God Eater The Last Rage 第3話
フェンリル極東支部 ラウンジ
昼下がりのラウンジは、ちょうど任務を終えた神機使いたちでほどよく賑わっていた。
ナナが大皿を抱えて戻ってくる。
ナナ「はいみんなー! 特製おでんパン第二弾焼きあがったよー!」
ギル「……お前、ほんと毎日作ってるな。」
ロミオ「いやいやギル。これはもはや極東の文化だぞ。ナナおでんパンは正義!」
シエルが紅茶をすすりながら静かに言う。
シエル「……ええ。この支部の平和の象徴とも言えますね。」
スズは机に書類を広げながら苦笑する。
ラウンジのテレビではCMが流れてる。
CM『傑作まーんーじゅー博多!通りもーん!』
そこへ、エントランス側から軽快な足音が近づいてくる。
フランがタブレット片手にラウンジへ入ってきた。
フラン「皆さん、お疲れさまです。ちょっとお知らせがありまして。」
スズ「お知らせ?」
フランは端末を手で操作しつつ言う。
フラン「ええ。数日後、ドイツ支部から神機使いがひとり、遠征でこちらへ来ます。部隊の隊長をやってる方のようです。
目的は極東支部の作戦行動や皆さんの連携を学ぶため、だそうです。」
ロミオ「おおっ、留学生みたいなやつか?」
ナナ「わー!仲良くできるといいね!」
ギルは腕を組みながら、半分興味、半分警戒の顔で言う。
ギル「ドイツ支部の隊長ってことは……バチバチに厳しそうな奴なんじゃねえか?」
シエル「可能性はあります。彼らは規律と精度を重んじますから。」
スズは小さく頷く。
スズ「まあ、来てくれたなら歓迎しないとね。問題が起きなければいいけど……」
その時だった。
???「──む? ドイツ支部の話が聞こえた気がするのだがッ!!」
勢いよくスライドドアが開いた。
赤い外套を優雅に翻し、金髪が輝く。
手に薔薇でも持っていそうなポーズで立つ男。
ここ極東の騒音メーカーにして、謎の貴族系神機使い。
エミール・フォン・シュトラスブルグが堂々と登場した。
エミール「皆の者よ、安心するがよい!ドイツ支部と聞いては黙っておれぬ!
我が同胞が極東に訪れる──それはすなわち!」
バッ、とマントを広げる。
エミール「このエミール・フォン・シュトラスブルグが!胸を張って歓迎せねばならぬという、まさに“騎士道精神”である!!」
ロミオ「出たよ……騎士道精神。」
ギル「毎回思うが、なんだその登場の仕方。」
エミールは胸に手を当て、誇らしげに背筋を伸ばす。
エミール「ふふん! 皆の者、存分に頼るがよい。
同郷の者が来るというのであれば、僕に任せれば万事問題なし!」
スズ「……まだ誰もお願いしてないけど。」
ナナ「エミールさんが歓迎してくれるなら、きっと来る人も喜ぶんじゃないかな〜!」
エミール「ほう、ナナ殿!その慈愛に満ちた言葉……心に染み入るッ!」
シエルは紅茶を置いて淡々と呟く。
シエル「……来る前から騒がしいですね。」
ロミオ「ドイツ支部の人、引かないといいな……」
ギル「むしろ同類だったらどうするんだよ。」
シエル「ええ……最悪、二人で暴走し合う可能性もありますね。」
スズ「ははは……それはやめてほしいな。」
エミールはひとり満足げにうなずき、拳を握る。
エミール「案ずるな、諸君!
僕が責任をもって、同胞を極東の“麗しき仲間”へと導いてみせよう!」
ギル「麗しい必要はねぇんだよ。」
ロミオ「てかエミールさん、まるで極東支部が故郷みたいだな。」
エミール「もちろんだともロミオ殿!この地こそ、我が魂の第二の故郷!極東支部の皆は光! 誇り! 栄光の──」
スズ「もう分かった分かった。ありがとエミール、協力は助かるよ。」
エミール「うむ! 任せたまえ!...我々の勝利は約束されている!!」」
ナナはパンを頬張りながら言った。
ナナ「わー楽しみだね!どんな人なんだろ〜!」
シエルは静かに目を伏せる。
シエル「……いずれにせよ、有益な技術交流になるといいのですが。」
スズは小さく笑う。
スズ「まあ……せっかく来てくれるなら、うまくやっていこう。」
その穏やかな空気の中で、極東支部の一日が今日もゆっくりと流れていった。
ーーフェンリル本部
地下訓練区画
重い鉄扉が開き、数名の武装警備員が整列していた。
その中央に立つのは、一点の感情も読ませない眼をした女性。
白銀の髪、深紅のマント。
リヴィ・コレット。
数歩離れた先の檻付きゲートが開き、サバタがゆっくりと姿を現す。
武器は持ってないが、雰囲気だけで周囲の空気が軋む。
問題児と監視役
初対面の瞬間がきた。
サバタ「……なんだ、この女は。」
リヴィは瞬きもせず、ただ真っ直ぐにサバタを見る。
リヴィ「今日からお前の監視につく。私はリヴィ・コレットだ。」
サバタは鼻で笑い、顎をかしげる。
サバタ「監視ねぇ……死にてえのか?」
リヴィ「死ぬ気はない。お前が暴れたら止めるだけだ。」
徹底的に淡々とした返事。
その無機質な声に、サバタの眉がわずかに動く。
サバタ「止める?誰をだって?」
サバタは一歩だけ前に出た。
警備員「.....っ!!」
ただそれだけで、周囲の警備員が一斉に身体を強張らせ、銃口を向ける。
だがリヴィは……微動だにしない。
リヴィ「お前をだ。私はそういう役目だ。」
サバタ「役目ねぇ……俺を抑えられるつもりかよ。」
リヴィ「つもりじゃない。やると言ったら、やる。」
サバタは面白そうに笑う。
サバタ「……言うじゃねえか。」
空気が一気に冷える。
訓練区画の温度すら数度下がったかのようだった。
警備員A(小声)「ひ、ひぃ……こいつら本当に戦わせる気か……?」
警備員B(震え声)「どっちが暴れるか分からん……!」
ガシッ!
サバタはリヴィの肩に手を伸ばした。
サバタ「お前みてえな細い腕で、俺を止められると思ってんのか?」
リヴィはその手を避けず、ただ言う。
リヴィ「触るな。殺すぞ。」
サバタの笑みが一瞬だけ止まる。
サバタ「……あ?」
リヴィ「私の任務はお前を止めることであって、“媚びること”じゃない。無駄に暴れるのならその場で斬る。」
張り詰めた空気が、弾ける音を立てたような錯覚が走る。
サバタ「……言い直す気はねぇのか?」
リヴィ「ない。お前が嫌なら、ここで殺し合ってもいい。」
周囲の警備員が絶望した顔で距離を取る。
サバタはゆっくり笑い出した。
サバタ「……ハッ。上等だな。気に入った。」
リヴィ「私はお前を気に入っていない。」
サバタ「言うねぇ……。」
二人の視線がぶつかる。
どちらが先に動いても戦闘になる距離。
誰も止められない。
そこへ、フェルドマン局長が入室した。
フェルドマン「二人ともそれくらいにしておけ。」
サバタ「チッ……邪魔が入ったな。」
リヴィ「……続きが必要なら、戦場でやる。」
サバタ「....楽しみにしてろよ。」
フェルドマン(....あのサバタにここまでの対応をできるのは、リヴィだけだな。)
サバタとリヴィ。
この二人が組むという、最悪で最強のバディの物語が静かに始まった。
サバタ(俺は一人の方が強ぇんだよ......。)
監視制御室・第4モニタリングルーム
薄暗い室内。
大型のモニターには、サバタとリヴィがにらみ合う映像が映し出されている。
「死にてえのか?」
「……やってみろ。」
その言葉がスピーカー越しに響くたび、横にいる職員たちの喉がひくつく。
技術員A「ひっ……あ、あの二人、ほんとに斬り合いますよこれ……!」
技術員B「局長はよくあんな判断したな……自殺行為だろ……!」
その後ろで、無言でその映像を見つめている男が一人。
ソーマである。
腕を組み、表情ひとつ変えずに二人の立ち位置、重心、呼吸の乱れ、視線の揺れまで細かく観察している。
技術員A「そ、ソーマ博士……どう見ます? この……状況……」
ソーマ「…………。」
数秒の沈黙。
それからごく低い声で言う。
ソーマ「……変な話だが、あれで均衡は取れてる。」
技術員たちが目を丸くする。
ソーマ「サバタは気に入らない相手は即座に排除する。リヴィは……危険な相手ほど冷静に見極める。
どっちが欠けても成立しないタイプのバランスだ。」
映像の中では、サバタがリヴィの胸元に手を伸ばし、軽く突き飛ばすような挑発をしている。
それでもリヴィは眉ひとつ動かさない。
ソーマ「……サバタの殺気に表情を変えない奴なんて、本部でもほとんどいない。」
ソーマの声は淡々としているが、その奥には警戒心と、ほんのわずかな興味が混じっている。
技術員B「博士は、リヴィさんが……抑えられると?」
ソーマ「抑えるってのは違う。」
ソーマは椅子にも腰かけず、ガラス越しの監視室の窓へ近づきながら続ける。
ソーマ「サバタはリヴィに“対等”を感じてる。」
技術員A「たい……とう?」
ソーマ「力の話だ。」
モニターの中では、サバタがわざとリヴィに肩をぶつけた瞬間——リヴィは微動だにしない。
そのわずかな攻防から、ソーマは静かに呟く。
ソーマ「互いに一発でも本気を出せば……間違いなく死ぬ。」
技術員たちが凍りつく。
ソーマ「だからこそ、サバタは妙に静かだ。自分と同じ“死線の空気”を持つ相手は、滅多にいないからな。」
再び映像を見る。
サバタが苛立ち混じりに舌打ちし、リヴィはわずかに顎を引き、視線をそらさない。
ソーマ「……フェルドマンがリヴィをつけた理由、よく分かった。」
技術員B「博士が、そこまで言うとは……」
ソーマは無言で顎をさすり、わずかに目を細める。
ソーマ(リヴィ....過去に介錯任務を担ってただけあるな...。自分をどこまでも冷徹にできる。)
再び画面を見る。
サバタとリヴィ——互いに冷たく、互いに獰猛で、互いに一歩も退かない。
まるで、二匹の獣が互いの牙を測っているかのように。
ソーマ(リヴィ...今回はブラッド隊員としての優しい一面は捨てている。だからこそサバタの監視役にも適任だ。)
しかしその表情は、不思議と僅かに笑っているようにも見えた。
この二人が戦場に出た時、何が起こるのか。
そして、この二人の噛み合い方が、世界をどんな方向に動かすのか。
ソーマは静かな瞳で、それを見つめていた。
ーーフェンリル・ドイツ支部
発着ヘリポート
快晴の空に、ヘリのローター音が響き渡る。
極東支部行きの輸送ヘリがゆっくりとホバリングし、着陸体勢に入った。
整備員「極東行き、搭乗準備完了です!」
金属のハッチが開く。
その前に、ロングコートを翻した一人の女性神機使いが歩み出た。
ブーツの踵が硬い床を軽く打つたび、纏っている空気がふわりと揺れる。
女性神機使い「……懐かしいなぁ、極東。」
ふっと笑った顔は明るく、どこか自由奔放な雰囲気が漂っている。
女性神機使い「アラガミも人も、とにかく元気で賑やかで……ご飯も美味しいし。」
肩に担いだ神機の装甲を軽く叩く。
女性神機使い「ねぇ? 久しぶりに暴れたくなるでしょ?」
神機が応えるように小さく軋んだ。
搭乗員「あなたが……今回の極東研修の派遣者ですね?」
女性は軽く手を挙げる。
女性神機使い「はい、あたし一人。迷惑かけないようにしますよ〜。」
口調は軽いが、その瞳には鋭い光がある。
搭乗員「……お気をつけて。極東はここから遠いですし、アラガミの出現率も高いです。まあ、あなたなら大丈夫だと思いますが。」
女性神機使い「知ってますよ。あたし、あの空気嫌いじゃないんですよね。」
少しだけ遠くを見るような目になる。
女性神機使い「……向こうのみんな、変わってるかな。」
吹き込んできた風が、彼女の髪を揺らす。
女性神機使い「ま、行ってみれば分かるか。」
彼女は軽やかにヘリへ乗り込んだ。
搭乗員「離陸準備入ります!――カウント開始!」
女性神機使いはヘリの席に腰掛け、窓の向こうを見つめた。
女性神機使い「極東の人たち、元気にしてるといいなぁ……。」
ローターが回転音を高め、ヘリはゆっくり地面を離れていく。
女性は胸の前で指を組み、期待に満ちた目で呟いた。
女性神機使い「さて……久しぶりに、騒がしい場所へ帰りますか。」
ヘリは北東の空へ鋭く飛び立っていった。
God Eater The Last Rage第3話 完