸血用の血液も酸素もなく、脈拍や血圧を測るための機器さえない」と訴える。通院していた糖尿病患者は注射用のインスリンが底を突き、亡くなった。

 

イェマネ院長は「病院機能は著しく低下したままだ。医師も予算も必要だが、まず何より必要なのは平和だ。治安が保証されなければ、医師は戻って来ない」と話す。

 

国境なき医師団は3月、州内106カ所の医療施設の現地調査の結果を公表した。通常稼働できていた施設は全体の13%に過ぎず、約7割は略奪に遭い、約3割は施設が破壊されていた。

 

場当たり的な犯行もあれば、機能を止めるために意図的に破壊されたとみられる例もあった。約2割の施設は、軍によって基地や軍用の医療施設として占拠されたほか、救急車の多くが奪われていた。

 

多くの妊婦は不衛生なキャンプで出産を強いられ、救急車がなかったために医療施設に搬送されずに亡くなった女性もいるという。【513日 朝日

**********************

 

混乱を助長しているのが隣国エリトリアの介入。

長年(ティグレ人支配の)エチオピアとエリトリアは敵対関係にありましたが、アビー首相の決断で関係が修復され、今回の介入もそのアビー政権との協調関係によるものと思われます。

 

一方で、長年のティグレ人への恨みの報復の色合いも。

さすがにエチオピア政府司法当局も、エリトリア軍の責任を認めています。

 

****「エリトリア軍が市民を殺害」 隣国エチオピア、報告書を発表****

エチオピア連邦政府の司法当局は21日、昨年11月に同国北部ティグレ州で州政府と連邦政府との間で発生した戦闘を巡り、隣接するエリトリアの軍が同州で市民110人を殺害したとする報告書を発表した。連邦政府が友好国エリトリアによる市民への虐殺行為を詳細に明かしたのは異例。

 

エリトリアは、当時のティグレ州政府を率いていたティグレ人民解放戦線(TPLF)と長く敵対関係にある。現在も同州に軍を駐留、援助物資の到着を妨害しているとみられ、国際的に非難の声が高まっている。

 

報告書によると、殺害は昨年11月末、州都メケレの北西にある町アクスムで発生した。【522日 共同

*****************

 

アメリカ・ブリンケン国務長官は523、「国際社会が行動すべき時だ」として、エチオピアへの人道支援など一部の重要な支援を継続する一方、エリトリアへの支援縮小は継続すると述べています。

また、ティグレ州の危機解決を阻んでいると見なされる治安部隊やTPLFのメンバーなどのビザ(査証)を制限する可能性があるとし、彼らが行動を変えなければ、さらなる制裁を加える可能性があるとの警告も。【524日 ロイターより

 

しかし、アビー政権とエリトリアの関係が今どうなっているのかわかりませんが、その後も(5月末段階では)エリトリア軍がエチオピア領内で活動しているようです。

 

****エチオピア避難民キャンプで700人一斉拘束か、国連「深い懸念」****

国連難民高等弁務官事務所は26日、紛争が続くエチオピア北部ティグレ州の国内避難民キャンプで700人もの避難民が兵士らに身柄を拘束されたとの報告を受けたと明らかにし、「深い懸念」を表明した。

 

ティグレ州の町シレにあるキャンプに身を寄せていた避難民らは24日夜、エチオピアと隣国エリトリアの兵士らによって一斉に身柄を拘束された。

 

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルと目撃者の証言によると、シレでは複数の仮設キャンプで少なくとも200人が拘束された。拘束された人数はさらに多い恐れがあるとしている。兵士らは避難民を殴り、携帯電話を取り上げた後、トラックに強制的に乗せたという。

 

一方、国際医療援助団体「国境なき医師団」も26日、「残った人々が安全を求めて他地域に逃れており、(シレ周辺の)キャンプは空っぽになりつつある」と発表した。

 

ティグレ州北西部を管轄する当局者は25日、AFPに対し、反政府勢力が避難民キャンプに入り込んだとの報告を受けたため、大量拘束を行ったと説明。身元確認を進めており、25日夜までに9人を解放したと述べたが、26日の取材には応じなかった。

 

シレには多数の国内避難民が暮らし、その多くはティグレ州西部から逃れてきた人々だ。アントニー・ブリンケン米国務長官は、ティグレ州西部では「民族浄化」が行われていると非難している。 【527日 AFP

**********************

 

上記難民キャンプは“国内避難民キャンプ”ということですが、エチオピアには多くのエリトリアからの難民も生活しています。

 

ティグレ人政権下でエチオピア領内に保護されていたエルトリア難民は、エリトリア軍の暴力の標的にもなっているようで、国連UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)はこの地で暮らしていたエリトリア難民の安否を深く懸念しています。

 

【35万人が飢餓 栄養失調の子ども3万人以上が死亡する恐れ

国連はティグレ州全般における食糧事情の悪化について、35万人が「大惨事のレベル」の飢餓に直面していると警告しています。

 

****エチオピア北部ティグレ州、推計35万人が飢餓状態=国連文書****

国連などが行った食料事情に関する調査によると、エチオピア北部にある紛争地帯ティグレ州では、推計35万人が飢餓状態にある。ロイターが国連の内部文書を確認した。

一方、エチオピア政府はこの調査結果に異議を唱えているという。

国連機関や支援団体などは、各地域の食糧事情を判断するために総合的食料安全保障レベル分類(Integrated Food Security Phase Classification、IPC)分析を活用する。過去10年間、IPC分析に基づきソマリアが2011年、南スーダンが2017年、それぞれ飢餓が宣言されている。

国連の内部文書によると、IPCはティグレ州で推計35万人が飢餓状態にあると分析。飢餓状態が深刻化しないためには、数百万人に緊急の食料や生活の支援が必要だと指摘している。

ニューヨークのエチオピア外交官は匿名を条件に、同国政府がIPCの分析に異議を唱えていることを確認した。政府はIPCの調査方法を疑問視しており、IPCが透明性を欠き、関係当局と十分な協議を行っていないと批判しているという。

ティグライ州では昨年11月、政府軍と当時のティグレ州政府を率いていたティグレ人民解放戦線(TPLF)との間で戦闘が勃発。隣国エリトリアの軍もエチオピア政府を支援して戦闘に参加した。これにより数千人が死亡し、500万人以上が住む山岳地帯では数十万人が住居を追われた。【610日 ロイター

***********************

 

エチオピア政府は「IPCが透明性を欠き、関係当局と十分な協議を行っていない」と主張しているようですが、現実問題として“国際援助団体は、エチオピア軍や隣国エリトリアの軍によってティグレ州への立ち入りが拒否されているとして繰り返し抗議している。”【612日 AFP】という現状にあります。

 

35万人が飢餓にあるなかで、栄養失調の子ども3万人以上が死亡する恐れがあるとも。

 

****エチオピア・ティグレ州、飢饉で子ども3万人超が死亡する恐れ ユニセフ****

国連児童基金(ユニセフ)は11日、紛争が続くエチオピア北部ティグレ州が飢饉(ききん)に見舞われており、外部からの立ち入りが困難な地域で栄養失調の子ども3万人以上が死亡する恐れがあると警鐘を鳴らした。

 

ユニセフのジェームズ・エルダー報道官はスイス・ジュネーブで記者団に対し、「支援拡大のための人道的立ち入りができなければ、外部からの立ち入りが極めて難しい地域にいる推定3万人以上の重度の栄養失調の子どもたちが死亡する恐れがある」と指摘し、ユニセフは他団体と協力してこの危機に対処しているが、ティグレ州の大半の地域に入れずにいると述べた。

 

前日の10日には国連が、ティグレ州の約35万人が飢饉に直面しており、さらに200万人が危機的状況に陥る寸前にいるとの見方を示していた。

 

2019年のノーベル平和賞を受賞したエチオピアのアビー・アハメド首相は昨年11月、ティグレ州の与党「ティグレ人民解放戦」が同州の連邦政府軍の拠点を攻撃したとして、TPLF指導者らを拘束し、武装解除するため軍を現地に派遣した。

 

アビー氏は、TPLFとの衝突はすぐに終わると明言していたが、戦闘は半年以上も続いており、レイプなどの残虐行為の報告が急増している。多くの指導者は、破滅的な事態に至ると警鐘を鳴らしている。(後略)【612日 AFP

*************************

 

こうした混乱のなか、エリトリアとの関係を修復し、周辺国の紛争を仲介してノーベル平和賞を受賞したアビー首相の声が聞こえてこないのは残念なことです。

 

【選挙は延期】

なお、6月に予定されていた選挙は延期されたようです。

 

****エチオピア、6月の国政選挙など延期****

エチオピアの国家選挙管理委員会は515日に記者会見を開き、6月実施予定の選挙の延期を発表した。国政選挙の投票日は65日、特別行政都市(アディスアベバ市とディレダワ市)の市議会選挙は612日に迫っていた。514日に締め切った有権者登録は3,600万人を超えたものの、国内遠隔地の治安の悪化で伸び悩んだとされ、目標の8割ほどにとどまっている(「BBC518日)。

 

今回の選挙はもともと2020829日に予定されていたが、新型コロナウイルス感染拡大防止を理由に延期されていた(2020415日記事参照)。

 

その後、同年11月には、ティグライ州での紛争も発生したため(2020119日記事参照)、同州を除く92特別行政都市を対象に実施の予定だった。

 

南部諸民族州では、新たに南西州を分割設置する住民投票も予定されていた。現地報道では、3週間の延期との観測が広がっているが、具体的な日程は決まっていない。なお、新日程では混乱を防ぐため、国政選挙と特別行政都市選挙は、同一投票日にすることが決まっている。

 

選挙の延期は、物理的な準備の遅れを理由としており、投票所の開設準備などに遅れがあったことが明らかになっている。他方で、新型コロナウイルス感染拡大の影響については触れられていない。

 

エチオピアの新型コロナウイルス感染確認者数は、累計266,646人(2021517日時点)で、最近では1日当たり新規感染確認者数は、検査数の減少とともに、500人を切る水準になっている。しかし、4月上旬までは感染拡大傾向が止まらず、1日当たり感染確認者数が2,000人を超える日もあり、検査陽性率も25%水準だった。【52日 JETRO

**********************