とある日の夕方、人々は空を見上げていた。


正確には、空に突然現れた者を。


その者を包み込む眩い光、そして翼を生やしたその姿はまさしく神々しかった。


神のような姿をしたその者は不敵な笑みを浮かべる。


ブォン!!


そして両手を広げ、正体不明の波動のような物を広範囲に放った。


「うわー!」


「きゃあー!」


「なんやの!!」


目の前で起こる超常現象に人々はパニックに陥る。


すると、またたく間に辺りは闇に包まれた。


時間は止まる。


空間は裂けてゆく。


この日、世界中から人類は姿を消した。


「フフフフフ....。
人間共よ、ボクが作った新たな歴史、そして新たな記憶と共に生き抜いてみせよ。
ボクを楽しませてもらおう。」







西暦2200年


「な、なんなんだよお前...!」


静けさの漂う深夜、とある村で惨劇が起きていた。


あたり一面に倒れる死体。


最後の生き残りと見られる男が、何者かに追い詰められていた。


「あ...あぁ...」


男は腰が抜け、動けない。


そこへゆっくりと近づいてくる人陰があった。


その目は赤く光り、不気味に男を見下ろす。


「や、やめろ...やめろぉ!!」


不気味な人陰は、男の腹を手で突き刺した。


「が...がは....」


人陰は男の腹から臓器をえぐり出し、そのまま口にした。


この日、世界各地で同様の事件が多発した。


赤く光る目を持つ正体不明の生命体による惨殺事件。


人類の平和は終わりを告げた。









十五夜クライシス 第1話




100年後


西暦2300年




「ハア...ハア...!」


廃工場の跡地を1人の男が駆け回っていた。


その10メートルくらい後方...赤く光る目をした人間のような生命体5体がその男を追いかけている。


暑く照らす太陽の下、ひたすらに走る。


おそらく捕まれば殺されるのだろう。


男「もう少し...!」


男はどこかに向かって、後ろの生命体たちに捕まらぬように走る。


その進行方向の50メートルほど前方。


「お、こっちに来てるな。」


廃工場の一角に複数の人間が隠れていた。


それぞれ特殊な武器を身につけている。


銃や剣の形をした武器を構え、男がここに辿り着くのを待つ。


数秒間息をひそめた後、男が辿り着いた。


男「来たぞ、あとは頼む!」


その声を合図に、隠れていた人間たちが一斉に出てきた。


「かかれー!」


隠れていた人間たちと謎の生命体たちの戦闘が始まった。


奇襲を仕掛けた人間たちが有利に戦いを進める。


戦闘慣れしているのであろう、熟練した動きで敵を翻弄する。


銃や剣などの武器でそれぞれ敵を撃ち抜き、切り裂く。


奇襲の甲斐もあり、またたく間に敵を殲滅した。


「上手くいったな。」


「ああ、おとり作戦成功だ。」


戦いを終え、それぞれは息をつく。


「ったく。おとりも楽じゃないぜ。」


赤い目の生命体を連れて来た男が愚痴る。


彼の名はハヤト。


ハヤトは一息つきながら瓦礫に腰かける。


そんな彼に1人の女性が近づいてきた。


「お疲れハヤト。怪我はない?」


ハヤトに声をかけた女性の名はトモ。ハヤトの恋人だ。


ハヤト「ああ。問題ない。」


トモはハヤトに飲み物を渡した。


ハヤトはそれを雑に受け取り、口にした。


他の者たちもハヤトの元に集まる。


「いい走りだったな。」


「さすがだぜ。」


それぞれ労いの言葉をかける。


仲間が待ち伏せしてる場所にハヤトが複数の敵をおびき出し、奇襲で一網打尽にする。


作戦は成功したようだ。


ハヤト「息の根は止めたか?」


周辺には先ほどの生命体が複数倒れている。


血まみれで目からは赤い光が消えていた。


「ああ、大丈夫だ。」


他の者が答える。


そのとき、それぞれが持つ通信端末から声が聞こえた。


『こちらオペレーター。廃工場地帯へ出撃中の戦闘員のみなさん聞こえますか?』


クールな女性の声だ。


トモ「こちらトモ。聞こえてるよ。」


他の者らも聞こえてるようだ。


オペレータ『新たな任務が追加されています。飛行ビーグルの燃料補給も兼ねて、一度ヴェインへ戻って下さい。』


了解だ。


ハヤト達のような最前線で戦う戦闘員には1人1台ずつ長距離移動用の飛行ビーグルが配給されている。


車より一回り大きなサイズで、高速移動のできる優れものだ。


それを使い、基地と作戦地域を行き来している。


そしてハヤト達は建物の影に置いていたそれぞれの飛行ビーグルに乗り込む。


トモの愛機は白色のボディ、ホワイトキャット




ハヤトの愛機は青色のボディ、ブルーファルコン




ビーグルを起動させると、ゆっくりその場で浮かび上がった。


そして進行方向へ機体を向ける。


...発進。


すると一気に加速し、皆の機体は遠方へ消えていった。





ーあらすじー



100年前  


西暦2200年 世界各地で謎の生命体が誕生。


身長2メートルほどの人型のシルエットで、長い手足を持つ。


大きな特徴...それは赤く光る目だ。


そして攻撃的な性格だ。


誕生して間もなく、人間を大量に惨殺し始め、世界を恐怖に陥れた。


不気味な赤く光る目や、凶暴性から、その生命体は「ミュータント」と呼ばれるようになった。


長い手足のみで人間の体を貫通させたり切断したりするミュータントは邪悪そのものだ。


人類はミュータントに抵抗するも、人間とは比べ物にならない身体能力、怪力、防御力、残虐性を前にまったく歯が立たなかった。


少しずつ数を減らしていく人類。


そこで世界中の科学者たちによって人体に埋め込める、『機械型のコア』を開発した。


機械で出来たそのコアを体内に埋め込んだ人間は飛躍的な身体能力の向上、生命力を手にすることができる。


全ての人類からそのコアに適合できる身体を持った者を集め、子供から大人まで強制的にコアの適合手術を受けさせた。


こうしてミュータントを殲滅するために改造された人間の組織、『ゼノン軍』が作られた。


そして人類は対ミュータント用に特殊な武器を開発。


その武器は従来の武器に比べ、ミュータントに対して非常に効果的で、絶大なダメージを与えることができる。


その武器を手にゼノン軍はミュータントと長年の間戦い続けている。


この物語は人類が種の存亡のために繰り広げたミュータントとの死闘、そして待ち受けている神との決着を記録したものである。







一 現在  西暦2300年 一



先ほどの任務を終えたハヤト達は、ゼノン軍の基地「ヴェイン」に戻っていた。


太平洋の海上に建てられた巨大な基地、ヴェイン。


ゼノン軍が創設された当初に建てられ、多くのゼノン隊員がここで暮らしている。


中には様々な近未来的な設備があり、訓練や武器のメンテナンス、作戦会議などが行われている。


ハヤト達の姿を見つけた若い女性のオペレーターが近づいてきた。


オペレータ「お疲れ様です。ハヤトさんは武器の修理が終わったようなので、武器庫へ行って下さい。」


このオペレーターの本名はフラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュ。




通称フラン。


ショートヘアの金髪で、細身の色白女だ。


子供の頃からオペレーターとして働いており、既にベテランとしてのキャリアを持つ。


ハヤトは武器庫へ向かった。


階段を上がり、しばらく歩いたのち、武器庫の扉を開けた。


中へ入ると1人の男がハヤトを迎えた。


「ようナカムラ。武器の修理終わったぞ。」


その男は着けていたゴーグルを外し、ハヤトへ近づく。


ハヤト「悪いな、リョウ。」


彼の名はリョウヘイ。幼少の頃からの幼なじみだ。


ヴェインの戦闘員であり、優秀なメカニックでもある。


ハヤト「おとり役なんてもうこりごりだぜ。武器が無いとロクな目に合わねえ。」


どうやら武器が修理中だったので、仕方なくおとり役をやったようだ。


リョウヘイ「もうちょっと大事に扱えよー。」


ハヤト「分かってる。」


そのとき、ハヤトに通信が入った。


フラン『ハヤトさん、そろそろ次の任務がありますのでエントランスに来て下さい。』


通信を受け取ったハヤトは面倒くさそうに頭をかく。


ハヤト「ったく、少しは休ませろっつーの。」


そう言いながら武器庫を出て行くハヤトの姿をリョウは笑いながら見送った。


エントランスにはフランとトモが待っていた。


2人はダラダラと歩いてきたハヤトを一瞬ムッと睨んだが、すぐに気を取り直してフランが任務の説明をした。


フラン「とあるレジスタンスキャンプに駐在しているゼノン隊員数名が行方不明となっています。今回はその捜索任務です。」


ヴェインに暮らしているゼノン隊員以外にも、各地のレジスタンスキャンプに滞在している者もいる。


トモ「行方不明....。いつからなの?」


フラン「2日前からのようです。行方不明が発覚してすぐに捜索が始まりましたが、未だ見つかっていません。」


ハヤト「それで、俺達も応援ってわけか。」


頭を掻きながらハヤトは言う。


フラン「ええ。ビーコン反応が途絶えた場所はA-15地区。沿岸沿いの廃ビル地帯です。準備出来次第、すぐに向かって下さい。」


トモとハヤトは飛行ビーグルの格納庫へと向かった。


エレベーターに乗り、最上階を目指す。


ハヤト「あーあ。タバコ吸う暇もねえな。」


トモ「文句言わない。私たちの同胞が行方不明なんだから、助けるのは当然でしょ。」


ハヤト「へいへい。」


エレベーターの中で説教される。


トモ「あと、飛行ビーグルを運転しながらタバコ吸うのも危ないからやめてね?」


ハヤト「分かってるって。」


そう言いつつハヤトのポケットの中にはしっかりとGARAMの文字があった。


チンッ!


エレベーターが最上階の格納庫に到着した。


整備士「2人とも飛行ビーグルの準備は出来てます。いつでも出撃出来ます。」


ハヤトはブルーファルコンへ


トモはホワイトキャットへと乗り込む。


ゴゴゴゴ...!


すると、格納庫の巨大な扉がゆっくりと開いた。


そこからは青空が見え、明るい日差しが中に差し込んでくる。


2人のビーグルは宙に浮き、開いた扉の方に向きを変えた。


発進


バシュウウウ!!


2人の機体は一気に加速し、外へ飛び立って行った。






十五夜クライシス 第1話  完