God Eater The Last Rage第4話







──ソーマは夢を見ていた。


淡い光に包まれた部屋。


机の上には散乱した論文と、古い時代のオラクル細胞資料。


そこに立つ二人の男。


白衣を揺らしながら目を輝かせるイエスタ博士。


そして、無機質な眼差しの奥に鋭い知性を宿すジョサイア博士。


ジョサイア『……やっと会えたよ、ソーマ・シックザール博士。』


イエスタ『レトロオラクル細胞の研究権威、そしてアラガミ生態の理解者。その名を聞いてから、ずっと興味を持っていたんだ。』


ソーマは静かに眉をひそめた。


ソーマ『……で、本部が俺を呼んだ理由は何だ。』


ジョサイアはホログラムを操作する。


空中に極東支部近郊の地図が表示され、その一角に、ぽっかりと穴のように色抜けした領域が浮かび上がる。


ジョサイア『これは極東の“聖域”……君も知っているだろう。』


ソーマ『……ああ。アラガミ細胞が完全に停止する区域だ。あれは数年前、ブラッドの連中が作った……特異事例だ。』


イエスタは身を乗り出す。


イエスタ『そう! 我々はそのメカニズムにこそ注目したんだ!あの領域は“オラクル細胞の物理法則そのもの”を否定している。本来なら存在しえない現象だよ。』


ジョサイア『問題は……その原理が未解明だということだ。』


ソーマ『……極東の研究班もずっと調べてたが、完全な解析はできてない。』


イエスタ『だからこそ──君が必要なんだよ、ソーマ君。』


ジョサイアが地球儀データを開く。


世界各地に同じ“聖域”を点在させたシミュレーションが映し出される。


ジョサイア『我々の提唱する"ラグナロク計画"。これの完遂に、君の力を貸してもらいたい。』


ソーマは眼を細めた。


ジョサイア『聖域を人工的に再現し、世界へ広げ、アラガミが“生存できない環境”を作る。それによって、アラガミ生態圏そのものを崩壊させる。』


イエスタ『極東で生まれた奇跡を理論へ落とし込み、技術へ変換し、世界の標準にする。
君の知識があれば、きっと……いや必ずできる。』


ソーマは少しの間沈黙した。


そのときの胸の奥のざらついた感覚を、今でもはっきり覚えている。


ソーマ『……どれだけの代償が必要になる。自然の法則をひっくり返す計画だ。無事で済むとは思えない。』


ジョサイアは微笑を返す。


ジョサイア『それでも、やる価値はあるだろう?アラガミに怯える世界を終わらせるために。』


光が揺らぐ。


イエスタ『ソーマ博士。君には、世界の形を変える力がある。我々と共に“アラガミのいない世界”を作ろう。』


夢が揺らぎ、遠ざかっていく。


白い部屋も、二人の影も、聖域の映像も、すべてが薄い霧へ吸い込まれるように消えていった。


──目が覚めた。


ソーマは薄暗い自室でゆっくりと起き上がる。


乾いた息を吐きながら、額に手を当てた。


ソーマ「……昔の話だ。なのに……妙に胸がざわつくな。」


机の上に視線を送る。


そこには、もうこの世にはいない父の写真があった。


ヨハネス・フォン・シックザール


かつては軽蔑していた存在だった。


しかし、研究者としての道を歩み始めて、父がどれだけ偉大な人物だったかを思い知らされた。


今ではその偉大さをソーマは認めている。


ソーマ「見てろよ....親父。」


小さな窓の向こうでは、まだ夜が残る空がうっすらと明るみ始めていた。





ーー極東支部


ラウンジ・午前7時


朝の光が差し込み、まだ人の少ないラウンジには柔らかい空気が流れていた。


自動調理機の作動音が微かに響く中、テーブル席でアリサとエリナが向かい合って座っていた。


アリサはコーヒーを片手に、椅子にもたれながら大きく息をつく。


アリサ「ん〜……やっぱり極東の朝は落ち着くわね。」


エリナは紅茶を持ち、丁寧に微笑んだ。


エリナ「ええ。本部と違って、どこか暖かい空気があります。皆さんの声がいつも明るいですし。」


アリサ「分かる。ここのラウンジ、ちょっとした安心する匂いがあるのよ。パンとか、カレーとか……ナナのせいかもね。」


ふっと笑いながら言うと、エリナもつられて肩を揺らした。


エリナ「ナナさんは……存在そのものが明るいですから。」
 

アリサはカップを置き、腕を組んだ。


アリサ「そういえばさ。リヴィさんとソーマ、本部でちゃんとやってるのかな。」


エリナはわずかに目を伏せてから、静かに頷いた。


エリナ「ええ……。リヴィさん、本部でも落ち着いて行動なさっていると思いますが、やはり少し……心配ですね。」


アリサ「そうね。あの人、人のことばかり気にかけて、自分のことは後回しにするところあるから。」


エリナ「ふふ……確かに。でも優しい方ですよ。以前私が具合が悪いとき……つきっきりで看病してくれましたし。」


アリサ「へ〜……リヴィさんらしいわね、それ。」


少し目を細めながら、アリサは窓の外に視線を向けた。


アリサ「ソーマも……PSPの初代ゴッドイーターの頃とは別人のように成長したし、リンドウさんに似てるところ、ちょっとあるのよね。」


エリナは姿勢を整え、真面目に頷く。


エリナ「ソーマさんは、極東では頼れる存在でしたから。本部でも……きっと重要な役割を担っているんでしょうね。」


アリサ「うん。二人ともちゃんと帰ってくるでしょ。」


エリナ「ええ。リヴィさんもソーマさんも……強い方です。」


アリサは冗談めかして笑った。


アリサ「じゃあ、帰ってきたら歓迎会でもする?」


エリナ「ふふ。それは良いですね。きっとナナさんが大皿いっぱい料理を作ってくれます。」


アリサ「ロミオは絶対騒ぐし、ギル君は黙ってついてくるし……スズは多分あたふたするわね。」


エリナ「想像できます……。」


二人は軽く笑い合った。


朝のラウンジはいつもより穏やかで、そのひとときは“世界が変わる未来”など想像できないほど平和だった。






ーー午前11時


昼前の陽光が差し込み、瓦礫の街路に砂埃が舞った。


スズが神機を確認し、仲間へ振り返る。



スズ「今日の任務はアラガミの掃討と、周辺の安全確認。ギルは右、ロミオは左に回って。ナナとシエルは私と一緒に中央へ。」


ギル「了解。サクッと終わらせようぜ。」


ロミオ「おっしゃあ! 今日も絶好調だぜ!」


シエルはスコープを覗きながら冷静に頷く。


シエル「……気をつけてください。周囲に3体、プリティヴィマータの反応があります。」


ナナ「マータくらいなら余裕だよね! いっくよー!」


スズは苦笑しながら言う。


スズ「ナナ、突っ込みすぎないでね。フォロー入るから。」


ナナ「はーい!」


――その瞬間。


『グァィィッ!!』


瓦礫の影から、水色のアラガミ“プリティヴィマータ”が飛び出した。


地を滑るように高速で接近する。


ギル「っと、来やがったか!」


スズ「ナナ、任せるよ!」


ナナ「うんっ! いっくよぉ!!」


ナナは巨大なブーストハンマーを振り上げ、回転しながら突っ込む。


ゴッ……!!


衝撃が地面を揺らし、マータの身体が真横に吹き飛ぶ。


ロミオ「おおおっ!! ナナ、今日キレッキレじゃん!」


ナナ「えへへ〜♪」


だが、吹き飛んだ先でマータが跳ね起き、今度はロミオめがけて突進する。


ロミオ「うおっ!? 来るな来るな来るなぁ!」


スズ「ロミオ、右回避!!」


ロミオ「言われなくてもっ!」


ギルがその隙を逃さず飛び込む。


ギル「オラァッ!!」


ギルのスピアがマータの胴体を貫き、体が崩れ落ちた。


シエル「まだ2体……左後方、高速で接近。」


スズ「シエル、援護お願い!」


シエル「任せてください!」


パンッ!


スナイパーバレットが一直線に飛び、接近していたもう1体の右脚を撃ち抜く。


スズはすかさずその前へ跳び出し、神機を変形。


バスターブレード形態のまま勢いよく振り下ろす。


スズ「はぁーーっ!!」


C.Cブレイカー


ズンッ!


マータを縦に切り裂き、砂埃が舞う。


ロミオ「相変わらず容赦ねぇな……!」


スズ「最後の1体、ナナが引きつけて!」


ナナ「任せて〜!!」


高速で跳びかかってきたマータを、ナナが横ステップで回避。


ナナ「こっちー! 私が相手だよーっ!」


ロミオが背後へ回り込みながら叫ぶ。


ロミオ「ナイス誘導っ! いっけぇぇ!!」


轟音と共に、ロミオの大剣がマータを上から叩き割った。


ゴス……と鈍い音を最後に、周囲は再び静けさを取り戻す。


ギル「よし……全滅確認。今回も問題ナシだな。」


シエル「周囲の反応も消失。任務完了です。」


スズは息を整えながら、全員の無事を見渡した。


スズ「よかった……怪我もなさそうだね。じゃあ、帰ろっか。」


ナナ「やったー! 帰ったら今日のお昼なにかなぁ!」


ロミオ「俺、カレーがいい! カレー!!」


ギル「お前はもう黙れ。」


シエル「……ふふっ。」


スズはその光景を見て、ひとり柔らかく笑った。


スズ(こういう日が……ずっと続けばいいな。)


ブラッドの、穏やかな任務がまたひとつ終わった。







ーーフェンリル本部


作戦室


重い自動扉が開き、サバタは不機嫌そうに入ってきた。


監視役のリヴィは無言でその後を歩く。


室内ではすでにソーマが待っていた。


腕を組み、無表情のまま二人を見つめる。


ソーマ(……来たか。)


サバタは立ったまま、ソーマを一瞥した。


サバタ「……なんだ、その目は。」


ソーマ「別に。見てるだけだ。」


サバタ「気に食わねぇ目だな。」


リヴィが一歩だけ前に出る。


リヴィ「サバタ。黙れ。」


サバタ「おい、監視役。お前こそ黙ってろ。」


空気が一瞬で張り詰める。


ソーマは肩をすくめ、小さくため息をついた。


ソーマ「……お前ら、ここで殺し合いするなら別室を用意してやる。だが、仕事の前に好き勝手暴れるなら、どっちも外す。」


サバタは舌打ちした。


サバタ「チッ……で、任務はなんだ。」


ソーマはホログラムを展開する。


立体映像に、灰色の瓦礫地帯と数体の中型アラガミが映る。


ソーマ「第14外縁エリア。中型アラガミのヤクシャが3体出現。それを排除するだけの──普通の討伐任務だ。」


サバタの眉が露骨に動く。


サバタ「……普通の討伐だと?」


ソーマ「ああ。」


サバタ「そんなもん、俺一人で十分だろ。」


ソーマ「それでも二人で行ってもらう。」


サバタ「はぁ? なんでだよ。」


リヴィは淡々と答える。


リヴィ「私の任務は“監視”。お前の勝手な行動を止めるためだ。」


サバタ「……笑わせんな。足手まといが。」


リヴィ「足は引っ張らない。だが邪魔なら斬る。」


サバタ「……言ってくれるじゃねぇか。」


二人の険悪さが限界値に近づいたところで、ソーマが冷たく言い放つ。


ソーマ「やめろ。ここで喧嘩する暇があるなら、ひとつでも多くアラガミを潰してこい。」


サバタ「……チッ。」


ソーマはサバタへ向き直る。


ソーマ「サバタ、これは“お前を試す任務”じゃない。ただの定期討伐だ。アラガミを狩ればいい。」


サバタ「……俺に指図すんな。」


ソーマ「指図じゃない。ルールだ。」


サバタはソーマへ一歩踏み出した。


目と目がぶつかる。


サバタ「……あんた、気づいてるか?俺はルールが嫌いなんだよ。」


ソーマ「知ってる。だから監視役がいるんだろ。」


リヴィは微動だにせず、二人の間にわずかに視線を走らせた。


リヴィ「……任務開始時間まであと15分。移動するぞ。」


サバタ「命令すんな。」


リヴィ「命令じゃない。事実だ。」


サバタは小さく笑った。


だが、その笑みは冷たく、殺意すら滲んでいた。


サバタ「…勝手にしろ。」


リヴィ「そうさせてもらう。」


サバタは舌打ちし、踵を返した。


ソーマは二人の背中を見送りながら、低く呟く。


ソーマ(……本当にこの二人を組ませるのが正解かどうか。フェルドマンの胃が痛む理由がよく分かる。)


やがて扉が閉まり、静寂が落ちる。


ソーマ「……まあいい。どう動くか見させてもらう。」


彼はブリーフィング室の照明を切り、ゆっくりと資料を閉じた。





ーー作戦時刻



フェンリル本部外縁エリア


作戦区域


荒れ果てた工業区画。


錆びたパイプの並ぶ廃路地に、赤い警告灯が不規則に点滅している。


ヤクシャの甲殻が擦れる音が響き、三体の影が闇の中から姿を現した。


リヴィ「……来るぞ。」


サバタはロングブレード――呪刀を片腕で肩に担ぎ、短く舌打ちする。


サバタ「三匹か。……チッ。」


いつもなら、もう少し軽口が出る場面だった。


だが、刃を握った瞬間、微かな“引っかかり”があった。


重い。


ほんの僅かだが、いつもより切っ先が鈍い。


サバタはそれを無視するように、地面を蹴った。


ヤクシャの一体が甲高い咆哮を上げ、高速で突進してくる。


リヴィ「右だ!」


サバタ「言われなくても見えてんだよ!」


正面から迎え撃つ。


踏み込みは完璧だった。


――だが。


刃が振り抜かれる直前、一瞬だけ間合いがズレた。


サバタ(……クソ。)


呪刀の軌跡が弧を描き、ヤクシャの肩口を深々と切り裂く。


ガギィン!!


金属を引き裂くような音とともに、ヤクシャは横転した。


致命傷ではある。


だが――本来の“一刀で終わる感触”ではなかった。


サバタは顔色ひとつ変えず、続けざまに距離を詰める。


サバタ「……遅ぇ。」


倒れかけたヤクシャに追撃し、完全に沈める。


残り二体が、今度はリヴィへと向かった。


リヴィは一切の動揺なく、ヴァリアントサイズを構える。


リヴィ「……面倒だ。」


刹那。


空気が裂けた。


ザシュッ――


リヴィはほとんど動いていない。


だが、ヤクシャ二体の首元に、同時に細い切断線が走る。


次の瞬間、甲殻が崩れ落ち、巨体が地面に叩きつけられた。


サバタ「……ふん。」


その動きを横目で見ながら、サバタは最後の一体へ跳ぶ。


だが、近づいた瞬間――


呪刀のコアが、かすかに軋むような感触を返した。


サバタ(……くそ!ポンコツが......!)


本来の太刀筋とは違う。


刃の感触が鈍い。


ヤクシャが咆哮を上げ、爪を振り上げる。


サバタ「邪魔だ……ッ!」


ドガッ!!


呪刀が腕を叩き落とし、返す刃で腹部を深く裂く。


ヤクシャは断末魔を上げ、崩れ落ちた。


敵影、完全に消失。


戦闘は終わった。


――だが。


サバタの表情は険しいままだった。


刃を一瞥し、ほんの一瞬だけ視線を落とす。


誰にも気づかれないほど短い時間。


リヴィは鎌を下げ、淡々と告げる。


リヴィ「……終わった。」


サバタ「……終わりじゃねぇ。」


リヴィ「何がだ。」


サバタ「……チッ。」


答えず、地面に転がるヤクシャの死体を踏みつける。


グシャッ。


サバタ「……お前、俺の邪魔してただろ。」


リヴィ「していない。お前の動きが雑だっただけだ。」


一瞬、空気が凍る。


サバタ「……殺されてぇのか。」


リヴィ「死ぬ気など微塵もない。」


視線が交錯する。


互いに譲らない。


サバタは痰を吐き捨てた。


サバタ「……気に食わねぇ奴だ。」


リヴィ「お互いにな。」


サバタは呪刀を肩に担ぎ直し、わざとリヴィの肩にぶつかって歩き出す。


サバタ「チンタラすんな。監視役。」


リヴィは何も言わず、その背中を追った。


呪刀はすでに沈黙していた。


ギスギスした空気を残したまま、二人は本部への帰還を開始した。


この任務で絆が生まれる気配は――皆無だった。








God Eater The Last Rage第4話 完