アトピーの湿疹が教えてくれた「本当の心」 | 皮膚科医 山本綾子 の アトピー から学ぶ美肌法則

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山本ファミリア皮膚科 駒沢公園の院長、山本綾子の美肌法則ブログ。つきあう病気とされてきたアトピー を根治させようと奮闘して見つけた、身体から健康になる美肌法則。

こんにちは。今日は、30代女性がアトピーの湿疹から自分の本当の気持ちに気づいたお話です。

(ご本人から掲載の了承を頂いています)

 

彼女との最初の出会いは2012年の夏でした。私のアトピーについての日経トレンディネットでの記事を読み、ステロイドを使うけれども根本的にもアプローチしてゆく、という考え方に納得し、受診してくださいました。(そのときの記事については、プロフィールのところにリンクが貼ってあります)

 

脱ステで頑張ってきたけれど、どうも治りきらない。

身体にも症状はありましたが軽度で、ほとんどは顔。

 

ステロイドを使い、あっという間にキレイになりました。

ひどい便秘だったとのことですが、運動療法により、その便秘までも治り、彼女も私も、このまま落ち着いていてくれればいいな、そう思っていました。

 

温かい間は、本当に調子がよかったのです。アトピーは治っていくのかな、と思わせるほどに。ですが、湿疹は出ていないのに、顔の皮膚には”アトピー感”が残っており、私は「もう大丈夫」と感じきれずにいました。

 

その私の直感は、冬になり的中しました。

 

冬になり、気温が寒くなってくると、どんなに運動療法を継続していても、便秘になるようになってきました。そして、それに連動するかのように、顔にもちょくちょく症状が出るようになってきました。

 

もちろん、ステロイドを使っているので、ひどい症状ではありません。顔が真っ赤とか、痒くて痒くて生活できない、とかいうことはありません。ですが、なんだか症状が落ち着かない、という感じ。

 

ある時、彼女が初めて診察室で涙を見せました。

 

「ずっといい調子で来たのに、最近、顔の湿疹が落ち着かなくて、せっかくこれまでやってきたことが無駄になりそうで怖いんです・・・」

 

初めて私に見せた涙でした。

 

聡明で頑張り屋さんの彼女の不安感。

 

私は「これまでの努力は決して無駄にはならないよ。症状には波があるから、一喜一憂しないで、これからも一緒に頑張ろうよ」こんなふうに声をかけました。

 

話を聞くと会社に本当に困った人がいるとのこと。ワガママで周りとうまくやろうという感じが全くなく、他の同僚もその人に、ほとほと困り果てている、とのことでした。

 

この顔の湿疹は、会社でのストレスのせい、彼女はそう思い込んでいました。

 

ですが、私は最初から何故だか彼女には、会社でのストレス以外、もっと根本的なところに、心の問題があるように感じていたので、こう、彼女にお話しました。

 

「何故だか分からないけれど、なんだか心の問題があるような気がしてならないの。でも、残念ながら、今の私にはそれが何なのか、分からない。何か思い当たることはありませんか?」

 

こう言われて、彼女は困惑していました。

 

「家族関係もとてもいいし、悩みって悩みもないし、正直言って、何も思い当たらないです」

 

何かを隠しているわけではなく、本当に何も思い当たらないようでした。

 

ですが、この日の診察の最後にこんなふうに私は彼女に言いました。

 

「しばらく、”自分と向き合って”いきましょう。何があるかはわからないけれど、とにかく”自分の心”と向き合ってみましょう」

 

その後、彼女からこんなメッセージが届きました。

 

「昨日の診察以来、自分の心の中でいったい何が本当の問題なんだろうかと考えようとすると、なぜかとても悲しくなって、少しすると無気力になる。これの繰り返し状態です。アトピーを含めた体調のこと以外での何か、というのが皆目見当つかなくて混乱しています。」

 

このメッセージに対して、私はこうアドバイスしました。

 

「何が悲しいのか、なぜ悲しいのか、これを考えてみてごらん」

 

悲しみ、イライラ、怒り・・・

これらのネガティブな感情たちの裏には、自分の本当の心を知るための大きなヒントが隠されています。

 

悲しくなったり、イライラしたりするのは、

自分が何かを「こうなったらいいな」と期待していたのに実現しなかったから感じる感情。

 

ですから、ネガティブな感情を感じたとき、「何が嫌なのかな?」、「本当はどうしたかったからこう感じたのかな?」と考えることにより、自分の本当の気持ちを見つけることができます。

 

そういう意図で、彼女に「悲しい気持ち」を掘り下げてみるようお話しました。

 

そして、こんな風にメッセージを送りました。

 

         *******

 

「自分はなにを求めていたのだろう?」の答え。「自分とはどんな人?」の答え。
自分は本当はどうなりたいのだろう?本当はどんな人生を送りたいのだろう?
そんなの夢だわとか、実現無理とか決めつけないで、本音を探してみてください。自分、小さいなとか、弱いなあとか思って、悔しくなったり、恥ずかしくなっても、それが本音の自分。

本音から目をそらさず、直視して下さい。

身体は、「ワタシの心も無視しないで」と言っているように感じます。


しばらくこの作業は辛いかもしれません。でも、それが自分。

辛くても、これをせずにアトピー完治はできませんし、自分の納得ゆく人生を歩むことはできません

一人じゃないよ、私もそばにいます。

アトピー治療って、本当により良い人生を歩むためのものだなあと、アトピーと向き合い続けた皮膚科医として強く思います。

一緒に、ゆっくりゆっくり、見つけにゆきませんか?」

 

             **********

 

その後、こんなメッセージが彼女から届きました。

 

「メッセージを読んで、また泣いてしまいました。
家の内外問わず、目が腫れっぱなしです(^_^;)
自分の心を無視していた、なんて全く想像もつきませんでした。。。

早速、考えることへのヒントをありがとうございます。
「悲しくなること」いくつか思い当たります。

ほぼ手中にしたはずのものを、何らかの理由で手放してしまうクセ。温泉療法でのアトピー完治もそのひとつでした。今思うと、あとほんの少しのところでステロイドもうまく使いこなせていれば・・・夢の持てる高校生になれていたような気がします。

自分の周りの人のシアワセな出来事を素直に喜んでいるけれど、自分自身のことは努力をしていないことを言い訳にどうでもよいと思ってしまうこと。

そして、綾子先生のブログを読みながら思い出したのは、「フツーの人」扱いされたいと思う部分があるということ。

 (中略)


学生時代の日記が手元にあり、久しぶりに読み返してみました。
昔どこかの英単語帳で見た、「help」と「assist」との違いを説明した模様。他人から「かわいそうに」と思われることが大嫌いで、今思うと「手伝って」とは言えても「助けて」とは決して言ってはいけない、と考えていたのです。そこに明らかな上下関係が発生すると信じていました。

  (中略)


そういえば、アトピーが原因で仕事を休んだことは一度もありません。

見下されたくないくせに、どこかで自分を認められたいくせに、本当に矛盾していることを承知ですが、いま思うのは「アトピーはつらいです」。自分以外の人に対して、絶対に言い訳に使いたくない! でも、自分自身が「つらい」「つらかった」ことは認めなければいけませんね。悲劇のヒロインになるのではないか、とずっと恐れていたことです。

今日はこのへんで。まだまだ難しい作業です。。。

「ゆっくり」という単語も他人に向けて発することはあっても、自分自身に向けて使ったことがなかったなぁと思いました。少しほっとしています。」

 

そしてこのメッセージに対して、私はこう答えました。

 

 

     ***********

 

 

「「家族も仲がいいし、心になんて思い当たらないけど。。。」この言葉は、無意識に(決して意識していなかったと思う)「アトピーでかわいそうと思われたくない」と肩肘張って、強がって生きていた貴女が、その思いに気づかないように、心の奥底に封じ込めようとしてきたからこそ出た言葉のように思います。

本当は苦しかったし、辛かったし、助けて欲しかったけど、弱みを見せることで、「かわいそう」と思われたくなかったから。みんなと同じでありたかったから。

「頭脳」は理性でコントロールできる。感じてないふりもできる。「私、大丈夫だもん、平気だもん」言葉では、いくらだって言える。理性で。

でも、「心」だけは理性ではコントロールできない。

辛いものは辛い。悲しいものは悲しい。

診察時の涙は、その「本当の気持ち=心」が、本音を隠しきれず流した涙。

本当の私はこうなの!本当は、「辛かったよね」って分かって欲しい。私だって、本当はアトピーなんてもうやだ!

心は嘘をつけません。頭は嘘をつけても。

アトピーの症状が、最後のところで治りきらなかったのは、そんな心と頭の解離を、貴女の身体が「気づいて!!」と精一杯サインを出し続けてきたように、私には思えます。

もう十分頑張ったよ。もう、強がらなくていいよ。力抜いていいよ。

そんなふうに身体が肩をポンポンと叩いてくれてるんじゃないかな。

弱みを見せること。助けてということ。

これって、本当は強い人にしかできないと思います。
誰しも弱み見せるのは恥ずかしいから。

それでも、助けて、と言えるのは、自分に自信があるから。助けて、と言っても、自分は馬鹿にされるような人間ではない、と自分に自尊心があるから。

自分に誇りをもつこと。
私は私でいいのだと感じること。


今、アトピーがそれを教えてくれている気がします。」

 

 

         *******

これに対し、彼女からこんなメッセージが届きました。

 

「この数日、当然かゆみは増えました。でも薬を使う気力も起きず、そのままほったらかしにしていました。きっと心が「見た目がよければいいってもんじゃないよね」と言いたかったのでしょう。ところが、昨日のメールを送信して「つらいよ・・・」と感じてから、この数日で叩いたり引っ掻いた傷が今までよりも「あぁ、痛いなぁ」と感じるようになりました。そして、初めてその痛いところに心から薬を塗ってあげよう、と思えました。症状がどのくらい出ているから適切な薬を選択して適切に塗る、ではなくて、「ごめんなさい」と言いながら手当をしたような感じです。」

 

 

30年以上生きてきて、初めて自分の心身と仲直りした瞬間だと思いました。

 

 

「アトピーで辛い、悲しい」そんな本当の気持ちを、周りの自分を大切に思ってくれる親や親しい人を心配させたくないから、心の奥底に封印してきた彼女が、ようやく気づいた、自分の本当の心。

 

アトピーの患者さんって、本当に優しい人が多いんです。

周りを心配させたくない、って。

 

「私、大丈夫」と強がって、肩肘張って生きてきたけれど、辛い気持ちにすら自分で気づかないようにしてきたけれど、でも、本当は助けて欲しかった。

 

そんな、「本当の自分の気持ち」から目をそらさずに認めてあげたこと。

 

これが、自分の心身との仲直りなのだと私は思っています。

 

そして、その仲直りができた人は、必ず地に足をつけて、自分らしい人生を歩むことができる。自分なりに納得できるようになるには、人それぞれ時間がかかるけれども、必ずいつかできるようになる。

 

自分の心身との仲直りができた彼女には、こんなメッセージを送りました。

             ******

ようやく、スタートラインに立ったなと。

ほんの少しでも、心さんの気持ちがわかってあげられたなら、もう大丈夫。
あとはゆっくり、ゆっくりで。

辛かったんだな、ワタシ。よく頑張ったよね、ワタシ。
今度から軟膏を塗るとき、そう身体に話しかけてあげて下さい。


悲劇のヒロインになるわけではないんです。ただ、これまで頑張ってきた心と身体を労ってあげるだけ。何も悪いことはありません。
お母さんが泣いてる子供に「よしよし、よく頑張った~」と頭なでる感じ。

これからも、一緒に、ゆっくりゆっくり、”ワタシ探し”、してゆきましょうね。」

 

さ、とても長くなってしまったので、今日のお話はここまで。

次回のブログでは、自分と仲直りをした彼女がさらにどのように一歩一歩進んできたかについてのお話を書きたいと思います。


アトピー完治までの道は長い。


でも、「きちんと自分と向き合おう」として、一度自分と仲直りができれば、あとはゆっくりゆっくりなんです。


焦らず、慌てず。


カメさんのペースでいいんです。カメさんのペースだからこそいいのです。

 

誰かと比べることなく、自分のペースで。これが大切なのです。