God Eater The Last Rage第13話
旧フェンリル本部近郊
地下施設の一角。
地上の偵察に出ていた兵が戻り、タブレットに映した写真を並べていた。
偵察兵「……これが、地上の最新状況です。被害は甚大で……」
スズやリヴィ、ソーマも集まり、写真を確認する。
瓦礫、焼け焦げた地面、霧の残滓。
その中の一枚に――サバタの視線が鋭く止まった。
サバタ「……おい、今の……見せろ。」
偵察兵「え、こ、これですか?」
サバタは乱暴にタブレットを掴み取った。
そこに映っていたのは――
灰と瓦礫の中、転がるダンボールの剣。
破れ、汚れ、ボロボロになりながらも、紛れもなくルナの手作り品だった。
サバタ「……ガキのだ。」
低く、濁った声。
怒りがゆっくり噴き上がっているのが誰にでも分かった。
リヴィは素早く別の角度の写真を見つける。
リヴィ「……この地面。タイヤ跡がある。」
ソーマも顔を寄せ、目を細めた。
ソーマ「……搬送用の軽車両だな。誘拐グループが使うには十分の大きさだ。」
リヴィ「このタイヤ跡……途切れた地点がある。距離は……ここから約数キロ。」
偵察兵「その先は霧の濃度が急激に上がっていて、偵察は断念しましたが……」
リヴィは静かに息を吸う。
リヴィ「……少女は、そこへ連れ去られている可能性が高い。」
サバタは奥歯を噛みしめ、タブレットをきつく握りしめた。
サバタ「……連れ去った奴ら……ぶっ潰す。」
押し殺した声。
しかしその怒気は、地下室の空気を震わせるほど濃い。
リヴィが頷く。
リヴィ「ルナ……あの子はまだ生きているはずだ。行くしかない。」
ソーマも前に出る。
ソーマ「俺も行く。……その誘拐グループ、まだ動いているはずだ。止めなきゃならない。」
スズは神機を肩に担ぎ、静かに息を整えた。
スズ「わかった。じゃああたしも行く。その子、必ず助けださなきゃ。」
サバタは短く吐き捨てる。
サバタ「……勝手にしろ。」
リヴィは地図を展開する。
リヴィ「目的地は霧の境界にある旧地下トンネル群。誘拐グループのアジトと見て間違いない。
編成は――サバタ、ソーマ、スズ、そして私。少数精鋭で行く。」
サバタはロングブレードを背負い、低く構えた。
サバタ「行くぞ。……ガキを取り返す。」
ルナ救出のため、四人は決死の捜索に向かうことになった。
ーー該当区域
四人は、写真に写っていた“ダンボールの剣”と“タイヤ跡の途切れた地点”へたどり着いた。
地面には深くえぐられたタイヤ跡が続き、その先だけ急に途切れている。
ソーマが跡をしゃがんで観察する。
ソーマ「……ここで車が止まったんだな。少女は……この先に運ばれた。」
スズは周囲を見渡しながら眉をひそめた。
スズ「この辺り……地面が少し沈んでる気がする。なんかあるの?」
リヴィはスズの視線を追い、土を手で払いながら確認する。
リヴィ「……地下に空洞がありそうだ。ここから何かを運び込んだ痕跡だ。恐らく少女は……この下だ。」
周囲を探すと、崩れた建物の脇に、半ば土に埋もれた古い鉄扉があった。
扉は太い鎖でぐるぐるに縛られている。
サバタは無言で扉に近づくと、ぼそっと言った。
サバタ「……監視役、どけ。」
リヴィが横へ退く。
サバタは呪刀を軽く振り上げ——
ガンッ!
鋭い金属音とともに、鎖はひび割れ、地面へ転がった。
スズ「よし……じゃあ急いで――」
その瞬間だった。
空気が、ぐらり、と波のように揺れた。
続いて、大地の奥で何かがうなるような低音が響く。
ソーマが振り返る。
ソーマ「……聞こえたか?」
次第に風が熱を帯び、空気がざわつき始める。
遠くの瓦礫がひとつ、またひとつと震え、カラカラと転がった。
スズ「……なんか、来てる……?」
地面が一度だけ大きく脈を打つ。
その脈動に呼応するかのように、赤い光が崩壊した建物の隙間から漏れた。
そして。
炎の尾を引く影が、ゆっくりと姿を現した。
ドスン....!
ドスン....!
筋肉質な前脚が地面を踏みしめるたび、岩が砕け、熱が吹き上がる。
白い体毛が逆立ち、背中の赤い触手が、まるで生き物のようにうねっていた。
リヴィ「……まさか……」
影は完全に姿をあらわにし、四人の前に立ちはだかる。
ガルム神属 感応種
熱波の統率者
【マルドゥーク】
『ヴォォォォォォン!!』
その咆哮は、獣の叫びでも、炎の爆発音でもなかった。
大地そのものが焼けて軋むような、不気味な音だった。
ソーマ「……この雄叫び...まずい!」
マルドゥークが体を低く構え、赤熱した視線を四人へ向けたとき——
さらに別方向から、異なる震動が近づいてきた。
リヴィ「……まだ来るぞ……!」
地面が今度は雷の音を帯びて震え、瓦礫の山が突き破られた。
黒い影が大きく翼を広げる。
スズ「あいつは……!」
影はゆっくりと姿を現す。
四肢に支えられる巨体。
黒紫の装甲。
血のように赤黒い翼の膜。
その眼光は、ただ存在するだけで周囲を威圧するほど鋭い。
ソーマの顔に険しい影が落ちた。
ソーマ「…厄介なのを呼びやがって......!」
そいつが姿を現した瞬間、空気全体が震えた。
ヴァジュラ神属
悪夢の神帝
【ディアウスピター】
雷を孕んだ咆哮が広がり、近くの瓦礫が一斉に弾け飛んだ。
スズ「これは時間がかかりそうだね...!」
リヴィは短く息を吸い、サバタを見た。
リヴィ(この状況下では共闘は避けられない......。ならば......!)
リヴィ「サバタ! ここは私たちが引き受ける!お前は地下へ行け!少女を助けるんだ!」
サバタは振り返らずに毒づく。
サバタ「……お前らごときに倒せるのかよ。」
スズは一歩踏み出し、サバタを睨み返した。
スズ「見くびらないでよ。」
ソーマも神機を構え、低くつぶやく。
ソーマ「……時間は稼ぐ。行け、サバタ。」
サバタは一つだけ舌打ちし、地下へ続く扉へと向かった。
サバタ「……勝手にくたばんじゃねえぞ。」
そして扉の中へ消えていく。
残された三人は炎と雷に照らされながら神機を構えた。
リヴィ「来る……構えろ!」
ソーマ「……相手してやる。」
スズ「負けないから……!」
二体のアラガミが低くうなり、ゆっくりと距離を詰めてくる。
緊張で空気が重く沈む中、三人はついに迎撃態勢へ入った。
『グオオオオン!!』
マルドゥークが最初に動いた。
地面をひと蹴りした瞬間、炎の柱が四方へ走った。
熱波が肌を刺し、黒霧がゆらりと揺れて形をねじ曲げる。
スズ「……来た!」
スズはバスターブレードを大きく構え、真正面から突っ込んだ。
マルドゥークの前脚が横薙ぎに振るわれ、空気が焼ける。
金属と骨がぶつかったような衝撃音が走る。
ガァンッ!
スズ「くっ……!」
スズは踏ん張るが、後ろへ数歩押し返される。
それでも目は逸らさず、すぐに反撃へ転じた。
一方、ディアウスピターは翼を広げ、天空へ雷を溜め込む。
ソーマ「来るぞ……!」
次の瞬間。
バリバリッ!!
雷が三人の周囲へ降り注ぎ、爆ぜるような轟音が地面を揺らした。
黒霧の中で雷の光が散り、視界が白く染まる。
リヴィ「ソーマ、右へ!」
ソーマはリヴィの声に反応し、滑り込むように側面へ回る。
雷撃の隙を突き、ディアウスピターの脚部へ斬撃を叩き込んだ。
ソーマ「……っらあ!!」
刃が装甲に食い込み、黒い火花が散る。
だが。
ディアウスピターは怯むどころか、双眼でソーマを刺すように睨みつけた。
その目は、まるで「次はお前だ」と宣告しているかのようだった。
リヴィはソーマを援護しようと銃形態へ変形させ、マルドゥークへ弾丸をばら撒く。
リヴィ「スズ、下がれ! 熱波が来る!」
マルドゥークの体表が赤く発光し、熱気が波のように押し寄せる。
黒霧がその熱でねじれて渦を巻く。
スズは地面を転がるようにかわし、リヴィの横へ滑り込んだ。
スズ「やばい……あれ、ちょっとでも浴びたら終わりだ……!」
リヴィ「落ち着け! まだ距離は取れてる!」
だが、三人とも気づいていた。
黒霧は、まだ消えていない。
呼吸するたびに喉がざらつき、胸が重くなる。
ソーマ(……長期戦は無理だ。肺がもたない……!)
ソーマは左目の包帯を押さえながら、二体の動きを睨む。
マルドゥークは四肢を地につけ、いつでも飛びかかれる態勢。
ディアウスピターは翼を震わせ、次の雷を溜めている。
どちらも、殺気が衰える気配はない。
リヴィは呼吸を整えて言った。
リヴィ「……互角だ。だが、このままじゃこっちが先に潰される。」
スズ「黒霧……少し薄くなったけど、まだ吸いすぎるとまずいよね……」
ソーマ「だろうな。肺が焼ける感じがする。」
マルドゥークが低く、地の底を震わせるような威嚇をすると、それに応じるようにディアウスピターも牙を剥き出した。
二体が同時に動いた。
炎と雷が渦を巻き、三人に一気に襲いかかる。
ソーマ「来るぞ!!」
スズ「負けない……!!」
リヴィ「耐え切ればサバタが――!」
三人は同時に神機を構えなおす。
火花が散り、爆音が鳴り響き、黒霧の中で光が交錯する。
それでも誰一人、後ろには下がらない。
互角。
しかし、時間が経つほど不利になる。
黒霧の圧が、確実に肺と体力を奪っていく。
三人はそれを理解しながらも、戦い続けた。
サバタがルナに辿りつくまで――
絶対に倒れまいと、必死に刃を振るい続けた。
ーーグレイプニル
避難区画。
巨大な地下空間に数百の民間人が詰め込まれ、ざわつきは絶えない。
誰もが混乱し、誰もが何かに怒っていた。
ガドリン総督は、通路を歩きながら周囲の声に耳を傾けていた。
彼は民間人の近くを通るとき、歩みを少しだけ遅くする癖がある。
人が何を恐れ、何に怒っているか――自ら聞いておく必要があると思っているからだ。
そのとき。
男A「……今回の厄災、全部実験のせいだって話だ。」
女B「聞いた!三人の科学者が原因なんでしょ?とんでもないことしてくれたわね……!」
男C「三賢者だかなんだか知らねぇが……見つけたら処刑すべきだ!」
重い言葉が空気を震わせた。
ガドリンは足を止める。
民間人たちは、ガドリンの存在には気づいていない。
男A「まず一人目。伝送工学の権威――イエスタ・ヘイデンスタム。」
女B「昔から危険な研究ばかりしてたって噂の人よね。電送システムに手を加えすぎて、何かの封印が外れたとか……」
男C「次に分子機械の天才、ジョサイア・クオン……!“生体を分解し、別の形に作り替える技術”なんて、普通に考えて悪魔の所業だろうに!」
女B「そんな奴らが揃って実験した結果が、あの黒霧よ!ろくな結果になるわけないわ!」
そして、ついに。
男A「最後は……ソーマ・シックザール。レトロオラクル細胞の権威らしい。」
女B「フェンリルの博士なんでしょ?やっぱりあの組織は信用できない……!」
男C「くそ!三人で何をしでかしたのか知らねぇが、“厄災の三賢者”なんて呼ばれてるんだぞ!?笑えねえよ!」
女B「もし生きてたら絶対許さない。責任を取らせなきゃ。」
男C「見つけたら縛り上げてやる。家族を失った連中は皆、そう言ってる。誰かがやらなきゃ気が済まねえんだ。」
ガドリンの拳が、ゆっくり握られた。
怒りというより、悲しみの深い色。
彼は、静かに思う。
(……ソーマ・シックザール。お前がそんな愚か者でないことくらい、私は知っている。)
ソーマが何を背負い、何と戦ってきたかも知っている。
彼が民間人を守るために、どれだけ無茶をしてきたかも。
だが――現実は冷酷だった。
噂は恐怖とともに増幅し、三人の科学者は「世界を壊した悪魔」として語られ始めていた。
ガドリン(……このままでは、ソーマは大罪人として狩られる。フェンリルが落ちた今、守れる者は……私しかいない。)
そう思うと、胸の奥が重く沈む。
民間人たちはまだ怒声を続けている。
男C「総督も早くその三人を指名手配にすべきだ!」
女B「世界のためよ! もう誰も死んでほしくない!」
ガドリンはゆっくりと振り返り、静かに彼らを見た。
その視線は怒ってはいない。
ただ、深い決意だけが宿っている。
(……真実は、必ず正す。民間人の怒りも、悲しみも理解している。だが、罪のない者を吊るす真似は、私が許さない。)
ガドリンは表情を変えず、その場を離れた。
重い足取り。
だが、その背に宿る覚悟は揺らぐことはない。
ガドリン(……ソーマ。お前を守る。我々グレイプニルが、必ず。)
ーー誘拐グループ アジト
薄暗い地下通路をサバタは無言で進む。
足音だけが、冷たい壁に低く反響していた。
通路の先に、分厚い鉄扉があった。
強化ロック。二重のボルト。
だがサバタは確認すらせず、わずかに息を吐くと...
ドガァンッ!!
豪音とともに扉が吹き飛んだ。
破片が転がり、奥に潜んでいた男たちが驚愕の声を上げる。
「な、なんだッ!? 扉が……!」
「嘘だろ……蹴りだけで……!?」
奥の机に座っていた男――誘拐グループのリーダーがゆっくり顔を上げる。
その目は、狼のように細く冷たい。
リーダー「……どうやら、邪魔者が来たようだな。」
サバタは部屋に足を踏み入れる。
静かだ。
怒りが、静かに身体の奥で燃えている。
リーダーはサバタを見て薄く笑う。
「目的は分かっている……子供たちの解放だろう?
あのガキども、そんなに大事か?」
その言葉に、サバタの瞳がわずかに細くなる。
サバタ「……喋るな。胸くそ悪い声だ。」
冷たい毒が落ちるように吐かれる。
リーダーは指を軽く鳴らす。
リーダー「やれ。」
四人の部下が一斉に神機を構え、サバタに飛びかかった。
狭い室内に金属音が炸裂する。
「うおおおッ!!」
「殺せッ!!」
しかし――その刹那。
ガンッ!!
サバタは最初の斬撃を軽く受け止めた。
火花が散る。
部下が驚愕する。
「なっ……俺様の渾身の一撃をッ!?」
サバタは無言のまま、攻撃の方向を横へ流す。
速度は無駄のない獣の動き。
ドゴッ!
「ぐっ……あああああッ!」
顎に拳が突き上げられ、ひとりが壁に叩きつけられる。
そのまま動かなくなった。
「てめぇッ!!」
二人目が背後から斬りつけるが、サバタはわずかに身を沈める。
刃が空を切る。
ズガンッ!!
カウンターの膝が男の腹を抉った。
「ぐぶッ……! おえぇえええ……ッ!」
胃の中身を吐き散らし、崩れ落ちる。
「クソがッ……化け物が!!」
三人目が恐怖で声を震わせながら突進する。
サバタはその突きをつかみ、関節ごと捻り上げた。
バキィッ!!
「ぎゃああああああッ!!?腕がァァッ!! やめッ、やめてくれぇえええ!!」
悲鳴が室内に反響する。
サバタは淡々と首筋を打ち抜き、そいつを沈めた。
残るひとりは腰を抜かして後退る。
「き、来るな……来るなッ!! 頼む、殺すな! 殺すなぁぁ!!」
サバタは近づく。
影が覆う。
恐怖に歪んだ男の顔。
男の最後の抵抗の叫びが響いた。
「いやだああああああ!!助けてくれッ! リーダーッ!!」
しかし返答はない。
サバタ「......うるせぇ犬だ。」
ズブッ……!
鈍い音とともに、サバタの刃が男の胸を貫いた。
男は咳き込み、血を吐きながら崩れた。
四人が床に転がる静寂の中、サバタは血に濡れた呪刀を軽く振って血を払う。
その光景を眺めながら、リーダーがゆっくり立ち上がった。
「……ほぉ。面白いじゃないか。」
まるで今始まったばかりの“遊び”を見るような目で、リーダーはサバタを見据えていた。
God Eater The Last Rage第13話 完