小さなお子さんのアトピーの人格形成における影響について | 皮膚科医 山本綾子 の アトピー から学ぶ美肌法則

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山本ファミリア皮膚科 駒沢公園の院長、山本綾子の美肌法則ブログ。つきあう病気とされてきたアトピー を根治させようと奮闘して見つけた、身体から健康になる美肌法則。

こんにちは。今日は、小さなお子さん、特に幼稚園くらいのお子さんのアトピー治療について書いてみたいと思います。


大人ならば、アトピーに心理的要因が大きく関わっているということは、皆さん、なんとなくおわかりかと思います。ストレスがかかっているとき、自分が好きになれないとき、「○○しなければならない」という考えでガチガチになっているとき、などなど・・・アトピーはなかなか改善しません。治りが悪いです。(ですから、心理的アプローチも必要となります)


では、小さな子供の場合はどうでしょう?


かゆいというのは、0歳の赤ちゃんでも感じますし、やはり機嫌が悪くなりますので、「かゆいこと」は問題だと誰でもわかります。


では、その他、アトピーに心理的問題は、小さな子供ではないのでしょうか?


ずっと外来で診てきて、私はこう感じています。


「小さいときからずっとアトピーで状態が悪いと、幼稚園や小学校低学年という幼い子供ですら、人生に対してなげやりになったり、無気力になったりすることが多い」


これは、ステロイド使用の有無にかかわらず、です。


ステロイドを使っていても、使っていなくても、「ずっと毎日かゆい」が続いていると、幼稚園くらいの小さなお子さんでも「どうせ、ボクのアトピーは治らないんだ」と思い込んでいます。


そりゃ、そうですよね。


いろんな病院に行っても、一向に改善が見られなかったら、小さな子供だって、毎日がかゆいかゆい、ならば、「治療したって無駄なんだ。ボクのアトピーは治らない病気なんだ」と諦めますよ。


小学校低学年くらい(幼稚園の年長さんや小学校1年生くらい)で、生まれた頃からずっとアトピーで、いろいろな病院に行ったけれど治らなかったと私を受診してくださるお子さんを診ると、最初から表情がまったく子供っぽくないことが多いのです。


子供の純粋なまなざしがないのです。


だらんと椅子にすわり、「やる気ないよ~」と言わんばかりの表情。

無気力。


かゆいから、かゆくて辛そうという表情とはまた別のものです。

目に力が全くない。小さな子供ならたいていもっている、「目のキラキラ」が全くない。


以前、小学校3年生で初めて私を受診してくださった子供さんのお母様がこう言っていました。


私:「どうも、この子は私が治療の話を真剣にしていても、自分のことではないかのような、他人事のような感じで話を聞きますよね。どうしてだと思いますか?なんだか、無気力というか、どうでもいい、という感じを受けるのですが。。。」

母:「実は、この子、生まれたときからずっとアトピーがひどかったのですが、5歳の時に、”どうせ、ボクのアトピーは一生治らないんだ。どんなに治療したって、無駄なんだ!”と言っていました。今、思い出すと」


そうだったのね!


小さい体で、一生懸命、かゆいことやまわりの子供と自分の皮膚が全然違うことなどに耐え、ずっとずっと我慢してきて、本当に本当に辛かったのね!


小さな心には、かゆみ以上に重すぎる負担だったのね!


このお話をお母様から聞かせていただいた時、私は涙が出そうになりました。


アトピーは、皮膚以上に心に深い深い傷を負わせてしまう・・・

どんなに小さな子供でも・・・


小さなときからアトピーで苦しんでくると、性格や人生観までもが狂わされてしまう。


いま、先ほどのお子さんは中学生となりました。(私の出産などで、途中、私が主治医でない期間が数年ありました)アトピーの症状は、本当にごくわずかです。全身のかなり大部分が正常皮膚です。それでも、まだ、ときどき「どうでもいいや」という表情をします。人格形成にとって重要な幼少時にアトピーコントロールをよくしておくことの大切さを実感します。


現在、ゆっくり、ゆっくり、彼の目にキラキラが戻ってくるように、生きていくことが楽しいと思えて、自分に自信が持てるように、大人になることが楽しみになるように、親御さんと私で一緒に働きかけながら、アトピー卒業にむけて頑張っています。


お子さんの治療方針に関しては、親御さんの考えもいろいろあるかもしれません。また、皮膚科を転々としても、いい皮膚科医に出会えていない、ということもあるかもしれません。


どちらにせよ、小さなお子さんのアトピーは、皮膚だけの問題ではなく、性格や人格に大きな影響を与えるということを忘れてはならないのです。


ここまで読んでくると、これまで治療がうまくいっていなかったお子さんはもう手遅れかと心配されるかもしれませんが、こんな希望を与えるようなお話も最後にさせてください。


生まれたときからずっと治療がうまくいっていなかった小さなあとぴっ子ちゃん。


診察室に入ってきたとき、やっぱり、やる気のない表情をしていました。


でも、私が親御さんに「アトピーって、これが原因でね・・・こんなふうに治療してゆくとね・・・ちゃんと治るんですよ」と説明してゆくと、横で聞いているお子さんの表情が変わってくることが多いです。


「あ!ボクのアトピーも治るんだ!」って。


最近出会った4歳の男の子。食物アレルギーもある重症アトピー。


その子が、私の話を横で聞いたあと、


「ね、ボクのアトピー治るの?治るの?」と何度も何度も嬉しそうにお母さんに聞いていたときの表情を私は忘れることができません。


遅すぎるってことはないのだと思います。大人でも小さなお子さんでも。


人間は必ず変化してゆく生き物です。


もしかしたら、患者さんによっては、ゆっくりゆっくり亀さんのような歩みかもしれない。


凍りついた心を溶かすには時間がかかるかもしれない。


それでも、愛情を持って接すれば、きっといつかわかってくれる日がくると思います。


少なくとも私はそう信じたいし、そう信じて患者さんとアトピー卒業にむけて頑張っています。