芹沢さんの作品は2作目の読書となります。
父親に当たり屋をやらされている少年、波留。
そして、その友人からそのことを知らされた桜介。
スーパーで働きながら、地下室で殺人事件の容疑者の阿久津と共に暮らしている豊子。
阿久津は過去に母親から「みんなしていることだから」と強制的に不妊治療をされていた。
阿久津は、生きづらさを感じながら、学生時代を過ごしていた。
そして、父親のように慕っていた、塾経営者の戸川を殺害したのか?
事件を追う刑事の平良がやがて真実に辿り着く。
優生保護法という名の元に、多くの障害者が不妊治療を強制的にされてきた。
阿久津は元妻が妊娠できないことを悩んでいたのを分からず、しかし「子供が欲しいのではなく、欲しかった」とつぶやく。
桜介は、林間学校をあんなに楽しみにしていた波留がなぜ「行かない」のかを知り(父親が旅費を出さなかったから)それに心を痛めていたのだが、そこに阿久津が運転する車に乗った波留がやってくる。
警察に追われていたこの車で、果たして林間学校に間に合うのか?
そして、殺人事件を起こした阿久津の行方とはー。
阿久津の純朴さに、涙しました。
彼の母親は、阿久津が学生時代にしてしまった「とあること」を目撃して、不妊治療を決めます。
それは「みんながしてきたことだから」で片付けられたものでした。
今でこそ「発達障害」「知的障害」と色々な障害の名前がありますが、その当時は、彼の勉強を手助けしていた戸川でも戸惑うものがありました。
そして、その障害ゆえに、阿久津は苦しみます。
しかし、それさえも凌駕していた彼の純粋さに心が奪われました。
彼を匿っていた豊子は、元夫との間に赤ちゃんを妊娠しますが、流産してしまいます。
そのことで苦しんでいた豊子でしたが、阿久津との出会い(中学生時代の同級生でした)で、彼を地下室に匿うことになります。
その暮らしの中で、豊子は阿久津に心を救われます。
一方の波留は、中学校が夏休みになり、食事が取れない日々が続き、ふとしたことで、阿久津が猫に与えていた食事に目をつけます。
それを口にしたことで、阿久津と心の交流を交わすこととなります。
阿久津との最後の別れの時に「おじさん!」と絶叫するところで、涙、涙でした。
阿久津の生きづらさは、なかなか、私には分かりづらいところもありましたが、それでも、そこを丁寧に描くことで、全部の人に分かりやすいように場面が描かれています。
芹沢さんの作品の中でも、特段に良書、と言える作品ではないのでしょうか。
おすすめの一冊にさせていただきます