God Eater The Last Rage 第17話






欧州


旧フェンリル本部区域


空は終末の色をしていた。


頭上には女神像――ノヴァ。


仮面のような無表情の顔。


そこから伸びる無数の触手が、世界を塗りつぶす線のようにうねっている。


その下で、スズは神機を構えていた。


いつもの構えではない。


足を大きく開き、重心を低く落とす。


バスターブレードを斜めに抱え込むようにして、刃先はわずかにノヴァへ向けられていた。


スズ「…………。」


視線を、ノヴァから逸らさない。


呼吸を、ゆっくりと整える。


吸って、吐いて。


喉の奥に張り付いた恐怖を、少しずつ削っていく。


背後では、サバタが地に伏したまま荒い息をしていた。


リヴィが傷口を押さえ、ルナが震える手でサバタの服を握っている。


それでもスズは振り返らない。


今の自分にその余裕はない。


リヴィはスズの背中を見て、静かに呟いた。


リヴィ「……やるんだな。」


その声は決して大きくはなかったが、スズの耳にははっきり届いた。


スズは返事をしない。


ただ、ほんの少しだけ顎を引く。


それが十分な答えだった。


そのとき。


スズの頭の奥に、低く響く声が聞こえた。


【……汝(なんじ) いずれの神を断つ。】


脳に直接響くような声。


神機の内側から届く、あの声だ。


スズは目を細めた。


スズ(……あんたも本気ってことだよね。)


握る手に、力がこもる。


キィィ……ン……。


神機の内部で、オラクル細胞がうなりを上げた。


次の瞬間。


パキッ。


鈍い音とともに、神機の装甲のラインが、わずかに開いた。


内部から、淡い光が漏れ出す。


バキッ……バキバキッ……。


装甲が少しずつ裂けていき、そこから露出したのは、赤黒く脈打つコアだった。


心臓のように規則的に脈打つ球体。


その鼓動とスズの鼓動が、少しずつ同期していく。


スズ「……っ。」


身体の芯が熱くなる。


手足の末端まで、びりびりと感覚が走る。


視界が一瞬きつく歪み、すぐに研ぎ澄まされた。


ソーマはその変化に気づき、スズの神機を横目で見る。


ソーマ「……コアをここまで露出させるのか。」


リヴィも顔を上げ、息を呑む。


リヴィ「……どれほどの誓約を果たすつもりだ...。」


だが、立ち止まっている暇はない。


リヴィ「……ソーマ!私たちで触手の相手をするぞ!」


ソーマ「ああ!誓約を援護する!」


リヴィは立ち上がって前線へ躍り出た。


リヴィ「……来い。」


神機を振るうと、黒い触手が数本、彼女めがけて飛びかかる。


ザシュッ!


一本を叩き斬り、その反動を利用してさらに別の一本を薙ぎ払う。


ざらりと灰が散り、再生しかけた欠片を銃形態で撃ち抜いた。


バンッ、バンッ!


ソーマもまた、その反対側でバスターブレードを振り抜く。


ソーマ「……邪魔だ!」


ゴオッ!


横薙ぎの一閃が触手をまとめて吹き飛ばす。


だが――


リヴィ「……くっ!数が足りない。」


ソーマ「手が回らねぇ……。」


向かってくる触手の量に対し、守りの手が圧倒的に不足していた。


一本倒す間に、三本、四本と伸びてくる。


ここを守り切らなければ、誓約を完遂する前に押し潰される。


それは二人とも理解していた。


リヴィ「……このままでは、誓約を果たす前に防衛線が崩壊する。」


ソーマ「時間を稼ぎきれねぇ……。」


焦りが喉に張り付く。


それでも、刃を止めることはできない。


その少し後ろで、スズは一歩も動かず立ち尽くしていた。


神機のコアはさらに光を増し、脈動は強くなる。


どくん。


どくん。


その一拍ごとに、スズの感覚が鋭くなっていく。


遠くでうねる触手の動き。


極東の空に漂う灰の匂い。


地平線の向こうで戦う仲間たちの気配さえ、微かに感じる気がする。


スズ「…………。」


瞼を閉じる。


暗闇の中で思い浮かぶのは――極東に残してきた仲間たちの顔だった。


ナナの明るすぎる笑顔。


シエルの真面目な横顔。


ギルのぶっきらぼうな眼差し。


ロミオの、今にも泣きそうなくせに踏ん張っている表情。


スズ(……みんな。)


胸の奥がぎゅっと締め付けられる。


本当なら、こんな終わりかけの世界で、一人だけ先に突っ走るなんてことはしたくない。


いつもみたいに、馬鹿言いながら一緒に前線へ走っていきたい。


でも――


スズ(みんなが、ここにいないからって……あたし一人で終わらせるわけじゃない。)


スズはゆっくりと息を吸った。


肺が焼けるように痛い。


それでも、まだ吸い込む。


心の底から、声を届けるために。


スズ(……聞こえる?ナナ。シエル。ギル。ロミオ。)


言葉にならない呼びかけ。


感情だけを、感応波へ押し流すように。


スズ(あたし……一人じゃ無理かもしれない。)


素直な弱さを、そのまま放り投げる。


スズ(だから……力を貸して。)


神機のコアが、さらに強く光った。


ドクンッ――。


感応値が、跳ね上がるのが分かる。


血の巡りが熱くなり、身体を何かが駆け巡っていくような感覚。


視界の隅が白く滲む。


スズ「……お願い。」


唇が震える。


それでも、言葉は止まらない。


スズ(届いて……!)


叫ぶような念を、遠く極東の方角へ叩きつける。


今、自分の中の感応波を限界まで上げる。


怖いほどに、世界の“声”が流れ込んでくる。


灰域のざわめき。


ノヴァの鼓動。


遠く離れた極東の空気の流れ。


そのすべての中に、ブラッドの仲間たちの気配を探した。


スズ(みんな……!)


心の中で叫ぶ。


その叫びは、もうほとんど祈りだった。


スズ「届け!!!」


次の瞬間。


スズは肺の底から、声を絞り出した。


スズ「うああああああああああああッ!!!」


叫びが空を裂く。


同時に、神機のコアから放たれた光が、周囲の黒霧を押しのけるように放射状に広がっていった。


その波紋は、目に見えない“感応の衝撃”となって、遥か彼方の極東へと向かっていくのだった。






ーー極東地方


触手が空と大地のあいだを縫うようにうねっていた。


切っても、撃っても、すぐに再生する。


ナナ「もうっ、しつこいんだからぁ!!」


ナナは神機を振り下ろし、触手を叩き潰す。


ズバァンッ!


飛び散った灰の向こうから、別の一本が槍のように突き出される。


ギル「ナナ!下がれ!」


ギルが横から飛び込み、その一撃を受け止めるように神機を叩きつけた。


ガギィンッ!


火花が散り、触手が大きく弾かれる。


ロミオはその隙に銃形態へ切り替え、射撃を浴びせた。


ロミオ「くっそおお!!」


バンッ、ババンッ!!


穴だらけになった触手は一瞬だけ動きを止め――また、ずるりと再生を始めた。


シエルは冷静さを保ちながらも、額に汗を滲ませている。


シエル「……このままでは、いずれ押し切られます!」


リンドウたちも別の触手群と交戦している。


誰もが限界近くまで体力を削られていた。


そのときだった。


――ドンッ。


空気が、内側から叩かれたかのように揺れた。


一瞬、全員の動きが止まる。


耳で聞いたわけではない。


だが、胸の奥で何かが大きく響いた。


ギル「……っ!?」


ギルは思わず胸に手を当てた。


心臓の鼓動とは別に、熱い波のようなものが流れ込んでくる。


シエルも同じように、目を見開いた。


シエル「……今のは……!」


ナナはびくっと肩を震わせ、思わず空を見上げる。


ナナ「今……胸の中が、ドカーンって……!」


ロミオの瞳も、揺れた。


ロミオ「……スズ、か……?」


言葉にした瞬間――


ドクンッ!!


再び、感応の波が押し寄せた。


今度ははっきりと分かる。


血が軋むような、熱い叫び。


遠く、ずっと離れた場所から。


スズの“声”が、感応波を通して押し寄せてきていた。


ギル「……おい、お前ら。感じたか?」


シエルは真剣な眼差しで頷いた。


シエル「はい。今のは……ブラッドの中でも、特に強い血の共鳴です。」


ナナは胸に手を当て、ぎゅっと握りしめた。


ナナ「この感じ……間違いないよ。隊長のだ。」


ロミオは噛み締めるように呟く。


ロミオ「……やるんだな、スズ。」


彼らは知っていた。


あの、身体の奥底を直接焼くような波長。


そこに絡みつく、まっすぐな決意。


それは、スズがただのブラッドアーツではなく――


「誓約」によって解放される奥の手を使おうとしている証だった。


【ブラッドレイジ】


自らの血と神機の力を極限まで同期させ、誓約を果たすことで神機に一時的な“爆発的高出力”を引き出す、スズの切り札。


果たせば、短時間だけ常識を越えた力を得る。


誓約が多いほど、身体への負担も増える。


その危うい技を、スズが本気で起動しようとしている。


それを、ブラッドのメンバーは感応波を通して理解していた。


ギル「ったく……勝手に危ない橋渡ろうとしてんじゃねぇよ。」


そう言いながらも、その声には呆れと一緒に、確かな信頼が混じっていた。


シエルは息を整え、触手へ視線を戻す。


シエル「……隊長が誓約を果たすには、こちら側からも援護が必要です。」


ナナ「だよね!あたしたちも、やれることやんなきゃ!」


ロミオは震える手で神機を握り直した。


ロミオ「スズ一人に、全部背負わせるわけには……いかないよな。」


ギルは大きく一歩踏み込み、前線へと躍り出る。


ギル「だったら――」


槍を肩に担ぎ上げ、そのまま巨大な触手へ叩きつけた。


ギル「道くらい、通してやる!」


ガァンッ!!


衝撃で触手の一本が大きくのけぞる。


ナナも負けじと隣へ飛び込み、神機をぶん回した。


ナナ「隊長の誓約、ジャマさせないんだからぁぁ!!」


ドガンッ!!


派手に斬り裂かれた触手から粒子が噴き出し、再生しようとうねる。


そこへシエルが冷静なフォローを入れた。


シエル「再生する前に、さらに追撃を――!」


シエルは精密な足さばきで間合いを詰め、刃で触手の接続部を断ち切る。


シエル「ここです!」


ロミオも続けざまに銃形態へ変形させ、切断面へ銃弾を叩き込んだ。


ロミオ「くらえー!」


バンッ! バババンッ!!


極東の前線が一瞬だけ押し返された。


触手が大きくよろめき、再生のテンポがわずかに乱れる。


全ての攻撃がスズの誓約を果たすための援護になると、全員が理解していた。


さらに周囲では、ブラッド以外の神機使いたちもその異変を感じ取り、戦い方を変え始めていた。


エミール「ふっ……なんだこの胸を灼くような高揚は!まるで遠くから、熱き戦友の魂が呼びかけてくるような……!」


アネット「スズさんの……感応波でしょうか。」


エミールはポラーシュターンを高々と掲げた。


エミール「よかろう!!ならば応えねばなるまい!!」


足を大きく踏み込み、巨大な触手へ向かって吠える。


エミール「騎士は倒れん!!我がポラーシュターンの一撃を受けよぉぉぉ!!」


豪快な一撃が触手を叩き裂き、黒い粒子が散り飛ぶ。


すかさず、アネットも前へ出る。


アネット「破壊は任せてください!!一つでも多く、再生前に無力化します!」


アネットは派手に触手を叩き、即座に力技で残骸を吹き飛ばす。


ギル「……チッ、騒がしいのが混ざったな。」


ナナ「でも、頼もしいでしょ?」


極東の戦場全体が、さっきまでとは違う熱を帯び始めていた。


絶望に押し流されそうだった空気に、一本の太い“意志”が立ち上がる。


その中心にあるのは、遠く離れた欧州で、命を削る覚悟を決めた――スズのブラッドレイジ。


それを、仲間たちが決して孤立させない。


ナナは斬撃の合間に、空を睨みつけるようにして叫んだ。


ナナ「届けぇぇぇ!!!」


彼女の叫びは、感応場に放り投げられた。


ギルも追うように吠える。


ギル「お前の誓約……ここからも支えてやるよ!届け!!」


シエルは息を整え、静かに、しかし強く言葉を乗せる。


シエル「隊長……あなたの選んだ道が、無駄にならないように。どうか――届け!」


ロミオは震える膝を殴りつけるように叩き、前へ飛び込んだ。


ロミオ「スズ……俺たち、ちゃんとここにいるから……!だから――届けぇぇぇ!!」


四人の叫びが、重なって感応場へ響き渡る。


それは祈りであり、エールであり、誓いだった。


斬撃と銃声、触手の再生音、灰が舞うざわめき。


その全部の上から、ブラッドの絆が、確かな熱となって欧州へ向かっていく。


遠く離れた戦場同士をつなぐのは、通信でも回線でもない。


血と神機が結びつけた、ブラッドの“血の力”。


彼らの共鳴する叫びは――


スズの誓約を完成させるための、最後の一押しとなるべく、世界を駆け抜けていった。


さらに


スズの感応波は極東だけでなく、世界中に届いていた。


アジア、北米、南米、中東、そして


【某所】


荒れ果てた荒野でも一人の女性神機使いが神機を振るっていた。


「はあああっ!!」


ザシュッ!!


無数に迫る触手にバスターブレードを叩きつける。


ドクンッ!


「っ……!この感応波……!」


自分と同等か、それ以上の熱い波が彼女にも届いていた。


すぐに彼女は理解した。


終わりかけの世界でも、まだ諦めていない者がいると。


いや、誰もが諦めていなかった。


生きることを望んでいる。


みんなが必死に生きようとしている。


それを充分に感じ取った。


神機を握る手に力がこもる。


「この感応波……。誰のものかは分からないけど……私も応えなきゃ!」


彼女は力強くそう言い、神機を再び振り回した。


「うおおお!!」


ザシュッ!


触手が爆ぜる。


何度再生しようとも、彼女の攻撃は止まらない。


(私だって……諦めない!みんなを信じてるから!)


神機が光をおび、触手群を一気に焼き払った。


荒れ果てた世界の果てで戦う彼女の一撃一撃も、スズの誓約の援護となって、スズの元へ駆け抜けていった。








ーー旧フェンリル本部区域


スズの全身を駆け抜ける、熱い流れ。


それは自分のものだけない。


(……来てる!)


胸の奥で脈打つ感覚が変わる。


ナナの明るくて一直線な気配。


ギルの荒っぽくて、でも芯の強い衝動。


シエルの研ぎ澄まされた静かな波。


ロミオの、不器用な優しさを含んだ熱。


そして、各地で戦う無数の想い。


世界中の神機使いの感応波が、確かにスズの中へ流れ込んできていた。


神機のコアが脈打つ。


ギィィィン……!


スズ「……っ!」


握る手にビリビリと痺れが走る。


それは痛みではなく、ただひたすらに“力”だった。


(あと少し……!)


スズの感覚が研ぎ澄まされていく。


足元でうねる触手の動き。


頭上で渦巻く終末の流れ。


ルナが震えながらこちらを見ている気配。


血だまりの中で倒れたサバタ。


そのすべてを胸に受け止めて。


スズは奥歯を噛みしめた。


リヴィ「今だ……!」


リヴィは触手群へ踏み込むと、鎌を大きく振りかぶった。


リヴィ「はああああ!!」


ザシュウッ!!


斬撃が触手をまとめて刈り取り、黒い粒子が爆ぜる。


すかさずソーマも隣へ飛び出した。


ソーマ「ここまで持ってきたんだ……必ず決める!!」


バスターブレードを肩に担ぎ、渾身の力で叩きつける。


ドガァンッ!!


地面ごと抉るような一撃に、触手の束が大きく跳ね上がった。


その瞬間――


スズの神機の中心部で、甲高い音が鳴り響いた。


パキンッ……!


装甲の隙間にヒビが走り、内部のコアがギラリと光を放つ。


さらに音が重なる。


パキパキパキッ……!


装甲が外殻ごと弾け飛び、灼けるような光を放つ球体――神機のコアが、完全に露出した。


スズ「……来た……!」


スズの視界が、一瞬だけ白く染まった。


次の瞬間――


ズォォォォ……ッ!!


スズの背中から、眩い光が噴き上がった。


光は渦を巻き、オラクル粒子が翼の形へと収束していく。


左右に広がる、金色の光の翼。


それらの羽根全てが、鋭い殺意と守る意志を宿したオラクルそのものだった。


【ブラッドレイジ 発動】


誰かがそう告げたわけではない。


だが、その現象を前にした全員が、直感的に理解していた。


リヴィ「……っ、これこそが……」


ソーマ「スズの……誓約の力だ。」


スズは地面を強く踏み込む。


ドンッ!!


足元の灰が爆ぜる。


身体が弾かれたように上へ跳び――


次の瞬間には、スズの姿が空を切り裂いていた。


スズ「うああああッ!!」


ノヴァに向かって一直線。


光の翼が推進力となり、オラクルの奔流がスズの身体を押し上げる。


上空から見下ろしていたノヴァの仮面が、わずかにスズへ向いた。


その背から伸びる触手たちが、一斉にスズを迎撃するため動き出す。


ヒュッ!ヒュルルルッ!


鋭く尖った先端が、あらゆる方向から襲いかかる。


しかし――


スズを包む光が、触手に触れた瞬間。


バチバチッ!


触手は弾かれ、焦げたように崩れ落ちていった。


スズに近づこうとした触手ほど、強い反発で弾かれていく。


触手による攻撃を、翼が全て無効化する。


スズ(絶対に決める……!)


胸が焼けるように熱い。


筋肉は限界を超え、視界の端は白く染まり始めている。


それでも、スズの意識は一歩も引かなかった。


スズ(ここで折れたら……全部、終わるんだ!)


リヴィはその姿を見上げながら、銃形態へ神機を切り替える。


リヴィ「スズ!!」


銃口をスズの背中――ではなく、その少し斜め上へ向ける。


その狙いは、スズのすぐ側を通る軌道。


リヴィ「受け取れええええ!!」


引き金を引いた。


ドンッ!!


銀色の弾丸ではない。


螺旋状にオラクル粒子をまとった“受け渡し弾”が、スズへ向かって飛ぶ。


その弾丸の軌跡を、スズは察知していた。


空中で身体を半歩だけ捻る。


弾丸はスズの光の翼へ吸い込まれた。


ジュワァァ……ッ!!


吸収されたオラクルの奔流が、神機とスズの身体を同時に満たしていく。


バーストレベルが、一気に跳ね上がる。


一段。


二段。


まだ上がる。


三段目に到達したところで、神機のコアがひときわ大きく光った。


スズ「……これで……!」


オラクルの翼がさらに大きく広がる。


視界の先には、ノヴァの胸部――中心に埋め込まれたコアが、脈打つように光っていた。


あらゆる生命の終わりを告げる、終末の心臓。


そこへ、スズは一直線に飛び込んだ。


ノヴァの触手が、数十本単位でスズを襲う。


だが、光の翼がそれを拒む。


バチィィィッ!!


オラクルの光が触手を焼き、灰へと還す。


触手は何度も再生しようとするが、その瞬間を上書きするようにスズが突き抜けていく。


ソーマ「……行った……!」


リヴィ「届いた……!」


スズは、ノヴァのコア目前へと肉薄していた。


スズ「……ここだ……!」


空中で身体を捻り、神機を構える。


通常の構えではない。


全身の力を、ただ一点へと収束させるための姿勢。


足も腕も、背中も、心臓もーー


全部、刃の先へ向ける。


スズ「ブラッドアーツ……」


口から零れる言葉と同時に、神機のコアが応えるように強く輝いた。


ブラッドレイジによって高められた感応値が、限界を超えて噴き上がる。


【C.C ジ・エンド!!】


刃が、ノヴァのコアへ向かって振り抜かれる。


ガギィィィィィィンッ!!!


世界の骨組みそのものが軋んだかのような轟音が鳴り響いた。


ノヴァのコア表面で、スズの一撃と“終末そのもの”の力が激突する。


コアの内側から、凄まじい圧力が押し返してくる。


まるで――


世界のリセットそのものが、スズの存在を拒んでいるかのようだった。


衝突点から、光と灰とオラクル粒子の奔流が四方八方に吹き荒れる。


地上で見上げていたリヴィとソーマの足元にも、その衝撃が伝わった。


リヴィ「ぐっ……すごい衝撃だ……!!」


リヴィは咄嗟にルナを抱き寄せ、衝撃波から庇う。


ソーマ「スズ……! 押し負けるな……!!」


上空の攻防は、ほんの数秒。


だが、その数秒が、永遠のように長く感じられた。


スズ「くっ……ぁぁぁ……!」


腕が悲鳴を上げる。


骨が軋み、視界が一瞬、真っ赤に染まる。


ノヴァのコアから放たれる圧力が、スズの全身を押し返そうとしていた。


スズ(終わりに……させない……!)


その瞬間――


スズの感応波に引き寄せられるように......


もう一つの“異質な反応”が現れた。


地上。


倒れたサバタの傍らに置かれていたロングブレード。


呪刀


それは、微動だにせず沈黙していたはずの神機だった。


だが。


ブラッドレイジによって解き放たれた、圧倒的な“意志”の奔流に触れた瞬間。


呪刀の刀身が、低く唸りを上げた。


カ……ッ。


禍々しい赤紫の刃の表面に、今まで見たことのない光が走る。


リヴィ「……!?」


ソーマ「……まさか……!」


コォォォォ......


呪刀が、ひとりでに宙へ浮き上がった。


それは暴走ではなかった。


拒絶でもない。


呪刀は“見極めて”いた。


――孤独ではない。


――だが、依存でもない。


ただひとりの神機使いの意志が、世界を背負って刃を振るっている。


呪刀は、初めて理解した。


この力は"共に斬るに値する"と。


次の瞬間。


呪刀が、音を置き去りにするほどの速度で空を裂いた。


キィィィィン――!!


光の尾を引きながら、一直線にノヴァのコアへ向かっていく。


ソーマ「……呪刀が……!」


リヴィ「自らの意思で……!?」


刃が唸るように低く鳴り、赤紫の刀身に、淡い光が走る。


まるで――何かを“認めた”かのように。


呪刀は、ダインスレイフと同じ衝突点を見据えていた。


迷いはない。


拒絶もない。


ただ、共に断つという意思だけが、そこにあった。


一直線に、ダインスレイフが食い込んだその一点へと突き刺さる。


ギンッ!!


二つの刃が、同じ場所で重なった。


世界が、一拍遅れて軋む。


その瞬間.....!


孤独の神機が、ついに“共闘の技”を解放した。


【終刻ノ一閃――呪断】


ガギィィィィィィンッ!!!


衝撃が、さらに跳ね上がる。


二つの刃。


二つの意志。


呪刀とダインスレイフ。


初めて会ったときには刃を突き合わせた両者が.....。


今は共に終末のコアを葬るために力を合わせる。


ブラッドレイジの奔流と、孤独を力に変えてきた呪いの刃が、完全に重なった。


ノヴァのコアが、悲鳴のような振動を起こす。


ピシッ……。


小さな亀裂。


そこから、蜘蛛の巣のようにひびが広がっていく。


ノヴァ「……ピ、ピャァァァァァァァァァ!!!!!」


無機質だった女神像の口元が、初めて大きく裂けた。


断末魔とも、悲鳴ともつかない叫びが、空全体を震わせる。


スズ(今だ……!)


脳裏に、次々と光景が流れ込む。


極東で笑う仲間たち。


エミールのやたら長い自己紹介。


ブラッドのみんなと囲んだ、馬鹿みたいに大盛りの食事。


任務帰りのどうでもいい愚痴。


ルナの、泣きそうな顔。


そして――倒れたサバタの姿。


スズ(みんなの命が……この一撃にかかってる!!)


胸の奥から、限界を超えた熱が噴き上がる。


スズ「あたしが……必ず守る!!」


そう叫んだ瞬間。


遥か遠く......極東からの感応波が再び押し寄せた。


ナナ『届け!』


ギル『届け!』


シエル『届け!』


ロミオ『届け!』


それらが、スズの背中を強く押した。


地上から、リヴィが叫ぶ。


リヴィ「決めろ、スズ!!」


ソーマも、バスターブレードを地面へ突き立て、空を睨みつける。


ソーマ「ここまで繋いだんだ……決めてこいッ!!」


スズ「うおおおおおおおおおおおッ!!!!!」


呪刀とダインスレイフが同時にコアを貫いた。


ガシャァァァァァンッ!!!!


ノヴァのコアが、内側から弾け飛ぶ。


光と灰とオラクル粒子が一斉に四散し、夜空そのものが白く塗りつぶされた。


女神像の全身に走った亀裂が、一気に広がっていく。


ノヴァ「ピャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


終末を告げる存在の、最後の叫び。


そして――


呪刀は役目を終えたかのように、静かに減速し、光を失って落下していく。


まるで「これでいい」と言わんばかりに。


ソーマは、確信を込めて呟いた。


ソーマ「……呪刀が、初めて他者を認めた……。」


リヴィも、空を見上げながら小さく息を吐く。


リヴィ「……サバタ以外の存在を……か。」


終末を告げる存在の、最後の叫び。


その悲鳴は、世界中にまで響き渡っていった。


女神像のようなノヴァのシルエットは、ゆっくりと崩れ始めていた。


終末は、今――


確かに断ち切られた。


そして――


ノヴァが崩壊してゆく。


ノヴァの断末魔が消えていくのと同時に、その身体に走った亀裂がさらに広がっていった。


女神像のような輪郭が、ゆっくりと崩れていく。


最初は肩口から。


次に胸元、腰のあたり。


巨大な像が砕け散る、というより


その全身が、ひとつひとつ粒子に解けていく感覚に近かった。


ひとかたまりだった禍々しい輪郭が、細かな光の欠片となって千切れていく。


灰色の砂とも、霧とも違う。


夜空の中でだけ淡く光を帯びる、不思議な粒。


リヴィはその光景を見上げ、ゆっくりと息を吐いた。


リヴィ「……やった、のか。」


ソーマも肩で息をしながら、ノヴァがいた空を睨み続ける。


仮面のような顔も、背中から伸びた触手も、空中へ散らばっていく。


そこだけやけに広く空が開いているように見えた。


ソーマ「……ああ。……ノヴァは落ちた。」


その言葉に、張り詰めていたものがようやく少しずつ解けていく。


光の粒は、やがて雨のように、ゆっくりと地上へ降り始めた。


サラ……サラ……。


音にはならない。


だが、肌に触れた場所から、じんわりと温かさが滲んでいく。


リヴィ「……これは……」


手のひらに落ちてきた粒子が、すっと溶けていく。


それはオラクル細胞の禍々しい反応とは正反対の、静かな優しさを含んだ光だった。


ソーマ「ノヴァの……残滓、か。」


世界を喰らおうとした終末の化身の、最後の塵。


それが今、静かに地上へと還ってきていた。


ルナは、まだ地面に膝をついたまま、ぼんやりと空を見上げていた。


ルナ「……きれい……。」


恐怖に泣き腫らした目に、降りそそぐ光。


その光が、ふとサバタの上にも落ち始めた。


サバタの胸も、まだ赤く濡れている。


リヴィが押さえていた布はぐっしょりと染まり、血は止まりきっていなかった。


リヴィ「……まだ脈はあるが……このままでは……。」


言いかけたときだった。


ひときわ強く光る粒子が、ふわりとサバタの胸元へ降りてきた。


ぽたり。


水滴が落ちるみたいに、柔らかく触れる。


次の瞬間。


じわ……っと、その光がサバタの胸の周囲へ広がっていった。


リヴィ「……っ……!」


掌に伝わる感触が変わる。


さっきまで脈打っていた血管の鼓動とは違う、もっと穏やかな流れ。


裂けたはずの肉が、ゆっくりと閉じていく。


血で濡れていた布に、新しい血がにじむことはもうなかった。


ソーマもそれに気づき、目を細める。


ソーマ「……治癒、だと?」


ノヴァの終末の力が皮肉にも、今は傷を癒す光となって降り注いでいる。


しばらくして――


サバタの眉が、ぴくりとわずかに動いた。


サバタ「……っ……は……。」


浅かった呼吸が深くなり、ゆっくりとまぶたが開く。


ぼやけた視界が少しずつ焦点を取り戻し、灰だらけの空と、誰かの顔が映る。


一番最初に飛び込んできたのは、涙で濡れたルナの顔だった。


ルナ「サバタお兄ちゃん!!」


弾かれたように身を乗り出し、そのまま勢いよく抱きつく。


ルナ「よかった……よかった……!!」


サバタ「っ……痛っ……」


胸が押されて、思わず顔をしかめる。


だが、その痛みはさっきまでの致命傷のそれではない。


ただ、無理矢理起こされた身体がまだ本調子ではないという程度の痛みだった。


サバタは一瞬だけ戸惑った顔をしたあと、ルナの頭に乗った自分の腕を、振り払うことはしなかった。


サバタ「……ったく……離れろ、苦しいだろうが。」


口調はいつも通りぶっきらぼうだ。


ルナはそれでも、ぎゅうっと抱きつく力を弱めない。


ルナ「やだ……!またどっか行っちゃうかと……!」


サバタ「行かねぇよ。」


小さく吐き捨てるように言ったあと、視線を空へ向けた。


崩れ落ちていくノヴァの残光。


世界を覆い尽くそうとした触手は、力なく地面に転がっている。


サバタ「……あの化け物を……倒しやがったか。」


信じられないものを見るように、それでもどこか誇らしげに呟く。


リヴィは安堵と疲労が混じったような息をついた。


リヴィ「……ああ。スズが、やった。」


ソーマも静かに頷いた。


ソーマ「ブラッドの隊長だ。やると決めたら、本当にやり切りやがる。」


頭上から降り続ける光の雨は、まだしばらく止みそうになかった。








ーー極東地方



同じように、極東の空にも粒子の雨が降り始めていた。


さっきまで触手と戦っていた神機使いたちは、いつの間にか手を止め、ただ空を見上げている。


ナナ「……わぁ……。」


ナナの肩に落ちた光が、ほろりと溶けて消える。


ギルも上を見たまま、口元だけで笑った。


ギル「……決めやがったな。あいつ。」


シエルは胸の前で手を組み、目を伏せる。


シエル「はい……今の感応波。そしてこの現象……間違いありません。」


ロミオは、どこか泣き笑いのような顔で空を仰いだ。


ロミオ「やったんだな、スズ……。」


四人がそれぞれにそう確信した時、周囲の面々もようやく事態を理解し始めた。


エミールは、降り注ぐ粒子に両手を広げながら叫ぶ。


エミール「なんと神々しい光景だ!世界の終わりかと思いきや……これはまさしく再誕の雨!!」


アネットも、ゆっくりと両手を差し出して粒子を受ける。


アネット「綺麗……。こんな終わり方があるなんて……。」


アリサも、戦闘の緊張が解けたのか、その場で膝に手をつき、空を見上げたまま息を吐いた。


アリサ「本当に……勝ったのね……。」


リンドウは神機を肩に乗せたまま、短く笑う。


リンドウ「まぁ、ブラッドの隊長だ。これくらいやってもらわねぇとな。」


エリナは、降りてくる粒子のひとつを両手でそっと包む。


指の隙間から、柔らかい光が漏れる。


エリナ「……すごいです……。」


目尻に涙が浮かぶ。


あくまで静かに、こぼれるような声で呟いた。


エリナ「ぐすん.....さすが……私の先輩です。」


粒子は彼女の指先で溶け、温度だけを残して消えた。


その優しい温もりが、極東で戦い続けていた者たちの胸の奥に、じんわりと染み込んでいく。


世界はまだ壊れかけている。


灰域も、灰に変わった建造物も、すべてが元通りになるわけではない。


それでも今――


「終わるはずだった世界」が、ぎりぎりのところで踏みとどまったのだと、誰もが理解していた。







【某所】


空を見上げる女性神機使い。


先ほどまでバスターブレードを振るっていた彼女の元にも、光の粒子が降り注いでいた。


その光景に安堵の表情を浮かべる。


「やったんだね……。」


終末の元凶を倒したと悟った。


同胞たちの想いが終末を止めた。


彼女は息を整え、神機を降ろす。


この世界の誰もが生きることを諦めていなかった。


みんなが生きるために必死に戦った。


「生きることから逃げるな……か。」


かつて自分が口にした言葉。


仲間を救うために叫んだその言葉を、自分自身が言われた気がした。


彼女は降ってくる光の粒子を手のひらで受け止める。


そしてかすかに微笑む。


「ありがとう……。」


終末を止めてくれた戦士への言葉。


会ったこともない同胞へ向けた敬意を小さく、しかしはっきりとつぶやいた。


その目は強い想いが宿っており、そしてどこか懐かしさも宿すような目だった。


遠くにいる仲間を想うような……優しい表情で空をしばらく見上げ続けた。








ーー旧フェンリル本部区域


ノヴァの光が、ほとんど消えかけた空の下。


崩れた地面に、一人の神機使いが横たわっていた。


スズ。


ついさっきまで終末そのものへ刃を叩き込んでいた彼女は、力尽きたように仰向けのまま動かない。


その胸の上には、神機――ダインスレイフが静かに横たわっていた。


死闘を終え、その神機はボロボロだった。


装甲は砕け、刃は欠け、コアはむき出しのまま。


赤い光だけが、弱々しく、しかし確かに脈打っている。


ピ……ッ。


……ピ……。


……ピ……。
 

鼓動のような点滅が、次第に間延びしていく。


スズの指は、もう柄を握る力を失っていた。


触れているだけ。


それでも――


確かに、最後まで“繋がって”いた。


最後のひとつの想いを伝えるように、コアが一度だけ、強く光った。


ピ……ッ……。


そして――


その光が、静かに途切れた。


同時に。


パキ……。


刃の根元に、細いひびが走る。


パキ……パキパキ……。


ひびは装甲へ、刃へ、柄へと広がっていく。


それは破壊ではなかった。


寿命を迎えた存在が、自らをほどいていくような、穏やかな崩壊だった。


ポォォォォ……


ダインスレイフ全体が、淡く光を帯び始める。


金属の輪郭がぼやけ、質量が抜けていく。


刃も、柄も、コアも。


ひとつずつ、光の粒子へと還っていった。


砕け散ることはない。


悲鳴も、拒絶もない。


ただ静かに――


「役目を終えた」と告げるように。


ふわ……。


ふわ……。


光の粒が、スズの胸の上から浮き上がる。


一粒が、髪に触れた。


一粒が、頬に触れた。


一粒が、額に触れた。
 

まるで、名残を惜しむように。


まるで、「ありがとう」と言う代わりに、触れていくように。


そのとき。


スズの意識の奥に、声が届いた。


【……ありがとう】


音ではない。


言葉ですらない。


それでも、はっきりと伝わる想い。


スズ「……うん……」


かすかに唇が動く。


それが、ダインスレイフへの最後の返事だった。


だが――


それで終わりではなかった。


光の粒たちは、空へ昇りかけたところで、ふっと進路を変える。


まるで、別の“行き先”を見つけたかのように。


その視線の先にあったのは――


地面に突き立てられた、一本のロングブレード。


呪刀。


孤独を好み、共闘を拒んできた、歪な神機。


光の粒子は、ゆっくりと、しかし確かな意思をもって、呪刀へと集まっていく。


ソーマ「……これは……」


リヴィも息を呑み、視線を離せずにいた。


光は刃の周囲を巡り、やがて一つに集束する。


小さな、しかし強い輝きを持つ光球となって。


それは呪刀の中心へ――


刀身の奥深くへ、ゆっくりと沈み込んでいく。


呪刀はその光球を静かに受け入れた。


次の瞬間。


カッ……。


呪刀の中心部で、新たな光が灯る。


それは、今までとは明らかに違う輝きだった。
 

孤独ではない。


怒りでも、拒絶でもない。


誰かを想い、誰かを守ろうとした意志。


スズが仲間を想い、世界を繋いだ、そのすべてが凝縮された光。


ソーマ「……新しいコア……」


リヴィ「スズの神機が……呪刀の一部として……」


サバタ「どうなってやがる......。」


ダインスレイフは、もう神機としては存在できなかった。


ノヴァに放ったブラッドレイジ。


それに課した誓約はあまりにも多すぎた。


自らを犠牲にして、全てを出し尽くした。


だが――


その想いと力は、消えてはいなかった。


孤独を宿す呪刀の中で......


“他者を想う意志”として、生き続ける道を選んだのだ。


光が落ち着くと同時に、呪刀は静かに沈黙する。


先ほどまでの輝きはない。


だが、確かに“何か”が変わっていた。


リヴィは、ゆっくりとスズのそばへ膝をついた。


リヴィ「……持っていかれたな。全部……。」


怒りでも、後悔でもない声。


ただ、どうしようもない寂しさを滲ませた呟きだった。


ソーマは、担架を呼びながらも、呪刀から目を離さなかった。


ソーマ「……生き方を選んだんだな。最後の最後に……。」


医療班が駆けつけ、スズは担架へ移される。


その身体には、もう神機はない。


だが――


彼女が繋いだ想いは、確かに残っていた。


呪刀の奥で。


孤独と共に、仲間を想う光を宿したまま。


リヴィ「……世界を救うっていうのは……本当に、ろくでもない仕事だな。」


苦い冗談のように呟く。


しかし、その声はどこか誇らしげでもあった。


ソーマと医療班の手で、スズは担架へ移される。


オラクルの翼も、ダインスレイフも、今はもうない。


ただ、一人の神機使いの、極限まで燃え尽きた身体だけがそこにあった。


世界は救われた。


そしてスズは、すべてを出し尽くし、自分の神機を同胞へ託したのだった。









God Eater The Last Rage 第17話 完