エチオピア  政府軍とTPLFの双方、更にはエリトリア軍による市民の殺害や性暴力 | 碧空

エチオピア  政府軍とTPLFの双方、更にはエリトリア軍による市民の殺害や性暴力

(CNNが入手した映像には、兵士が若者数十人を崖の上に集め、武器をもっていないか確認する様子が写っている【45日 CNN】 このあと、兵士らは“至近距離から彼らを銃で撃った。そして、腕や脚をつかんで、まるでぬいぐるみの人形のように岩の斜面に投げ込み、また蹴り落した。”【同上】)

 

【ノーベル平和賞受賞者アビー首相のもとで起きた人道危機】

昨年11月に東アフリカ・エチオピアで起きた、かつて実権を有していたティグレ人の武装勢力の反乱は、断固たる武力鎮圧にあたったアビィ首相がノーベル平和賞受賞者であったこともあって、注目を集めました。

 

その後も「殺戮」の報道が絶えない状況にもありますが、反乱と鎮圧の背景には、長年権力を牛耳って権益を独占してきた少数民族のティグレ人を排除して、民族単位ではない国家を構築しようというアビー首相の意思があります。

 

そのこと自体は「ありうる政治的選択肢」のひとつであり、下記記事表題の「野望」という表現は、ややネガティブイメージに過ぎる表現のようにも思えます。

 

****人道危機続くエチオピア 背景に中央集権化の野望*****

昨年11月、エチオピアのティグレ州でティグレ人民解放戦線(TPLF)が反乱を起こし、一時、政府軍との武力衝突が激化した。

 

1128日にエチオピアのアビィ首相(ノーベル平和賞受賞者)は、反乱が起きたティグレ州の州都メケルを制圧し軍事作戦は終了した旨宣言している。

 

TPLF側は、元もと山間部に撤収しゲリラ戦を展開する方針であったようである。政府は、現状は内戦では無く警察行為を行っているだけだというが、国連機関やNGOの現場へのアクセスを依然として遮断しているのは戦闘が継続しているからに他ならない。

 

政府軍の目的は、山間部に逃れたTPLF指導者をすべて捕え或いは殺害することのようで、114日には旧政権時代に活躍し国際的にも知られたセイヨム元外相が殺害された。最高指導者その他の多くの幹部は未だ山間部に潜伏しており、このような封鎖は更に続く可能性がある。

 

深刻な問題は、大量の難民が発生し、政府軍等により民間人の集団殺害や人権侵害行為が行われており、食糧供給を絶たれて深刻な飢餓が発生する人道危機状態になりつつあることである。

 

127日に米国国務省報道官が、同地域でエリトリア兵士がティグレ州にいるエリトリア難民を自国に強制的に送還しようとしているとして直ちに撤退することを求めた、と報じられている。

 

この背景には、エリトリアとの和平を達成したアビィ首相とイサイアス・エリトリア大統領の間で更なる両国の提携関係を深める協議が進んでいることがあり、ティグレ州でのTPLF掃討作戦での協力もその一環であろう。

 

今般のアビィ首相とTPLFの政治的対立の背景は、アビィが民族単位の州による連邦制で長年権力を牛耳ってきた少数民族のティグレ人を国政から徹底的に排除し、主要民族政党の連立体制を民族単位ではない「繁栄党」という大勢翼賛的な政党による権力支配による中央集権的な国家を構築しようとしていることがある。

 

しかし、アビィ自身の出身である最大民族のオロモ族の中から、そのような路線に異論が出て民族派が反政府運動を開始し、昨年夏には反政府の国民的人気歌手が暗殺されるといった混乱の中で有力なオロモ人反政府指導者を逮捕するといった事態も生じていた。

 

アビィは、昨年実施予定であった総選挙を今年6月に行う予定である。中央集権派であり伝統的支配民族であったアムハラ族等の支持を得て再選を期しているが、既にTPLFは政党として認められずティグレ州では事態が収束するまで選挙の延期が決定されており、公正な選挙が行われるか否か疑問である。

 

仮に選挙をめぐり混乱が生じたり、アビィが首相の再任に失敗すればエチオピアは再び民族単位の連合国家に戻り、場合によっては民族単位の分断が更に進んで行く恐れもあろう。

 

エチオピアは米国のアフリカ政策の要でもあるが、人権重視のバイデン政権にとっては、ティグレ州の状況は見過ごせず、対エチオアピア経済支援も停止されることになれば、経済面で困難を抱えるアビィ政権は更に追い詰められることになる。

 

ティグレ族にとり、かつてメンギスツ政権を打倒した時の同盟関係にあったエリトリアは今や敵であり孤立している状態であるが、国内他地域で中央集権化に反対する民族主義的運動や部族間の衝突が活発化している傾向もあり、予断は許さない。

 

いずれにしても、国際社会としてはティグレの人道危機に対してはアビィ政権の行き過ぎを糺し、封鎖を解除して人道的援助を実施するための政治的圧力を強める必要があろう。【215日 WEDGE

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民族単位ではない国家を構築しようというアビー首相の狙う方向性を是とするにしても、看過できないのは、おびただしい虐殺・レイプなどの人道上の深刻な問題が起きていることです。

 

【ティグレ人によるアムハラ人虐殺】

虐殺・レイプ等に関する報道は、TPLFに関しても、政府軍・エリトリア軍に関しても、衝突発生時より多々ありますが、最初の大規模な虐殺は反乱を起こしたティグレ人民解放戦線(TPLF及びティグレ人によるものと推測されます。(TPLFは関与を否定しています)

 

****虐殺の町、狙われたアムハラ人 言葉は、身分証は、家を回り襲う エチオピア軍事衝突****

スーダン国境に近いティグレ州西部マイカドラで事件が起きたのは、アビー政権が率いる政府軍が町に進攻する直前の11月9日だった。

 

マイカドラは人口4万人超で主にティグレ人やアムハラ人が暮らしていたが、戦闘を機に民族間の緊張が高まっていたという。

 

政府系のエチオピア人権委員会の調査では、襲撃した地元政党ティグレ人民解放戦線(TPLF)の民兵や若者グループらはティグレ人が主体。殺害された600人超の多くはアムハラ人の男性だったとされる。

 

アゲレイさんによると、その日の午後、夫の元兵士アビーさん(35)と一緒に自宅の前にいると、なたやナイフで武装した数十人の集団が突然現れた。

 

「家に入れ!」「ドアを閉じろ!」 男たちの叫び声に従い、夫婦で自宅へ。しかし、小銃を持った民兵らが集団を率い、アゲレイさん宅前に集まり始めた。

 

「アビーを殺す!」「ドアを開けろ!」

 

身の危険を感じたアビーさんは裏口を通って隣家の玄関から逃げようとしたが、民兵に見つかり胸を撃ち抜かれた。倒れたアビーさんに、なたやナイフを手にした男たちが襲いかかる。マッチで家に火をつけ、アビーさんの遺体を投げこんだ。一部始終を目にして気を失った娘(7)を連れ、アゲレイさんは裏口から逃げ出したという。

 

人権委や住民によると、武装集団はアビーさんを殺害後、町内を一軒一軒訪ね歩き、言葉や身分証明書などからアムハラ人だと確認した上で住民らを殺害した。

 

アゲレイさんは友人宅で一晩を明かしたが、町中に響く悲鳴や怒鳴り声で眠れず、翌朝になって郊外の森に身を隠した。

 

住民らによると、10日に政府軍が町に到着したころには虐殺は収まり、武装集団は逃げていった。

 

アゲレイさんは言う。「夫を失い、何もかも失った。私は人間が嫌いになった。自分がその人間であることにも耐えられない」

 

昨年12月から今年2月まで町長を務めたデガレム・シサイ氏は「政府軍に追い出されて土地を失うぐらいなら、と住民を虐殺したのだろう」と主張する。

 

AFP通信によると、TPLFの指導者デブレチオン氏は、マイカドラの市民殺害にTPLF側が関わったとされたことを「根拠がない」と否定している。

     

今回の取材は、エチオピア政府の許可を得て、政府軍の支配地域で行った。取材への干渉や記事の検閲はなかった。

 

 選挙延期で対立激化

エチオピアは80を超える民族が暮らす多民族国家。現在は「ティグレ州」のように、主にその地域で多数を占める民族の名がそのまま州名に採用されている。

 

アビー政権とTPLFの確執は、連邦政府での主導権争いにさかのぼる。

 

少数民族ティグレが率いるTPLFは、最大民族オロモやアムハラなど他の民族の政党と連合を組み、1991年に当時の軍事独裁政権を倒した。それ以来、TPLFが連邦政府を主導してきたが、強権的な統治に国民の間で不満が蓄積。2010年代半ばにはオロモやアムハラなどによる抗議活動が各地で相次いだ。18年、事態の沈静化を期待して首相に選ばれたのが、オロモ人の父とアムハラ人の母を持つアビー氏だった。

 

アビー政権の発足後、TPLFメンバーは汚職容疑などで相次いで逮捕され、次第に主導権を失った。

 

両者の対立が決定的になったのは、昨年8月に予定されていた総選挙が新型コロナウイルスのために延期されたことだ。翌月、ティグレ州を事実上支配していたTPLFは州の選挙を強行。アビー首相は選挙を違法だと非難し、約2カ月後に軍事衝突へと発展した。

 

アビー首相は昨年11月28日にティグレの州都を制圧した後、「人々の平穏な生活を取り戻すための重要な任務が待ち構えている」とし、復興に向けて取り組む意欲を見せた。【44日 朝日

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【政府軍による報復】

反乱鎮圧後の虐殺姚の主役は政府軍ではないかと推測されます。

CNNが報じた「虐殺動画」に関し、アビー首相のオフィスは「ソーシャルメディアの投稿と主張は証拠として扱うことはできない。」と。

 

****「2発の銃弾で十分だ」 ティグレ人虐殺動画を分析、エチオピア軍関与の疑い****

ダウィットさんは戦争で荒廃したエチオピア北部ティグレ州の古都アクサムにある親戚のワンルームの部屋でテレビを見ていた。3月初旬のことで、画面に臨時ニュースが流れた。

 

それはダウィットさんの故郷、ティグレ州中部の山岳地帯、マヒベレ・デゴ付近で行われた大量殺人の生々しい、未検証の映像だった。

 

ブレのある映像の中で、エチオピア人の兵士が丸腰の若い男性のグループを吹きさらしの岩棚に集め、至近距離から彼らを銃で撃った。そして、腕や脚をつかんで、まるでぬいぐるみの人形のように岩の斜面に投げ込み、また蹴り落した。

 

兵士が互いに、弾を無駄にするな、殺すのに最小限の量を使え、誰一人生かしておくなと声を掛け合う様子も映像から聞こえる。そして殺した行為を勇ましいとほめ、拘束された男性たちに侮辱する言葉を投げつけるような様子も見られた。

 

ダウィットさんは、海外にあるテレビ局「ティグレ・メディア・ハウス(TMH)」のこの映像を見て、写っている男性の一人は自分の弟アルラだと思うと語った。CNNはダウィットさんの安全のため、ダウィットさんと弟の名前を変えて伝えている。

 

マヒベレ・デゴ付近での大量殺害は、エチオピアで5カ月続く紛争で伝えられている複数の事例の一つだ。この紛争では数千人の市民が殺され、レイプされ、虐待を受けたとみられている。

 

最近までジャーナリストへの独立したアクセスが厳しく制限され、電話やインターネットもたびたび遮断されていたことから、ティグレ州で起きている残虐行為の検証は困難だった。実効的な通信手段がない中、戦闘現場からの映像が出てくることはほとんどなく、出てきた場合でも信ぴょう性の確認が難しい。

 

だが、CNNは今回の映像を科学捜査的にフレーム単位で調べ、また家族や地元住民10人とのインタビューを行った。その結果、エチオピア陸軍の制服を着た男らがマヒベレ・デゴの近くで、少なくとも11人の丸腰の男性の集団を処刑し、その遺体を捨てたことを立証した。

 

この調査は国際人権団体アムネスティ・インターナショナルのデジタル検証およびモデリング専門家の分析で裏付けを得ている。(中略)

 

エチオピアはティグレ州での戦争犯罪に当たる可能性のある人権侵害に対し、厳しい目を向けられている。昨年11月、アビー首相は同州を支配する少数民族勢力、ティグレ人民解放戦線(TPLF)に対する大規模な軍事作戦を始め、国軍や隣接するアムハラ州の民兵を送り込んだ。それ以降数千人の市民が殺害されたと考えられている。

 

CNNは先ごろ、ティグレ州北部で国境を接する隣国エリトリアから兵士が国境を越えて侵入し、虐殺や超法規的殺人、性暴力などの虐待行為を行っているという広範な目撃証言をまとめた。

 

国が指名した「エチオピア人権委員会」は先週、調査の結果、アクサムで100人以上が11月にエリトリアの兵士によって殺された初期段階の証拠が見つかったと発表した。これはアムネスティや国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが先に報告していた内容を確認するものとなった。

 

3月下旬には国際医療支援団体の国境なき医師団が、エチオピアの兵士が数人の男性を公共バスから引きずり出し、州都メケレの近くで処刑したのをスタッフが目撃したと発表した。

 

アビー首相は先週、政府はティグレ州で残虐行為にかかわったと判明したすべての兵士に責任をとらせると表明。この際、エリトリア軍がエチオピア軍とともに戦ったと初めて認め、エリトリア軍は国境地域から撤退すると述べた。エリトリア軍がすでにティグレ州から引いたのかは不明。(中略)

 

もし今回のマヒベレ・デゴの映像に写る兵士が本当にエチオピア国防軍ならば、エチオピアが戦争犯罪に関与していたことを示す初の映像証拠となる可能性がある。

 

CNNはエチオピア政府とティグレ州の暫定政権に対し、この映像と、軍隊がマヒベレ・デゴから数十人の男性を拉致したという訴えについてコメントを求めたがすぐには返事がない。

 

CNNが調査結果を公表した後、アビー首相のオフィスは「ソーシャルメディアの投稿と主張は証拠として扱うことはできない。西側メディアがそれを報じているか否かにかかわらずだ」との声明を発表。さらに、政府は「独立した調査がティグレ州で実施されることに前向きな考えを示している」とも述べた。(後略)【45日 CNN

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事件の背景としては、以下のようにも。

“ダウィットさんや他の住民は、エチオピア軍はマヒベレ・デゴに来る前、別の町で戦ってきたと語る。住民の何人かは、兵士は若者がTPLFの部隊や連携する地元民兵のメンバーだと思い、復讐をしようと若者をターゲットにしたのではないかと推測する。

 

だが、家族や住民はこの町には最近も、過去も民兵はいないと主張する。ダウィットさんはアルラさんも近所の人も戦闘員ではないと語る。近所からは8人が自宅から連れていかれ、殺されたと考えられている。”【同上】

 

兵士の制服や使用言語などから、CNN報道は政府軍関与を推測しています。

 

【G7「強く懸念」】

このエチオピア北部で起きた虐殺・人権侵害について、国際社会も強い懸念を表明しています。

 

****エチオピア、やまぬ殺戮 北部の軍事衝突、G7「強く懸念」****

(中略)衝突は昨年11月4日に始まった。国政の主導権を失ったTPLFが軍施設を襲撃したとし、アビー首相が「反撃」を命令。政府軍は同28日に州都メケレを制圧し、アビー首相が勝利を宣言したが、TPLFの抵抗は今も続いている。

 

これまでに同州からは6万2千人超が隣国スーダンに逃れ、難民となった。

 

戦闘が始まった直後から州内の通信は長期間遮断された。政府はメディアの立ち入りを厳しく制限したが、政府軍とTPLFの双方による市民の殺害や性暴力などが報告されてきた。今月2日には、主要7カ国(G7)の外相が「強く懸念する」と表明した。

 

アビー首相は隣国エリトリアとの紛争を解決した功績が認められ、2019年にノーベル平和賞を受賞した。だが、今回の衝突では強硬姿勢を貫いている。

 

人権委は3月、政府軍側で参戦したエリトリア軍が、11月に100人超を殺害したと報告。エリトリア政府は否定している。国連人権高等弁務官事務所は、同委員会と共同で州内で起きた人権侵害について調べる方針だ。【44日 朝日

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