God Eater The Last Rage第15話






旧フェンリル本部近郊


地下施設 医療区画


薄暗い天井。


静かな機械音。


消毒液と、わずかに土埃の混じった匂いが漂っていた。


簡易ベッドがいくつも並ぶ一角で、ルナは白いシーツの上に横たわっていた。


頬の汚れは拭われ、腕に刺されていた点滴もすでに外されている。


かすかにまぶたが震えた。


ルナ「……ん……」


長い眠りから浮かび上がるように、ゆっくりと目を開ける。


視界に飛び込んできたのは、見慣れない天井。


ルナ「……ここ……どこ……?」


隣のベッドで状態を確認していた医療班の一人が、慌てて顔を上げる。


医療班「起きた……! ルナちゃん、聞こえる?」


ルナはぼんやりと天井を見つめていたが、しばらくしてから小さく頷いた。


ルナ「……うん……。」


その声に気づき、少し離れた場所にいたスズとリヴィが、ほとんど反射的に振り向く。


スズ「……ルナちゃん……!」


リヴィ「……起きたか。」


二人は歩を早めてベッドのそばへ駆け寄った。


ルナはまだぼうっとしている。


目の焦点がゆっくりと合い始め、スズとリヴィの顔を交互に見つめた。


ルナ「……リヴィお姉ちゃん……と誰......?」


スズは優しく微笑む。


スズ「……あたしはスズ。極東からきた神機使いだよ。」


ルナ「きょく……とう……?」


まだ掠れた声。


でも、そのわずかな会話が、生きて戻ってきたという実感を皆に与えた。


スズはほっとしたように、しかし泣きだしそうな顔で笑う。


スズ「本当に……よかった……。」


リヴィはベッドの脇に膝をつき、ルナの額にそっと手を当てる。


リヴィ「熱はないな。体調はどうだ? 気分が悪いとか、どこか痛むところは。」


ルナは少しだけ考えるように視線を動かし、かすかに首を傾けた。


ルナ「……ちょっと、ふらふらする……けど……平気……。」


言葉は弱々しいが、意識ははっきりしている。


医療班の隊員も安堵の息をついた。


医療班「命に別状はありません。念のためしばらく安静にしてもらえれば。」


リヴィ「分かった。ありがとう。」


そう言って医療班が少し離れる。


スズはベッドの縁をぎゅっと掴んだ。


スズ「本当に……よく頑張ったね。」


ルナは、少しだけ視線を下げる。


ルナ「……こわかった……。」


その一言に、胸の奥がひりついた。


リヴィは言葉を選ぶように黙り込む。


スズも何かを言いかけて、飲み込んだ。


そんなとき。


ルナはゆっくりと顔を上げ、きょろきょろと周囲を見回した。


ルナ「……ねぇ。」


スズ「ん?」


ルナ「……ママは……?」


空気が、ぴん、と張りつめた。


一瞬で、周囲の音が遠のく。


スズは息を飲み、リヴィに視線を送る。


リヴィも、わずかに目を伏せた。


ルナはそれに気づかないまま、もう一度問いかける。


ルナ「ママ……どこ?ここに……いるんだよね……?」


声は不安で揺れている。


スズはぎゅっと唇を噛んだ。


スズ「……ルナちゃん、その……。」


何と言えばいいのか分からない。


「大丈夫」とも言えない。


「もう会えない」とも言えない。


喉の奥に言葉が詰まり、声にならない。


リヴィもまた、眉を寄せ、苦しそうに目を閉じた。


リヴィ「……ルナ。」


ルナは二人の表情から何かを感じ取ったのか、小さく首を振る。


ルナ「ママ……ここにいるよね……。だって、そうでしょ……?」


声が震え始める。


リヴィは静かに息を吸った。


リヴィ「ママのことは……その……。」


そこまで言って、言葉が出なくなった。


リヴィは戦場の最前線に立ち、いくつもの死を見てきた。


しかし今目の前にいるのは、小さな子供。


「死」という言葉をどう伝えればいいのか、答えを持ち合わせてはいなかった。


そのとき。


少し離れた場所に座っていたサバタが、ゆっくりと立ち上がった。


サバタ「……おい。」


低い声。


スズとリヴィは、はっとしたように振り向く。


サバタは無造作に歩み寄り、ルナのベッドのそばで立ち止まった。


ルナは潤んだ目でサバタを見上げる。


ルナ「……サバタお兄ちゃん……。」


サバタ「……。」


間近で見るルナの顔は、少し痩せたように見えた。


頬はこけてはいないが、あの日外で元気に走り回っていたときと比べると、明らかに疲れている。


サバタはほんの一瞬だけ目を細めたが、すぐにいつもの無愛想な表情に戻った。


サバタ「……母親のこと、聞きたいのか。」


ルナはこくりと頷く。


ルナ「……どこにいるの……?」


スズとリヴィが緊張した面持ちでサバタを見る。


サバタは少しだけ視線を落とし、短く息を吐いた。


そして――迷いなく口を開く。


サバタ「……死んだ。」


ルナの瞳が、完全に止まった。


時間が、そこだけ切り取られたみたいに動かない。


ルナ「…………え?」


かすれた声。


耳がおかしくなったかのような顔をして、サバタを見つめる。


ルナ「今……なんて……言ったの……?」


サバタは視線を逸らさない。


サバタ「お前の……母親は、もういねぇ。」


その言葉は、刃物のようにまっすぐだった。


スズ「サバタ……!」


スズが思わず声をあげる。


リヴィも眉をひそめ、口を開きかけたが――


サバタはちらりと二人を見ただけで、黙らせるように目を細めた。


サバタ「嘘ついてどうすんだよ。」


静かな声だった。


怒鳴りも、誤魔化しもない。


ただ、事実だけを告げる声。


ルナの喉が、ひゅっと縮こまる。


ルナ「……やだ。」


首を横に振る。


ルナ「やだ……やだよ……。」


目の奥に涙が滲み、じわじわと溢れ始めた。


ルナ「ママ、強いもん……!あたしのこと置いてかないもん……!」


スズの胸が締めつけられる。


ルナは必死に言葉を繋ぐ。


ルナ「怪我してても、いつも笑ってたもん……! ママ、生きてるもん……!」


その叫びは、願いとも祈りともつかない。


ただ、幼い心が現実を拒む声だった。


サバタは拳を握りしめた。


あの居住区。


灰色に変色した大人たち。


そこにルナの母親もいたことを、彼は知っている。


サバタ「……戻ってこねぇんだよ。」


ルナ「嘘……。」


ルナの目から、ぽたりと涙が落ちた。


ルナ「嘘だよ……! そんなの……!」


声が裏返り始める。


ルナは縋るようにサバタを見上げる。


サバタは一瞬だけ視線をそらした。


そのわずかな仕草さえ、ルナには痛いほど伝わった。


ルナ「……ほんとに……?」


その問いは、最後の細い糸だった。


サバタはそれを、やはり切らざるを得なかった。


サバタ「……ああ。」


短い肯定。


それだけで、ルナの表情から血の気が引いた。


ルナ「……や……やだ……。」


首を振る。


枕を掴む。


シーツを握りしめる。


ルナ「いやだ……! やだぁ……!!」


声がはじけた。


ルナ「ママぁ……!!」


叫びながら、泣き声が溢れ出る。


小さな肩が震え、喉の奥から引き絞るような嗚咽が溢れ出す。


スズの目にも涙が浮かぶ。


スズ「……っ。」


何か言おうとするが、声が出ない。


「大丈夫」なんて言葉は、今はあまりにも空虚だ。


リヴィは唇を強く噛み締め、拳を握りしめていた。


リヴィ「……。」


彼女はルナの髪をそっと撫でることしかできない。


医療班の数人も、少し離れた場所で静かに立ち尽くしていた。


「大変だったね」も、「よく頑張ったね」も、この瞬間にはあまりにも無力に思えた。


泣き叫ぶルナの声だけが、地下施設の空気を震わせていた。


「ママぁ……!ママぁぁぁ!!」


遠くの通路にまで、その叫びは響く。


その通路の陰に、一人の男が立っていた。


ソーマだった。


壁にもたれ、姿を見えない位置に隠しながら、ルナの泣き声と、さっきの会話に耳を傾けていた。


ルナが「ママはどこ?」と聞いたときから、ずっと。


ソーマは目を閉じることもできず、ただじっと暗がりに立っていた。


聞こえるのは幼い少女の絶望の泣き声。


その悲しみの絶叫が胸を刺す。


ソーマ(……俺が……止めていれば……。)


あの実験。


あの黒霧。


崩壊した街。


死んだ大人たち。


泣き叫ぶ子供。


ソーマはゆっくりと手を握りしめた。


拳の骨が軋むほど強く。


ソーマ「……っ!!」


歯を食いしばる。


指の間から白くなるほど力を込めても、何も変えられない。


彼の頭の中には、黒霧に呑まれていった人々の姿が焼き付いたままだった。


(何人の親を……何人の家族を……奪った……?)


ルナの母親も、その一人。


直接手を下したわけではない。


だが、大本の原因となった実験に、自分は関わっていた。


ソーマ「……。」


悔しさと罪悪感が混ざり合い、喉の奥で言葉にならない。


涙は出ない。


泣く資格などない、と本人が一番分かっているからだ。


ただ――拳だけが震えていた。


通路の奥を通る他の医療スタッフたちもルナの泣き声に足を止めかけては、何も言えずに通り過ぎていく。


「……かわいそうに……。」


「……かける言葉が見つからない……。」


小さなささやきが、かえって無力さを強調していた。


医療区画には、しばらくの間、ルナの泣き声だけが響いていた。


幼い子供が、大切な人を失った現実を、ただ受け止めるしかない時間。


誰もそれを止められない。


誰も、その痛みを代わってやることはできない。


サバタはベッドの脇で腕を組み、黙ってそれを聞いていた。


何も言わない。


あえて何も言わない。


その選択が正しいのかどうかも分からない。


ただ――嘘をつかなかったことだけは、間違いではなかったと信じたかった。


泣き続けるルナの声は、地下施設全体に、静かで残酷な現実を突きつけていた。






グレイプニル 地下施設



簡素なテーブルと投影モニターだけが並ぶ部屋で、ガドリンと数名の幹部が円卓を囲んでいた。


食料、医薬品、電力――


どれも「残りわずか」を示す赤いグラフが並んでいる。


部下A「……現状では、このまま地下施設に籠り続けるのは不可能です。物資の備蓄は早ければ三か月で底をつきます。」


部下B「地上は黒霧の影響が強すぎます。通常の兵士は数分で活動不能に陥るでしょう。」


部屋には重い沈黙が落ちる。


ガドリンは腕を組み、低く唸った。


ガドリン「……いずれ、地上へ戻らねばならん。人類が地下に籠りきりでは、衰退するだけだ。」


部下Aが資料をめくる。


部下A「地上に“灰域に適応した建造物”を建てられれば……黒霧の影響下でも、最低限の居住区を確保できます。しかし……」


部下B「そのためには、灰域に耐えられる素材が必要になります。」


ガドリン「つまり……アラガミの細胞、か。」


部下たちは押し黙ったが、反対はしなかった。


部下A「灰域の中で生存できているのはアラガミだけです。あの構造を応用すれば、灰域耐性を持つ建造物……あるいは人員が作れるかもしれません。」


部下B「倫理面では問題がありますが、背に腹は代えられません。」


ガドリンは静かに頷いた。


ガドリン「……生存のためだ。我々は選ばねばならん。フェンリルが落ちた今、人類を導ける組織はグレイプニルだけだ。」


部下たちは重い決意を胸に、資料へ目を戻した。







ーー同時刻 極東地下施設



作戦室


白い照明が照らす一室で、サカキ博士が画面を前に腕を組んでいた。


周囲には数名の極東スタッフ、そしてリッカの姿もある。


サカキ「……結局、これしかなさそうだな。」


彼は眼鏡を押し上げ、苦笑ともつかない表情を見せた。


リッカ「灰域に対応した建造物……って、つまりアラガミの細胞を使うってことですよね? 技術的には、理論上は……可能ですけど。」


リッカは整備士らしく冷静に、しかしどこか慎重さを滲ませて意見を述べる。


サカキ「まあ、リスクはあるだろうね。でも、ゴッドイーターの神機もアラガミの細胞を制御してるんだ。応用すれば、灰域に強い構造体も作れるはずだ。」


スタッフ「しかし、問題は人員です。灰域が濃くなるほど、通常のゴッドイーターでも活動時間が短く……。」


サカキはその言葉を遮るように手を上げた。


サカキ「だからこそ、“霧に対抗できるゴッドイーター”を作る必要があるんだよ。」


室内が静かになる。


リッカ「霧……灰域そのものに耐えられるゴッドイーター、ですか?」


サカキ「そう。今のままじゃ、ゴッドイーターは灰域で数分と持たない。アラガミ細胞の耐性を、もっと高く……根本的に作り変えた存在が必要だ。」


スタッフたちは顔を見合わせる。


スタッフC「それはつまり……新しいタイプのゴッドイーターを生みだすということですか?」


サカキ「その通りだ。」


彼は明瞭に言い切った。


サカキ「灰域にも対応し、黒霧の中でも行動できる……“次世代の神機使い”。それを創る以外に、未来はない。」


リッカは不安げに眉を寄せつつも、うなずいた。


リッカ「……技術的な課題は山ほどありますけど……必要なら、わたしも全力で整備に当たります。」


サカキ「頼りにしてるよ、リッカ君。」


淡々とした言葉とは裏腹に、その声には確かな決意が宿っていた。


グレイプニルと極東.....二つの地下施設は、遠く離れながらも同じ結論へたどり着いていた。


灰域に耐える建造物。


アラガミ細胞の応用。


そして、霧に抗える新たなゴッドイーターの誕生。


それこそが――崩壊した世界を再び歩かせるための、唯一の道だった。






ーー極東地下施設


避難用通路・簡易ベンチ


通路に並ぶ金属製の簡易椅子の一つに、アネットが腰掛けていた。


背筋は伸ばしているものの、両手はぎゅっと握りしめられ、落ち着かない様子が隠せない。


その隣にそっと座るのはシエルだった。


シエルは静かに横目でアネットを見つめ、言葉を選ぶように口を開く。


シエル「……アネットさん。お疲れではありませんか?」


アネット「いえ……大丈夫です。ただ……気がかりなことが多すぎて……」


言葉の先は、言わずとも分かる。


アネット「ドイツ支部のことです。故郷の家族や同期たちが……無事なのかどうか……。灰域の影響で通信が完全に断たれてしまった今、何一つ情報が入りません。」


両膝の上に置いた手が、またきゅっと震えた。


シエルは数秒だけ考え、柔らかい声で答える。


シエル「お気持ちは痛いほど分かります。私も……親しい方々と離れた経験がありますから。」


アネット「シエルさん……」


シエル「ですが、アネットさん。ドイツ支部は優秀な方々が揃っています。あの人たちなら、きっと必ず生き残る手段を見つけているはずです。」


アネットの瞳が揺れる。


完全には不安を消せないまでも、シエルの言葉が僅かに胸へ届く。


アネット「……ありがとうございます。少し……気が楽になりました。」


シエルが小さく微笑んだそのとき。


通路の影から、ずっと聞き耳を立てていた男が勢いよく姿を現した。


エミール「――む!?今の悩ましい空気、この僕が聞き逃すはずがない!」


アネット「エ、エミールさん……!? いつからそこに?」


エミール「ご安心をアネット殿ッ!ドイツ支部は必ず生きている!あの地は誇り高き戦士たちの国!
このエミールと同じ血が流れているのだ、そう簡単に倒れるものか!」


アネット「そ、そうでしょうか……?」


エミールは胸を張り、やけに誇らしげに続ける。


エミール「もし危機に瀕していれば、彼らは必ず立ち向かう!我が同胞である以上、勇猛果敢に勝利を掴む運命なのだ!!
だから心配するでないっ、アネット殿!」


アネットは驚きつつも、ふっと肩の力が抜けるような笑みをこぼした。


アネット「……ありがとうございます、エミールさん。」


エミールは満足げに頷き、目を閉じて言う。


エミール「うむ!同郷の者が不安に沈むのを見過ごすなど、騎士としてあるまじきことだからな!」


シエルは小さく息を吐き、しかしどこか柔らかい声で言った。


シエル「……少し騒がしいですが、エミールさんの言うことも一理あります。
アネットさん……どうか今は休養を。あなたの力は、これからも必要です。」


アネットは二人を見つめ、静かに頷いた。


アネット「……はい。ありがとうございます。本当に。」


こうして、閉ざされた地下通路の片隅で、アネットの胸にあった重しは、ほんのわずかだが軽くなったのだった。







ーー数時間後



旧フェンリル本部 外界


深夜


雲が厚く空を覆い、その隙間からひときわ強く輝く満月が覗いていた。


しかしその光は、もはや世界を照らす希望ではなく、冷えきった地表を無情に照らすだけの光に変わっていた。


そのとき


地平の向こうから……音がした。


ゴ……ゴゴゴ……ゴゴゴゴゴ……


大地を擦るような、深く湿った轟き。


地鳴りとも風音ともつかない、不気味な低音が、夜空の下の世界全体に響き渡る。


その音の正体は――灰域だった。


黒い霧の塊が地表を覆い尽くすように、ゆっくりと、しかし確実に広がっていた。


霧は波のようにうねり、風に流されることなく、自ら意思を持って這い寄るかのように進んでいる。


やがて、その灰域は不規則に震え始めた。


ゴオォォォォォォッ……!


次の瞬間、灰域が大きく盛り上がった。


まるで巨大な海のうねりが世界を飲み込もうと膨れ上がるように。


それは津波だった。


水ではなく、霧の津波。


壁のように立ち上がった黒霧が、地平線を完全に覆い隠すほどの高さへと達していく。


その音は空気を震わせ、世界の骨格そのものを軋ませるかのような轟音だった。


灰域の嵐――灰乱(かいらん)。


それ以外に呼びようのない、圧倒的な災害そのものがそこにあった。


しかし。


その灰乱の中心で、別の異変が起きていた。


黒霧の渦を拒絶するかのようにゆっくりとオラクル細胞が誕生し、集まり、形を得ていく。


それは、生命体。


まだ輪郭は曖昧だが、徐々に姿を整えていた。


灰乱の中心に浮かぶその姿は――まるで女神像。


頭部らしき部分は仮面のように滑らかで、髪に見えるものは長く伸び、腰から下は霧へ溶け込むように揺らいでいる。


まるで地球そのものが"厄災に抗うために"造りだしたかのような神性と不気味さを宿していた。


その姿が満月に照らされたとき。


『グォォォォォン!!』


地表に残っていたアラガミたちが一斉にうめき声を上げ、四方へ逃げ散っていった。


普段なら人類を喰らうだけの獣たちが、まるで“理解している”かのように女神像から距離を取る。


生命の頂点に立つ捕食者でさえ恐れていた。


女神像の胸部あたりが脈打つ。


ドクン……


ドクン……


心臓にも似た振動が波紋となって灰域全体へ広がっていく。


そして――


女神像の背中から、ゆっくりと、一本……また一本と触手のような影が伸び始めた。


ぬるり……


ぬるり……


触手は空気を切る音すら立てずに広がり、まるで夜空を塗りつぶすかのように、静かに長く伸びていく。


ひとつ、またひとつ。


増えていく度に、空気の圧が変わる。


満月の光が触手を照らした瞬間、その表面には無数の紋様が浮かび上がった。


まるでアラガミの細胞構造と、自然の樹枝が混ざりあったような異様な模様。


触手は、果てなく全ての方向へゆっくり伸びていく。


まるで――“世界を飲み込んでる”かのように。


女神像のようなその生命体は、静かに、しかし確実に誕生していた。


灰乱の中心で産まれたその存在は、世界の均衡を覆す “最悪の脅威” の始まりだった。








God Eater The Last Rage第15話 完