本来ならすぐにでも退院の報告に本殿へと赴かなければならない所。
だが俺はチェギョンの様子が気になっていたから少し話がしたかった。
マスコミへの写真撮影の時も気丈に笑顔を振舞ってはいたが、その笑顔は俺の良く知る心無い作られたものだと思った。
その笑顔が忘れられなくて……。
「チェギョン、久しぶりに戻ったんだ、少し散歩しないか?」
「…でも、すぐにお祖母様達の所へ挨拶に行かなくちゃ……」
「いいから、少しだけだ」
「あっ、ちょっとシン君……」
俺は少し強引に腕を掴むとそのまま東宮殿の外庭へと連れ出した。
青々と生い茂る木々と沢山の花が咲き乱れる庭園は今が一番美しい。
「綺麗だろ。チェギョンは初夏の王宮は初めて見るよな?」
「うん」
「この季節が一番綺麗なんだ、生き生きしていて。一番好きだ」
「うん、綺麗……」
夏の日差しが良く似会う、チェギョンお前の様だから。
その太陽のような笑顔を取り戻したかった。
歩いていた足を止め繋いでいる手を強く握る。
そしてチェギョンの顔を覗き込みそっと微笑みかけるとその柔らかな唇に口付けを落とす。
「チェギョンが考えている事、話してみないか?」
「…………ッ……ヒック……ヒックッ……」
「言っただろ?俺の許可なく苦しむなって。大丈夫だから……」
堰を切ったように涙があふれ出るチェギョンを強く強く抱きしめた。
ようやく少し落ち着きを取り戻したチェギョンを連れて俺達は池のほとりに腰を掛けた。
見上げる空はどこまでも清んでいて美しいのに俺達の心には激しい嵐が渦を巻いていた。
「ごめんね、心配かけて。先生に言われた事が頭から離れなくて……」
【妃宮様は検査の結果以前よりも体力、免疫力などが低下しており非常にお体が弱くなられておいでです。この先病に罹らぬよう我々も尽力いたしますが、日々の生活の中でもお気をつけください。
それと非常に申し上げにくい事なのですが……妃宮様がもしもご懐妊されたとして、ご出産に耐えられるお身体ではないかもしれません。これは今後の経過を見ないとなんとも言えないのですが……。
今の状態ですと命の危険に関わります。】
「私はシン君の妻で、シン君は皇太弟。この国の皇族の血を受け継ぐ人よ。
でも私にはその血を後世に伝える事ができないんだって…きっともうシン君の側にいられないって……そう思ったら怖くてたまらなかった」
聞いた時はあまりに突然の事でチェギョンの身が心配であっただけだったが、冷静に考えるとこの事が公けになればチェギョンへの風辺りがひどくなる事は明白であった。
俺が皇統を継ぐとしている今ならなお更…。
だがいざとなったら俺は皇族を退く覚悟はある。
そんな事よりチェギョンと離れる方が生きてはいけないと分かっているから。
離れている間痛いほど感じたチェギョンが必要だって言う事は。
だからこの先何があってもチェギョンを守り抜く決意だけは揺るがなかった。
「この先何を言われようとお前の事は俺が守るから。またお前を傷つけるかもしれない、それでも俺の側に居て欲しい。俺の妃はお前だけだから」
「でも!こんな私が側にいたらシン君にも迷惑だよ」
「じゃあ皇太弟をやめて、二人で宮殿を出ようか、俺は覚悟は出来てる」
「それはダメッ!シン君までそんな事しちゃだめだよ」
「じゃあ、諦めるのか? チェギョンらしくない。医者も言ってただろ経過を見てみないとわからないって、その可能性を諦めるのか?」
「………………」
「一人で抱えないでくれ、チェギョンの問題はお前一人の事じゃない、俺達二人の問題なんだ。
これから二人で向き合って行けばいいんだ、わかったか?」
「シン君……」
「おい、返事は!」
「……はい、ありがとうシン君」
ようやくこの空に似会う笑顔が見れた。
これからも沢山の問題が降りかかる事だろう…
それでも繋いだ手は二度と離さない。
この口付けに誓うから。
少しだけ夏の通り雨が降ったのであろうか
水を弾く木々の葉がいつもよりも煌めいて見えた
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