No.9 危険なボディーガード
:大丈夫か?
:大丈夫じゃないよ。どうしよう。
:なんで気付いたんだ。
:わかんない。
:それで?なんて言ってた?
:何にも。ただ助けてくれるって。
:助ける?何を?
たぶん、私が隠している秘密を内緒にしてくれるってことだと思うけど、それって取引?だって彼女が好きなのは隼人だし。
:そのー、着替えの事だと思う。
:本当に誰か知らないのか?
:それが、、トイレで会ってたの。会ってたというか声を聞いただけなんだけど。
:脅されたりしてないよな?
:うん。平気。
:とにかく様子をみよう。今日来る?
:終わったらマッサージ行く予定なの。ママと約束してるから。
:わかった。
携帯をとじる。
隼人には言えなかった。彼女が近づいた理由が隼人だと言うことを。もし隼人と別れてと言われたら・・・。エマから連絡はない。ホッとしつつも、不安で仕方がなくて。でも彼女の笑顔からは悪意が感じられない。それどころか、親近感さえ湧いてくるのはどうして?よくわからないこの状況にため息がでる。
私は、リュックに教科書を入れ歩き出した。
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ママからメールが来た。急に予定が入ったらしくどうするか聞かれる。一人で行ってもイイよと言ってくれていた。気分が滅入ってた私はマッサージでリフレッシュしようと決める。受付を済ませて部屋へ入ると男性だった。
「本日担当します、築羽です。宜しくお願いします。では、こちらにうつ伏せになってください。」
「はい、お願いします。」
いつも女性なのに・・女性にしてほしいって言うべきだった?
「どこか、気になることろありますか?」
「えっ、あ、肩が凝ってて少し腰も痛いです。」
そろそろあれが近いこともあって軽い頭痛と腰が重かった。
「わかりました。肩と腰を重点にしますね。」
「はい、お願いします。」
肩と背中の筋を伸ばす。肩と首をもみほぐしていく。あぁ、気持ちいい・・。
指圧が奥まで伝わってくる。女性と男性の施術ってこんなに違うんだ。指も大きく力も強いため、細い指圧と違って的確にツボを刺激されているように感じる。いつの間にか眠っていた。かなりぐっすり寝ていたと思う。さすがに足の裏は痛かったけど、通り過ぎたあとはまたすぐに寝てしまった。
目覚めたのは、全身に電流が走ったからだ。太ももをマッサージされている時だった。これ・・・ってヤバいかも。早く太もも通り過ぎて欲しい・・・と思いながらも体が硬直していく。
「力を抜いてもらえますか。」
えー、そんなの無理。
「あのっ、太ももはいいです。」
その言葉に手が止まる。彼はすぐに理解したようだった。
「わかりました。」
ホッとする。いつも担当してくれている女性は何も言わずに対処してくれていたんだと今わかった。最後に頭のマッサージをして終わる。
「はい、終了になります。ゆっくり着替えてください。お茶を用意しておきます。」
「はい・・。」
と答えてつつも脱力感に襲われ動けない。あーぁ気持ちよかった。
そのまま寝ていたい・・・15分でいいから寝かせてくれないかな。。瞼を薄く開ける。ちょうど男性が出ていくところだった。目を見張った、彼と目が合う。驚きを隠せない。だって顔立ちの整ったイケメンだったから。しかも若い!彼はにっこりとほほ笑む。営業スマイルだ、わたしは目を逸らす。
始まる前は顔を見ていなかった。うそでしょ。急に恥ずかしくなってきた。慌てて台から降りて着替えを済ませる。お茶を一気に飲みほして会計を済ませ外へ出た。
はぁ、、なんか別の意味で疲れた。。軽くなった体と、動揺する心。次からちゃんと担当確認しよ。
外は少し暗くなってきていた。
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お昼ご飯を終えお弁当箱を片付ける。立ち上がってリュックに手を伸ばしたその時、「いた!さゆり!」と声をかけられる。振り返るとエマがいた。
「こんなとこにいるなんて、探すの大変だったんだよ。」
探してくれなくていいのに。
「ごめんね。」
「メールも見てないでしょ。」
携帯を見るとエマからメールが届いていた。
「ごめん、本に夢中で気が付かなかった。」
「いいよ、悪気がないの知ってるから。それより、学校終わったら買い物付き合って。」
「あーぁ・・。」
「ねぇ!いいでしょう!」
これは断れない感じ・・・。
「うん、わかった。」
「じゃ、あとでね。戻らなきゃ。」
そう言って手を振って急いで帰っていった。今の話メールで良くない??わざわざこれを言うために私を探していたの?よくわからないエマの行動に首をかしげる。それと最後に私の頬を触ったことにも驚いた。
携帯を取り出し隼人にエマと出かけるとメールをすると、帰り迎えに行くからと返事がきた。OKと返信する。午後の授業はいつも通りだった。可も不可もなくと言った感じ。ただ気になることがあった。授業を受けていない先輩たちが来て何かを話している。なんか、どっかで見たことある人のような気がする。まぁ、いいや。私はそのまま教室を出た。
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エマは化粧品が買いたかったらしく、買うものも決まっていたのですぐに買い物は終わった。「少し、お茶しよ。」そう言って、わたしの手をつかんで歩き出す。注文を終えると彼女は話し出した。
「どうして、変装してるの?美人なのに、そんな変な恰好してもったいないよ。」
「えっ、えーとね。一人でいるのが好きなの。この格好だと誰も声をかけてこないから。」
「ふーん、まぁ誰にも言うつもりはないから安心して。」
「うん。ありがとう。」
「じゃ、学校でお昼一緒にとかはダメなわけ。」
「で、できれば。」
「わかった。時々こんな感じでお茶しようよ。それならいいでしょ。」
「うん、時々なら。」
時々と言う言葉に念を押す。
やっぱりエマの考えていることが分からなかった。なんで、私と出かけたいんだろう。それに隼人の話が出てこない。紅茶とケーキを食べながら最近の出来事をいっぱい話してくれた。久しぶりの女子トーク。エマは話すのが上手で凄く楽しかった。
「どうやって帰るの?」
「えっ、あっ迎えがくるの。」
急にエマの態度が変わった。
「それって、彼氏?」
「うん。」
イライラしてるのがわかる。ヤバい、隼人の話は禁句だったかも。もう遅かった。急にわたしの両手をつかんで顔を近づける。
「ねぇさゆり、次から私が送るから私と会った後彼氏と約束しないで。わかった?」
強く握りしめる。
痛いよ、エマ。さっきまでとは別人のように低い声だ。怖いその声。
「う、うん、わかった。」
そして、また頬をさわった。今度はそっと撫でるように。「じゃ、私行くね。またね、さゆり!」そう言って私を置いて歩き出す。
姿が見えなくなるまでその場に立っていた。人ごみでエマが見えなくなりホッする。メールを見ると隼人は着いたようだった。
さっと車に乗り込む。
「どうだった?」
「別に普通だった。」
「それでなんて言ってた?」
「変装してること誰にも言わないって言ってた。」
「そっか、ゆりと本当に友達になりたかっただけじゃないか?」
「うん、私もそんな気がしてきた。」
彼女の笑顔は本物だし、話し方も楽しそうだった。ただ友達になりたいだけかもしれない。でも気になることがある。トイレでの会話だ。彼女は隼人が好き。私に近づくのは隼人と別れさせるための作戦なの?わたしの頬を触る彼女はとても優しくて不思議な感じだった。
「ところでさ、今日変わったことなかったか?」
「何かって?」
「そうだな、講義にいつもいない人がいたとか。それか講義のあと騒がしくなかった?」
「別に得には感じなかったけど。なんで?」
「ゆりを探してる先輩がいるらしい。陽介いわく、この前声をかけてきた先輩だって話だ。」
思い出した、講義のあと先輩たちが何か話をしていた。
「そういえば、先輩たちがきてたよ。」
「あぁ、それかもしれないな。とりあえず気をつけろよ。」
気を付けろってどうすれば・・いいの?
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なんか寒気する。昨日隼人に送ってもらった後、なんだか疲れてそのまま寝てしまった。朝起きたらだるくて、でも熱はなかった。まだ午前中なのに頭がボーとしている。朝起きた時より怠い感じがする。
ご飯食べて薬飲もう。どこでご飯たべよう。。そんなことを考えているとあっ、また来てる。昨日の先輩たちだ。何?こっちを見てる。
談笑している先輩たちの横を通り過ぎようとしたその時、声をかけられた。
「ねぇ、ちょっと君!」
「・・・」
「名前何て言うの?」
「あっ、あの・・。」
「名前、教えて欲しいだけだから。別にナンパじゃないし。」
頭がふらふらする。答えないと・・でも体が回ってる感じ。あぁ、これ、危険かも・・しゃがみそうになったその時、私の腕を支える人がいた。見るとエマだった。しっかりとその腕をつかんでいる。そして、先輩を見るその目が怖かった。
だって睨んでいるんだもの!先輩を!
ゆっくりと先輩の友人を一人一人見据えるように睨みつけている。そして、かったるそうに話しかける。
「なんかようですかぁ?彼女、私の友達なんですけど?」
エマは相手が先輩だというのにお構いなしの態度だった。でもエマの一言でその場が一変した。先輩の顔が引きつっている。まるで恐ろしい物を見たような顔で一歩後ろへ下がった。。
「あっ。。。エマちゃん。ここ・・の大学なの?」
「そうですよー。お兄ちゃんはバカでも、私は別なので。それが何か?」
「いやっっ、、お兄ちゃん、遥は元気かなって?」
「元気ですよ。連絡するように言いましょうか?」
「イヤ、とんでもない!!・・元気だったらいいんだ。その子はお友達・・?」
「そうですよ、わたしの友達なのでちょっかい出さないでくださいね!」
「わかった!俺たち、じゃいくよ。遥には何も言わないでいいから。」
そう言って先輩は足早に消えていった。
ため息をついたエマは、心配そうな顔でこっちをのぞき込む。さっきまでの怖い顔から、いつものエマの顔に戻っていた。
「どうしたの?気分悪いの??」
「うん、ちょっと風邪っぽくて・・。」
「帰る?」
「ううん、午後の授業受けたいの。」
「わかった。じゃ、どこかで休憩しよ。」
そエマがいてくれて助かった。これまで彼女の事をめんどくさいと少なからず思っていた。そんな自分が少し嫌だった。申し訳ない気持ちが私の心を揺らしていた。
「さっきの先輩知ってる人?」
「うん、まぁね、お兄ちゃんの知り合い。」
「そうなんだ。」
「うちのお兄ちゃん、ある意味有名なんだ。私がしらなくても相手は私のこと知ってたりするから。お兄ちゃんの名前だすとみんな逃げていくよ。」
「そう、お兄ちゃん怖い人なの?」
「うーん、エマには優しいけど。たぶん怒らせるとヤバいと思う。エマの友達には優しいから、さゆりは心配しないでいいよ。」
にっこり笑うエマ。
お昼時間を一緒に過ごした後、講義室まで私を送って戻っていった。
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講義が終わった頃エマからメールがきていた。
:大丈夫?
:さっきはありがとう。大丈夫だから。
:それなら良かった。何かあったら連絡して。
:ありがとう。
エマのメールは楽だった。
いつも必要な時だけメールしてくるから。気を遣う言葉選びや相手の感情の読み取る必要ないため、楽だと感じていた。だから最近エマからのメールは嫌ではなかった。断っても理由を言う必要がないし彼女から理由を聞いてくることもなかった。それがなんだか・・心地いい自分がいた。
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講義をすべて終えて、ポカポカしていた体温も正常になっていた。発表用の資料をまとめるため近くの図書館へ行く。カードをかざしてゲートを通り荷物を棚へ入れようとした時、携帯が滑り落ちた。「あっ。」気が付いた時には遅かった。でもそんな私よりも素早く携帯を受け止めた人がいた。携帯を私に手渡す。
「ありがとうございます。」
「いいえ、どういたしまして。」
たぶん、先輩だと思う。
落ち着き払ったその声と堂々としたその仕草がかっこよかった。メガネをかけていて長身。ゆるっとパーマをかけているような髪型、カッコイイ。でも・・どっかで会ったことあるような気がするんだけど・・・気のせい?そんなわたしの考えを読み取ったように・・その人が言った。
「この前はどうも。」
「えっ。あのー・・・この前って。」
「ご来店ありがとうございました。」
「ごっ、ごらいてん?」
その言葉を聞いた途端、
私は思い出した!
ひぇー!!!!!
この人、あのマッサージをしてくれた店員だ。ウソでしょう!愕然とする。氷ついた目でその人を見上げる。男性は優しく微笑みながら自己紹介をした。
「僕は理学部4年の築羽葵です。」
思わず答えてしまった。
「わっ、私は理学部1年の上江洲さゆりです。。」
「宜しくね、さゆりちゃん。」
そう言って先輩は手を振って出ていく。
ははっ、、あははは。
嘘でしょ。
誰か嘘と言って!!!!!
この日の夜、なんで担当を確認しなかったのかと死ぬほど後悔したことは言うまでもない。
ねぇ、これって
隼人に内緒でいいと思う?
次回、「わたしに告くらないで!!」
第10話わたしに告らないで!!
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誤字脱字ないように気をつけていますが、行き届かない点はご了承ください。
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