中学3年生に対しての「ピロリ菌検診・除菌」事業について思うこと | 群馬県安中市の地域に密着≪あやこまごころ診療所≫院長女医あやこ先生のブログ

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ピロリ、ピロリ、と名前は可愛いけれど胃がんとの関係が明らかになっているヘリコバクターピロリ菌。その名を一回は聞いたことがあると思いますし「うちの主人はピロリ菌に感染してたので、除菌したのよ。成功して良かったわ!」なんていう方も多いのでは無いでしょうか?

 

 


胃潰瘍でした そしてピロリ菌が陽性でした
胃カメラをしたら慢性胃炎でピロリ菌も陽性でした
 
という成人の方が外来に相談に来られたならば「ではピロリ菌の除菌しましょう!」と私はお勧めします。何故ならば、ピロリ菌を除菌することによって胃潰瘍・十二指腸潰瘍・そして胃がんの再発率が著しく低下することが分かっているからです。日本人の胃がんの多くはピロリ菌感染が原因です。
 
そんな中、佐賀県では2016年2月から「中学3年生」向けにピロリ菌スクリーニング検診&除菌事業をしているといいます。尿検査でピロリ菌陽性だった生徒はさらに便の検査へ進み、そこでピロリ菌陽性と確定された生徒は、自宅へ「除菌が必要!」とクーポン券が入った文書が自宅へ届くそうです。
 
え、「除菌が必要!」と言い切ってしまって良いのかな?と疑問に思いました。
 
成人ではピロリ菌除菌の効果や意義がきちんと確立されていますが、中学生ではそんなデータはどこにもないのです。
 
中学3年生ってとっても多感な時期だと思うのです。受験生だという子も多いでしょう。恋愛だったり、将来のことだったり、人生についていろいろ悩む時期ですよね。そんな時期に検査して、除菌する必要があるのかな?って私は思ったのです。陽性だと知れば悩む子供たち多いんじゃないでしょうか。知らぬが仏のことだってあると思うんです。
除菌治療も結構副作用が強くて・・・大人でもギブアップしそうになる方多いんです。特に、腹痛や下痢が辛い。試験や部活の時に当たったり、好きな子とデートしている時にトイレに駆け込まざるを得ない状況って彼らにとっては大問題だと思います。(大人だってそうですけれど)。そして、そんな辛い思いをしても100%除菌出来る訳じゃないのです。
 
自治体が独自に進めるこのピロリ菌スクリーニング検診&除菌事業に関して、関連学会の有識者たちは慎重な姿勢を示しています。
 
日本小児栄養消化器肝臓学会は、小児への胃癌予防を実際に証明したエビデンスがないことを理由に、ピロリ菌除菌に関して「現状では推奨することはできない」と記載予定だそうです。順天堂大学大学院小児思春期発達・病態学講座主任教授の清水俊明氏は「陽性だからといって、無症状の子どもに保険適応されていない除菌療法を胃癌の撲滅と称して行うことは問題があるのではないか」と指摘しています。日本ヘリコバクター学会理事長で富山大学内科学第三講座教授の杉山敏郎氏も「現状で行われている中学生の除菌には問題点が多い。その1つ、ボノプラザンは国内では小児に保険適応がない上に、我が国以外では安全性の問題から承認されていない。そのような薬剤を健康な小児への除菌に用いるべきではない」と強調しています。小児への保険適応がない薬を使うっていいのかな?って私も思います。
参考記事→日経メディカル【広がる中学生のピロリ検診・除菌】


自ら胃がんで入院した経験を持つ山口祥義知事の佐賀県では、この事業を胃がん予防という「子どもたちの将来への贈り物」としていますが、それが贈り物となるのか否なのかは、議論の余地があると私は思います。
 
医師として、そして子を持つ母としては、「健康な子供に薬を飲ませること」には慎重でありたいです。そして、多感な中学3年生にこのピロリ菌スクリーニング検診&除菌事業は無駄な不安を煽るようにも思えるのですが・・・皆さんはどう思いますか?ご自身の自治体で今後このような事業が始まり、お子さんがピロリ菌陽性だったとき、親としてどうされますか?
 
ちなみに佐賀県は中間実績によると、中学3年生の3.6%が尿検査便検査共にピロリ菌陽性で、除菌成功率は86.7%だったそうです。佐賀県以外でも、中学生を対象とするピロリ感染のスクリーニング検査と除菌の一部ないし全額を公費で負担する自治体の取り組みが広がっている、というのを付け加えておきます。
 

あやこ先生の自己紹介
 
群馬県安中市磯部に2017年9月≪あやこ まごころ診療所~一般内科・糖尿病・ダイエット・予防接種・在宅~≫開業に向け現在準備中です。安中市の地域に密着した医療に力を注ぎます。【いつでもだれでも気軽に寄ってね】という理念の元、健康の事、体の事、病気の事、福祉や介護の事、日常のお困り事、など…をいつでも気軽に相談出来る診療所でありたいと思っています。現在建物を建築中です。

 

 

 

 

 

 

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