【裏金問題】「バレなければいい」安倍事務所では昔から裏金を『もどし』『還付金』と呼んでいた | 渾沌から湧きあがるもの

 

 

 

【裏金問題】

「安倍元首相は無関係」説を覆す重大証言 「安倍事務所では昔から裏金を『もどし』『還付金』と呼んでいた」

 

 

 

 

トカゲの尻尾切り

 

安倍派の裏金事件捜査が急展開を見せている。東京地検特捜部は1月7日に池田佳隆・元文部科学副大臣を逮捕。池田氏は同派からキックバックを受けたパーティー券収入のうちざっと5000万円を政治資金収支報告書に記載していなかったとされ、事件発覚後、「証拠になるものは消せ」と秘書に指示して関係資料を廃棄させていた証拠隠滅の疑いまで浮上している。

 

自民党は逮捕当日に大慌てで池田氏を除名処分にしたが、“トカゲの尻尾切り”で逃れられる問題ではない。

 

特捜部の捜査は今後、安倍派の複数の議員や中枢幹部に向かい、派閥ぐるみの裏金づくりの解明を進めると見られている。

 

だが、この事件でなぜか触れられない問題がある。裏金システムの全体像を解明するためには、同派前会長だった安倍氏がどう関与していたかを明らかにすることが欠かせないはずだが、疑惑が明るみに出た当初から、「安倍氏は無関係」という報道がなされてきた。

 

先鞭をつけたのが元NHK記者で「安倍氏が最も信頼するジャーナリスト」といわれた岩田明子氏だ。夕刊フジのコラムでこう書いた。

〈安倍元首相が2021年11月に初めて派閥会長となった後、翌年2月にその状況を知り、「このような方法は問題だ。ただちに直せ」と会計責任者を叱責、2カ月後に改めて事務総長らにクギを刺したという。

 

2022年5月のパーティーではその方針が反映されたものの、2カ月後、安倍氏は凶弾に倒れ、改善されないまま現在に至ったようだ〉(2023年12月12日付)

 

安倍氏が派閥会長に就任して初めてキックバックの存在を知り、怒って止めさせようとした──というストーリーだ。

 

時期に多少の違いはあるが、“安倍嫌い”の朝日新聞もこう報じている。

 

〈安倍氏は2022年の派閥パーティーを5月に控えた同年4月、還流の取りやめを提案した。(中略。安倍氏の死後)最終的に4月の方針は撤回され、従来通りの裏金としての還流が9月にかけて実施されたという〉(2023年12月23日付)

 

いずれも安倍氏は裏金づくりに全く関与しておらず、むしろ是正しようとした“正義の人”という印象さえ植え付ける。

 

果たしてそうだろうか。

 

 

◆「もどし」と呼んでいた

 

「安倍事務所では、昔からキックバックの裏金を『もどし』とか、『還付金』と呼んでいました。安倍先生が派閥の会長になるまで知らなかったなんてあり得ません」

 

そう語るのは古参の元安倍事務所関係者だ。

 

「パーティー券を売ってノルマ以上であれば、カネをそのまま手元に置いていいというのは、先代(安倍氏の父)の晋太郎先生の時代から続いていた自民党の資金システムそのものなわけです。だから晋三先生も先代の秘書だった時代からよく知っていたはず。

私は事務所に入ってすぐ『もどし』のことを知りました。党費のキックバックがもとになっていて、自民党では議員が新たに党員を獲得すると、1人4000円の党費のうち1000円が議員に入る仕組みがある。そこから派生して、党や派閥パーティーなどでカネを集める時には、集めたカネの一部を議員の手元に残していいシステムになっていた。

 

だから議員も秘書も、それが当たり前の政治資金の集め方だと思っていた。事務所にはパーティー券を売る専門の私設秘書もいたくらい。政治資金規正法はザル法だから、問題になっても収支報告書の訂正で済んできた」

 

安倍氏は成蹊高校時代に地理研究部で会計担当、成蹊大学時代には運動部の予算配分を調整する体育会本部会計局長を務めるなど、お金には几帳面な性格で知られる。

 

元事務所関係者は、事務所の資金は安倍氏が管理していたと証言する。

 

「お金については代議士本人(安倍氏)がしっかり見ていました。金庫番である筆頭秘書と会計担当の女性秘書の2人が経理を担っていましたが、それも、代議士から『今月はこのくらいで』と毎月予算を指示されて、その金額でやりくりしていた。大元は代議士が握っていたわけです。会計担当の女性の仕事は、帳簿の表面上の金額を合わせるという感じでした。だから事務所のパーティーの収支は全部把握していたし、派閥のキックバックの仕組みについても代議士が知らないわけがなかった」

 

当時の安倍氏の金庫番だった秘書の自宅を訪ねると、夫人が応対し、「本人は退職しているのでお答えすることはないとのことです」と答えた。

 

 

なぜ、証言にあるような資金集めが必要だったのだろうか。前出の元事務所関係者はこんな言い方をした。

 

「大きいのは総裁選でしょう。総裁選は公職選挙法の規制がないこともあって、お金がかかる。一流ホテルに選対本部を構えて、ホテル代から議員や秘書団の飲み食い代まで大変な金額になる。そうした状況に日頃から備えておかなければならなかったわけです」

 

安倍氏や安倍派だけのことではないとも言う。

 

「若手議員の頃は選挙のため、入閣適齢期になれば大臣ポストを得るために派閥に上納し、総理・総裁を目指すようになれば総裁選の資金と、昔から自民党の政治にはカネが必要。そういう金権政治の体質が問題なのです」(同前)

 

安倍氏の父・晋太郎氏の時代から安倍派と安倍家を取材してきた政治ジャーナリスト・野上忠興氏の話も元事務所関係者の証言を裏付ける。

 

「清和会(安倍派)では、晋太郎氏が会長だった時代にはすでに派閥パーティー券のキックバックが行なわれており、その後も引き継がれてきた。晋三氏は晋太郎氏の秘書としてそのやり方を側で見てきたし、議員になってからも清和会で育ったから、キックバックの仕組みや歴史を誰よりよく知っているはずです」

 

このような実態があるからこそ、今回の裏金問題では安倍派を中心に数多くの自民党の大物議員の名前が挙がっている。にもかかわらず、「安倍氏だけが知らなかった」という流れができていることこそが、病巣の根深さを示している。

 

 

 

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【安倍派裏金問題】「桜を見る会」前夜祭パーティー問題での安倍元首相の手法と同じ 「バレなければいい」という体質が蔓延

 

 

 

◆報告していないはずがない

 

安倍派の裏金づくりは、派閥パーティーの議員へのキックバック分の収入や支出を「政治資金収支報告書」に記載しないという手法だった。

 

これは安倍氏自らが用いてきた手段だった。政権を揺るがした「桜を見る会」前夜祭パーティー問題がまさにそうだ。

 

 

安倍氏は首相時代(2013?2019年)、各界の代表者など約1万人を招待して新宿御苑で「桜を見る会」を開き、その前日に都内の高級ホテルで地元から招待した後援者を集めた政治団体「安倍晋三後援会」主催の前夜祭パーティーを開いていた。会費は5000円で、約850人が参加していた。

 

ところが、同後援会の政治資金収支報告書にはこのパーティーの開催も、収支も一切記載していなかった。これが問題化し、国会は大紛糾した。

 

安倍氏は首相在任中、「すべての費用は参加者の自己負担で支払われている。安倍晋三後援会としての収入・支出は一切ない」として、報告書に記載する必要はなかったという説明で押し通した。

 

それが、安倍氏の首相退任後の2020年12月に東京地検特捜部が捜査に乗り出し、事務所側がパーティー費用を補填していたことなどが発覚。安倍氏の当時の公設第一秘書(安倍晋三後援会代表)が政治資金規正法違反(不記載罪)で略式起訴され、100万円の罰金の略式命令を受けた。安倍氏自身も特捜部に事情聴取されたが、「嫌疑不十分」で不起訴処分となった。

 

「私が知らないなかで行なわれていたこととはいえ、道義的責任を痛感しております」

 

安倍氏はそう謝罪したが、前出の元安倍事務所関係者は、「安倍先生は『自分は知らなかった』と説明していますが、金庫番だった第一秘書がパーティー収支を報告していないはずがありません」と振り返る。

 

政治評論家の有馬晴海氏が指摘する。

 

「桜を見る会前夜祭パーティーのような都合が悪い政治資金の収支を“バレなければいい”と政治資金収支報告書に記載せずに隠すのは安倍さんの体質です。それが今回の安倍派の裏金問題にもつながっている。派閥パーティーのキックバックは、自民党では昔から行なわれていたが、最初は政治資金収支報告書に記載していた。しかし、安倍長期政権下で権力に驕った安倍派は『記載しなくても大丈夫』と法律を犯しても平気な集団になっていった。安倍氏の体質が伝染したわけです」

 

さらに安倍氏がキックバックを止めさせようとしたという報道についても、真相をこう見る。

「安倍さんは以前からキックバックのことを知っていたはずですが、派閥会長になると止めるように指示したと報じられている。安倍さんが会長に就任したのは桜を見る会パーティーで秘書が立件され、罰金の略式命令を受けた後です。だとすれば、前夜祭パーティーで捜査を受けた経験から、キックバックの不記載が違法だと認識していて、派閥会長の自分にも累が及びかねないと考えた可能性がある」(同前)

 

 

◆“隠蔽体質”の継承

 

安倍派裏金事件で逮捕された池田佳隆・元文部科学副大臣は、安倍氏に声を掛けられて家業の化学薬品社長から政治家に転じたこともあって、安倍氏を「師」と仰いでいた。その池田氏に裏金の関連資料を廃棄させていた疑いが生じているわけだが、こうした「証拠隠滅」も安倍氏から受け継いだ“悪しき体質”と言える。

 

安倍氏をめぐる数々の事件で、証拠隠滅や隠蔽が図られてきたからだ。

 

前述の桜を見る会パーティー問題では、野党が招待者名簿などの資料を要求すると、内閣府が大量の名簿を大型シュレッダーにかけて廃棄し、しかも、名簿のバックアップデータはまだ残っていたにもかかわらず、国会で「すでに破棄した」と答弁して隠蔽した。

 

安倍事務所側でも、特捜部が前夜祭パーティーの捜査に着手すると、ホテルから受け取っていた領収証を廃棄していたことが明らかになっている。

 

森友学園問題では、財務省が国有地払い下げに至る経緯や安倍昭恵夫人の関与などを記した文書を改竄し、改竄を命じられた財務省職員が自殺する犠牲まで出した。しかし、これまで安倍氏自身の責任は問われていない。

 

今回、安倍派幹部たちは特捜部の聴取に、キックバックは「会長案件だった」と供述しているとも報じられたが、既に亡くなった安倍氏は今回の捜査の対象外とされる。安倍政治の「黒い体質」まで含めてメスを入れ、再評価しない限り、自民党の金権政治の裏にある構造を改めることなどできないはずだ。

 

 

 

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