春休みに入った。
職員室にいると聞こえる部活動生の声。
特にこの場所からは陸上部がよく見えるようだ。
本来ならあの中に彼女もいた。
残っていた仕事を終えて何も考えず椅子に座っていたウンビは、頭に浮かぶユジンを目線の先にいる陸上部の中に見ていた。
「クォン先生、お仕事終わりました?」
「あ…はい。」
「良かったら一緒にランチ、どうですか?」
同じ年にこの高校に勤務し始めた宮脇先生に声をかけられ、ウンビは青春を謳歌する声が響き渡る学校を後にした。
「さくらは担任してる生徒が問題起こしたら気になる?」
「どうしたの急に笑笑
まぁうん。少しはね。」
「少し?」
「気にはなるけどそこまでないかな。そう言う
ウンビおんには気にしそうだよね笑」
春休みの真っ只中。
周りの人達はみな、笑顔で毎日を楽しんでいるように見える。
「さくら!今日は飲も!」
繁華街のど真ん中で叫ぶウンビに焦ってその場をあとにするさくら。
二人は少し人通りの少ない路地の居酒屋に入った。
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「だいたいなんで私があんなやつのこと気にかけなきゃいけないのよ。勝手に惚れさせといて、勝手に突き放すんだもん。『事情がある』?私の方が9つも上よ?たかが高一が事情なんて言葉使うんじゃないわよ。」
「分かったから。ね?おんに、一旦落ち着こ。」
賑わう居酒屋にダン!と音が響く。
特に気にする人はいないようだ。
「あ、無くなった。何にしよ~かな~」
「おんに!飲みすぎ!もう、ほんと。
それくらいにしといた方が良いって。」
「やだ。まだ飲む。」
そう言って聞かないウンビにさくらはもう呆れたのか、目の前のお皿に盛られた刺身を取る。
「あ、寝ちゃった。」
大人しくなったと思えばテーブルに突っ伏して寝ているウンビ。さくらはある程度お腹を満たすと席を立ち、ウンビを揺らした。
「おんに、寝ないで。
帰るよ?」
「ん…」
まだ目が開いていないウンビをどうにか立たせ、会計を済ませて外に出る。
フラフラなウンビをタクシーに押し込んで運転手に住所を告げる。
消えていくタクシーの影を歩道の端から見つめるさくら。彼女の顔は、心配なのか諦めなのか、険しい表情になっていた。
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タクシーの運転手に起こされ、今自分がいるのは自宅の前だということにウンビは気づいた。
財布を出そうとすると、出発する時に貰いましたよと言われ(あ~さくらか)と納得しつつも少し申し訳なく思う。
タクシーから降りると、気持ちの良い冷たい風が熱くなった顔に触れる。部屋がある階まで階段で上った。珍しく風に当たりたいと思った日だった。
「ん…?」
部屋の鍵が空いていた。
もしかして_と部屋に入る。
「遅かったですね。」
「何…してるの?」
予想通り、そこにはもう見ることはないと思っていた人の姿があった。電気も付けず、月光だけで照らされた部屋でソファに身を任せる人。
「ユジン……よね?」
何かが擦れる音と軋む音がした。
暗闇に目が慣れなくて目を凝らす。そんなウンビの体を暖かい空気が包んだ。
「おんに、さいご、だから」
そう呟いたユジンの声に、ウンビはお酒のせいだと自分に言い聞かせて広い背中に手を回した。
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目が覚めるとそこには誰の姿もなかった。
夢かと、そう思ったのも一瞬だった。
何も身に纏っていない自分の姿が目に入る。
そして微かにシーツから感じる温もり。
床に落ちている下着とクローゼットから適当に取ったTシャツとズボンを着て、寝室を出る。
テーブルに置かれた一枚の紙。
『好きでした。とても。』
確かにユジンの字だった。
落ちてくる液体によって滲んでいく八個の文字。
ウンビの頬をも伝うその液体は、首に咲くピンクの花を撫でて落ちていった。