映画感想「その木戸を通って」 | 大TOKYOしみじみ散歩日記

大TOKYOしみじみ散歩日記

お独り様となった50路男の、ぶらぶらノンビリンの東京物語

映画・マンガ・小説・芝居・テレビに動物
そして大切な母ちゃんとの想い出も時おり混ぜ合わせて

書き留めてゆきたいなと、思います


『その木戸を通って』(1993/2008)

その事件のあった頃
平松正四郎をはじめとする勘定方全員は年一度の決算に駆り出されて城中に寝起きをし、数日が経っていました
江戸に居る親代わりにと親身になってくれている田原老人がその正四郎を呼びつけ
(お前の家に女がいるそうだ)
と教え、首をかしげる正四郎に追い討ちをかけて
(それを許嫁どのが見ておる)
と、まるでとどめを射すように言われましたが、覚えなどありません。なんの悪戯だ、それとも遺恨か……いやいや狐狸妖怪の類いが何か企んでいるのかも
仕事を終えて大急ぎで家に戻ってみると
たしかに………
見た事のない女が、家扶の部屋に居るではありませんか
それも「平松正四郎さまにお会いしたい」と言っているそうで
さあ正四郎、困りました!

昭和30年代に発表された山本周五郎の短編は文庫にして40頁ほどの作品
名前も思い出せないという哀れな女は家扶の妻から(ふさ)と名付けられ
時折何か思い詰めたような顔はするものの、いつしか正四郎の愛情をつかみ取り、夫婦となり子供も授かり……という不思議な展開は3年目に幕が降ります
映画はそれに接ぎ木をして膨らませていますが、やや不思議さが薄れたかな?という印象が原作を読み込んできた私には思えてなりませんでした
ただこれは原作が好き♪タイプの見方ですけど
(´^ω^)

作品は1993年にフジテレビがハイビジョン放送へ向けての実験として、市川崑監督に製作を依頼。初のハイビジョンカメラ導入によるドラマ作りが行われたそうです
(。-∀-)♪こうなると、市川監督ですからね
良いように画に凝ったんだと思います。
今では当たり前の撮影が全て初めてだった、という辺りに関心のある方なら
作品の見所は増えるかもしれません

時おり自分の身の上が見えたかのように硬くなり
思い出したかのように話始める、笹の道の先にあるという木戸がフッと現れる幻影に呆然としたりする浅野ゆう子さんは頑張っていました
正四郎を演じた中井貴一さんの真っ直ぐさも
作品の薫りを損ねない繊細さに充ちていて
市川崑 監督のこの実験、この冒険に見事に応えていたなあと嬉しくなります

山本周五郎の原作映画化としてはダメ出しをしてしまいますが
時代劇としては一級の作品です♪