God Eater The Last Rage第5話





フェンリル極東支部 廊下


昼の任務を終えたブラッドは、支部長室へ向かいながら雑談していた。


ロミオ「いや〜腹減った! あ、ジュース買おっと!」


ナナ「ロミオ先輩、それ毎日言っとうやん!」


ロミオが自販機の前に立ち、気楽にボタンへ手を伸ばす。


ロミオ「よーし、今日はオレンジ──ん?」


ロミオの指が触れたそのボタンは、異常にへこんでいた。


ロミオ「……おい待てよ。なんだこの凹み!?」


ギル「おいおい、壊れてんじゃねぇかこれ。どうやったらこんな押し方になるんだよ。」


シエルが淡々と観察する。


シエル「指で押したとは考えにくいですね……強い力で押し潰した痕跡です。」


スズ「誰がやったんだろ。さすがにアラガミじゃないよね……?」


ロミオ「どこの怪力だよこれ! こえぇよ!」


ナナ「えー!? すごい力だね……!」


ギルは肩をすくめる。


ギル「極東には変わった奴しかいねぇしな……まあ、犯人はそのうち分かるだろ。」


苦笑しながら、彼らは支部長室へ向かって歩き続けた。




ーー支部長室



サカキ博士「やあやあ!遠いところからよく来たね!」


そこにはドイツ風の白を基調とした軍服に身を包んだ一人の女性神機使いが立っていた。


整った金髪のロールツイン


赤みのある瞳


前向きな明るさを感じる落ち着いた微笑


女性神機使い「本当に……久しぶりです、博士!」


サカキ博士は穏やかに笑う。


サカキ「元気そうで何よりだ!極東は懐かしいだろう?」


女性神機使い「はいっ。あの頃からすごく変わりましたけど、やっぱり空気は極東のままです!」


サカキ「ははは、嬉しいことだよ。」


女性神機使いは少し気まずそうに手を上げた。


女性神機使い「えっと、それでですね...その……さっき支部の自販機で……つい力が入りすぎて……ボタンを壊しちゃいました……」


サカキ「はっはっはっ。相変わらず力加減が苦手だねぇ。ああいうのは直せるから気にしなくていいよ。」


女性神機使い「す、すみません……」


そこへ声がする。


スズ「失礼します、博士。ブラッド隊、入りま──」


扉が開き、スズ、ナナ、ロミオ、ギル、シエルが姿を見せる。


部屋が一瞬明るくなるような、初対面の雰囲気。


女性神機使いは姿勢を整え、ブラッドへ丁寧に向き直った。


彼女の噂はヨーロッパの支部では有名だ。


攻めを重視した戦闘スタイル。


戦ったアラガミは跡形もなく粉砕され、原型を留めない。


そんな光景を目にした人々は彼女をこう呼んでいた。


通称''ベルリンの壊し屋"


女性神機使い「皆さんが極東のブラッド隊ですね。お会いできて光栄です!」


スズ「こちらこそ、ようこそ極東へ。えっと……お名前は?」


女性は微笑んで敬礼した。


女性神機使い「ドイツ支部所属、クリーグ隊隊長──」


女性神機使い「......アネット・ケーニッヒと申します。どうぞよろしくお願いします!」






ナナ「わっ! よろしくお願いします、アネットさん!」


シエル「こちらこそ、歓迎いたします。極東での研修、どうぞごゆっくり」


ロミオ「ドイツ支部ってだけでなんか強そうですよね……!」


スズ「よろしくお願いします。ブラッド隊隊長のスズです。」


ギルだけはなぜか自然にタメ口になる。


ギル「さては...自販機壊したの、あんただろ?」


アネット「…………っ! はい……すみません!」


ギル「ま、まあいいけどよ。」


スズ「ちょ、ちょっとギル! 失礼だよ!」


ギル「いや事実だろ。直せばいいんだし。」


アネットは苦笑しつつ頭を下げた。


アネット「力があるのだけが取り柄なので……つい加減を間違えてしまうこともあって……」


サカキ博士が笑う。


サカキ「アネット君は“ベルリンの壊し屋”という異名を持つんだよ。腕力を生かした戦法が得意でね」


ロミオ「壊し屋……!? そりゃ自販機もへこむわ……!!」


シエル「ロミオ、失礼ですよ。」


ギル「いや、正しいだろ。」


スズ「ギル!」


アネットは笑顔を崩さず、小さく息をついた。


アネット「皆さんと一緒に任務に出られるのがすごく楽しみです。よろしくお願いします!」


ナナは満面の笑みで手を振る。


ナナ「よ〜し!今日から仲間だねアネットさん!」


アネット「はいっ! どうぞよろしくお願いします!」


スズはその空気を温かく感じながら、小さく頷いた。


スズ「……うん。みんなで協力してやっていこうね!」


サカキ博士は手を叩く。


サカキ「では、アネット君。部屋は準備してあるから荷物を置いてきたまえ。」


アネット「ありがとうございます、博士!」


軽やかなステップで支部長室を出ていくアネット。


残されたブラッドは、ほっとした表情で互いに目を見合わせた。


ロミオ「なんか……すげぇ人が来たな……!」


ギル「まあな。悪い奴じゃなさそうだ。」


シエル「腕力は……かなりのものと見受けます。」


ナナ「仲良くできるよ! だってアネットさん、絶対いい人だもん!」


スズ「うん。あの感じなら、すぐ馴染むと思うよ。」


ロミオ「フェなんちゃらは?」


新しい仲間。


新しい風。


そして極東の平穏は──少しずつ、静かに揺らぎ始めていた。





ーーーフェンリル本部



報告室


壁一面に並ぶモニターには、先ほどの任務ログが時系列で流れている。


移動軌跡、心拍数、オラクル消費量、攻撃判定。


淡々とした数値が、戦闘のすべてを語っていた。


中央の卓にはソーマとフェルドマンが並んで立っている。


自動扉が低い機械音を立てて開き、


サバタとリヴィが入室した。


フェルドマン「……帰還ご苦労だったな、二人とも。」


サバタは返事もせず、壁に背を預ける。


椅子に座る気配すらない。


リヴィは一歩前に出て、簡潔に敬礼した。


リヴィ「任務報告に入ります。」


フェルドマン「頼む。」


リヴィ「外縁エリアにて、中型アラガミ“ヤクシャ”三体と交戦。全個体の討伐を確認。こちらの被害は無し。周辺に追加反応は見られず、区域は安全圏へ復帰しました。」


余分な感情の一切ない報告。


ソーマは腕を組んだまま、モニターに視線を走らせる。


数値を追い、わずかに顎を引いた。


ソーマ「……行動ログも一致している。虚偽はないな。」


フェルドマン「よし。ではサバタ、お前からも補足を──」


サバタ「…………終わった。」


フェルドマン「……それだけか?」


サバタ「他に何がある。狩って、終わった。それだけだ。」


場の空気が、わずかに重くなる。


ソーマは視線を上げ、サバタを見た。


ソーマ「……一点だけ確認する。」


サバタ「はぁ?」


ソーマは端末を操作し、映像を一時停止する。


サバタがヤクシャへ突っ込む直前のフレームだった。


ソーマ「この時だ。踏み込みの初速が、通常より僅かに落ちている。」


サバタは鼻で笑う。


サバタ「だからなんだよ。誤差だろ。」


ソーマ「誤差にしては一貫性がある。三回とも、同じ距離で同じ減速が出ている。」


リヴィが視線を向ける。


リヴィ「……確かに、詰めが甘かった場面がある。」


サバタ「黙ってろ。」


ソーマは続ける。


ソーマ「結果としては問題ない。だが、戦いにくそうだったと言える。」


一瞬だけ、サバタの眉が動いた。


だが、すぐに視線を逸らす。


サバタ「知らねぇよ。いつも通りだ。」


ソーマ「本当にそうか?」


サバタ「そうだっつってんだろ。」


不貞腐れたように吐き捨てる。


リヴィが淡々と口を挟む。


リヴィ「サバタ。事実として、私が斬らなければ囲まれていた場面がある。」


サバタ「……だから?」


リヴィ「単独行動のリスクが増している。」


サバタ「余計なお世話だ。」


フェルドマン「そこまでだ。」


乾いた声が、場を切った。


フェルドマンはこめかみを押さえ、深く息を吐く。


フェルドマン「結果は問題ない。被害もない。今日はそれで良しとする。」


視線をサバタへ向ける。


フェルドマン「だが、次も同じとは限らん。最低限の自己分析はしておけ。」


サバタ「……知らねぇっつってんだろ。」


フェルドマン「……そうか。」


ソーマはそれ以上追及しなかった。


ただ、ログをもう一度だけ見つめる。


ソーマ「……いい。今日はここまでだ。」


リヴィ「了解した。」


サバタは壁から身体を離し、踵を返す。


サバタ「気に入らねぇ......。」


リヴィも無言で続いた。


自動扉が閉まり、報告室に静寂が戻る。


フェルドマンは重く息を吐いた。


フェルドマン「……胃が痛いな。」


ソーマ「だろうな。」


フェルドマン「サバタをどう見る?」


ソーマは少しだけ間を置いた。


ソーマ「……本人は気づいていない。もしくは、気づいていて認めない。」


フェルドマン「厄介だな。」


ソーマ「だが、まだ破綻してはいない。」


モニターに映る、呪刀を振るうサバタの姿。


ソーマ「……しばらく様子を見る。」


フェルドマン「爆弾を抱えたままか?」


ソーマ「そうだ。」


沈黙。


最悪の相性。


最高の殺傷能力。


サバタとリヴィのペアは、今はまだ、ただの“爆弾”にすぎなかった。





 

ーー極東支部



ラウンジ前


ブラッドの面々が、ドイツ支部の神機使いアネットを連れて歩いてた。


アネットはきょろきょろと周囲を見回しながら、小さく笑う。


アネット「なんか……やっぱり懐かしいですね。極東の雰囲気。」


スズ「そう言ってくれると嬉しいです。せっかくだしラウンジで休憩しましょう。」


アネット「ええ、お願いします。」


ギルは横目でアネットを見ながら軽く顎を上げる。


ギル「しかし“ベルリンの壊し屋”って噂のわりに、ずいぶん気の抜けた雰囲気だな。」


アネット「えっ……そ、そうですか? あはは……。」


ロミオ「ギル、それ本人に言うのデリカシーないからな?」


ギル「事実だろ。」


アネット「い、いやまぁ……新人の頃は色々と……力加減が……。」


スズ(きっと他にも色々壊したんだね……)


そんな談笑が続く中、勢いよく”何か"が飛び出してきた。


???「──むッ!? この気配……!!」


アネット「えっ。」


ロミオ「あっ……来た。」


スズ「……やれやれ。」


そう。来た。


赤い外套を翻す。


そして薔薇を持っていないのが不思議なくらい完璧なポーズで立つ男。


エミール・フォン・シュトラスブルグ本人が、輝く笑顔で登場した。


エミール「おおおお!! 見知らぬ淑女の姿ッ!
そして遠き国より香り立つ異国の風ッ!
これはもしや──!」


ブワッッッ!


マントを広げる音がした。(実際にはそんな音はしない)


エミール「ドイツ支部より来た勇ましき神機使いであろう!?
ようこそ、我が第二の故郷・極東支部へ!!
このエミール・フォン・シュトラスブルグが、心からの歓迎を──」


アネット「えっ……えっ……?」
(猛烈な勢いに固まる)


ギル「出たよ……騎士道野郎。」


ロミオ「ほらアネットさん、これが極東名物です。」


アネット「極東……名物……?」


エミールはさらに一歩前へ躍り出る。


エミール「お初にお目にかかる、麗しき来訪者よ!
あなたのような高貴な戦士を迎えられるとは、我らが極東支部の栄光にして至福!
どうかこのエミール、あなたの滞在を華麗に、優雅に、そして──」


その瞬間。


ピタッ。


エミールの肩にスッ……と手が乗せられた。


冷たく優しい声が後ろから飛ぶ。


エリナ「....エミール?」


エミール「む? エリナ?」


エリナはにっこり笑う。


エリナ「う・る・さ・い❤️」


エミール「!?!?」


バッッ!!


エリナは容赦なくエミールのマントを引っ張り、後ろへ強制的にずるずる移動させた。


エミール「ちょ、ちょっと待てエリナ!?
まだ僕は──麗しき挨拶の途中で──」


エリナ「聞いてる側が倒れそうだから、このへんで。」


エミール「!? ま、待て、僕はまだ騎士道の──」


エリナ「必要ありませんっ!」


エミール「そんなぁぁぁッ!!」


ずるずると引きずられていくエミール。


アネットは口元を抑えながら笑ってしまった。


アネット「あの……すごいですね、あの方……。」


ロミオ「そうなんですよ。慣れるまで時間かかります。」


ギル「俺は慣れたくねぇけどな。」


スズ「あはは……まあ、賑やかなのが極東のいいところですよ。」


アネットは嬉しそうに目を細めた。


アネット「……賑やかなの、嫌いじゃないです。やっぱり極東って楽しいですね。」


こうしてアネットの極東初日。


最初の出会いは、あまりにも濃すぎる、極東らしい歓迎となった。





ーーフェンリル本部



研究棟・特別会議室 


厚い扉が閉じ、室内にはソーマ、イエスタ、ジョサイアだけがいた。


ホログラムには“ラグナロク計画・起動実験”の文字が淡く浮かび、世界地図を模した波形グラフが不規則に揺れている。


その揺らぎが、どことなく不吉な気配を漂わせていた。


イエスタ「……さて、ソーマ博士。今日は実験スケジュールの確認だが……何か言いたげだね。」


ソーマは腕を組み、眉間にシワを寄せたまま口を開いた。


ソーマ「起動実験は延期すべきだ。現状の解析では……未知の危険が伴う可能性を排除できない。」


イエスタは大きくため息をついた。


イエスタ「またそれかいソーマ博士。可能性なら、いつだってゼロにはならないよ。」


ジョサイアも椅子にもたれ、静かな声音で続ける。


ジョサイア「ソーマ博士。私はあなたの慎重さを高く評価している。だが……今回はあなたに賛成しかねる。」


ソーマは二人を鋭く睨む。


ソーマ「……バカな。危険性を認識しながら起動実験を強行すると言うのか?」
 

イエスタは笑っているのか、怒っているのか分からない曖昧な表情で口を開く。


イエスタ「強行だなんて大げさだよ。我々はここまで何段階もの安全試験をこなしてきたじゃないか。
今さら延期しても得られるものは少ない。」


ソーマ「得られるものが少なくても……“失うもの”が大きければ意味がない。」


ジョサイアはホログラムに視線を向けながら、穏やかな声で言った。


ジョサイア「ソーマ博士。我々もね、道の脇に小石を見つけたからって……簡単に走行中断を決断できる立場ではないのだよ。」


ソーマ「……。」


ジョサイア「この計画には莫大な費用がかかっている。それを捻出するために、多くの協力者たちが未来を賭けている。我々には、その人々の生活を保障する義務もある。」


ソーマは拳を強く握りしめた。


ソーマ「実験の失敗でその生活が脅かされれば本末転倒だ!」


イエスタ「ソーマ博士、怖がっているわけではないだろう?君は世界を変える研究者だ。あまり足元ばかり見るのは、君らしくない。」


ソーマ「……。」


ジョサイアは少し考える素振りをし、やがて柔らかい口調で告げた。


ジョサイア「では、こうしよう。この件は、一旦私とイエスタ博士に預からせてくれ。こちら側の対処で問題点を吸収できるのであれば...異論はないだろう?」


ソーマはしばらく沈黙した後、小さく息を吐いた。


ソーマ「……分かった。なら任せる。」


イエスタ「ありがとう、ソーマ博士。」


ソーマは資料を閉じ、椅子を引いて立ち上がる。


ソーマ「……何かあれば連絡してくれ。」


そうだけ言い残し、扉へ向かって歩いていく。


ジョサイア「もちろんだとも。」


扉が閉じ、ソーマの足音が遠ざかっていった。


重い静寂が会議室に落ちる。


イエスタが椅子にもたれ、ふっと笑った。


イエスタ「……ソーマ博士は、少し“人を信用しすぎる”ようだな。」


ジョサイアはその言葉に応え、薄い笑みを浮かべた。


ジョサイア「ああ。まったく……純粋で、まっすぐすぎる。だが我々にとっては都合がいい。」


イエスタ「起動実験は予定通り行う……と。」


ジョサイア「もちろんだよ。」


その声には、氷のような静けさと、底の見えない意志が宿っていた。








God Eater The Last Rage第5話 完