「おんに、私もう帰りますね。」
いつのまにか身支度を終えたチェウォンは玄関にいた。ウンビは早足で向かう。
「ごめんね。ありがと、色々と。」
「いえ。じゃあ明日。」
頭を下げながら扉の向こうへ消えていく。
ウンビはどこか寂しさを感じていた。
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ウンビの家を出てからエレベーターに乗って下へ降りていた。1階について扉が開く。
入れ替わりで乗って行った人。どこかで見たことあるような…
どちらかと言えば明るめな茶髪のチェウォンとは反対の暗めの茶髪の人。
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チャイムが鳴った。
忘れ物でもしたのだろうか。
ソファでコーヒーを飲みながらゆったりとしていたウンビは、ゆっくりと立ち上がった。
ガチャっ
ドアが開いた音がした。
ん?
いくら鍵が空いていても家主が出るまで開けないのが普通じゃないのか?
普通の疑問を持つウンビの前に姿を現したのは思ってもいない人だった。
「久しぶりですね。おんに。」
会いたくなかった。こうやってどうしてもあってはならない感情が込み上げてくるから。
「鍵。返しに来ました。」
いつも通りの笑顔で話しかけてくる彼女をウンビはまだ困惑と驚きが混じったような表情で見上げていた。
「おんに?そんなに驚かなくても笑」
「なん、で…?」
「え?だから鍵返しに来たんです。もうおんにには会わないから。」
彼女に手を取られ鍵を握らされた。その鍵からは彼女の温かさが伝わってくる。
「会わないって…。学校で…「だから」
「だから。『おんに』にはもう会わない。ね?
国語の先生だからどういう意味か分かりますよね?」
普通なら安堵するはずの言葉なのにウンビの心は締め付けられていた。どうしてか、彼女との間に『先生と生徒』という壁が完全に建ってしまったようで苦しかった。
いや、それでいいんだ。これが正解なんだ。
何度言い聞かせてもどんどん辛くなっていくだけ。
「おんに?大丈夫ですか?」
「もう、もうそうやって呼んでくれないの?
おんにって、」
「…。おんに。もしかしてまだ引きずってるんですか?もう随分前に終わったじゃないですか。」
「分かっ、てる。けど、」
「おんにが終わらせたんですよ?
普通の先生と生徒でありたいと言ったのは
おんにですよ?」
「分かってる!けど、身体が言うこと聞かない。」
「…で?どうして欲しいんですか?」
「……抱いて…」
「…はぁ。本当にバカですね。そうやって簡単に言うから身体が言うこと聞かないんですよ。もう少し自分を大事にしてください。」
一息ついて彼女は言った。
「前の私と今の私は違います。」
未だ見上げるウンビの頭を数回撫でた彼女は
なんと言うか、これが最後かのような表情だった。
そのまま何も言うことなく扉が閉まる音を最後に
ウンビの部屋には静寂と新しい空気が訪れた。
力なく座り込むウンビの手には鍵が。
もう、温かさを残してはいなかった。